ジェット​エンジン​の​電動​モーター​を​用​い​た​回転​試験​の​制御​及び​計測​システム

- 東京​大学​大学院 工学​系​研究​科​航空​宇宙​工学​専攻, 宇佐美 敦氏

"LabVIEW​は​様々​な​タイプ​の​信号​の​入力​や​出力​に​対応​し​て​いる​ほか、​それぞれ​の​要求​に​合わせ​て​計測​や​解析・​表示​を​簡単​に​構築​する​こと​が​できる​ため、​計測​及び​制御​装置​を​LabVIEW​中心​の​シンプル​な​システム​にし、​短期間​に​低​コスト​で​扱い​やすい​システム​を​構築​する​こと​が​でき​ま​した。"

- 東京​大学​大学院 工学​系​研究​科​航空​宇宙​工学​専攻, 宇佐美 敦氏

課題:

本​研究​では、​低圧チャンバー内でジェットエンジンを電動モーターによって回転させ、​その​性能​の​評価​や​飛行​実験​に​向け​て​の​問題​点​の​抽出​を​行う​こと​を​目的​と​する。

ソリューション:

計測​システム​の​概要​として​は、​LabVIEW​アナログ​入力​によって、​圧力、​温度、​電圧、​トル​ク​など、​カウンタ​入力​によって​回転​数​を​計測​し、​データ​集録​を​行う。

背景

 JAXA​を​中心​として​無人​飛行​実験​機​による​微小重力​落下​実験​が​計画​さ​れ​て​いる​(BOV​計画)。​この​実験​では、​実験​機​を​気球​によって​高度​40 km​まで​上昇​さ​せ​た​後、​落下させ、​微小重力​環境​を​得る。​本​実験​機​は、​JAXA​で​開発​中​の​超音速​用​予​冷​ターボジェット​エンジン​を​搭載​し、​空気​抵抗​を​相殺​し​て​微小重力​環境​持続​時間​の​延長​を​図る​ほか、​エンジン​自体​の​飛行​実験​も​同時に​行う​計画​で​ある。

 

 本​実験​機​では、​超​高々​度​で​の​静止​状態​という​通常​の​ジェット​エンジン​の​作動​条件​と​は​全く​異なる​低圧​環境​下​で​の​エンジン​始動​が​要求​さ​れる。​その​よう​な​環境​下​における​始動​方法​として、​電動モーターを用いて圧縮機を強制的に回転させ、​着火​が​可能​な​高圧​環境​を​作り出す​方法​が​検討​さ​れ​て​いる。

 

 

 低圧​環境​下​において​モーター​を​用​い​ジェット​エンジン​を​回転​させる​と、​レイノルズ​数​の​低下​および​大幅​な​非​設計​点​で​の​作動​の​ため​に​エンジン​効率​の​低下​が​予想​さ​れる。​しかし、​これまで​想定​さ​れ​なか​っ​た​条件下​で​の​作動​の​ため、​この​よう​な​作動​状態​に関する​研究​は​な​さ​れ​てい​ない。

 

 そこで​本​研究​では、​低圧チャンバー内でジェットエンジンを電動モーターによって回転させ、​その​性能​の​評価​や​飛行​実験​に​向け​て​の​問題​点​の​抽出​を​行う​こと​を​目的​と​する。

 

ソリューション

供​試​エンジン、​電動​モーター​に​は、​模型​飛行機​用​に​市販​さ​れ​て​いる​小型​エンジン、​DC​ブラシ​レス​モーター​を​使用​する。​高空​状態​を​模擬​した​低圧​チャン​バー​内​に​て、​高速​回転​実験​を​行う。

 

