NI CompactRIOを使用した完全な商用電力品質解析プラットフォーム

作成者:

ELCOM, a.s.社、Daniel Kaminský
ELCOM, a.s.社、Petr Bilik
ELCOM, a.s.社、Jiri Hula

電力品質の測定が重要な理由

電力は他に例を見ない生産物であり、現在の商業や産業において最も重要な原料であると言えるでしょう。電力は一般の必需品とは異なり、継続的に供給される必要がある一方で、都合に合わせて多量に貯蔵することができず、使用前に品質保証検査を行うこともできません。たとえば、電力品質が低下すると、生産ラインに大きな損害が生じ、深刻な経済的損失につながる可能性が高まります。そのため、電力品質を監視することで、潜在的な問題を早期に特定し、損害が発生する前に対処できます。もっとも、予防策は比較的安価であり、基本的なベストプラクティス設計の考慮から、監視・制御装置を世界規模で設置することまで、多岐にわたる方法があります。

測定の対象

標準的な電力品質アナライザは、電力網の三相電圧を解析し、国際標準で定義されている電圧品質を算出します。電圧品質を特徴づける要素には、周波数、電圧レベルの変動、フリッカ、三相システムの不平衡、高調波スペクトル、全高調波歪み、および信号電圧レベルがあります。場合によっては、電圧とともに電流信号を解析する必要があります。これにより、電流パラメータの解析や、有効電力、無効電力、エネルギーといった間接的な指標値の算出が可能になります。

当社 (ELCOM社) の電力品質解析ソフトウェアおよびハードウェアのパッケージは「ENA (ELCOM Network Analyzer)」と呼ばれ、実際の国際標準や各国特有の文書に準拠した方法で電力品質を監視するための複雑なモジュール式システムです。

開発プラットフォームを選ぶ際の注意事項

Cシリーズモジュールを搭載したNI CompactRIOプラットフォームに当社のシステムを実装することを選択しました。PCベースの計測器と比較して、NI CompactRIOはコンパクトで堅牢性に優れ、サイズも高さ88 mmx幅180 mmx奥行き90 mm (3.4”x7”x3.5”) と小型です。また、温度仕様の範囲が広く (動作温度-40℃～+70℃)、消費電力が非常に低い (約8 W) ことが特長です。さらに、NI CompactRIO製品ファミリはさまざまなフォームファクタを提供しています。これは、お客様やアプリケーションごとの多様なニーズに対応するために重要な要素でした。

さまざまなI/Oモジュールの中から、高電圧測定用のNI 9225 (300 V) 電力測定モジュールを選びました。このモジュールは、110 V送電網の相線と中性線の間 (line-to-neutral) の測定や相線間 (line-to-line) の測定、240 V送電網の相線と中性線の間の測定を目的として設計されています。電流測定にはNI 9227を採用しました。NI 9225とNI 9227により、50 kS/sでチャンネルを同時にサンプリングすることで、三相電力測定の他、フリッカ、高調波、力率などの電力品質測定を高確度で行うことができます。もう1つの選択肢として、電圧モジュール (EL9215U-R1) および電流モジュール (EL9215I-R1) を設計しました。これらはNI 9215モジュールをベースに当社の信号調節装置を使用しており、CompactRIOシャーシの3つのスロットに組み込まれます。

ソフトウェア開発環境では、ソリューションの使いやすさ、移植性、拡張性が非常に重要であったため、ENAソフトウェアのすべての部分をNI LabVIEWで開発しました。CompactRIOベースの電力品質アナライザとして、使用するCompactRIOのモデルや入力モジュールが異なる複数のモデルを取り揃えました。ENA電力品質アナライザのファームウェアを稼働させるために最低限必要なものは、400 MHzプロセッサコントローラと、2MゲートFPGA搭載シャーシです。

CompactRIOベースの電力品質アナライザ

本稿では「ENA450」というモデルを紹介しますが、NI CompactRIOファミリの拡張性やLabVIEWコードの移植性を活かし、当社のシステムを複数の異なるフォームファクタで実装することにより、お客様やアプリケーションごとの多様なニーズに対応できるようになりました。非常に柔軟性の高いNI CompactRIOシステムをベースとした実装 (ENA450.EC) に加えて、以下のNIシステムに当社のアプリケーションをデプロイしたターンキーソリューションを構築しました。

• 同一シャーシ内にリアルタイムプロセッサと再構成可能なフィールドプログラマブルゲートアレイ (FPGA) を組み合わせたCompactRIOシステム (ENA450.EB、ENA450.NB)
• NI CompactRIOシステムの3つのコアコンポーネント (リアルタイムプロセッサ、FPGA、I/O) を1枚のプリント基板に統合したNI Single-Board RIOシステム (ENA460)

アナライザの機能は、計測用のハードウェアとソフトウェアによって定義されます。ENA電力品質監視システムには、アナライザのリモート制御、保存したデータの解析、インターネットを介した電力品質データの表示を行うためのソフトウェアアプリケーションのバンドルが含まれています。モジュール式のコンセプトを採用することで、コストを最小限に抑えながら、お客様のあらゆるニーズに応えることができます。

