PXIシステムの構築および保守のベストプラクティス

概要

PXI(PCI eXtensions for Instrumentation)は、最大の稼働時間および優れた信頼性を必要とする要件の厳しいアプリケーションを想定して設計されたテスト/計測/制御プラットフォームです。PXI仕様の持つ堅牢なEurocardや強制空冷といった特長によって、こうした厳しい要件は満たされます。さらに、ナショナルインスインスツルメンツ(NI)のPXI製品の設計、製造、およびテストには、最も要件の厳しいアプリケーションに対して高品質な製品を提供するという目標が掲げられています。

NIの設計基準の例としては、FloTHERMによるモデリングが挙げられます。新しいシャーシの開発中に、シャーシのカードケージおよび電源内の冷却を最適化するために用いられます。開発のテスト段階では、実証的検証が行われ、こうした冷却レベルが合格値に達していることを保証します。また、NIのPXIシャーシ、コントローラ、およびモジュールの開発テストには、高加速寿命試験(HALT)が採用されており、製品の設計余裕および信頼性が保証されます。この他にもNIは設計/製造/テストの段階で数多くのプロセスを採用しており、これがPXI製品の品質の高さと優れた信頼性につながっています。

結果として、NIは平均故障間隔(MTBF)など、製品の仕様において最高レベルの品質および信頼性を実現しています。また、原子力発電所の検査といった世界で最も要件の厳しいアプリケーションに導入されているシステムも数知れません。しかし、全ての電子機器にはある程度の確率で故障が発生し、最も信頼性に優れた電子機器(医療監視装置、金融機関のデータサーバなど)も、それがどれ程低い確率であったとしても故障の可能性が全くないわけではありません。この技術資料では、リスクを軽減し、PXIシステムの稼働時間を最大化するための組み立て、実装、保守におけるベストプラクティスをご紹介します。さらに、ここで述べる技術によって、PXIシステムが故障した場合のダウンタイムを最小化することができます。

Contents

ベストプラクティスのチェックリスト

Assembly
Select components that meet or exceed temperature requirementsRequired
Install filler panels in unused or empty chassis slotsRequired
Perform a power budget to ensure adequate power is available for all componentsRecommended
Install slot blockers in unused or empty chassis slotsRecommended
Set fan speed selector to HIGH on applicable chassisRecommended
Use 24/7 operation hard drives if the system will exceed 8/5 operationRecommended
Use solid-state hard drives if shock and/or high vibration will be presentRequired
Plan for spares and/or redundancy if downtime for maintenance is not acceptableRecommended
Select the appropriate NI System Assurance Program for system assembly, test and serviceRecommended
Use adequate controller memory (RAM)Recommended
Deployment
Verify that the ambient temperature is within component specificationsRequired
Use recommended rack-mounting guidelines if applicableRecommended
Install chassis such that cooling clearances are metRequired
Connect chassis to an appropriate groundRequired
Use a surge protector, power conditioner, or UPS if power quality/reliability is in questionRecommended
Use ruggedized enclosures if environmental conditions exceed component specificationsRecommended
Use and Maintenance
Employ good programming design practicesRecommended
Follow the proper system power down procedureRequired
Clean chassis fan filters at a minimum interval of six months (if applicable)Required
Perform a complete system cleaning periodicallyRecommended
Monitor system conditions periodicallyRecommended
Calibrate instruments at required intervalsRequired
Stock spare componentsRecommended
Be aware of technical support resourcesRecommended

 

PXIシステムの組み立て

PXIシステムを組み立てる場合、正しいコンポーネントを選択することは重要です。PXIシステムは3つの基本コンポーネント(シャーシ、コントローラ、モジュール)で構成されています。これらのコンポーネントを選択する場合、計測/制御の性能のみに基準を置くのではなく、システムが実装される環境、延長稼働の要件、および電力の要件をも考慮に入れる必要があります。

