電圧信号切り替える誤差軽減方法Part 1

概要

このチュートリアルは、低レベルの電圧、電流、および抵抗の切り替えについて説明した3部シリーズのPart 1です。このシリーズの各チュートリアルでは、さまざまなアプリケーションや測定タイプにおける低レベルスイッチ切り替えについて有益なヒントを提供しています。このチュートリアルでは低電圧信号の切り替えにおけるテクニックおよび課題について説明します。

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内容

レベルスイッチ切り替え概要

理想的なスイッチシステムでは、信号を1つの場所から別の場所へその整合性を損なわないように経路設定します。しかし、現実世界でそのようなシステムを再現することは不可能です。信号のパスに配置されるスイッチによってある程度品質の低下が起こります。優れたスイッチシステムでは低下を最小に抑えますが、不良のスイッチでは顕著な低下の原因になります。スイッチシステムの品質は、低レベル信号を切り替える際に特に重要です。これは、低レベル信号の測定では回路の寄生要素やリレーの不具合などのさまざまな要素によって大きな誤差を引き起こす可能性があり、正確な測定が困難であるためです。

この概念を掘り下げて説明するために、ここで5 μVの信号をデジタルマルチメータに経路設定するリレーを例に挙げてみましょう。そのリレーの接触電位 (2つの異種金属が接触することでスイッチに発生する電圧) が2 μVの場合、これによる誤差が-2~+2 μVであるため計測器で測定される電圧は3~7 μVになります。そのため、このケースでは、信号パスにリレーを1つ追加したことで、信号の測定に40%の誤差が発生することがわかります。また接触電位が低電圧でのスイッチ切り替えに影響を及ぼすように、漏れ電流やスイッチパスの抵抗などの要素も電流および抵抗測定に影響を与えます。このホワイトペーパーでは、電流、電圧、抵抗の測定における信号切り替えで考慮するべき事項に関する対処方法を記載しています。また、スイッチを使用した低レベル信号測定で、測定誤差を軽減して確度を向上するポイントおよび注意事項についても記載しています。

電圧信号切り替え

アプリケーションによって、低電圧信号の範囲はナノボルトからミリボルトにまで及びます。このように広範囲にわたる信号を、異なる場所間に経路設定するには細心の注意が必要です。これは、スイッチシステムの電圧誤差が微小でも、そのスイッチを通過する信号の整合性に大きく影響を与える場合があるからです。スイッチシステムの電圧オフセットは、主に特定スイッチの接触電位、環境からのノイズおよび妨害、スイッチパスの抵抗によって起こります。このセクションでは、各現象の詳細およびその影響を軽減する方法について説明します。

温度勾配による影響

メカニカルリレーでは、コイルで生成された磁界を使用してスイッチを開閉します。コイルに電圧を加えると、リレーの接点が接触して回路のパスが繋がります。スイッチモジュールでは、リレーは通常PCB上に配置されています。信号はスイッチモジュールのフロントコネクタから入ります。ここからPCB上の曲がりくねった配線に沿ってリレーへ経路設定されます。リレーを通過した後、信号は別のPCB配線に沿ってスイッチモジュールの出力へ向かいます。入力端子、PCB配線、出力はすべて信号パスの一部です。すべてのスイッチモジュールには、必ず信号パスに2つの異種金属が接触して熱電対となる接点が複数含まれています。このような接合点の例としては、リレーのリード線がPCBトレースと接触する接点があり、PCBは大抵リード線と同じ素材でない異なる金属でできています (図2を参照)。

 



図1.  リレーのリード線とPCB配線の接合点でできた熱電対

これらの熱電対によって生成される電圧は、周囲温度、リレーの数、モジュール内の通気などの要因によって異なります。単一パスにおけるすべての熱電対で生成される合計電圧は、接触電位として表されます。



図2.  スイッチモジュールの合計接触電位

   

接触電位の影響は、ソース信号のHighとLow端子の両方がスイッチモジュールのチャンネルを通過する差動測定設定を使用することで、最小限に抑えることができます。これは、スイッチモジュールの両チャンネルの接触電位がほぼ同じであるため、両方の電圧オフセットが取り消される結果となり、システムで発生する接触電位の合計を軽減することができます。差動測定を行う場合、双極単投 (DPST) リレーのスイッチモジュールを使用すると効果的です。これらのリレーは、同時に開閉する2つのSPST (単極単投) リレーから構成されます (図3を参照)。これらのSPSTリレーは熱的に均一になるように1つのハウジングパッケージに収められています。そのため、1つのリレーの温度状態に影響を与える外部要素 (周囲温度の変化など) は、もう1つのリレーにも同じ影響を与えます。前述の有益性に加えて、DPSTリレーに使用されるSPSTリレーは同じ製造バッチのものなので、物質特性における相違を抑えることができます。これらの理由を考慮すると、DPST形式のSPSTスイッチを使用することが接触電位を最小限に抑えるために最も有効です。


図3.  双極単投 (DPST) リレー

2つのリレーがまったく同じ接触電位を持つことは不可能です。しかし、DPSTスイッチは差動測定で使用された場合、この相違を最小に抑えることができます。下の回路で、最初のリレーの接触電位はVemf1、2番目のリレーの接触電位はVemf2、ソース電圧はVS、測定された電圧はVMと想定します。この場合は以下のようになります。




