上記のガイドライン沿って構成し、グラウンドループやアナログ入力ステージの飽和を回避している場合でも、環境下で発生したノイズや不要な信号が測定信号に含まれてしまいます。特に、これは多くのデータ収集デバイスのオンボードアンプで低レベルのアナログ信号を増幅している場合によく見られる現象です。現象が悪化すると、PCデータ収集ボードでは、一般的にI/Oコネクタ上で複数のデジタルI/O信号が発生します。その結果、相互接続ケーブルの低レベルアナログ信号に対して近い場所で発生しているため、データ収集ボードで発生するデジタル信号は、増幅した信号でノイズの原因となります。この増幅信号やその他の外部ソースでノイズカプリングを最小限にするには、適切な配線とシールド構造が必要です。
適切な配線とシールドの検証を行う前に、干渉やノイズカプリングの問題の性質について理解することが必要です。ノイズカプリング問題については、単純明瞭な解決策はありません。さらに、解決策が不適切な場合には問題をさらに悪化させる可能性もあります。
図12は、干渉やノイズカプリングの問題を示します。
図12. ノイズカプリング問題のブロック図
図12に示すとおり、ノイズを「拾う」主な原因となるカプリングのメカニズムは、4つ (伝導、静電、誘導、放射) あります。伝導カプリングは、共通インピーダンスで異なる回路から電流を共有すると発生します。静電カプリングは、信号パスの付近で時間変動電界から発生します。誘導カプリングノイズまたは電磁カプリングノイズは、信号回路に囲まれた領域で時間変動電界から発生します。電磁場源が信号回路から離れている場合、電界と磁界のカプリングは、電磁カプリングや放射カプリングの組み合わせとみなされます。
伝導カプリングノイズ
伝導カプリングノイズは、配線する伝導体に有限インピーダンスがあるために発生します。これらの配線インピーダンスによる影響は、配線構造を設計する際に考慮する必要があります。グラウンドループが存在する場合は切断するか、または低レベルと高レベルの両方の高電力信号に対して異なるグランドを使用すると、伝導カプリングを除去したり最小限に抑えたりすることが可能です。図13aに示すようなグランド接続により、伝導カプリングが発生します。
AからBの一般的な戻り線の抵抗が0.1 Ωの場合、0.1 Ω×1 A = 100 mVとなり、温度センサの測定電圧は、スイッチの開閉状態により変化します。温度測定誤差に変換すると、10℃となります。一方、図13bの回路では異なるグランドリターンがあります。したがって、測定温度センサ出力は、重負荷回路の電流のON/OFFでも変化しません。
図13. 伝導カプリングノイズ
静電カプリングと誘導カプリング
ノイズおよび信号回路における磁界と電界の相互作用の検証に必要な解析ツールとして、数学的に自明でないマクスウェル方程式があります。ただし、これらのカプリングチャンネルの直観的で質的な確認については、集中等価回路が使用できます。図14および15は、電界カプリングと磁界カプリングの集中等価回路を示します。
図14. 等価回路でキャパシタCefによりモデル化された、ノイズソースと信号回路間の静電カプリング
図15. 等価回路で相互インダクタンスMによりモデル化された、ノイズソースと信号回路間の誘導カプリング
ノイズ等価回路への集中等価回路モデルの導入は、基底となる2つの電気回路解析の (すべての電界はコンデンサ内部の範囲内/すべての磁界は誘導体内部の範囲内という) 仮説の問題点を処理します。
静電カプリング
図14は、有効なカプリングチャンネルの集中等価回路です。電界カプリングは2つの回路間のキャパシタンスとしてモデル化されます。等価キャパシタンスCefは、重なり合う領域に比例し、2つの回路間の距離に反比例します。したがって、ノイズ回路から信号回路までの距離を離したり、重なりを最小限にしたりするとCefも最小限になります。静電カプリングのその他の特性は、モデルによって異なります。たとえば、静電カプリングのレベルは、ノイズソースの周波数と振幅、および影響を受ける回路のインピーダンスに比例します。したがって、静電カプリングは、ノイズソース電圧や周波数、または信号回路インピーダンスが少なくなると減少します。また、等価キャパシタンスCefは、容量性シールドを使用する場合も減少します。容量性シールドは、誘導電流をバイパスしたり、別のパスを提供することにより動作するため、信号回路には流れません。適切な容量性シールドは、シールド位置とシールド接続の両方に注意する必要があります。シールドは、静電カプリングが発生する伝導体とソース終端側のみにグランド接続をしなければなりません。シールドが両端で接地される場合、かなりのグランド電流がシールドに流れてしまいます。たとえば、グランド間の1 Vの電位差は、0.5 Ωの抵抗がある場合にシールドに流れる2 Aのグランド電流を強制できます。約1 Vの電位差はグランド間で発生します。このグランド高電流の影響に関する詳細は、誘導カプリングノイズの説明に記載します。一般的に、金属または信号パスの付近の伝導体は、静電カプリングノイズが大きくなる可能性があるため、電気的に浮動のままにしないでください。
