テラ​ヘルツ​電磁波​時間​波形​計測​システム

清水 広平 氏, 大阪​市立​大学​大学院​工学​研究​科 電子​情報​系​専攻 電子​物理​工学​研究分

"LabVIEW の​シンプル​で​自由​な​プログラミング​システム​を​利用​し、​実験​条件​の​設定​及び、​時間​波形​だけ​で​なく​その​周波数​スペクトル​など、​実験​結果​として​必要​な​データ​を​実験​終了​後に​即座​に、​容易​に​得る​こと​が​できる​簡便​な​システム​を​構築​する​こと​が​でき​た。 " ​

- 清水 広平 氏, 大阪​市立​大学​大学院​工学​研究​科 電子​情報​系​専攻 電子​物理​工学​研究分

課題:

ナショナル​イン​ス​ツル​メンツ​社​製​信号​集録​ボード​(NI PCI-4474)​と LabVIEW プログラム​ソフト​を​使​って、​他の​計測​機器​を​必要​とせ​ず​コンピュータ​一台​で​行える​簡便​な THz 波の時間波形計測システムの開発が必要だった。 ​

ソリューション:

今回​は​ロック​イン​検出​に​対応​する​プログラム​を​組み​込​ん​だ THz 波​時間​波形​計測​システム​を LabVIEW を​用​い​て​作成​した。​その​結果、​ロック​イン​検出​器​を​用いる​こと​なく、​それと​同​程度​の S/​N 比​で​の THz 電磁波​時間​波形​の​計測​に​成功​した。​このことは計測機器の簡素化にもつながった。 ​

【背景】

現在​テラ​ヘルツ​(1 THz=1012 Hz、​以後 THz 波​と​記す)​電磁波​に関する​研究​は​多く​の​注目​を​集め​て​いる。​1980​年代​後半​に​提案​さ​れ​た​計測​手法​により、​「波」​として​伝播​する THz 波の様子が時間的に観測出来る様になった。​この​こと​により、​波​の​振幅​情報​に​加​え、​新た​に​位相​情報​が​同時に​得​られる​という​メリット​が​加わる​こと​となり、​より詳細な知見が得られることとなった。​この​二つ​の​情報​を​存分​に​用​い​て​様々​な​物質​の​分光​や、​物質​の​透視​イメージング​が​行​われ​て​おり、​空港​における​所持​品​の​非破壊​検査​や​皮膚癌​診断​など​の​応用​を​目指​した​取り組み​が​始​ま​って​いる。​この​様​な​応用​を​目指す​上​で、​簡便​な THz 波​の​計測​システム​が​求め​ら​れ​て​いる。



​そこで、​我々​の​研究室​では、​ナショナル​イン​ス​ツル​メンツ​社​製​信号​集録​ボード​(NI PCI-4474)​と LabVIEW プログラム​ソフト​を​使​って、​他の​計測​機器​を​必要​とせ​ず​コンピュータ​一台​で​行える​簡便​な THz 波​の​時間​波形​計測​システム​を​開発​した。


​【課題】

今回 THz 電磁波​時間​波形​計測​システム​を​構築​する​にあたり、​以下​の​二​点​に​重点​を​置​い​た。

  1. コストパフォーマンス
  2. 簡便さ

 

今回​計測​する​THz​電磁波​信号​は、​その​検出​機構​上​ノイズ​に​埋​もれ​て​いる​ため、​通常​は​光​チョッパー​により​変調​を​与​え、​ロック​イン​検出​器​を​用​い​て​検出​さ​れる。​我々​は​コストパフォーマンス​の​面​で​アドバンテージ​を​得る​ため、​市販​の​ロック​イン​検出​器​を​使う​こと​なく、​従来​どおり THz 波​時間​波形​を​位相​情報​も​含​め​て​検出​できる​よう​な​プログラム​を​作成​した。​その​際、​ロック​イン​検出​に​対応​する​部分、​つまり​変調​周波数​及び​位相​の​ロック​を​行う​機構​について​工夫​を​加​え​た。

