NI FlexRIO​で​ハイブリッド​車​向け​の​モーター​HILS​を​構築

Mr. Tomohiro Morita, FUJI Heavy Industries, Ltd.

"NI LabVIEW FPGA​モジュール​と​NI FlexRIO​を​採用​した​こと​により、​ECU​の​検証​に​必要​な​制御​レート​を​実現​し、​モーター​の​非線形​特性​を​加味​できる​モーター​HILS​の​構築​に​成功​した。​その​結果、​ECU​の​テスト​時間​を​1/20​に​短縮​でき​た。" ​

- Mr. Tomohiro Morita, FUJI Heavy Industries, Ltd.

課題:

富士​重工業​として​は​初​の​量産​型​ハイブリッド​車​「SUBARU XV HYBRID」​を​開発​する​にあたり、​モーター​用​ECU​に求められる制御品質を実現するための新たな検証システムが必要になった。​その​検証​システム​は、​実機​では​実現​が​困難​な​試験​条件​を​容易​に​作り出せる​もの​でなければ​なら​ない。​また、​検証​に​かかる​工数​を​削減​する​とともに、​回帰​テスト​も​実施​できる​よう​に​する​ため​に、​テストの自動化を実現できるシステムでなければならなかった。 ​

ソリューション:

あらゆる​試験​条件​を​作り出せる​よう​に​する​ため​に、​モーター​HILS​を​利用​した​検証​システム​を​構築​する。​必要​な​制御​レート​を​得る​ため​に、​検証​システム​の​中核​と​なる​ハードウェア​として​は​NI FlexRIO​を​採用​する。​NI FlexRIO​が​備える​FPGA​向け​の​プログラム​や、​すべて​の​テストパターン​を​自動的​に​実行​する​ため​の​プログラム​は、​NI LabVIEW​で​開発​する。 ​

 

1.           背景

今日​の​自動車​は、​機能​の​拡充​や​制御​の​高度化​が​進​ん​だ​結果、​非常​に​多く​の​ECU(電子​制御​ユニット)​を搭載するようになった。​特に、​ハイブリッド​車​では、​従来​の​エンジン​に​加​えて​電動​モーター​による​駆動​系​も​併用​する​こと​から、​モーター​用​ECU​が​極めて​重要​な​役割​を​果たす​ことに​なる。

 

当社​(富士​重工業)​は、​新た​な​ハイブリッド​車​「SUBARU XV HYBRID」​の​開発​を​計画​し​てい​た。​国内​や​北米​を​ターゲット​と​した​量産​型​の​ハイブリッド​車​を​開発​する​の​は、​当社​として​は​初​の​こと​で​ある。​その​時点​で、​当社​の​先行​開発​部門​は​すでに​ハイブリッド​車​向け​の​モーター​用​ECU​を開発済みだった。​ただし、​その​開発​目的​は​ハイブリッド​車​として​の​基本​的​な​機能​と​性能​を​実現​する​こと​で​あり、​検証​作業​について​も、​モーター​の​実機​と​モーター​用​ECU​の​実機​を​接続​し、​基本​的​な​機能​と​性能​を​確認​する​レベル​に​とど​め​てい​た。

 

それ​に対し、​量産​車​向け​の​モーター​用​ECU​に​は、​ユーザー​が​どの​よう​な​運転​を​し​て​も、​また、​内的・​外​的​要因​によって​どの​よう​な​状況​が​発生​した​として​も、​人身​の​安全​を​確保​する​とともに、​車体​の​故障​を​防ぐ​こと​が​できる​多様​な​制御​機能​を​盛り込む​必要​が​ある。​そのため​の​制御​アルゴリズム​を​開発​する​の​も、​当社としては初めてのことだった。​加​えて、​量産​車​に​求め​られる​モーター​の​制御​品質​を​確保​する​に​は、​そうした​複雑​な​制御​アルゴリズム​を​検証​する​ため​の​仕組み​を​構築​する​こと​も​必要​に​なる。

 

 

2.           課題

モーター​用​ECU​に​は、​モーター​制御​用​の​アルゴリズム​を​実現​する​ソフトウェア​を​実装​する。​この​ソフトウェア​の​検証​を​十分​に​行う​こと​により、​制御​品質​の​保証​が​達成​さ​れる。​われわれ​は、​検証​の​ため​の​仕組み​づくり​に​向け​て、​以下​の​3​点​を​目標​として​掲​げた。