図1. PXIシステムコンポーネントは、計測/制御の性能、システムが実装される環境、延長稼働の要件、および電力の要件を考慮に入れる必要がある。

実装環境

PXIシステムが実装される環境は、温度、湿度、衝撃、振動、高度といった環境条件によって特徴付けられます。使用しようとするコンポーネントがこうした環境条件に見合っていることを検証する必要があります。温度、衝撃、および振動は、考慮すべき環境条件に入っていることが最も多いと言えます。

PXIは、温度拡張、衝撃、および振動用の仕様を備えた工業用プラットフォームです。PXIシステムが最低周辺温度が5℃未満または最高周辺温度が50℃を超すような環境で動作する場合は、温度拡張が可能な動作温度範囲を持ったシャーシおよび組込コントローラを選択する必要があります。これらのシャーシおよびコントローラは、極度の低温および高温環境において信頼性に優れたコンポーネントを含んでいます。例えば、使用温度範囲拡張組込コントローラには、標準の市販ハードドライブを上回る温度仕様を備えたハードドライブが搭載されています。

PXIシステムが実装される環境の周辺温度と関係なく、いくつかのシンプルなテクニックによって、シャーシの冷却性能を向上させることができます。最初に、NIシャーシに付属しているフィラーパネルを使用していない空きスロットに取り付ける必要があります。シャーシおよびモジュールの動作温度仕様は、空きスロットにフィラーパネルが挿入された状態が前提です。

図2. 冷却には、フィラーパネルをPXIシャーシの使用していない空きスロットに挿入する必要がある。

シャーシの冷却性能を向上するためのもう一つのテクニックとして、スロットブロッカーを取り付ける方法もあります。PXIシステムは、指定された最高動作温度で動作します。しかし、冷却性能を向上させたい場合、使用されていないシャーシスロットで起こるエアフローのバイパスを軽減することでモジュール間のエアフローをよくするPXIスロットブロッカーの使用を考慮する必要があります。このようにしてエアフローを改善すれば、シャーシおよびモジュール内の温度を下げることができます。


図3. スロットブロッカーを使用してエアフローのバイパスを軽減することでPXIシャーシの冷却性能を向上することが可能.

また、多くのNIシャーシには、シャーシの背面パネルにファンモードセレクタを装備しています。最高の冷却性能を発揮させるにはHIGHを選択します。静かに動作させる場合はAUTOを選択します。AUTOに設定すると、ファンの速度はシャーシの吸気温度によって決定されます。

図4. 最高の冷却性能を発揮させるには、該当するPXIシャーシのファンモードセレクタをHIGHに設定する。

PXIシステムを衝撃/振動のある環境で動作させる場合、コントローラに標準の回転媒体のハードディスクを使用するのが適切でない場合があります。衝撃/振動によってハードドライブのヘッドがメディアに接触して、メディアを損傷する可能性があるからです。ソリッドステートハードドライブには稼働部品がないため、高度な衝撃/振動にさらされても持ちこたえることができます。こういった環境においては、PXIシステムにソリッドステートハードドライブを使用することを考慮する必要があります。製品の出荷前にNIが組込コントローラにソリッドステートハードドライブを取り付け製品をお届けすることもできます。

延長稼働の持続期間

PXIシステムを最長で1日24時間、毎日連続で動作させる必要がある場合、こうした使い方をするように設計されたコンポーネントを選択することが重要です。PXIは工業用プラットフォームのため、ナショナルインスツルメンツのPXI製品のほとんどは延長稼働用に設計されています。唯一考慮する必要のあるコンポーネントはコントローラです。

標準のハードドライブは1日8時間、週5日の稼働時間を想定して設計されています。延長稼働の必要なアプリケーションには、長時間稼働に向けて設計されたハードドライブが必要です。さらに、こうしたアプリケーションではハードドライブは高いデューティサイクル(ハードドライブが稼働中に回転している割合)に耐える必要がある場合も少なくありません。標準のハードドライブでデューティサイクルは20%と想定されて設計されています。 NIでは、最長24時間365日の延長稼働を必要とするアプリケーションで使用することを想定して設計されたハードドライブを搭載した24/7組込コントローラを提供しています。

