このドキュメントでは、音圧の基本や、マイクロホンの仕組み、センサ仕様の違いによるマイクロホンの性能への影響について説明します。センサを決定すると、マイクロホン測定の適切な調節、収集、視覚化に必要なソフトウェアとハードウェアを検討することができます。また、必要に応じて追加の信号調節を検討することもできます。
空気や水、あるいは人間の耳が感知できるあらゆる媒体の圧力の変化を音と呼びます。人間の鼓膜が圧力の振動、つまり音を電気信号に変え、それが脳で音楽や話し声、雑音として認識されます。マイクロホンも同じ仕組みになっています。そうした信号を記録、解析し、音源からマイクロホンまでの音の経路に関する情報を収集することができます。たとえば、通常ノイズ/振動/ハーシュネステストでは、自動車に乗っている人が走行中に感じる雑音など、不要な音の除去が目的となっています。これらの音の中には、人間の耳で聞き取れる周波数範囲外の音や、特定の共振周波数における振幅の音などもあります。そのような計測は、エミッション規格への準拠やデバイスの性能と耐久性の特性評価において、ノイズの軽減が求められている設計者には重要です。
人間は音にさらされ、音圧を感知できるため、音圧計測は極めて一般的に行われる計測です。音圧レベルはパスカル (Pa) 単位で計測し、受信機が音をどのように認識するかを示します。また音源の音響出力も特定できます。ワット数 (W) で計測する音響出力 (パワー) レベルは、全方向に放射される総音響エネルギーを表します。部屋、受信機、音源からの距離といった環境要因とは無関係です。出力 (パワー) は音源の属性ですが、「音圧」は環境、反射面、受信機の距離、周囲の音などに左右されます。
さまざまなマイクロホンから選ぶことができますが、最も一般的な計測用マイクロホンは、外部分極型コンデンサマイクロホン、プリポラライズド (自己分極型) エレクトレットコンデンサマイクロホン、圧電型マイクロホンです。
図1. 「マイクロホン」とは、音波を電気信号に変換するトランスデューサです。
コンデンサ
コンデンサマイクロホンは、容量性を持つ構造をしています。コンデンサのプレートを形成する金属振動板が組み込まれています。振動板の近くに配置された金属板はバックプレートとして動作します。音場によって振動板が振動すると、2つのプレート間のキャパシタンスが音圧の変化に応じて変化します。安定性のあるDC電圧が高い抵抗を通じてプレートに印加され、プレート上の電荷を維持します。キャパシタンスの変化は、音圧に比例するAC出力を生成します。このコンデンサの帯電は、分極されたマイクロホンの場合のように、外部分極電圧と素材自体の特性のいずれかによって発生します。外部極性のマイクロホンには、200 Vの外部電源が必要です。プリポラライズドマイクロホンは、定電流ソースを必要とするIEPEプリアンプによって駆動されます。
図2. 最も一般的な計測用マイクロホン (コンデンサマイクロホン) は、容量設計で稼働するコンデンサマイクロホンです。
圧
圧電型マイクロホンは、水晶圧電素子構造によりバックプレート電圧を生成します。多くの圧電型マイクロホンは、加速度計と同じ信号調節機能を使用し、IEPE信号調節を用いて分極電圧を供給することもあります。そうしたセンサタイプのマイクロホンは感度レベルは低いですが、耐久性が高く、高振幅の圧力範囲を計測することができます。逆にこのタイプのマイクロホンは、一般にフロアノイズレベルが高くなります。このタイプのマイクロホンは、衝撃/送風圧力測定に適しています。
最適なマイクロホンを選択する際は、応答領域、ダイナミック応答、周波数応答、偏極タイプ、必要な感度、温度範囲などを考慮します。また、特殊な用途向けのマイクロホンにもさまざまな種類があります。まずは、使用分野、音源および使用環境に適したマイクロホンを選択することが最も重要です。
マイクロホンのコンポーネントと設計の詳細については、「マイクロホンハンドブック」を参照してください。
マイクロホン
マイクロホンは、稼動するフィールドのタイプに最適なものを選ぶ必要があります。計測用マイクロホンには、自由音場、音圧場、ランダム入射の3種類があります。これらのマイクロホンは、低周波では同じように動作しますが、高周波での動作に違いがあります。
最も一般的なマイクロホンは自由音場型マイクロホンです。これは、1つの音源からマイクロホンの振動板で直接音圧を計測します。計測する音圧は、マイクロホンが音場に導入される前から存在していたものです。 このタイプのマイクロホンは、硬い面や反射面のない広い場所に適しています。無響室やさらに広いスペースが自由音場マイクロホンには最適です。
図3. 自由音場型マイクロホン
