RF計測テラバイト波形データ扱う、高速ストレージ最新計測ニーズ対応

概要

RF信号の波形データを記録用ディスクに連続的にストリーミングする(リアルタイムにディスクに読み込んだり書き込んだりする)機能を備えた計測器が登場しています。そうした「ストリーミング対応」の計測器を使えば、さまざまな新しい計測ニーズに応えることが可能です。本稿では、このRF信号のストリーミング技術のメリットを生かせるアプリケーションをいくつか紹介します。

内容

はじめに

ベクトル信号発生器やベクトル信号アナライザをはじめとする従来のRF計測器は、波形データを標準的なRAM(Random Access Memory:ランダムアクセスメモリ)に格納します。このため、こうしたRF計測器が生成/集録できる波形データの容量は、最大でも数百メガバイト程度にとどまっています。

しかし、高速データバスとRAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)技術を組み合わせれば、集録時間を延ばすことができます。さらに、RFアナログフロントエンドと各種デジタル信号処理技術を駆使することで、スーパーヘテロダイン方式の周波数変換(アップコンバージョン/ダウンコンバージョン)を用いた効率的なRF信号生成/集録が可能になります。下図に、そうしたRF計測システムの典型的な構成を簡略化したダイアグラムで示しました。

図1: 複数のコア技術を活用することで、RF信号のディスクへのストリーミングが可能になる

これらの技術を駆使すれば、計測器の内蔵メモリを高速RAID構成のハードディスクドライブで補うことが可能になります。しかも、計測器からハードディスクへ、RF信号の集録レートを上回る速度で波形データを転送できます。そのため、波形データの容量が計測器の内蔵メモリ容量に制限されることはありません。利用できるハードディスクの容量いっぱいまで、波形データの容量を増やすことが可能です。実際に、RAID構成のハードディスクを外付けすれば、波形データの容量を最大で数テラバイトまで拡張できます。このようにRF信号をディスクにストリーミングするシステムを実現する技術の詳細については、「RFからRAIDへ:RFディスクストリーミングシステムの実現技術」で解説しています。

RFディスクストリーミンアプリケーション概要

ナショナルインスツルメンツ(NI)が提供するPXI(PCI eXtensions for Instrumentation)計測器は、最大で数テラバイトのデータを連続的に生成/集録できるため、これまでカスタムハードウェアが不可欠だった新たなアプリケーションへの対応も可能です。本稿では、連続的かつ継続的なRF生成/集録機能の活用によって実現可能となる各種アプリケーションの中から、代表的なものを4つ紹介します。具体的には、下記の4つです。

  • スペクトラム監視
  • パケットスニッフィング
  • 無線受信機の設計、検証、妥当性確認
  • デジタルビデオ放送のBER(ビットエラーレート)テスト

上記の各アプリケーションでは、データをディスクに長時間にわたって連続的にストリーミングする機能が不可欠、あるいは非常に重要となります。

スペクトラム監視

シグナルインテリジェンス(いわゆるSIGINT:シギント)には、通信妨害や干渉信号の識別から、パケットスニッフィングに至るまで、幅広いアプリケーションがあります。スペクトラム監視もそうしたアプリケーションの1つで、監視対象とする特定の帯域内で発生する干渉信号の検出などを行います。干渉信号は「バースト的(突発的)」に発生することが多いため、スペクトラム監視アプリケーションでは、RFディスクストリーミングシステムが非常に重要な役割を果たします。干渉信号は、スペクトラムアナライザやリアルタイムスペクトラムアナライザで捕捉できる場合もありますが、正確な解析を実行するには、RF信号を長時間にわたって連続的に集録しなければなりません。

RF帯域を長時間にわたって集録すれば、大量のデータを得ることができ、各種の解析技術を駆使した後処理が可能になります。例えば、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)のサイズを調整してパルス波形の振幅を求める手法が広く使われています。さらに、変調解析を実行すれば、干渉信号の変調方式やメッセージ情報を特定できる場合もあります。

しかし、スペクトラム監視アプリケーションで使われる解析手法の中で最も興味深いものは、ガボールスペクトログラム(Gabor Spectrogram)でしょう。これはJTFA(Joint Time-Frequency Analysis:時間/周波数共同領域解析)の一種で、干渉信号の振幅や持続時間、周波数の変化をすべて求められます。

ガボールスペクトログラムでは、時間領域セクションで一連のFFT処理を施します。処理後のデータは、図2に示される3Dウォーターフォールグラフで簡単に可視化できます。