延長稼働を必要とするアプリケーションにPXIシステムを利用する場合、適切なハードドライブを選択するのに加えて、コントローラに容量が十分なシステムメモリ(RAM)を使用することも重要です。コントローラで実行されるプログラムが使用可能な容量を超えるメモリ容量を必要とする場合、OSはハードドライブを仮想メモリとして使用します。これはハードドライブのページングと呼ばれ、継続的に行うと、ハードドライブの動作寿命が短くなることがあります。連続的な稼働時間の延長が必要なアプリケーションでは、コントローラにソフトウェアの要件を満たすのに十分なメモリがあるかどうかを検証する必要があります。

稼働時間の延長が可能で、保守のためのダウンタイムが許されないPXIシステムで考慮するべきもう一つの点は、システムを冗長構成にすることです。同じシステムを2台用意しておき、バックアップ用のシステムが主となるシステムの故障の際に動作を開始するようにします。別の方法では、コンポーネントレベルでこれを行うことができます。例えば、PXI-1042のように複数のファンを装備したシャーシを選択することによって、1つのファンが故障しても、周辺温度によりますが、システムが動作を継続できます。

RAID(redundant array of independent disks)ハードドライブ構成の採用は、PXIシステムにコンポーネントレベルで冗長性を追加するもう一つの方法です。RAID 1(ミラー)構成を採用して、各データを2つ以上のハードドライブに書き込みます。2ドライブRAID-1構成では、1つのハードドライブが故障した場合、機能しているハードドライブを使用して動作を継続することができます。ナショナルインスツルメンツのPXI/PXI Expressラックマウントコントローラでは、2ドライブRAID-1アレイで構成することができます。

電力要件

PXIシステムを構成する際に考慮すべき重要な要素は、合計電力消費量です。これによって、システムの性能を最適に保つことができ、ハードウェアの安全性が保証されます。消費電力は所定の温度におけるPXIシャーシの電源容量の他に、シャーシ内のコントローラおよびモジュールの所要電力も含めて考慮します。効率も消費力の重要な要素で、電気機器の実際の性能と経時変化を補正するものです。

PXIシステムの消費電力をもとめるのには3つのステップを踏みます。まず、電源およびその仕様を把握します。電源を使用してどのくらいの電力量が供給されるのかを把握しておく必要があります。次に、PXIシステムに使用するコントローラおよびモジュールを決定します。システムの各要素は、電力消費量に影響します。最後に、PXIシャーシおよびそのコンポーネントの電力消費量を知る必要があります。各ハードウェアコンポーネントは、PXIシステムの消費電力の正確な算出に関係してきます。チュートリアル PXIシステムの消費電力を判断する方法 では、システムの消費電力の算出方法を詳細に説明しています。

システム構成サービス

ナショナルインスツルメンツでは、PXIシステムの組み立てを容易にするためのシステム構成サービスを提供しています。システム保証プログラムには、システム構成のカスタマイズを可能にする複数のオプションがあります。標準システム保証プログラムを利用すると、モジュールなどがインストールされた状態でPXIシステムを購入直後から使用でき、システム保有コストを抑えることができます。NIの技術者はお客様のシステムの仕様に従って、シャーシにモジュールを取り付け、さらにはメモリをアップグレードし、NIアプリケーションソフトウェアや組込コントローラに必要なドライバソフトウェアをインストールします。基本システム保証プログラムでは、最新バージョンのソフトウェアをインストールしたシステムをお届けしますが、標準システム保証プログラムはより柔軟性が高く、以前のバージョンのソフトウェアを選択したり、様々なバージョンを組み合わせてソフトウェア構成をカスタマイズしたりできます。