音圧場マイクロホンは、振動板の前で音圧を計測するよう設計されています。振幅と位相はフィールドのどの位置でも同じです。通常は、音の波長よりはるかに小さいサイズの囲いや空洞などの場所で使用します。音圧場マイクロホンアプリケーションの例として、壁や航空機の翼、チューブやハウジング、空洞といった構造物内の圧力のテストがあります。
図4. 音圧場型マイクロホン
多くの場合、音は1つの音源から来るわけではありません。ランダム入射型または拡散場型マイクロホンは、全角度から同時に届く音に対し均一に応答します。このタイプのマイクロホンは、教会や硬い反射性の高い壁のある場所での音響計測に適しています。ただし、ほとんどのマイクロホンでは、音圧応答とランダム入射応答は似通っているため、音圧場型マイクロホンはランダム入射計測によく使用されます。
図5. ランダム入射型マイクロホン
適切
音を表現するための主要基準であるダイナミックレンジは、音圧の変動の振幅に基づいています。人間の平均的な聴覚で認識できる最低振幅は、2000万分の1パスカル (20 μPa) です。音圧をパスカルで表すと圧力数が小さくて扱いにくいため、より一般的な尺度であるデシベル (dB) が使われるようになりました。これは対数スケールで、音圧の変動への人間の聴覚の応答により近づけられています。以下は、基準として使用する一般的な音圧レベルの例です。
メーカーは、マイクロホンの設計と物理特性に基づき最大デシベルレベルを指定します。指定した最大dBレベルとは、振動版がバックプレートに近づく部分で、全高調波歪み (THD) が特定量、通常THDの3パーセントに達する部分です。特定のアプリケーションでマイクロホンが生成する最大デシベルレベルは、供給される電圧とマイクロホンの感度によって決まります。特定のプリアンプと対応するピーク電圧を使用してマイクロホンの最大出力を計算するには、マイクロホンが受容可能な圧力をパスカル単位で計算する必要があります。圧力量は、次の式で計算します。
ここで、P = パスカル (Pa)、電圧はプリアンプの出力ピーク電圧です。
ピーク電圧でマイクロホンが感知できる最大音圧レベルを特定したら、以下の対数スケールを使ってこの量をデシベル (dB) に変換します。
P = 音圧 (パスカル)
Po = 基準パスカル (定数 = 0.00002 Pa)
この式により、特定のプリアンプとともに使用した場合にマイクロホンが計測可能な最大定格が特定できます。低ノイズレベルや最大量の圧力が求められる場合は、マイクロホンのCTN (cartridge thermal noise) 定格を確認する必要があります。CTN仕様とは、マイクロホン内部に存在する電気ノイズ以外で検出可能な最小音圧レベルを示すものです。図6は、マイクロホンをプリアンプと併用した場合のさまざまな周波数におけるノイズレベルを表した一般的なグラフです。
図6.ノイズレベルはマイクロホンの最低/最高機能時に最大になります。
マイクロホンを選ぶ際は、テスト対象の圧力レベルがマイクロホンのCTNとマイクロホンの最大定格デシベルレベルの間にあることを確認する必要があります。一般に、マイクロホンの直径が小さいほど、デシベルレベルは高くなります。直径の大きいマイクロホンは一般にCTNが低いので、低レンジのデシベル計測に推奨します。
周波数
マイクロホン
メーカー
偏
従来
外部
温度
マイクロホンの感度は、温度が仕様の上限に近づくにつれて低下します。そのため動作温度だけでなくマイクロホンの保管温度にも注意する必要があります。過酷な環境でのマイクロホンを動作させたり保管したりすると、悪影響を及ぼし校正の必要度が高まる可能性があります。多くの場合、必須のプリアンプが動作温度範囲を制限する要因となっていることがあります。ほとんどのマイクロホンは感度を落とすことなく最高120℃での動作が可能ですが、それらのマイクロホンで必要となるプリアンプの通常の動作範囲は60℃~80℃です。
特殊
温度が測定に支障をきたす場合は、プローブマイクロホンの使用を検討します。プローブマイクロホンは、過酷な環境での音圧測定に適しています。これは、マイクロホンとプローブ拡張チューブを組み合わせた構造をしています。したがって、音源に対して非常に近づけることができます。音響信号は、プローブの先端からプローブハウジング内のマイクロホンに送られます。このマイクロホンは、重要なコンポーネントを別のハウジングに配置することで、非常に高温な環境で使用したり、通常のコンデンサマイクロホンで拾うには小さすぎる音源に対して使用することができます。
マイクロホンを水中で使用する必要がある場合、困難な点があります。このような場合は、水中で音圧信号を検出するハイドロホンを使用します。ハイドロホンは、産業/科学分野での水中テスト、監視、測定に使用できるように、耐食性を備えており、感度、周波数デシベルレベル、操作深度に応じてさまざまなモデルを使い分けることができます。