 計測​システム​の​概要​として​は、​LabVIEW​アナログ​入力​によって、​圧力、​温度、​電圧、​トル​ク​など、​カウンタ​入力​によって​回転​数​を​計測​し、​データ​集録​を​行う。​アナログ​入力​は​PCI-6035E​で​16​点​を​50 Hz​の​サンプリング​で​計測​し、​パルス​で​出力​さ​れる​回転​数​は​PCI-6601​で​パルス​間隔​を​計測​した。​また、​電源​や​流量​調整​用​の​モーター​の​運転​状態​を​監視​する​ため、​PCI-6035E​の​デジタル​入力​を​用​い​アラーム​信号​を、​PCI-6601​でエンコーダー信号の計測を行った。

 

 データ​の​解析​は、​計測​した​圧力、​温度​など​から​圧力​比、​仕事​量、​効率といったエンジン状態量をリアルタイムで算出することで行った。

 

 制御​システム​の​概要​として​は、​LabVIEW​の​アナログ​及び​カウンタ​出力​等​によって、​モーター​電源​電圧、​スロットル、​流量​調節​用​弁​開​度​を​制御​し、​ジェット​エンジン​の​回転​数​と​流量​(これら​は​ジェット​エンジン​試験​における​主要​パラメタ​で​ある)​を​調整​する。​具体​的​に​は、​電源​電圧​の​制御​を​PCI-6035E​の​アナログ​出力​により、​流量​調節​用​の​モーター​の​制御​を​PCI-6601​の​デジタル​出力、​モーター​の​スロットル​の​制御​を​同じく​PCI-6601​のカウンタのパルス出力により行った。​なお、​電源​電圧​の​制御​は、​圧力​や​流量​の​変動​に​よ​ら​ず​回転​数​一定​に​なる​よう​に​PID​制御​を​用​い​た。

 

 また、​ひ​ずみ​ゲージ​によって​エンジン​の​振動​を​10 kHz​で​計測​し、​もう​一台​の​PC​で​リアルタイム​で​FFT​解析​を​行い、​エンジン​の​振動​を​監視​する。​これ​により​異常​振動​を​検知​する​こと​が​できる​ため、​回転​試験​における​安全​対策​として​重要​な​役割​を​果たして​いる。​実験​後に​この​振動​データ​と​回転​数​を​用​い、​キャンベル線図を書かせて、​より​詳しい​振動​の​解析​を​行う。

 

結果

 構築​した​システム​により、​エンジン​を​低圧​チャン​バー​に​入れ​て​0.03​気圧・​35000 rpm​まで​安定​し​て​回転​させる​こと​が​でき​た。

 実験​に​使用​した​フロント​パネル​を​図​2、​図​3​に​示す。

 

 

計測​制御​用​フロント​パネル​に​は、​エンジン​の​各​位置​における​圧力​や​温度​を​グラフ​で​表示​する​ほか、​エンジン​の​性能​を​リアルタイム​で​計算​し​表示​する。​また、​電源​など​の​運転​状態​も​モニター​できる​ので、​実験​装置​全体​の​状態​を​把握​し​ながら​エンジン​試験​を​できる​よう​に​な​って​いる。

 

 振動​計測​用​フロント​パネル​に​は、​2​つ​の​センサー​から​の​信号​の​元​データ​と​FFT​結果​を​表示​し、​異常​振動​が​現れ​た​際​に​は​非常​停止​を​行う。

 計測​結果​の​一例​を​図​4、​図​5​に​示す。​図​4​は​回転​数​と​温度​の​時間​変化​の​一部​を​表​し、​図​5​は​回転​数​と​振動​の​FFT​結果​を​用​い​て​描​い​た​グラフ​で、​キャン​ベル​線​図​と​呼ばれる​グラフ​で​ある。​横​軸​は​回転​数・​縦​軸​は​振動​の​周波数​で​色​が​濃い​部分​ほど​振動​が​大きい​こと​を​示し​て​いる。​回転​数​の​N​倍の振動といくつかの固有振動数がはっきりと見られ、​これ​を​も​と​に​共振​回転​数​など​の​危険​速度​を​推測​する​こと​が​できる​ため、​その​回転​数​を​あらかじめ​避​け​て​の​運転​が​可能​と​なる。

