Ettus USRP X440使用したレーダーおよびEWシステムプロトタイピング

概要

友軍プラットフォームの生存性を確保するためであっても、敵のスペクトラム利用を妨害するためであっても、電磁 (EM) スペクトルの優位性はミッションの成功に大きく貢献します。電磁スペクトル運用 (EMSO) には、敵のスペクトル活動を監視し、発信者の位置を特定し、友軍が行動計画を策定するために役立つ戦術システムが必要です。ソフトウェア無線 (SDR) は、新しいEM技術のパフォーマンスを評価するために必要な柔軟性を提供します。Ettus USRP X440 SDRは、位相コヒーレンスや広帯域幅など、航空宇宙および防衛の要件を念頭に開発されました。

内容

最新EMシステム課題

電磁スペクトルは広大かつ混雑しています。世界中で数十億台の接続されたデバイスが動作しており、これらのデバイスは、商用または軍用を問わず、スペクトルの使用を争っています。この競争により、デバイスが動作するのに適切な帯域幅を提供するために、通信デバイスをスペクトルのより高い周波数部分に拡張する必要があります。これは、スペクトルを使用するデバイスにとっては有益ですが、対象の信号を傍受する確率を最大化することを目的とするSignal Intelligence (シギント) 受信機の検索領域を広げます。使用可能な周波数範囲全体を追跡することは困難であり、接続されたデバイスで使用可能な多数の周波数オプションをカバーするには、複数の無線機または広帯域受信機のいずれかが必要です。

より広い帯域幅のシステム、コグニティブ技術、完全なデジタルビームフォーミング、または新しい機能を導入する場合でも、実地でデプロイに移行する前に、ソフトウェアシミュレーションや実際のハードウェアを使用して、機能を適切に評価および検証する必要があります。ソフトウェア無線 (SDR) は、ラボでの実験から実用化までのギャップを埋めるのに役立ちます。 

Ettus USRP X440ソフトウェア無線は、他のUSRPデバイスとは異なるアーキテクチャを備えています。Ettus USRP X440は、オンボードXilinx Zynq RFSoCでDACおよびADCへのアクセスを提供するバラン結合ダイレクトサンプリングアーキテクチャが搭載されています。最大4 GHzまでの周波数を直接サンプリングするために使用したり、より高い周波数帯域に拡張するために外部フロントエンドに接続することができます。これらのフロントエンドは、衛星通信 (SATCOM) プロトタイピング、SATCOM地上局のデプロイメント、ミリ波およびサブTHz 6Gの研究などのアプリケーション向けに最適化できます。

Ettus USRP X440ソフトウェア無線デバイスのブロック図

図1:Ettus USRP X440ソフトウェア無線デバイスのブロック図

デバイスにRF回路がないため、スペースが節約され、フットプリントを増やすことなく、より多くのチャンネルを組み込むことができます。Ettus USRP X440 SDRは、デバイスあたり8つのTXチャンネルと8つのRXチャンネルを備えています。これらのチャンネルは、サンプリングクロックを共有することで位相コヒーレントにすることができるため、X440は方向探知、レーダー研究、プロトタイピングなどのアプリケーションに最適です。

ビームフォーミン方向探知向け位相コヒーレンス

国際電気通信連合 (ITU) は、方向探知の確度を「実際の方位角と表示された方角の差のRMS (二乗平均平方根) 値」と定義しています。 SDR (または任意の) ハードウェアでその確度を達成するには、チャンネル間の厳密な同期および位相スキューを最小限にする必要があります。単一のEttus USRP X440デバイスでは、標準RX位相安定度は、0.1° RMS未満です。複数デバイス間でチャンネルを同期する場合でも、RX位相安定度は1° RMS未満です。この安定性により、優れた方向探知確度が得られます。ビームフォーミングが必要な場合、TX位相安定度は、Ettus USRP X440デバイス内で0.5° RMS未満、デバイス間では1° RMS未満です。マスタクロックレートごとの値の詳細リストおよび測定方法については、Ettus USRP X440デバイス仕様を参照してください。


図2:Ettus USRP X440は、ビームフォーミングおよび方向探知において、チャンネル間の位相スキューを最小限に抑えます。

 