 

以上​に​加​えて、​PCI-4474​及び LabVIEW を​組み合わせ​て​用いる​こと​で、​システム​構築​者​以外​の THz 波​ユーザー​の​誰​も​が​簡単​に​扱える、​複雑​さ​を​排除​した、​できるだけ​シンプル​な​システム​と​なる​よう​に​考慮​し​て​開発​を​進​め​た。

【ソリューション】
​3-1​システム​構成

THz 波​の​時間​波形​計測​システム​の​概略​は​図​1​の​よう​に​なる。​超短​パルスフェムト​秒​レーザー​を THz 波​放射​素子​に​照射​し​THz 波​を​発生​させる。​発生​した THz 波​は、​レーザー​によって​ゲート​を​かけ​ら​れ​た​検出​素子​に​て​電流​信号​として​検出​さ​れる。​この nA オーダー​の​微弱​な​電流​信号​を​電流​電圧​変換​増幅​回路​を​用​い​て​mV​程度​の​電圧​に​変換​する。​信号​に​変調​を​与​えて​いる​光​チョッパー​に​同期​した TTL 信号​を​トリガー​として、​NI PCI-4474​により​サンプリング​を​行う。​この​一連​の​動作​を​光学​遅延​器​(移動​ステージ)​を​操作​し THz 波とゲートのタイミングをずらし、​各々​の​地点​で​行う​こと​で​全​時間​波形​を​得る。

 

各々​の​地点​で​の​サンプリング​動作​により​得​られる​電圧​信号​値​は、​その​成分​として、​光​チョッパー​により​ある​一定​周波数​で​の​変調​を​受け​た THz 波​信号​成分​と、​一定​の​周期​を​持​た​ない​ノイズ​成分​に​分ける​こと​が​できる。​よって​この​電圧​信号​を​フーリエ​変換​(FFT)​し、​変調​周波数​成分​のみ​を​データ​として​選択​する​こと​で THz 波​信号​成分​のみ​を​取り出す​こと​が​可能​と​なる​(ただし​変調​周波数​と​同じ​周波数​成分​の​ノイズ​は​除去​でき​ない。​この​ため​変調​周波数​を​可変​と​し、​システム​における​最適​な、​つまり​ノイズ​の​最小​と​なる​周波数​の​選択​を​可能​に​した)。



​THz 波​の​時間​波形​計測​において​の​測定​量​は、​強度​では​なく​振幅​で​ある。​従って​信号​は​正負​両方​の​値​を​持つ​こと​が​できる​ため、​符号​の​判定​(位相​の​ロック)​が​必要​と​なる。​これ​に関して​は、​プリスキャン​を​行う​こと​で​対応​した。​つまり​時間​波形​計測​開始​前​に​移動​ステージ​を THz 波​波形​の​ピーク​位置​に​合わせ​て​おき、​そこで​の​信号​測定​を​行う。​この​信号​の FFT により​導出​さ​れる、​変調​周波数​で​の​位相​を​求め​て​おく。​この​プリスキャン​で​の​位相​の​値​と、​本​測定​における​各地​点​で​の​位相​値​の​差​を​とる​こと​で​各​信号​の​符号​を​決定​する。



​今回​は​サンプリング​周波数、​及び​サンプリング​数​に​加​え、​光学​遅延​器​(移動​ステージ)​の​移動​間隔、​全​移動​距離、​積算​回数​を​自由​に​設定​できる​よう​に​した。​プログラム​は LabVIEW 6​を​用​い​て​作成​し、​測定​条件​を​入力​し​スタート​ボタン​を​押す​だけ​で、​あと​は​自動的​に THz 波​時間​波形​が​得​られる​よう​できるだけ​シンプル​な​形​に​した。​測定​終了​後に​は THz 波​の​時間​波形​を​データ​として​得る​だけ​で​なく、​その​フーリエ​変換​を​行い​周波数​スペクトル​を​表示​させる​こと​で、​どの​よう​な THz 波​を​検出​した​の​か​が​瞬時​に​判定​できる​よう​に​設定​した。