NIでは、システム保証プログラムを利用して構成したPXIシステムに対してシステムレベルのテストを実施して、ソフトウェアが正常にインストールされているかどうか、また、モジュールが完全に機能しているかどうかを検証します。また、標準システム保証プログラムを使用してインストールおよび構成したPXIシステムには、カスタムシステム説明書が付属しています。これには、システムレベルのテストの合否レポート、プラットフォーム特定の推奨保守ガイド、全ての計測モジュールに対する校正証明書などが含まれています。さらに、全てのNI組込コントローラに含まれるハードドライブのリカバリイメージは、ソフトウェア構成にぴったりと合致するようにカスタマイズされます。また、標準システム保証プログラムには、3年間の保証および校正(キャリブレーション)サービスが含まれるため、実装したシステムの保守が容易になります。

PXIシステムの実装

PXIシステムを組み立て、システムの実装環境、連続的な稼働時間、電力の要件といった要素を考慮したら、システムを実装する準備は完了です。PXIシステムが対応するアプリケーションの種類は豊富なため、ラックマウント、ベンチトップ、組込といった様々な環境に実装されます。PXIシステムを実装する場所に関係なく、システムの周辺温度、冷却用通気口、電源の品質/信頼性、および堅牢性を考慮する必要があります。

周辺温度

PXIシステムの周辺温度は、シャーシのファン吸気口における温度として定義されます。ナショナルインスツルメンツのシャーシの吸気口は、背面または底面にあります。単純な室内温度は、周辺温度の目安にはなりますが、PXIシステムの実際の周辺温度ではない場合があります。例えば、19インチラックに入った装置など、周囲の機器からの放熱は周辺温度を上昇させる原因となります。




図5. PXIシステムの周辺温度は、シャーシの背面または底面にあるファン吸気口における温度として定義される。

PXIシステムの周辺温度が仕様で定められた最高温度を常に超えていると、測定値が不正確になったり、システムがシャットダウンしたり、寿命前にシステムが故障するなどの問題が発生することもあります。通常、周辺温度はラックマウント型の実装で問題になります。PXIシステムをラックに実装する場合には、考慮すべきガイドラインがいくつかあります。

  • 高電力のユニットはできる限りラック内でPXIシステムの上方に配置します。

  • 側面が開いているラックおよび/または背面パネルのあるラックを使用します。

  • 全体的な通気性を高めてラック内の周辺温度を下げられるように、ラックの上面および底面を含めたラック内部にファントレイを使用します。

  • ラック内の周辺温度が下がる別の方法を採用します。

図6. ラック内部にファントレイを使用することにより、全体的な通気性が高まり、周辺温度が下がる。(画像提供:Control Resources Incorporated)

冷却用通気口

PXIシステムの周辺温度を全てのシステムコンポーネントの仕様の範囲内に維持することに加えて、シャーシに十分な冷却用通気口を用意して、必要なシャーシの通気性を確保することが重要です。

図7. PXIシャーシは、指定された冷却用通気口を確保したうえで実装する必要がある。

シャーシを実装する際、ユーザマニュアルで指定された仕様を満たす冷却用通気口を確保しておく必要があります。背面に吸気口、上部/側面に排気口を備えたNI PXIシャーシの典型的な例は、シャーシの背面の吸気口に最小76.2 mmの通気口、シャーシの上部と側面に44.5 mmの通気口を設ける形式です。次の画像は、2台のNI 18スロットシャーシの各シャーシの上部に必要な44.5 mmの通気口を設けている例です。

図8. 2台のNI PXI-1045ラックマウント型18スロットシャーシの各シャーシの上部にそれぞれ44.5 mm(1U)の冷却用通気口を設けている例

電源の品質と信頼性

PXIシステムに供給する電源にはスパイクやノイズが含まれていないことが必要です。スパイクやノイズは機器の性能を低下させ、動作寿命を短縮したり電子機器の損傷や故障の原因となります。PXIシャーシは、電源コード、またはシャーシの背面の接地ネジに適切にアースが接続されていることが必要です。電源にスパイクが発生する恐れがある場合はサージプロテクタを使用し、ノイズを含む電源の品質を改善する場合は電源調節器を使用します(これらは併用可能です)。また、PXIシステムが信頼性の低いソースから電力を取り込んでいる場合は、無停電電源装置(UPS)の使用を検討します。