図2: ガボールスペクトログラムを用いた時間/周波数共同領域解析

上図の通り、ガボールスペクトログラムでは、ある特定のRF帯域における時間と周波数の情報を同時に可視化できます。図2は、中心周波数を885 MHz、IQレートを25 MS/秒に設定し、携帯電話の周波数帯域をモニタした結果です。このウォーターフォールグラフでは、携帯電話の特定の帯域が使われている期間と使われていない期間を確認することができます。このグラフ上で携帯電話のデータは、振幅が大きな領域として「パケット」単位で表示されます。上図のグラフからは、1パケットの長さが約1 ms(ミリ秒)で、振幅が-30 dBmだと読み取れます。

このスペクトログラムの例から分かるように、スペクトラム監視アプリケーションでは、波形を長時間にわたって連続的に集録できる機能が非常に重要な役割を果たします。上図には10 ms間のデータしか表示されていませんが、PXIを採用した最新のRFディスクストリーミングシステムでは、最大50 MHzのRF帯域を2時間以上も記録することが可能です。このため、上図に示した携帯電話の帯域を監視し続け、その帯域で発生した干渉を見つけ出すことができます。シグナルインテリジェンスのアプリケーションに役立つヒントや技術については、スペクトル監視/シギンントシステムで詳しく紹介しています。

通信チャンネルパケットフィング

次に取り上げる干渉信号は、「ピギーバッキング」方式の通信信号です。このアプリケーションでは、干渉側の信号は既存の通信インフラを利用して、不正な通信チャンネルを送信しようとします。例えば、不法な送信機がリピータ設備を不正に使って、独自の通信チャンネルを再送するというケースが挙げられます。リピータは特定のスペクトラム帯域を単純に増幅するという働きをしているので、干渉側(不法な送信機)がそれを不正に利用すれば、正規の通信チャンネルに加えて干渉側の信号も増幅させることができます。

特定の信号を「パケットスニッフィング」するには、スペクトラム監視アプリケーションと同様に、所定の帯域の信号を集録して記録ディスクに格納します。いったんデータを取得してしまえば、そのデータにさまざまな手法で後処理を施すことが可能です。FFTやJTFAといった後処理を実行すれば、妨害信号の解析と同様に、干渉信号の周波数や電力、振幅の情報を求められます。ただし「パケットスニッフィング」アプリケーションではさらに、ベースバンド波形の復調もよく行われます。下図は、ベースバンド波形の復調プロセスを簡略化したものです。

図3: NIモジュレーションツールキットを利用してベースバンド波形を解析する

上図に示すように、ハードディスクに格納されたベースバンド波形のデータに、NI LabVIEWの豊富な復調処理機能から任意のものを適用し、解析を実行することが可能です。この図では、LabVIEW対応モジュレーションツールキットに収録されている各種の復調処理機能のうち、PSKとQAM、FSKのアイコンだけを示しています。ただし同ツールキットにはこれらのほかにも、ASKやFM、AM、PM、CPM、MSKの復調処理や、ユーザ独自の復調処理を行う機能も収録されています。未知の通信信号を復調する作業は、それほど容易ではありません。デジタル変調された通信信号からビットストリームを正確に読み取るには、その通信信号のシンボルレートを把握することが重要です。シンボルレートは、チャンネル幅を調べれば推測できますが、実際には、既知の通信規格のシンボルレートを適用して実験的に見極めなければならないことがほとんどです。

 干渉信号の通信信号を復調すると、当該の通信チャンネルを介して送信されるビットストリームを個別に解析できるようになります。このビットストリームは、既知のプリアンブル情報に照らし合わせることでデコードできる可能性があります。しかしほとんどの場合、データのビットストリームをデコードして有意な情報を抽出するのは至難の業です。

無線送受信検証向けRF記録/再生

RFディスクストリーミングシステムのアプリケーションとして3番目に取り上げるのは、無線受信機の設計検証/妥当性確認です。このアプリケーションでは、RFディスクストリーミングシステムをRF記録/再生用ハードウェアとして活用します。無線環境は原理的に、通信チャンネルとしては理想的ではありません。通信路において、信号強度の低下や、マルチパスチャンネルのフェージング、干渉キャリアによる妨害といった、さまざまな影響を受けるからです。このため無線受信機の設計検証や妥当性確認を行う際には、さまざまな動作環境下で性能を評価する必要があります。