● 通常​で​あれ​ば​想定​さ​れ​ない​よう​な“意地悪”な​条件​など​も​含​め​て、​検証​項目​に​ヌケ​や​モ​レ​が​生​じ​ない​よう​に​する

● 要件、​仕様、​検証​の​間​の​トレーサビリティ​を​確保​する

● 設計​上の​変更​による​影響​の​有無​を​確認​する​ため​の​回帰​テスト​(リ​グ​レ​ッ​ション​テスト)​を​行える​よう​に​する

 

モーター​の​実機​と​モーター​用​ECU​の​実機​を​使用​する​検証​方法​では、​これらの目標を達成するのは極めて困難であることは明らかだった。​そこで、​われわれ​は、​新た​な​モーター​用​ECU​の​設計/​検証​作業​を、​図​1​に​示し​た​「V​字​プロセス」​に​の​っと​って​進める​ことに​した。​それ​にあたり、​上記​の​3​つ​の​目標​を​満たす​ため​の“肝”に​なる​要素​として、​HIL(Hardware-​in-​the-​Loop)​システム​を​導入​する​ことに​した。​制御​アルゴリズム​を​実現​する​コード​を​実装​した​モーター​用​ECU​の​検証​を、​モーター​の​実機​では​なく、​モーター​の​動作​を​模擬​する​HIL​システム​(モーター​HILS)​を​利用​した​シミュレーション​によって​行う​という​こと​で​ある。​検証​にあたって​は、​実機​を​使用​する​の​では​作り出す​こと​が​困難​な​条件​を​含​め​て、​あらゆる​項目​を​網羅​する。​また、​検証​作業​に​加​えて、​試験​結果​の​記録​まで​を​自動的​に​行える​よう​に​する​こと​により​トレーサビリティ​を​確保​する。​さらに、​その​よう​な​自動化​を​実現​する​こと​によって、​回帰​テスト​も​行える​よう​に​する​こと​を​目指​した。

 

 

 

 

3.           ソリューション/​効果

われわれ​が​開発​した​検証​システム​は、​図​2​に​示し​た​よう​に、​モーター​用​ECU​の​実機​と、​モーター​(モーター​プラント)​の​動作​を​模擬​する​HIL​システム​で​構成​さ​れる。​HIL​システム​は、​トル​ク​や​回転​数​など​を​パラメータ​として、​モーター​の​あらゆる​動作​を​等価​的​に​表現​する​こと​が​できる。​トル​ク​や​回転​数​について​指定​した​テストパターン​を​モーター​用​ECU​で​実行​すると、​それぞれ​の​パターン​に​応​じ​て​HIL​システム​が​異なる​挙動​を​示す。​その​挙動​が、​期待​し​てい​た​とおり​の​もの​で​ある​か​どうか​を​検証​する​仕組み​だ。

 

われわれ​は、​HIL​システム​の​中核​を​なす​ハードウェア​として​NI FlexRIO​を​採用​した。​NI FlexRIO​は、​PXI​技術​を​ベース​と​する​コントローラ​製品​で​あり、​FPGA​を​搭載​した​NI FlexRIO FPGA​モジュール​を​備える​こと​を​1​つ​の​特徴​と​する。​この​NI FlexRIO​で、​モーター​の​動作​を​疑似​的​に​表現​する​モデル​を​実行​する。​また、​NI FlexRIO​に​配備​する​すべて​の​プログラム​は、​グラフィカル​システム​開発​ツール​で​ある​NI LabVIEW​を​使用​し​て​グラフィカル​に​記述​した。

 

各​テストパターン​を​順次​実行​する​ため​の​テスト​シナリオ​は​Excel​シート​として​作成​した​(図​3)。​実行​ステップ​を​1​ミリ​秒​と​し、​トル​ク​の​値、​モーター​の​回転​数​など​の​試験​条件​を​時​系列​で​Excel​シート​に​記述​する。​これ​に従って、​モーター​用​ECU​が​動作​し、​HIL​システム​に対して​PWM​信号​など​を​送出​する。​それらの信号を受け取った​HIL​システム​が​実際​の​モーター​を​模擬​し​て​動作​(具体​的​に​は​演算​処理​が​行​われ、​実際​の​モーター​と​同等​の​速度​で​結果​を​出力​する)​し、​その​結果​得​ら​れ​た​トル​ク​や​3​相​電流​の​値​を​表す​信号​を​モーター​用​ECU​に​返す。​一方、​テスト​シナリオ​に​対応​する​もの​として、​テスト​レポート​用​の​Excel​シート​も​あらかじめ​用意​し​て​おく。​こちら​に​は、​1​ミリ​秒​の​保存​ステップ​で、​トル​ク、​3​相​電流​など​の​期待​値​を​記述​し​て​おく。​この​Excel​シート​に、​シミュレーション​結果​として​得​ら​れ​た​値​を​順次​書き込み、​それぞれに​対応​する​期待​値​と​比較​し​て​判定​を​行う​仕組み​だ。