測定機能

ファームウェアのENA-Node (画像ギャラリーを参照) は、CompactRIOベースのENA450アナライザ上で直接動作し、データの収集、計算、保存のすべてを処理する測定サービスを提供します。

ENA-Nodeには、以下の複数のソフトウェアモジュールが含まれており、これらのモジュールが並列で動作します。

• FFTアナライザ
• ベクトルアナライザ
• 電力フローモニタ
• フリッカメータ
• EN50160電圧モニタ
• 半周期RMSモニタ
• 電圧の記録およびアラーム
• デジタル入力

上記のファームウェアモジュールは、いずれも50 Hzおよび60 Hzの電力システムに適しています。ユーザは計測器のディスプレイでデータを観察し、そのデータをデータファイルに保存できます。すべての計測器は、チャンネルあたり9.6 kS/sのサンプリングレートで動作します。サンプリングレートは測定された信号の周波数と同期しています。実装されたアルゴリズムは、IEC61000-4-30、IEC61000-4-15、IEC61000-4-7などの実際の電力品質規格の要件に準拠しています。

このソフトウェアでは、電力網の三相電圧信号 (最大300V rms) と三相電流の瞬時値を解析し、さまざまな指標値を算出します。具体的には、RMS値、周波数、高調波スペクトル、全高調波歪み (THD)、フリッカ、三相システムの不平衡、有効電力、無効電力、エネルギー、その他多くの指標値を求めることができます。電流変圧器 (1A/5A) の出力電流は、NI 9227電流モジュールで直接測定するか、カレントクランプを使用してELCOM EL9215I-R1電流モジュールを接続することで間接的に測定することが可能です。

測定可能な指標値のリスト:

計測器制御、データ管理、レポート作成のためのユーザインタフェース

ENA-Touchは、ENAの測定サービス用の使いやすいグラフィカルユーザインタフェースです。このアプリケーションを通じて、計測器制御、データ表示、測定構成をすべて操作できます。測定された指標値のデータは、使いやすく整理された構成で表示することができます。データの視覚化用パネルは2種類あり、1つは固定された指標値のセットを表形式で表示するパネルです。もう1つは、表示する指標値をユーザが設定できるパネルで、表示方法として、表形式、周波数領域グラフ、スコープ、ベクトルスコープ、電力品質の統計結果など、さまざまな形式から選ぶことができます。ENA-Touchユーザインタフェースは、タッチスクリーンディスプレイによる制御に向けて最適化されており、ディスプレイの解像度が800x480画素の超小型ノートPC (UMPC: Ultra-Mobile PC) でも使用できます。ENA-Touchを使用して、イーサネット経由のTCP/IPプロトコルでENA-Nodeをリモートで制御できます。すべてのデータをオンラインで表示すると同時に、オフライン解析用にデータを保存することもできます。算出された指標値は時間単位で集計され、一部のデータは統計的に評価された後に保存されます。データは定義した時間間隔で周期的に保存されますが、イベントベースのデータはイベントが発生したときに直ちに保存されます。

ENA-Reportを使用すると、保存されたデータをオフラインで簡単に解析でき、さらにレポートを生成することもできます。

ENAを用いた分散型の電力品質監視

ENA450アナライザを複数台使用すれば、分散型の監視システムを構築できます。分散型システムのデータは、MS-SQLまたはOracleのデータベースに複製して、一元的に保存したり、オフラインで解析したりできます。

まとめ

本稿で紹介した電力品質監視システムの最大のメリットは、性能が高いこと、柔軟性に優れていること、小型であることです。信号調節機能を内蔵するCシリーズモジュールを採用し、強力で使いやすいソリューションを実装することで、ソフトウェアの保守を大幅に簡素化するとともに、既存のソリューションに影響を与えることなく、さらなる開発を進めることができます。規格の更新や変更があった場合、計測器の機能を迅速に更新し、システムを最新の状態に保つことができます。オープンなソリューションであるため、お客様のニーズや既存のSCADAシステムへの統合に合わせて通信プロトコルを調整でき、既存のシステムを他のシステムと簡単に統合できます。オープンなハードウェアアーキテクチャにより、監視および制御用の新しいDIOや、GPSまたはGSMを介した無線通信用のモジュールを追加することが可能になります。

そして、柔軟性に優れたNI CompactRIOとNI LabVIEWを活用して、PMUアナライザ (位相測定ユニット) を数週間で完全に実装することができました。このPMUアナライザを使用することで、IEEE C37.118-2005規格に準拠して同期フェーザを高精度に評価できます。当社は現在、PMUアナライザと電力品質アナライザENA450を単一の計測器に統合する取り組みを進めています。

作成者​情報:

Daniel Kaminský
ELCOM, a.s.
Division of Virtual Instrumentation, Technologická 374/6
Ostrava - Pustkovec 708 00
Czech Republic
電話: +420 558 279 913
FAX番号: +420 558 279 901