図4
.  2つのリレーを使用した差動測定

接触電位がまったくなくなるということはありません。DPSTリレーを使用した場合でも、2つのリレー間で接触電位にわずかな違いがあります。しかし、DPSTリレーを使用した差動測定では、接触電位に起因する測定での電圧オフセットを顕著に軽減することができます。

非ラッチ型リレーを使用した場合の接触電位の影響を軽減するためには、リレーが閉じてから数秒内に測定を行う方がよいでしょう。これは、リレーの状態または位置を一定に保つために、リレーに連続して電流を供給する必要があるためです。この定電流の供給により、リレーのコイルで電力が浪費されるため、それによって温度が上昇してリレーが閉じた後の数分間温度勾配が発生します。勾配が高いほど、接触電位に関連する電圧も高くなります。この現象はラッチ型リレーにはあまり見られません。これは、ラッチ型リレーでは電流を連続的に供給しなくてもリレーを特定の位置に保持できるからです。

また、常にPCBコネクタおよび配線と同じ金属でできたワイヤを使用することを推奨します。信号パス全体に同一の金属を使用することで、熱電対によって起こるオフセットを削減することができ、確度も向上します。通常、ほとんどのPCB配線は銅でできているので、銅製のケーブルを使用するとよいでしょう。しかし、PCBが銅以外の金属でメッキされている場合は、それに適したワイヤを選択しても問題ないでしょう。

リレー抵抗

入力端子から出力までの信号パスにスイッチモジュールのチャンネルが加える抵抗の合計は、パス抵抗と呼ばれます。スイッチモジュールのリレーによって加えられる抵抗は接触抵抗と呼ばれ、合計パス抵抗のサブセットになります。つまり、信号パス上に設置されたリレーは小さな抵抗として考えることができます。この抵抗が大きくなるにつれて、リレーにかかるオフセット電圧 (V = I x R) も大きくなります。高抵抗値は信号減衰の原因となり、その結果測定に誤差が生じます。そのため、低電圧信号を切り替える際に低パス抵抗のスイッチモジュールを選択することが重要になります。パス抵抗の影響を理解するために、1 mAの10 mV信号が2つの異なるスイッチモジュールを通過する例を取り上げてみましょう。最初のモジュールのパス抵抗はR1 (1 Ω) で、2つ目のモジュールはR2 (10 Ω) です。オームの法則によると、電位降下または最初のモジュール起因する誤差は10 mVになります。2つ目のモジュールによる誤差はその10倍 (100 mV) にもなります。リレー抵抗は電圧オフセットの原因になりますが、このオフセットは通常一定しているため、信号レベルが変動しない限りシステム内で校正されます。そのため、リレー抵抗は考慮するべき重要なパラメータである反面、スイッチモジュールの接触電位/オフセット仕様に比べて重要度は低くなります。


リレー上の1セットの閉じた接点を通過するDC抵抗であるリレーの接触抵抗 (パス抵抗のサブセット) は、時間とともに増加します。これは、リレーの摩耗や接点の表面に蓄積した不純物のために、接触抵抗が増大してリレーの電圧を降下するからです。通常、古いスイッチに比べると新しいスイッチによる誤差は少なくなります。リレーの寿命などの使用については、スイッチ製品のドキュメントを参照してください。ほとんどのNIスイッチモジュールに搭載されているリレーカウント追跡などの機能を使用して、リレーの接触抵抗のレベルがアプリケーションで許容される値であるか確認することもできます。ここで、リレーの接触抵抗が時間とともに増加するのは、FETやSSRなど物理的に動く部品が付いているメカニカルリレーにのみ当てはまることに注意してください。また、すべてのケーブルに何らかの抵抗があるため、短いケーブルを使用することでパス抵抗が軽減され、信号パス上の電位降下を最小限に抑えることができます。

ノイズおよび電磁波妨害

ソースノイズには、テストシステムに近接して電流を運ぶ物体も含まれます。このような物体には、大型機械や蛍光灯などがあります。測定の感度は繊細なため、低電圧信号を切り替える回路では最大限にノイズソースを取り除き、これらのソースから流れ込む電荷の影響を最小限に抑える必要があります。さらに、信号パス上のノイズから信号を保護するために、シールドされたツイストペアケーブルを使用することが推奨されています。ツイストペアケーブルには、電磁妨害を取り消す機能およびチャンネル間のクロストークを軽減する機能があります。



図5.  シールドされたツイストペアケーブル

まとめ

低電圧信号の経路設定における測定誤差を削減するには、スイッチモジュールのコネクタと同じ金属または資材でできているシールドツイストペアケーブルを常に使用してください。これらのケーブルは信号パスを絶縁するため、隣接したソースからのクロストークに起因する誤差を軽減することができます。また、接触電位 (5 μV以下) とパス抵抗 (1 Ω以下) が低いスイッチモジュールを選択するよう推奨します。

ここにある以外の低レベルスイッチ切り替えの詳細については、このチュートリアルシリーズのPart 2とPart 3を参照してください。

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