パート2:電流信号切り替えるエラー減らす方法

概要

このチュートリアルは、低レベルの電圧、電流、抵抗の切り替えについて説明した3部シリーズのパート2です。このシリーズの各チュートリアルでは、さまざまなアプリケーションや測定タイプにおける低レベル切り替えについて有益なヒントを提供しています。このチュートリアルは低電流信号の切り替えテクニックや課題を紹介し、解説しています。

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内容

電流信号切り替え

1 μA以下の信号は通常低電流とみなされ、低電圧信号と同様、経路設定において特別の注意が必要です。システムから発生するわずかな電流オフセットでも、誤差の割合を大幅に上昇させて信号の整合性に影響を与える可能性があるため、システム誤差を最小限に抑えることが重要です。低電流信号を切り替える際に注意すべき主な障害には、スイッチシステムやケーブル接続地点から発生する漏れ電流、オフセット電流、リレーのデバウンス時間などがあります。

漏れ電流

漏れ電流は、スイッチ回路上で出力以外の場所に流れ出している電流誤差を合計したものです。漏れ電流に影響する主な要因には、以下のものがあります。

a.信号電圧レベル
b.回路内の寄生要素からの電流
c.スイッチング回路に近接するコンポーネント (たとえば、隣接するスイッチチャンネル、高電圧ソース、蛍光灯など) から放射される電流

漏れ電流の原因となる多くの要素の1つに、信号の電圧レベルがあります。1000V信号の漏れ電流は1 V信号の漏れ電流よりかなり大きくなります。これは、ほとんどのスイッチ回路において、リレーのリード線とグランド間にある程度の抵抗があるためです。この抵抗の要因には、スイッチモジュールのPCBに既存する抵抗、コンポーネントのパッケージング、モジュールのPCB表面に蓄積した埃などがあります。この抵抗は通常かなり大きいものですが (GΩ範囲)、わずかな電流を流します。抵抗を通過中に損失された電流は漏れ電流の一部になります。このため、漏れ電流の量は、信号の電圧レベルに依存します。たとえば、図2に示す回路を介して2つの異なる信号を経路設定した場合に発生する漏れ電流について考えてみましょう。最初の信号の電圧レベルは1000 Vで、2番目の信号の電圧レベルは1 Vです。以下に示す回路では、VSは信号の電圧レベル、iLはVSとRによって生成される漏れ電流です。ここで、Rはリレーとグランド間の抵抗です。

図2. 信号の電圧レベルに依存する漏れ電流

信号レベルに加えて、スイッチ回路の一部を構成する隠れた寄生要素もスイッチシステムの漏れ電流に大きく影響します。図3の回路では、実際のスイッチシステムに常駐する不要要素の多くを示しています。CGはリレーリード線とグランド間の寄生キャパシタンスです。このコンデンサが放電するたびに、漏れ電流が回路内を流れます。RSはリレー接点における漏れ抵抗で、PCB抵抗、大気中のコンダクタンス、汚染物などの要因によって起こります。この抵抗は (通常GΩ範囲)、スイッチが開いているときでも不要な電流をスイッチに流すパスを提供してしまいます。

その他の漏れ電流のソースには、スイッチ回路の外部要因によるものがあります。たとえば、汚染物、埃、大気抵抗、PCB抵抗などは、蛍光灯、高電圧ソース、スイッチモジュール上の隣接するチャンネルなどのソースから電流がスイッチ回路に流出するパスになります。図3では、スイッチモジュールの1つのチャンネルから別のチャンネルへ抵抗Rsurfaceを介してどのように電流漏れが起こるか示しています。Rsurfaceでの電流漏れの起因としては、スイッチモジュールのPCBの抵抗、大気抵抗、PCB表面に付着した埃などがあります。



図3: 近接スイッチチャンネルによる漏れ電流

漏れ電流を防止する方法はあります。漏れ電流は回路上に存在する寄生要素によって起こるため、低電流信号を測定している回路は湿度および汚染が管理されている環境に配置することが大切です。湿気を含む大気は電気を伝導しやすいため、乾いた大気に比べて抵抗値が低くなります。さらに、回路の異なるコンポーネント間に絶縁を施すことで、そのコンポーネント間の抵抗が増加し、漏れ電流が減少します。また、短いケーブルを使用することで、回路上のインダクタンスとインピーダンスが軽減されて漏れ電流も減少します。

バウンス時間

アーマチュアリレーとリードリレーの接点は、閉じるときに「バウンス」します。閉じる際に、接点が一瞬接触します。これにより、最終的に閉じた位置に落ち着くまで開閉を繰り返します。バウンスの概念は床に落とされたボールに類似しています。ボールが落ちると、引力によって床の表面にボールが落ち着くまで数秒間バウンドします。メカニカルリレーは、接触したり離れたりして回路を接続または切断する接点で構成されています。これらの接点は金属製であるため、ある程度の質量があります。さらに、これらの接点の少なくとも1つは、バネ性のある金属の可動ストリップ上にあります。このような要因によりリレーの接点は接続また切断する際にバウンスするのです。図4はリレーのバウンスを示しています。

バウンスが起こると、電荷の移動が発生して回路上で電流パルスの原因になります。この電流パルスは小さいものですが、測定されている信号の電流に加算されます。電荷の移動は、回路に存在する寄生キャパシタンスの放電を可能にする回路上に作成されたパスが原因です。このようなキャパシタンスの例には、2つのリレー接点間のキャパシタンス、およびリレーリード線とグランド間のキャパシタンスなどがあります。開状態と閉状態間でリレーがバウンスするたびに、キャパシタンスは帯電または放電します。

 

図4. リレーが開閉の状態を遷移したときにバウンスが発生

上の図からバウンス中に回路に印加される電圧レベルが変動することがわかります。接点が完全に閉じると電圧も一定の値に落ち着きます。同時に、放電や寄生キャパシタンスによって生成された過渡電流も一定の値になるため、システムを校正して誤差を修正することができます。通常リレーモジュールによってリレーのバウンス時間が指定されています。リレーのバウンスによる影響を最低限に抑えるには、この指定された時間よりもバウンスが整定するまで待ち、測定が正確に行われるようにした方が良いでしょう。

図5: 寄生キャパシタンスが存在するリレー回路

 

ケーブル影響

電流を流すためのケーブルは、電磁波妨害および電界によるノイズ電流を軽減するために十分絶縁されている必要があります。NIでは、シールド効果が90%以上のケーブルを使用することを推奨しています。湿度による電流誤差などの環境要因から信号を保護するために、水分吸収率が少ない絶縁体を使用します。理想的には、湿度と温度が管理された環境でケーブルを使用します。また、ケーブルを動かすと帯電するため、ケーブルをしっかりと動かないように固定することが重要です。 

NIでは、www.belden.comから入手できるBelden 83317Eと同様の特性を持つケーブルを選択することをお勧めします。四フッ化エチレン樹脂 (PTFE) テープで包装することで、漏れ電力を最小に抑えることができます。銀メッキの銅伝導体は、低熱起電力であるため低電圧測定に最適です。

推奨事項まとめ

低電流信号の経路設定における測定誤差を軽減するには、スイッチモジュールのコネクタと同じ金属または材料でできているシールドツイストペアケーブルを使用してください。これらのケーブルを使用すると、回路中の過渡要素を制限でき、システム内の漏れ電流を削減できます。

ここにある以外の低レベル切り替えについての詳細は、このチュートリアルシリーズのパート1とパート3を参照してください。

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