従来の高速オシロスコープの数多くが2~4チャンネル装備で、スタンドアロンの箱型計測器として機能します。ベンチトップのデバッグには効果的なソリューションですが、こうした計測器を高速同時サンプリングを行うチャンネルを多数必要とするビームフォーミングや医療画像などの多チャンネルアプリケーションに拡張する場合、大抵問題が発生します。多チャンネル高速DAQシステムは、チャンネルの密度を最大化、複数のチャンネルを同期、膨大な量のデータを処理する必要があります。こうした問題を解決するには、チャンネル同期を簡素化し、コンパクトサイズで高スループットのデータ転送を可能にするモジュール式プラットフォームがはるかに実用的です。PXI (PCI eXtensions for Instrumentation) が多チャンネルシステムの作成に最適なのは、こうした従来の問題を解決しつつ、多種多様なアプリケーションで信頼性を獲得してきた実績があるためです。PXIプラットフォームはVIの概念に基づいて構築されていますが、この概念では、計測器の機能を定義するのにソフトウェアを使用し、ニーズにぴったり合った計測/オートメーションシステムを作成できます。機能が固定された従来の計測器で選択肢を制限させられることがありません。
数百のチャンネルを備えた高性能アプリケーションを作成する場合に、まず問題となるのがスペースです。PXIプラットフォームは、コンパクトサイズの計測/オートメーションシステムに適した高性能低コスト実装ソリューションです。 PXIシステムを構成するのは、コントローラ、シャーシ、そして、オシロスコープやデジタルマルチメータ (DMM)、任意波形発生器といったさまざまな計測器です。
従来の箱型計測器は、独自の専用プロセッサ、ディスプレイ、電源、およびファンを2~4チャンネルごとに装備しています。PXIはチャンネル密度を最大化するために、こうした余分なコンポーネントを1つのシャーシおよびコントローラにまとめ、モジュールにはアナログ/デジタル回路のみを残しました。こうした集約によって確保したスペースは、モジュールあたりのチャンネル数を最適化するため、1つの4Uラックスペースに最大544チャンネルを備えたシステムを作成できるようになりました。
図1.PXIプラットフォームのモジュール式アプローチによって、あらゆる高速または高分解能モジュールを使用した高密度の集録システムを作成できます。
表1は、NI PXIe-5186のような高帯域幅かつ高速モジュールから、NI FlexRIOに対応したNI 5752アダプタモジュールのような極めてチャンネル数の多いモジュールまで、あらゆるオシロスコープを示しています。NI PXIe-5170RおよびNI PXIe-5171Rは、NIのオシロスコープ計測器の高い性能とNI FlexRIOアダプタモジュールのユーザがプログラム可能なFPGAを、単一の8チャンネルPXIモジュールに組み合わせたものです。
図2.NI PXIe-5171Rは単一のPXIスロットで8つの高性能チャンネルを提供します。
帯域幅と分解能の要件に応じて、アプリケーションに最適なチャンネル密度を実現するNIのオシロスコープまたはデジタイザを見つけることができます。
モジュール | 分解能 | サンプリングレート | 帯域幅 | モジュールあたりのチャンネル数 | シャーシあたりのチャンネル数 |
NI 5752 | 12 | 50 MS/s | 14 MHz | 32 | 544 |
NI PXIe-5171R | 14 | 250 MS/s | 250 MHz | 8 | 136 |
NI PXIe-5170R | 14 | 250 MS/s | 100 MHz | 4/8 | 68/136 |
NI PXI-5105 | 12 | 60 MS/s | 60 MHz | 8 | 136 |
NI PXIe-5160 | 10 | 2.5 GS/s | 500 MHz | 4 | 68 |
NI PXIe-5162 | 10 | 5 GS/s | 1.5 GHz | 4 | 68 |
NI 5772 | 12 | 1.6 GS/s | 2 GHz | 2 | 34 |
NI PXIe-5186 | 8 | 12.5 GS/s | 5 GHz | 2 | 10 |
表1.NIのオシロスコープとデジタイザならアプリケーションに最適なチャンネル密度を実現可能。
多チャンネルシステムの2つ目に大きい問題は、各チャンネルのデータの確実な同期です。各計測器に独自のタイミング/同期エンジンが備わっている場合、複数のオシロスコープ間でチャンネルを同期させるのは困難です。箱型オシロスコープが複数の計測器の同期に対応している場合でさえ、ケーブルの長さや種類が異なることから発生するクロックスキューの遅延を校正する必要があります。さらに、トリガラインとサンプルクロックの箱型計測器間でのルーティングは、チャンネル数が増えるにつれ、どんどんと難しくなっていきます。
PXIは、同期クロックとトリガを内部でルーティングする、タイミングと同期の統合型アーキテクチャを使用して、従来の数多くの同期関連の問題を解消します。PXIシャーシは、専用の10 MHzシステム基準クロック、PXIトリガバス、スタートリガバス、スロット間ローカルバスを搭載していますが、PXI Expressシャーシは、さらに100 MHzの差動システムクロック、差動信号、差動スタートリガを搭載しているため、高度なタイミング/同期にも対応できるようになっています。
図3.PXIタイミング/同期アーキテクチャを使用すれば、最小限のクロックスキューおよびドリフトでトリガラインと基準クロックをルーティングできます。
PXIプラットフォームの同期メリットに加えて、NIはこうしたプロセスをさらに簡素化するその他の機能を備えたPXIオシロスコープを設計しました。シングルボードのチャンネル拡張から、異なるサンプリングレートで集録する計測器のマルチシャーシまで、NI PXIオシロスコープは、同期させる高速DAQに最適なハードウェアおよびソフトウェアツールです。