 

 

 

また、​検証​の​自動化​も​基本​的​に​LabVIEW​によって​実現​し​て​いる。​LabVIEW​で​テスト​シナリオ​の​Excel​シート​を​読み​込​んで​実行​し、​得​ら​れ​た​結果​を​テスト​レポート​の​Excel​シート​に​自動的​に​書き込む​という​仕組み​で​ある。​そこ​から​先​の​判定​処理​は​Excel VBA​で​実現​した。

 

HIL​システム​の​開発​にあたり、​われわれ​が​NI FlexRIO​を​採用​した​ことに​は​1​つ​の​大きな​理由​が​あっ​た。​それ​は、​他社​の​コントローラ​製品​を​使用​した​の​では、​HIL​システム​に​必要​な​演算​性能​(実際​の​モーター​と​同等​の​速度​で​の​動作)​が​得​ら​れ​ない​という​こと​で​ある。

 

HIL​システム​では、​シミュレーション​の​時間​分解能​に​相当​する​制御​レート​(ルー​プレート)​が​重要​な​要素​と​なる。​われわれ​の​モーター​用​ECU​では、​この​制御​レート​が​1.2​マイクロ​秒​以下​で​ある​必要​が​あっ​た。​この値を実現できなければ、​シミュレータ​として​の​用​を​な​さ​ない​という​こと​で​ある。

 

他社​の​コントローラ​製品​の​場合、​制御/​演算​用​の​デバイス​として、​Intel​社​など​の​CPU​を​採用​し​て​いる​もの​が​ほとんど​で​ある。​それらの​製品​を​使用​した​場合、​制御​レート​として​は​5​マイクロ秒程度しか実現できなかった。​一方、​FlexRIO​では​制御/​演算​用​の​デバイス​として​FPGA​を​採用​し​て​いる。​FPGA​は、​CPU​と​比較​し​て​特に​演算​処理​性能​の​面​で​大きな​アドバンテージ​を​持つ。​そのため、​1.2​マイクロ​秒​以下​の​制御​レート​を​実現​する​こと​が​でき​た。​この​こと​が、​NI FlexRIO​を採用した決定的な要因だった。​また、​NI FlexRIO​が​備える​FPGA​は​大​容量​の​DRAM​を​内蔵​し​て​いる​こと​から、​モーター​の​基本​的​な​動作/​特性​を​表現​できる​線形​モデル​に​加​えて、​より​現実​の​モーター​に​近い​動作/​特性​を​表現​可能​な​JMAG-​RT​モデル​(JSOL​社​製)​も​使用​できる。

 

加​えて、​FlexRIO​が​備える​FPGA​向け​の​プログラミング​も、​LabVIEW FPGA​モジュール​を​使用​する​こと​で、​LabVIEW​による​通常​の​プログラミング​と​同様​に​グラフィカル​に​行う​こと​が​できる。​つまり、​HDL(ハードウェア​記述​言語)​の​よう​な​テキスト​ベース​の​言語​を​使用​する​こと​なく、​短期間​で​開発​を​行う​こと​が​可能​だ​という​こと​で​ある。

 

 

 

開発​した​テストパターン​は​すべて​自動的​に​実行​する​こと​が​可能​で​ある。​しかも、​すべて​の​パターン​を​自動​実行​する​の​に​かかる​時間​は​約​118​時間​に​抑え​ら​れ​て​いる。​仮に​すべて​の​テスト​を​手作業​で​行う​と​すると、​実に​2300​時間ほどを要するという見積もりになった。​ただ、​実際​に​は​自動​テスト​で​あれ​ば​排除​できる​人的​ミス​が​間違い​なく​発生​し、​その​リカバリ​に​も​時間​を​要​す​こと​から、​すべて​を​手作業​で​実施​する​の​は​現実​的​に​は​不可能​で​ある。​HIL​システム​を​導入​する​とともに、​テストの自動化を図らなければ、​XV HYBRID​の​開発​プロジェクト​そのもの​が​成​り​立​た​なか​っ​た​という​こと​で​ある。

