Siemens社、CompactRIO、LabVIEW、DIAdem使用危険過渡過電圧根本原因特定

Ryan Parkinson、Siemens社

「CompactRIO最大メリットは、FPGAプロセッサ組み合わせられることしょう。構成可能FPGAハードウェアにより極めて高い精度レート実現つつ、プロセッサ長時間にわたるリモート操作対応することできます。」

- Ryan Parkinson、Siemens社

課題:

電気的過渡過電圧の原因を特定してライトレール車両の故障を予防する。

ソリューション:

FPGA (フィールドプログラマブルゲートアレイ) とNI CompactRIOハードウェアに搭載されたプロセッサのメリットを組み合わせることで、堅牢で半永久的な監視システムを構築した。このシステムでは、複数のデータ形式とデータレートの記録や、データの同期が可能であり、また、リアルタイム解析を実行して、工業環境で使用されているセンサを長時間にわたりリモートで監視することもできる。

作成者:

Ryan Parkinson - Siemens社
Jacob Cassinat - Siemens社

 

システムインテグレータにとって、サブシステムの通信の管理は根本的な難題です。網羅的なI/Oリミットを定義しても不具合が起こることはありますが、どのサブシステム通信が破壊的要素をもたらしたかは明確ではありません。その機器が不具合の原因であると明らかではない段階で、サブシステムのベンダにトラブルシューティングを依頼するのは現実的ではありません。また各システムを分離してテストしたのでは、すべての通信がテストされない可能性があります。そのような場合、システム全体の関連部分を監視し、問題の原因を突き止めて、解決のために然るべき人員や費用を割り当てることができるのは、おそらくシステムインテグレータでしょう。Siemens社の鉄道システム部門は、このシステムインテグレータの任務を遂行し、それが成功しました。

 

過去3年間、当社のお客様がSD160ライトレール輸送車両で繰り返し起こる問題に直面しています。コロラド州デンバーのバス/ライトレールサービス、Denver RTDでは、170台のSiemens車両を稼働させています。それらの車両は、カテナリー式架線システム (OCS) から電力が供給されています。その架線システムは、RTDの配電網から電力を受けています。各車両に搭載されている補助電源装置 (APS) は、OCSから電力を取り込み、他のほとんどの車載サブシステムで使用できるよう調整します。このAPSは故障率が高く、車両にとって致命的な故障を起こしていました。故障ログによると、電源入力からAPSへの過渡過電圧が発生しているため、ベンダはDenver RTDまたは車載推進サブシステム (電気力学ブレーキの際に電力をAPSに供給) のいずれかが過渡の許容範囲外で電力を供給していると考えるに至りました。ただし、RTDも推進装置のサプライヤも自社のシステムがそのような過渡現象を生じさせることはないことを確認しています。ライトレール車両で故障が発生すると、Siemens社や当社サプライヤにとって極めて大きな時間とコストがかかります。またお客様にとっては運転遅延の原因となります。そこで状況を監視し、根本的原因を特定して、できるだけ早期に解決策を見出す必要があったのです。

 

事前診断

RTDの技術者は当初、OCSの電圧レベルは仕様に適合していると確認していました。その後APSベンダの技術者は、機器の故障につながった可能性のある電圧過渡現象を確認しました。ただし、さまざまなテストルーチンによってそのような過渡現象を誘発しても、APSは設計通りに動作していました。このテストでは、担当者がポータブルスコープを監視できるように、車両を旅客サービスから外す必要がありました。過渡過電圧はあまり頻繁に発生しない上、短いテスト時間の間に有害な過渡現象が起こることは非常に珍しいため、この方法は確実ではありませんでした。実際の走行状態を正確に特性評価するためには、輸送車両についてより包括的なテストを実施する必要があることが明確になったのです。

 

APSベンダは、独自のリモートデータロガーを作成して、SD160車両に恒久的に取り付けました。システムレベルの電圧データのスナップショットを取り込むことができますが、周囲環境や過渡現象の原因についての情報を得るには不十分なデータでした。この方法から、問題を診断するには全体像を見る必要があることがわかりました。この初期の方式に基づき、列車を長期間監視して問題を検出し修正する堅牢なリモートシステムを開発しました。

 

システム定義

さまざまなサブシステムに搭載された多彩なセンサや通信プロトコルに対応するためには、柔軟性に優れた高機能な監視システムが必要でした。当社では下記要件を定義しました。