かつて受信機のテストは、加法的白色ガウス雑音(AWGN:Additive White Gaussian Noise)や、レイリーマルチパスチャンネルのフェージングプロファイルといった特性を模擬する「ダーティトランスミッタ(劣悪な送信機)」の波形を用いて行われていました。しかし、RF環境をシミュレーションするための高精度モデルは作成が難しく、実際のRF環境を置き換えられるようなモデルも存在しません。そこでシミュレーションモデルの代わりに、ベクトル信号アナライザで記録した「完璧な」シミュレーションを利用します。つまり、ベクトル信号アナライザを使って特定のRF帯域を集録しておきます。そして実験環境下ではその波形データをベクトル信号発生器に与えて、実環境のRF帯域を再現するわけです。このように実環境で記録したRF帯域をテストに利用すれば、自然障害も考慮できるため、受信機が最終的に使用される環境においてどのように動作するのかを正確に把握できるようになります。

このような「完璧なシミュレーション」の波形を利用できるテストとしては、受信機の感度テストが代表的です。感度テストでは、RF信号の強度を素早く調整することで、典型的な無線条件を模擬します。一方でテスト対象の無線受信機は、自動利得制御機能を用いて入力RF信号を増幅したり減衰したりすることで、信号強度の変動を補償します。図4は、低IF方式の無線受信機を簡略化したブロックダイアグラムです。この図でRF信号の入力部にあるのが減衰段です。

図4: 標準的なRF受信機のブロックダイアグラム

この感度テストでは、あらかじめ記録しておいたRFスペクトラムを刺激(スティミュラス)として利用することで、さまざまな環境条件下での長期間にわたる受信機の感度を評価することが可能です。さらに、受信機の試作を繰り返す際に、各回の試作機に同じ試験波形を与えれば、同一の環境条件に対して各試作機の特性がどのように異なるかを検証できます。

無線環境では通信チャンネルごとに固有の問題が発生しますが、そのチャンネルを波形データに記録して利用すれば、受信機をテストする際にその問題を適切に再現できます。その結果、受信機の次の試作では、前回の試作よりも効率や精度、再現性を高めることが可能になります。無線受信機の設計や検証にRF記録/再生システムを活用する方法についてさらに詳しくは、「無線受信機テストに向けた「完璧なシミュレーション」」(英語)をご覧ください。

デジタルビデオ放送テスト

RFディスクストリーミングシステムを活用するアプリケーションとして最後に紹介するのは、デジタルビデオ放送テストです。これまでのアナログビデオ放送テストは、静的なテストパターンだけで事足りました。しかし、DVB(Digital Video Broadcasting:デジタルビデオ放送)をはじめとする現行のデジタル放送規格では、無線チャンネル上のエラーを補償するために、複雑な画像伸張アルゴリズムやデコーディングアルゴリズムが導入されています。このため、DVBに対応した現在のセットトップボックスをテストする際には、動的なビデオパターンを生成する必要があります。

このアプリケーションで最も一般的なピクシレーションテストでは、ベクトル信号発生器を用いて動的なビデオパターンを生成します。ピクシレーションは動きのある画像でしか発生しないため、そのビットエラーを検出するには、デジタル転送を一度に数秒間、場合によっては数分間にわたって集録しなければなりません。下図は、デジタル画像に発生したピクシレーションの例です。

図5: 転送エラーによってピクシレーションが発生する

RFディスクストリーミングシステムを使えば、計測器の内蔵メモリを利用する場合とは異なり、ビデオパターンの容量が数百メガバイトに制限されてしまうことはありません。内蔵メモリからではなく、ディスクから放送波形をストリーミングすれば、ビデオ放送用セットトップボックスのBERテストを拡張することが可能です。

まとめ

RF信号を長時間にわたって連続的にハードディスクに書き込んだりハードディスクから読み出したりできるストリーミング機能によって、革新的ながらも費用対効果に優れた方法で波形を記録することができます。計測器が生成/集録できる波形データの容量は従来、計測器が内蔵するRAMの容量によって制限されていましたが、最新のバス技術やディスク技術を駆使することで、波形の記録容量を数テラバイトまで拡張できるようになりました。それによって現在では、スペクトラム監視からデジタルビデオ放送テストまで、数多くの新しいアプリケーションに市販(COTS:Commercial Off-The-Shelf)のハードウェアでも対応することが可能です。RF計測器やRFディスクストリーミングアプリケーションの詳細については、下記のリンク先をご覧ください。

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