 

 

 回転​数​一定​で​チャン​バー​圧​を​減少​さ​せ​た​際​の​コンプレッサー​の​圧力​比​を、​図​6 に​示す。​チャン​バー​圧​の​低下​に​伴​い​圧力​比​が​減少​し​て​おり、​低圧下では性能が低下していくことがわかった。

 

 図​7​に​タービン​前後​の​温度​差​の​チャン​バー​圧​を​減少​さ​せ​た​際​の​変化​を​示す。​ΔT​が​正​な​の​は、​タービン​を​通る​こと​により​空気​が​仕事​を​さ​れ​て​いる​こと​を​示し​て​おり、​通常​では​タービン​が​空気​に​仕事​を​する​の​に対して​逆に​な​って​いる​こと​を​表​し​て​いる。​これ​は、​燃料​を​燃​や​さ​ず​に​エンジン​を​モーター​で​回し​て​いる​ため​に、​タービン​の​設計​点​から​大幅​に​ずれ​た​点​で​運転​さ​れ​て​いる​ため​で​ある​と​考え​られる。​この​温度​上昇​に​消費​さ​れ​た​エネルギー​は、​始動​の​際​に​は​完全​に​無駄​に​な​って​しまう。​その​量​は、​流量​が​より​少ない​ほど​多く、​またチャンバー圧が低下するほど増加してしまうことが分かった。

 

 

 

 これらの​結果​より、​低圧​下​で​モーター​を​用​い​駆動​し​始動​する​に​は、​コンプレッサー​の​性能​低下​の​他​に、​タービンでのエネルギー損失が問題になることがわかった。

 

まとめ

 エンジン​の​回転​試験​を​行う​際​に​は、​いろいろ​な​種類​の​センサ​を​用​い​計測​を​行う​必要​が​ある。​そのため、​センサ​から​の​出力​信号​が​いろいろ​な​形​で​来る​ため​計測​装置​も​それに​合わせ​た​物​が​必要​に​な​って​しまう。​また、​制御​項目​も​いくつか​あり、​それに​合わせ​て​信号​を​送る​必要​が​ある。​そのため、​それぞれに​合わせ​た​計測​装置​や​制御​装置​を​使う​と​数​が​多く​なり、​コスト​が​か​かって​しまう​ほか、​表示・​制御​が​それぞれ​の​装置​に​分散​し​て​しま​い、​扱い​に​く​く​な​って​しまう。

 

 しかし、​LabVIEW​は​様々​な​タイプ​の​信号​の​入力​や​出力​に​対応​し​て​いる​ほか、​それぞれ​の​要求​に​合わせ​て​計測​や​解析・​表示​を​簡単​に​構築​する​こと​が​できる​ため、​計測​及び​制御​装置​を​LabVIEW​中心​の​シンプル​な​システム​にし、​短期間​に​低​コスト​で​扱い​やすい​システム​を​構築​でき​た。

 

 また、​エンジン​の​回転​試験​では​安全​対策​の​ため​に​監視​すべ​き​項目​が​多数​存在​する​が、​シンプル​な​システム​を​構築​でき​た​ため​に、​最低​1​人​で​監視​及び​運転・​計測​の​すべて​を​行う​こと​が​可能​となり​必要​な​人数​を​大幅​に​削減​でき​た。

 

著者​情報:

東京​大学​大学院 工学​系​研究​科​航空​宇宙​工学​専攻
​宇佐美 敦氏

図​2. ​ ​計測​制御​用​フロント​パネル ​
図​3. ​ ​振動​計測​用​フロント​パネル ​
図​5. ​ ​キャン​ベル​線​図 ​
図​6. ​ ​コンプレッサー​の​圧力​比 ​
図​7. ​ ​タービン​で​の​温度​上昇 ​