  • 10,000 Hzを越える連続マルチチャンネル電圧サンプリングで、6つの入力を監視し、高電圧過渡現象を検出
  • 3種類以上の構成可能なサンプリングレートにより、各信号クラスのデータレートを最適化しストレージ要件を最小化
  • 標準プロトコルを使用したシリアル入力で、GPSアンテナと通信し、イベントの位置情報を提供
  • リアルタイム計算で出力応答を提供し、他のセンサと通信
  • 非トリガデータを保存せずにプリ/ポストトリガ (イベント) データを記録して、解析を最適化しストレージのニーズを最小化
  • 大容量ストレージ
  • ビデオ管理
  • データのレートや形式に関係なくすべての入力を自動で同期
  • 自動ダウンロードにより、最小限のユーザの介入で長期的に動作
  • 鉄道車両へ取り付けに対応できる振動/温度動作範囲
  • 省スペースで電機室への取り付けが可能

 

 

 

システム構成

当社では、あらゆるシステム要件を驚くほど満たしているCompactRIOモジュールを使用して、2台のライトレール車両を装備することにしました。異なる2台の車両を使用して、収集したデータを比較し車両間の通信を監視しました。高電圧トランスデューサを取り付けて、複数の列車部品に接続しました。このとき、電源入力フィルタの前後の部分を重点的に調べることにしました。これにより、過渡がRTDの電源ネットワーク (プレフィルタ) から生成されていたのか、列車のサブシステム (ポストフィルタ) から生成されていたのかを特定できました。

 

 

 

 

 

LabVIEW使用したプログラミング

当社では、LabVIEW Real-TimeモジュールとLabVIEW FPGAモジュールを使用し、NI LabVIEWシステム開発ソフトウェアのみで自社のシステムをプログラミングしました。FPGAは、高電圧、電流、および車両診断のデータを収集するようプログラムしました。プロセッサは、GPS位置と車両速度を収集し、通常のハウスキーピング処理を行って、後処理を実行するようプログラムしました。30分ごとに約1 GBのデータを記録しているこのシステムで、非トリガデータを消去してストレージ要件を最小限にすることができました。後処理を自動化し、1日に5 GB程度のみを保存していました。NIには、作成済みコードの大規模なデータベースが用意されています。FPGAとプロセッサのソフトウェアレイアウト用にGPSソフトウェアモジュールおよび汎用テンプレートを接続したことで、時間を大幅に節約することができました。初心者だった我々が、サンディエゴでLabVIEW 実践集中コース 1実践集中コース 2を受講した後、わずか数カ月の間に上級プログラマへと成長することができました。直感性に優れたLabVIEWとこれまでのプログラミング経験を駆使して、6か月足らずの間にソフトウェアを完成させテストすることに成功したのです。

 

CompactRIOメリット

FPGAとプロセッサ

CompactRIOの最大のメリットは、FPGAとプロセッサを組み合わせられることでしょう。FPGAは再構成可能なので、ほとんどの最先端スコープと同等のデータレートとサンプリング確度を実現することができます。プロセッサの遅延なく、リアルタイムで計算と出力が実行できます。データにタイムスタンプが付いてバッファされると、プロセッサのメリットが発揮されます。ソフトウェアエンジニアはプロセッサの柔軟性をフルに活用して、FPGAの長期にわたる稼働やリモート稼働を実現し、大規模なデータセットを管理することができます。バッファされたデータは取り出してUSBドライブに書き込むことができ、ノートブックPCと同等のストレージ機能が実現されます。GPS信号は、監視され記録されます。スクリプトを実行して後処理を行い、非トリガデータを消去して、解析用のデータを準備します。通常のタスクの実行とサーバへのFTPの自動アップロードは、毎日夜間に行うことができます。

 

堅牢かつ再構成可能

CompactRIOは、当社の環境要件をすべてクリアしています。-40℃~80℃の温度範囲に対応しているため、装置を電機室に外付けで取り付けました。省スペースで振動/衝撃への耐性も優れているため、簡単かつ半永久的に取り付けることもできます。

 

CompactRIOは、カスタマイズ性に優れています。当社では、複数の段階で調査を行う必要性を認識していました。また、システムを再構成して潜在的な問題領域に焦点を当てることができたのは、大きなメリットでした。事前の電圧解析を実施した後、2つの電流信号を監視すると有益なことがわかりました。それらの2つの信号を追加するのは非常に簡単な作業でした。CompactRIOをスワップ可能な入力モジュールとともに使用すると、考えられるほぼすべての入力を監視することができます。

 

データへのアクセス

CompactRIOには、複数のデータアクセスオプションがあります。ルータを使用し、無線ダウンロードを利用してネットワーク経由でデータにアクセスしたり、リムーバブルUSBドライブ経由で手動でデータにアクセスしたりすることができます。プロジェクトの開発を管理しやすくするため、当初は無線ダウンロードを実装しませんでした。データをフラッシュドライブに保存し、担当者が週に1回プログラムを終了し、USBドライブを取り外して、新しいUSBドライブに取り換えることでそのデータにアクセスしていました。現在は、RTDを使用して、自動FTP転送を毎日サーバに実装しています。これにより、時間が節約できると同時にデータによりすばやくアクセスできるようになります。