堅牢性の強化

温度、湿度、衝撃、振動などがシステムコンポーネントの仕様を超える条件の環境下でPXIシステムを実装する場合は、システムを保護する高耐久性筐体にシステムを取り付けることができます。極端な温度や湿度の条件への対策として、ヒーター、空調装置、または熱交換器を装備した密閉筐体にPXIシステムを取り付けることができます。極端な衝撃や振動の条件への対策としては、ショックマウント付きの筐体を使用できます。

図9. 特別な堅牢性を必要とするPXIシステムには高耐久性筐体を使用できる。この例はNTSのRF録音/再生システム。

PXIシステムの使用および保守

PXIを実装してからは、その適切な使用と保守が重要です。システムを操作するのは自分一人ではないため、システムの正しい使用方法と保守について他者にもトレーニングを施す必要があります。トレーニングを怠った場合、簡単に防げたはずのミスやダウンタイムにつながる場合があります。

ソフトウェアアーキテクチャ

PXIシステムの適切な使用方法は、動作寿命を人為的に短縮させる原因となるハードウェアへの不必要なアクセスを行わないようなソフトウェアアーキテクチャを実装することから始まります。その一例として、ハードドライブに対する読み取り/書き込みを必要な場合にのみ行うようなアプリケーションを設計することが挙げられます。データロギングアプリケーションでは、各データポイントをデータが集録されるごとにファイルにすぐに書き込むのではなく、複数のデータポイントをメモリの配列へバッファしてバッファが満杯になった時点でハードドライブ上のファイルへ書き込むという方法を取るのが賢明です。

ソフトウェアのリカバリおよびバックアップ

ハードウェアに原因があるように見える問題の多くは実際、ソフトウェアに関わりがあります。例えば、システムの実装後、ソフトウェア(アプリケーション、ドライバなど)を1つPXIシステムにインストールすると、1つのPXIモジュールのドライバと競合するということがあります。このモジュールは今まで正常に機能しており、このモジュールに直接関連したシステムには変更を施していないため、モジュールが故障したと考えてしまうかもしれません。別のケースでは、PXIコントローラがウィルスに感染したということもあります。ウィルスによってコントローラが不規則にクラッシュしているのに、ウィルスに感染していることに気付かない場合は、コントローラが故障したように見えます。

ハードウェアが故障したと考えてNIに修理を依頼する前に、ソフトウェアの問題がないかどうかを確認することが重要です。PXIシステムにソフトウェアの問題があると判断した場合に、リカバリソフトウェアを活用することができれば、ダウンタイムは大幅に短縮できます。NIの全てのWindowsベースの組込コントローラにはハードドライブベースのリカバリイメージおよびソフトウェアが付属しています。組込コントローラが初めてお手元に届いたときには、ハードドライブに完全なバックアップイメージを含む分離したパーティションがあります。CD、追加ハードドライブ、ネットワーク接続などを必要とせず、組込コントローラをいつでも出荷当時のイメージに戻すことができます。さらには、Windowsがロードされる前のシステムの起動中にリカバリ処理を開始すれば、組込コントローラがWindowsを起動できない場合でも、出荷当時のイメージにリカバリすることができます。

また、NI組込コントローラに付属したリカバリソフトウェアを使用すると、カスタムバックアップイメージを作成して、USBドライブなどの外部または追加リハードドライブに保存して、出荷当時のイメージの代わりにリカバリイメージとして使用することができます。PXIシステムの組み立てとテストが完了したら、実装後にソフトウェアの問題が発生した場合のリカバリに使用できるカスタムバックアップイメージを作成することができます。