サウンドレベルメータを使用すると、高速かつ手軽に音圧レベルを測定できます。サウンドレベルメータには、音圧の測定に必要なコンポーネントがすべて含まれています。小型の携帯式ですが、マイクロホン、プリアンプ、電源、ソフトウェア、ディスプレイがすべて搭載されています。工業分野、都市騒音評価、騒音暴露測定、砲兵射撃測定、その他の用途においてデシベル測定を行う場合に便利です。サウンドレベルメータには、A特性、リアルタイム解析、ソフトウェアなどさまざまなオプションがあります。
音の振幅と方向を含む測定には、インテンシティプローブが最適です。2つの位相整合マイクロホンの間にスペーサを配置すると、音圧レベルだけではなく、伝搬する音波の速度と方向を測定することもできます。異なるサイズのスペーサを使用することで、さまざまな周波数で粒子速度を測定することができます。周波数が高いほど、小さいスペーサを使用します。周波数が低い場合、また反響がある環境では、大きなスペーサが適しています。
3次元フィールド値を扱う近距離音場ホログラフィー (NAH) では、マイクロホンアレイの使用が推奨されます。マイクロホンアレイを一定の間隔に配置し、適切なソフトウェアを用いることで、複雑な音圧フィールドの空間変換を効果的に音響エネルギーフローに反映させることができます。マイクロホンアレイは、チャンネルカウントの高い音響テストにも適しています。マイクロホンアレイと共にトランスデューサ電子データシート (TEDS) を使用すると、特定のマイクロホンを簡単に探すことができます。TEDSチップとソフトウェアを使用すると、マイクロホンのモデル、シリアル番号、キャリブレーション日、仕様 (感度、キャパシタンス、インピーダンスなど) を保存できます。仕様は、ダウンロード可能で、テスト結果の正確さを確認するために使用できます。
屋外用マイクロホンは、野外の厳しい環境に対応できるよう開発されました。空港や高速道路の騒音の試験と測定は、人体への被害を防ぐことを目的として、盛んに行われるようになってきました。環境マイクロホンと屋外用マイクロホンは、高確度を維持するためにさまざまなレベルで内部コンポーネントが保護されています。
レベル基準
0 dB = 0.00002 Pa | 聴覚のしきい値 |
60 dB = 0.02 Pa | 事務所 |
80 dB = .2 Pa | 店舗 |
94 dB = 1 Pa | 大型トラック |
100 dB = 2 Pa | 削岩機 |
120 dB = 20 Pa | 飛行機の離陸 |
140 dB = 200 Pa | 苦痛のしきい値 |
NIでは、数種類のG.R.A.S.マイクロホンを提供しています。詳細については、「G.R.A.S.Selection Guide for Microphones and Preamplifiers」を参照してください。
DAQデバイスでマイクロホンを正しく計測できるようにするには、以下の点を考慮して、すべての信号調節要件を満たしていることを確認するようにしてください。
マイクロホン計測に必要な計測ソフトウェア/ハードウェアの処理機能をよりよく理解するには、「高確度のセンサ計測を実現するためのテクニカルガイド」をダウンロードしてお読みください。
センサまたはテストのニーズを把握したら、次の重要なステップとして、そのデータを収集するためのハードウェアを決定します。収集ハードウェアの品質によって、収集するデータの品質が決まります。
NIが提供している幅広い音響/振動ハードウェアは、音響データ収集用として設計され、さまざまなIEPEセンサと互換性があります。
NI音響/振動デバイスとIEPEセンサ、マイクロホンなどの互換性を確認するには、「NIデバイスでIEPEセンサに対する励起と適合性電圧」を参照してください。プリアンプを使用した場合でも、NI音響/振動ハードウェアは動作しますが、信号特性が変化する可能性があります。プリアンプの出力が音響/振動ハードウェアの入力範囲内であることを確認します。同様に、IEPE以外のセンサでは、センサ出力がデバイスの入力機能に適合していることを確認します。
シンプルなハードウェアセットアップ
CompactDAQ音響/振動バンドルを使用すると、マイクロホンまたは音圧センサを各種の音響/振動モジュールやCompactDAQシャーシに簡単に接続できます。
以下の製品は、マイクロホンと接続して音響信号を収集します。これらの製品は、オーディオテスト、機械状態監視、NVH (騒音/振動/ハーシュネス) のアプリケーションで使用します。これらの製品は、音響/振動計測の両方に対応します。NI製品と組み合わせて加速度計で振動を測定する方法の詳細は、こちらをご覧ください。