 

データレート

過渡現象を効果的に計測し記録するには、10,000 Hzを超えるサンプルレートが必要でした。車両診断データは1ミリ秒ごとにしか取得できないため、レートは1,000 Hzで十分です。温度の読み取りが必要なときは、3つ目のサンプリングレートである50 Hzを追加する場合があります。FPGAを使用すれば、さまざまなレートに対応できるので、データをバッファに簡単に書き込むことができます。4番目のレート、1 HzはGPS入力に必要なもので、プロセッサで処理されます。

 

ビデオ処理

CompactRIOのもう1つのメリットとして、ビデオ処理があります。当初は、ビデオの処理と記録をCompactRIO FPGAで行う予定でした。ただし、プロジェクトが進むにつれ、CompactRIOでは、指定の分解能で必要となるバッファ処理に対応できないことが判明しました。デジタルビデオレコーダ (DVR) を購入しましたが、DVRのビデオとCompactRIOデータを同期させるという難題にぶつかりました。内部クロックが異なる上、自然にクロックドリフトが発生するため、求めていた同期レベルを実現するには不適切でした。しかし解決策はシンプルでした。NI 9401双方向デジタル入力モジュールを購入し、CompactRIOシャーシに接続しました。システムが電圧を記録すると、FPGAはシンプルなアルゴリズムを実行して、電圧過渡が発生しているかどうかを判別します。発生していることが検出されると、バイナリ信号をNI 9401経由でDVRに送信します。これはプロセッサの遅延なしにリアルタイムで行われます。DVRはバイナリ信号をビデオファイルを使用してトリガとして記録します。そのためアクティブトリガを示すビデオファイルのみダウンロードすればよいので、ビデオの保存とダウンロードの時間が削減できます。また、トリガを整合させることで、ビデオデータをCompactRIO電圧データおよびGPSデータと完全に同期させることもできます。

 

DIAdemデータ解析

さまざまなレートや形式でデータを記録できても、難題の半分が解決されたにすぎません。データの意味を理解し効果的に解析するという難題がまだ残されています。NI DIAdemデータ解析ソフトウェアを使用したことで、解析タスクに最適なプラットフォームを利用することができました。 

 

DIAdemは、バイナリストレージのメリットを備えたテクニカルデータ管理ストリーミング (TDMS) ファイルストラクチャをサポートしています。DIAdemでは、自動的に保存されるメタデータを使用することで、極めて大きいファイルのオープン、操作、拡大/縮小、計算をすばやく実行することができます。図3では、上のチャートに高電圧チャンネル (3つの過渡イベントが発生)、中央のチャートに高度、下のチャートにGPS、車両速度、診断データが示されています。 

 

また、DIAdemはスクリプトもサポートしています。3か月以上にわたって監視システムを稼働させたため、生成したデータは数百ギガバイトにのぼり、ファイルを1つ1つ開いて手作業で解析するのは現実的ではありませんでした。過渡現象の根本的原因を突き止めるために必要な重要データを特定した後、各ファイルを開いて重要なイベントを検索し、その結果 (返された最大過渡イベント数、持続時間、APS応答、何らかの傾向を示す位置データなど) をまとめるスクリプトを作成しました。 

 

まとめ

最終的に、過渡現象はお客様の配電網で発生していることと、その原因も突き止めました。ただしそれらの過渡現象が振幅と持続時間の要求範囲内であることも確認しました。有害な過渡現象は、APSで発生していることがわかりました。この情報に基づいて、当社のベンダはシステムの詳細な解析を直ちに行い、根本的原因を突き止め、問題の修正にあたっています。

 

現在、当社はオレゴン州ポートランドで新しいプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトでは、ブレーキディスクの温度と油圧油のライン圧力を監視し、ディスクの摩耗を調べています。RTD電圧過渡プロジェクト用に作成した同じプログラムレイアウトは、データ記録のためのサンプルレート、入力カード、入力スケール、トリガをを少し変えるだけで使用することができます。さらに、デンバーでのテストから学んだ点も組み込んでいます。デンバープロジェクトへの初期投資の後、ポートランドでの再構成と再デプロイのための費用は大幅に低減し、スケジュールにも余裕が出ています。

 

著者​情報:

Ryan Parkinson
Siemens社

図1: Denver Car 321の推進/APS室に取り付けられた半永久的なCompactRIO
図2: Denver Car 321に取り付けられた高電圧トランスデューサとヒューズ
図3: DIAdem解析ページ
図4: 記録されたビデオファイルのフレーム。左側のフレームは右側のフレームの前の段階で、図3の上のチャートに示す3つのデータのようなアーク放電イベントを示しています。参考までに、カテナリー式架線システムのワイヤ上を移動するアーム (パンタグラフ) は、幅が6.5フィートです。