広帯域生成集録

前述のように、広帯域テクノロジは敵対的な信号の検知および記録する上で重要な要素ですが、友軍システムの有効性という点でも大きな利点があります。たとえば、帯域幅が広いレーダーシステムはより高い解像度を達成できるため、小さい物体を検知したり、近接した物体を区別できます。この機能により、ターゲットを識別および分類する能力が向上し、誤分類のリスクが軽減され、ターゲット設定の確度が向上します。また、帯域幅が広いシステムは通常、周波数敏捷性が高く、再チューニングせずに動作周波数間をホッピングできます。これらのシステムは、検知や監視は困難ですが、妨害や撹乱も困難です。

ラボで広帯域機能のプロトタイピングを行うには、適切な広帯域幅を持つソフトウェア無線ハードウェアが必要です。Ettus USRP X440に搭載されたXilinx RFSoCは、4 GSpsでのサンプリングが可能で、デバイス全体で合計3.2 GHzの即時帯域幅を提供します。この帯域幅は、1または2チャンネル実装ではチャンネルあたり最大1.6 GHz、8チャンネル実装ではチャンネルあたり最大400 MHzを割り当てることができます。この帯域幅は、以前のUSRPモデルと比較して大幅に増加しており、X440は広帯域レーダーおよびEWアプリケーションに特に適しています。

図3:Ettus USRP X440は、以前のUSRPモデルよりも即時帯域幅を大幅に拡張します。

周波数およびサンプリングレート計画

4 GHz未満の帯域 (Sバンド、Lバンド、HF/VHF/UHFバンド) では、USRP X440を使用してスペクトルを直接サンプリングできます。Ettus USRP X440のアーキテクチャにより、Xilinx RFSoCの全帯域幅を活用できます。ただし、IF信号調節は内蔵されていないため、対象の信号を歪める可能性のある影響を回避するには、ある程度の周波数計画が必要です。Ettus X440 USRPは、ADC変換器のサンプリングレート (Fs) の半分として定義されるナイキスト周波数よりも高い周波数でサンプリングを行う場合があります。残念ながら、この方法ではエイリアス効果が発生し、不要な信号がナイキスト周波数 (Fs/2) の倍数で鏡像として出現します。これにより、各ナイキストゾーンの境界付近に使用できない周波数範囲が作成されるため、複数のナイキストゾーンにまたがる (歪んだり、干渉信号が測定スペクトルにエイリアシングされたりする) 対象信号が発生しないように、慎重な計画が必要です。


図4:マスタクロックレートはナイキストゾーンの境界が信号に干渉しないように、慎重に選択する必要があります。

X440での周波数計画とマスタクロックレートの選択の詳細については、https://kb.ettus.com/About_Sampling_Rates_and_Master_Clock_Rates_for_the_USRP_X440を参照してください。

レーダーシステムは、Ettus USRP X440でネイティブに提供される4 GHzカバレッジを超える帯域を頻繁に使用します。たとえば、多くの気象、監視、航空交通管制、防衛追跡レーダーは、CバンドやXバンドなどで動作します。周波数の制限はありますが、Ettus USRP X440デバイスは中間周波数 (IF) トランシーバとして動作し、外部RFフロントエンドとリンクし、対象の周波数へのアップコンバージョンおよびダウンコンバージョンを処理するのに適しています。Ettus USRP X440でサンプリングできるように、4 GHz未満のIFを受信し、提供するフロントエンドを選択するように注意する必要があります。フロントエンドは、X440デバイスのフロントパネルにあるDIOポートから供給されるデジタル制御信号を受信する必要があります。USRPハードウェアドライバ (UHD) は、USRPがUHD APIを経由して外部フロントエンドを制御できるようにする拡張フレームワークを使用します。拡張フレームワークの詳細については、https://files.ettus.com/manual/page_extension.htmlを参照してください。

図5:Ettus USRP X440は、外部アップコンバータおよびアップコンバータと組み合わせて、より高い周波数帯域に対応するのに最適。

航空宇宙および防衛システム向けに新しい機能を設計する研究者やシステムエンジニアには、ハードウェアの変更を最小限に抑えて概念をテストできる、柔軟で再構成可能なハードウェアが必要です。Ettus USRP X440は、これらのニーズに対応するだけでなく、スペクトルモニタリングおよび高解像度レーダーの広帯域幅要件を満たし、方向探知やビーム操作用のマルチチャンネル位相コヒーレンスを提供するように設計されています。

​以下のビデオでEttus USRP X440のデモンストレーションをご覧ください。