 

それ​以外​に​も、​HIL​システム​を​導入​した​こと​によって、​以下​の​よう​な​メリット​を​享受​する​こと​が​でき​た。

● 実機​の​モーター​を​使​わ​なく​て​も​テスト​が​行える​ので、​モーター​ベンチ​や​試験​車両​の​準備​といった​セットアップ​に​かかる​工数​が​激減​した

● 高​電圧​の​取り扱い​資格​が​ない​人員​でも​テスト​を​実施​できる

● 車両​で​発生​した​再現​性​の​低い​事象​について​も、​条件​を​さまざま​に​変更​する​こと​によって​HIL​システム上で再現することが可能になった

 

なお、​この​HIL​システム​を​有効​に​活用​する​ため​に​は、​いかに​ヌケ/​モ​レ​の​ない​テスト​シナリオ​を​開発​する​か​という​こと​が​重要​な​ポイント​に​なる。​そして、​その​作業​に​は​多大​な​時間​を​要する。​しかし、​そのように​し​て​開発​した​テスト​シナリオ​は、​資産​として​手元​に​残り、​何​度​でも​再​利用​する​こと​が​できる。​各種​の​設計​変更​に​応​じ​て​回帰​テスト​を​実施​できる​こと​は​もちろん、​次期​製品​の​開発​に​も​流用​する​こと​が​可能​だ。​テスト​シナリオ​の​開発​に​時間​を​投資​する​価値​は​十分​に​ある​と​言える​だ​ろう。

 

 

 

4.           今後​の​展開

この​プロジェクト​では、​適合​の​作業​(実際​に​使用​する​モーター​や​インバータ​の​特性​に対する​チューニング​作業)​は​実機​の​モーター​と​実機​の​モーター​用​ECU​を使用して行った。​つまり、​V​字​プロセス​における​「MG(Motor Generator)​と​インバータ​の​実機​適合/​検証」​の​部分​では​HIL​システム​は​使用​し​てい​ない。​これ​は、​その​時点​では​モーター​の​動作​を​模擬​する​モデル​として、​線形​モデル​を​使用​し​てい​た​ため​だ。​HIL​システム​を​使用​し​て​適合​を​行う​に​は、​モーター​の​動作/​特性​を​より​正確​に​表現​可能​な​JMAG-​RT​モデル​を​使用​する​必要​が​ある。​現在​では、​JMAG-​RT​モデル​も​利用​できる​状態​に​な​って​いる​ので、​今後​は​適合​作業​に​も​HIL​システム​を​適用​し​てい​く​予定​で​ある。

 

また、​現時点​では​モーター​単体​は​JMAG-​RT​により​実機​に​近づける​こと​が​可能​だが、​モーターのケーシングや冷却機構などを含めた機構モデルを実装しておらず、​温度​(熱/​冷却)​の​パラメータ​に対して​完全​な​レベル​に​は​達し​てい​ない。​加​えて、​インバータ​の​モデル​も​理想​スイッチ​を​使用​した​もの​と​な​って​いる。​そのため、​実機​の​動作​を​完全​に​再現​できる​レベル​に​は​至って​い​ない。​これ​について​は、​モデル​の​進化​という​面​で、​業界​全体​の​動き​を​待つ​必要​が​ある​と​考え​て​いる。

 

 

 

著者​情報:

Mr. Tomohiro Morita
FUJI Heavy Industries, Ltd.
​Japan

Diagram 1. ​Development Process (V-​Diagram Process) for the Motor ECU
Diagram 2. ​Verification Environment Using the HIL System
Figure 1. ​The new Subaru XV Crosstrek Hybrid, which is tested using the NI HIL Platform.
Figure 2. ​The new Subaru XV Crosstrek Hybrid, which is tested using the NI HIL Platform.
Figure 3. ​The new Subaru XV Crosstrek Hybrid, which is tested using the NI HIL Platform.
Figure 4. ​The new Subaru XV Crosstrek Hybrid, which is tested using the NI HIL Platform.
Figure 5. ​A transparent overhead view of the Subaru XV Crosstrek Hybrid's powertrain.