NIはプログラム設定によるサンプルクロックのルーティングやトリガの共有といった多チャンネルアプリケーションの作成に関わるソフトウェアタスクを簡素化しました。NI LabVIEWなどの優れたソフトウェアツールを使用すれば、チャンネル拡張による複数のチャンネルの同期、またはNI-TClk APIによる多数のチャンネルの同期を簡単に行うことができます。チャンネル拡張は、1つのデジタイザ内でチャンネルを同期する簡単な方法で、図4に示したように、1つのリソース文字列内で集録チャンネルを指定します。
図4.チャンネル拡張によるシングルボード同期
複数の計測器を同期させるために、NIはNI-TClkと呼ばれる特許取得済みの同期方法を開発しました。この方法では次のことができます。
柔軟性のあるNI-TClkテクノロジは以下のユースケースに適用できます。
NI-TClk APIは、システムを1つのマルチチャンネルオシロスコープとして見せる3つのNI LabVIEW関数 (VI) でトリガ設定とクロック同期を構成することで、デバイスの操作を簡素化します。3つのNI LabVIEW VIは、外部のパラメータは必要とせず、NI-TClk APIに計測器のセッションの配列を渡すだけで機能します。NI-TClkアーキテクチャでは、各デバイス間で最悪1 nsのスキューでデバイスを同期させることができます。通常観測されるスキューは大体200 psから500 psの間です。各デバイスのサンプルクロックを手作業でキャリブレーション (校正) すれば、デバイス間のスキューを30 ps未満にまで低減できます。
図5.複数の計測器間でチャンネルを同期するNI-TClk API
PXIシャーシに元々備わったチャンネル数やクロック確度以上の仕様が必要な場合、このプラットフォームはマルチシャーシ同期と高確度タイミング/同期モジュールに対応します。このモジュールは、箱型オシロスコープの通常100 ppmの確度と比較して50 ppmの確度を実現する基準クロックを備えています。同期させるシャーシ間に必要な距離がケーブルでクロックおよびトリガ信号を確実に伝送するのには遠すぎる場合、時間ベース同期のアーキテクチャを使用することができます。NI PXIタイミング/同期ソリューションを使用すれば、IEEE 1588、GPS、IRIG-Bといった絶対時間基準プロトコルのメリットを活用して、長距離間の同期を行うことができます。
高速DAQの主な問題の1つは、従来からデータストレージとホストへ転送する際のバスのスループットでした。計測器のサンプリングレートが高くなると、GPIBインタフェースの転送速度の限界によってデジタイザの性能が大幅に低くなります。システムのスループットとオンボードメモリが多チャンネルアプリケーションにおいて特に重要となるのは、多数のチャンネルからデータを集録して、同じホストで処理する際に依存するためです。例えば、5 GS/sで8ビットデータを集録するデジタイザは秒あたり5 GBのデータを生成します。こうした大量データのせいで、システム内のオシロスコープは、ホストへデータを転送するために高帯域幅バスとともに大容量オンボードメモリを組み込む必要があります。
図6は、あらゆるバスの性能の比較を示しています。高帯域幅のPXI Expressバスアーキテクチャを使用することによって、ハードディスクとの間のデータのやり取りは、ハイエンドオシロスコープに対応するのに十分高いレートで行うことができます。
図6.自動テストでよく使用されるバスの帯域幅と遅延時間の比較
PXIアプリケーションの転送性能は、システムのシャーシ、コントローラ、および計測器のスループットレートに基づいています。ストリーミングアーキテクチャにおける各接続を評価することは、システム全体のスループットを最大化する上で重要です。最新のPXI Expressテクノロジを使用することで、NIシャーシおよびコントローラのシステム帯域幅は最大12.8 GB/sに対応できます。これは、GPIBの8 MB/sのスループットレートを大幅に上回る性能です。バス、プロセッサ、およびメモリの技術は急速に進化していますが、PXIプラットフォームなら最新のテストシステムを維持する柔軟性を備えています。
図7.NI PXIe-1085シャーシとNI PXIe-8135組込コントローラのシステムスループットレート
高性能バスを使用しても、多くのアプリケーションは一時的にデータを保存し、高速オシロスコープのフルサンプリングレートに対応するのに、やはり大容量オンボードメモリを必要とします。大容量オンボードメモリを使用することで、デジタイザの最大レートでサンプリングが可能になり、データをローカルに保存して集録が完了した時点でホストコンピュータにデータを転送します。また大容量オンボードメモリのオシロスコープは、最大サンプリングレートを長時間保持できるため、集録時間の枠が広がります。 NI PXIe-5162 5 GS/sオシロスコープなどのNI PXI Expressオシロスコープには、チャンネルあたり1 GBのメモリが備わっており、最大サンプリングレートで実行している際の集録時間を最適化します。
PXIプラットフォームを用いることにより、データ転送だけでなく、複数のテスト装置間の容易なデータやり取り、RAID (Redundant Array of Inexpensive Disks) によるPXIシステムコントローラ上のストレージ容量の増強ができるため、よりコスト効率の良いソリューション構築が可能になります。RAIDは複数のハードドライブ間でデータを分割または複製する大容量記憶方式の一般用語で、多チャンネルアプリケーションに必要な帯域幅とストレージを実現することができます。NIでは、外付けRAIDハードドライブエンクロージャと制御用のインシャーシPXIモジュールをベースにした複数のデータストレージオプションをご用意しています。
図8.NI HDD-8265は24 TBのストレージを備えており、最大750 MB/sでデータ転送が可能です。