図12. リカバリソフトウェアによって、PXIシステムを既知の良好な状態に回復してダウンタイムを短縮することができる。

システム電源の切断

PXIシステムにMicrosoft Windowsのような汎用OSを使用する場合、適切な電源の切断手順を守ることが重要です。PXI-1045のようなPXIシャーシの場合、OSにシャットダウンの命令を出すと、モニタには「電源を切断しても安全です」というメッセージが表示されます。この時点で、シャーシの電源スイッチを使用してシステムの電源を切断します。PXIe-1062QのようなPXI Expressシャーシの場合、OSにシャットダウンの命令を出すと、シャーシの電源は自動的に切断されます。システム電源の切断の適切な手順に従わない場合、コントローラのハードドライブは回避できるはずの摩耗をわざわざ起こしてしまいます。

シャーシのファンフィルタの掃除

シャーシの吸気口にあるファンフィルタは最低でも6ヶ月に1回は掃除する必要があります。動作環境におけるシャーシの使用頻度および周囲の埃の量に応じて、フィルタをより頻繁に掃除する必要がある場合があります。汚れが目立つ程度になったらフィルタを掃除するよう心掛けてください。ファンフィルタに汚れが付着していると、シャーシの冷却性能が大幅に低減する可能性があります。テキサス州オースティンの弊社製造施設では、ファンフィルタの定期的な清掃計画を実施後、シャーシによっては内部温度が8~10℃低減したという事例もあります。掃除方法については、シャーシのユーザマニュアルをご参照ください。必要であれば、ファンフィルタを交換することもできます。注文情報については、シャーシのユーザマニュアルをご参照ください。

図10. シャーシの吸気口にあるファンフィルタは最低でも6ヶ月に1回は掃除する必要がある。

その他のシステムコンポーネントの掃除

特に埃の多い環境にPXIシステムが実装されていても、PXIシステム全体を定期的に掃除することで信頼性が向上します。システム内部/外部の掃除方法については、シャーシ、コントローラ、モジュールの各ユーザマニュアルをご参照ください。

システム状態の監視

システムの状態は時間の経過とともに変化する場合があります。これの最も一般的な例として、PXIシステムの周辺温度の上昇が挙げられます。数多くの要素が周辺温度におけるこうした変化の原因になり得ます。例えば、PXIシステムを実装したラックに新しい装置を追加した場合などがあります。PXIシステムの周辺温度は定期的に監視するよう心掛けてください。ナショナルインスツルメンツの組込コントローラの多くには内部温度センサが内蔵されており、ソフトウェア上で温度を監視できるようになっています。サンプルプログラムPXI組込コントローラの温度測定では、これを実践しています。ただし、PXIシステムの周辺温度はシャーシの吸気口で測定されるため、コントローラの温度の測定は参照のみに使用してください。温度の測定は手動で行うことも、計測器をPXIシステムに組み込んで自動化することもできます。

時間とともに変化することがあるシステム状態は他に、コントローラのハードドライブの健全性があります。ハードドライブ診断ソフトウェアを使用してハードドライブの健全性を定期的に監視するよう心掛けてください。ナショナルインスツルメンツは、PXI/PXI Express組込コントローラ用の ハードディスクドライブ診断ツール を提供しています。

校正(キャリブレーション)

すべての計測器に使用されている電子部品の確度は自然に時間の経過とともに変動します。また、総使用時間や環境的状況もこの変動に影響します。時間の経過に従い、部品の特性の変化が計測器で行った測定の不確実性を増す原因となります。この問題を解決するには、PXIシステムに含まれる計測器は一定の間隔で校正する必要があります。常に適切な校正を施している計測器では、計測時のエラーが低減し、計測ごとの結果の一貫性が保たれ、高確度な計測が保証されます。

図11. 計測器を校正することで、時間の経過とともに増していく不確実性を解消できる。

外部校正とは、計測器の性能を既知の確度の標準器と比較することです。校正の結果は既知の標準器からの測定との偏差を示す文書として提供されますが、計測器の測定能力を調整してその測定確度を製造元が指定した制限値の範囲に収める作業が含まれます。ナショナルインスツルメンツのPXI計測器を外部校正するには、計測器をNIまで返送していただくか、校正機関または計量試験所へお送りください。校正に関するリソースは、ナショナルインスツルメンツの校正ソリューションをご参照ください。