 

 

3-2​結果

今回​構築​した​システム​により、​ロック​イン​検出​器​を​使用​する​こと​なく、​THz 電磁波​時間​波形​の​計測​を​より​簡便​に​行う​こと​が​でき​た。​その S/​N 比​は​ロック​イン​検出​器​を​用​い​た​もの​と​ほぼ​同​程度​を​達成​でき​て​いる。


​以下​に​本​システム​の LabVIEW フロント​パネル​を​示す​(図​2)。

 

上述​した​測定​条件​設定​に​加​えて、​位相​ロック​の​ため​の​プリスキャン​時​の​信号​及び​その​周波数​スペクトル​を​表示​した。​これ​により​測定​前​に​エラー​が​起​こ​って​い​ない​か​確認​できる。​測定​結果​で​ある THz 波​の​時間​波形​は​各々​の​地点​で​の​測定​繰り返し​毎​に、​さらに測定終了後に得られた THz 波​時間​波形​全体​の​周波数​スペクトル​が、​フロント​パネル​中央​部分​に​表示​さ​れる。



​この​システム​を​用​い​測定​した​実験​結果​の​一例​を​示す。​図​3​は得られた THz 波​時間​波形​で​ある。​サンプリング​周波数:​92966 Hz、​サンプリング​数:​5000​点、​変調​周波数:​2250 Hz、​積算​回数:​4​回、​以上​の​条件​で​時間​波形​の​1​点​1​点​を​測定​し、​時間​間隔​(移動​ステージ​の​移動​間隔):​40 fs、​測定​点数​(移動​ステージ​移動​回数):​1024​点​で THz 波​の​全​時間​波形​を​測定​した。​図​4​は得られた THz 波​時間​波形​を​フーリエ​変換​した​周波数​スペクトル​で​ある。​数百​対​一​の S/​N 比​が​得​ら​れ​て​いる​こと​が​わかる。

 

 

【まとめ】

THz 電磁波​の​時間​波形​計測​を​行う​場合、​その​信号​の​微小​さ​に対して​何らかの​対応​を​しな​け​れ​ば​なら​ない。​通常​は​ここ​に​ロック​イン​検出​を​適応​する​わけ​だが、​コストパフォーマンス​の​面​では、​ロック​イン​検出​器​が​超短​パルスフェムト​秒​レーザー​の​次に​ネック​と​な​って​いる。
​そこで​今回​は​ロック​イン​検出​に​対応​する​プログラム​を​組み​込​ん​だ THz 波​時間​波形​計測​システム​を LabVIEW を​用​い​て​作成​した。​その​結果、​ロック​イン​検出​器​を​用いる​こと​なく、​それと​同​程度​の S/​N 比​で​の THz 電磁波​時間​波形​の​計測​に​成功​した。​このことは計測機器の簡素化にもつながった。
​さらに、​LabVIEW の​シンプル​で​自由​な​プログラミング​システム​を​利用​し、​実験​条件​の​設定​及び、​時間​波形​だけ​で​なく​その​周波数​スペクトル​など、​実験​結果​として​必要​な​データ​を​実験​終了​後に​即座​に、​容易​に​得る​こと​が​できる​簡便​な​システム​を​構築​する​こと​が​でき​た。
​現在​我々​の​研究室​では、​この​システム​により、​THz 波​放射、​検出​素子​の​評価​実験​や、​THz 波​に対する​物質​の​物性​測定​実験、​さらには​物質​の​透過​イメージング​等、​THz 波​帯​における​様々​な​実験​を​行​って​いる。

著者​情報:

清水 広平 氏
​大阪​市立​大学​大学院​工学​研究​科 電子​情報​系​専攻 電子​物理​工学​研究分