外部校正に加えて、多くのNIのPXI計測器には自己校正機能があります。これらの計測器には精度基準電圧などのハードウェアリソースが含まれており、シャーシから計測器を取り外すことなく、また計測器に外部校正用ハードウェアを接続することなく、計測器を簡単に校正できます。自己校正は外部校正に代わるものではありませんが、次の外部校正期日までの間に計測器の測定確度を改善させる1つの方法として使用されます。

トラブルシューティングのリソース

NIのPXI製品には、トラブルシューティングをサポートする統合機能が数多く含まれています。例えば、ほとんどのモジュールには、モジュールの機能のセルフテストを自動で行う機能が搭載されています。シャーシの多くには電源スイッチにLEDが統合されており、このLEDによりシャーシの動作状態が視覚的に確認できるようになっています。LEDが示す4つの状態は次のとおりです。

  1. 電源スイッチLEDが緑色で点灯している(点滅していない)場合、シャーシの電源が投入され、正常に動作していることを示しています。
  2. 電源スイッチLEDが緑色に点滅している場合、吸気温度がシャーシの動作温度の範囲を超えたことを示しています。
  3. 電源スイッチLEDが赤色に点滅している場合、電源出力が電圧要件を満たしていないことを示しています。
  4. 電源スイッチLEDが赤色に点灯している場合、シャーシのファンが正常に動作していないことを示しています。
     

PXIシステムの問題の多くは、実際の原因がソフトウェア、ファイルの破損、ファイルシステムの破損、ウィルスなどにあるにも関わらず、ハードドライブの故障という誤った診断をされます。ハードドライブのメーカーの多くがドライブ診断ツールを提供しているので、それによって、実際にハードドライブが故障しているかどうかを判断することができます。こうしたツールを利用すれば、貴重な時間をトラブルシューティングに費やすことを回避できます。ハードドライブ、PC、コントローラを修理に出す前にぜひ使用してください。ナショナルインスツルメンツは、PXI/PXI Express組込コントローラ用の ハードディスクドライブ診断ツール を提供しています。ドライブ診断ツールを使用してハードドライブが故障していないと判断できた場合、大概リカバリソフトウェアを活用して問題を解消します。

予備コンポーネントの準備

PXIシステムのコンポーネントをナショナルインスツルメンツに返送して修理する必要があると判断した場合、システムが実装されている場所に予備のコンポーネントを準備しておくとシステムのダウンタイムを大幅に短縮できます。システムの各コンポーネント(シャーシ、コントローラ、モジュールなど)に対して1台ずつ交換コンポーネントを準備しておくことができますが、複数の同一PXIシステムを実装しており、そのようなシステムに対して予備のコンポーネントを準備する場合は、NIでは、実装しているシステム25台に1台の割合で各コンポーネントの予備を準備することを推奨します。

故障が発生しやすいサブコンポーネントのみの予備を準備しておくこともできます。NIでは、シャーシ電源シャトルおよび組込コントローラ用ハードドライブの交換用コンポーネントをご用意しています。これらのキットには、これらのサブコンポーネントを現場交換する方法を記載した詳細な説明書が付属しています。

図13. ハードドライブなどの故障が発生しやすいサブコンポーネントの予備のみを準備するのも一つの方法。

予備コンポーネントを準備する際に取るべき最適な方法は、許容できるダウンタイムの長さによって決定する必要があります。どのような方法を取る場合でも、NIはPXIシステムのダウンタイムを短縮することに力を注いでいます。そのために、お客様から返ってきた製品の修理にかける時間を最小限にし、優先修理サービスを提供し、世界各国の拠点に予備製品を準備して、できる限り迅速にお客様に製品をお届けできるような体制を整えています。

次のステップ

テストシステムの構築の詳細については、「テストシステム構築の基本」を参照してください。

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