図16. 不適切なシールド終端 - グランド電流がシールドに流れ込む
図17. 適切なシールドの終端 - シールドにグランド電流または信号電流が流れない
誘導カプリング
前述したように、誘導カプリングは、結果として信号回路ループにより囲まれた領域に時間変動磁界が生じます。これらの磁界はノイズ回路付近の電流により生成されます。信号回路の誘導電圧Vnは以下の式で求められます。
V n = 2πfBACosθ (1)
ここで、fは正弦的に変化する磁束密度の周波数、Bは磁束密度のrms値、Aは信号回路ループの領域、θは磁束密度Bと領域Aの間の角度です。
図15 (b) に示すとおり、誘導カプリングの集中等価回路モデルは相互インダクタンスMです。相互インダクタンスMについて、Vnは以下の式で求められます。
V n = 2p fMI n (2)
ここで、Inはノイズ回路の正弦波電流のrms値、fは周波数です。
Mは影響を受ける回路ループの領域に比例し、ノイズソースの回路と信号回路間の距離に反比例するため、距離を離したり、信号ループ領域が最小になると、2つの回路間の誘導カプリングも最小限になります。または、ノイズ回路の電流Inまたは周波数を下げても、誘導カプリングが減少します。ノイズ回路の磁束密度Bも、ノイズソースの配線をツイストすると減少します。最終的に、磁気シールドがノイズソースまたは信号回路に適用され、このカプリングを最小限にできます。
低周波数磁界に対するシールドは、電界に対するシールドほど容易ではありません。磁気シールドの効果は、材料のタイプ (透磁率、厚み、周波数の状態) によって異なります。スチールは相対的に高い透磁率のため、低周波数 (概算で100 kHz未満) の磁界シールドとしてアルミニウムや銅よりも効果的です。ただし、より高い周波数の場合にはアルミニウムと銅も同様に使用できます。2種類の厚さの銅と鋼の吸収損失は図18に示すとおりです。これらの金属の磁気シールド特性は、通常の環境下で主要低周波数の磁気カプリングノイズソースの電源 (50~60 Hz) など、低周波数では非常に効率が悪くなります。ミューメタル (鉄とニッケルの合金) を使用した磁気シールドは、低周波数の磁気シールド用に利用できますが、ミューメタルは非常に壊れやすく、劣化して透磁率が低下することがあります。つまり、衝撃により磁気シールドとしての効率が劣化します。
図18. 周波数関数としての吸収損失 (参考資料1より)
ノイズ回路パラメータ上で制御が不可能であること、また磁気シールドを完成させることが比較的困難であることから、信号回路ループ領域を小さくすることは、誘導カプリングを最小限にする際に効果的です。ツイストペアワイヤは、信号回路のループ領域を減少させ、誘導誤差を相殺するため有益です。
式 (2) は、図16のように回路のシールドでグラウンドループによって電流が流れる影響を算出します。ここで、In = 2 A、f = 60 Hz、M = 1 µH/ftで、10-ftケーブルは以下のとおりになります。
V n = 2×3.142×60×(1×10–6×10)×2 = 7.5 mV
このノイズレベルは、10 V範囲で12ビットデータ収集システムの3.1 LSBに変換されます。したがって、データ収集システムの効果は概算で10ビット収集システムの状態に下がります。
Eシリーズデバイスにおいて差動モードでシールドケーブルを使用する場合、信号回路ループ領域は、信号リード線の各ペアがツイストペアとして構成されるため、誤差が最小になります。これは、異なるサイズのループ領域がさまざまなチャンネルで構成されるため、同じデバイスとケーブルを使用するシングルエンドモードの状態とは異なります。
図19に示すとおり、磁気誘導電圧が一連の電流信号ソースに発生するため、この電流信号ソースは電圧信号ソースと比較してこのタイプのノイズに影響を受けません。V21およびV22は誘導カプリングノイズソースで、Vcは静電カプリングノイズソースを表しています。
図19. 誘導ノイズ電圧カプリングおよび静電ノイズ電圧カプリングの回路モデル
(参考文献: H. W. Ott, Noise Reduction Techniques in Electronic Systems, Wiley, 1976.)
誘導カプリングと静電カプリングのレベルは、ノイズ振幅、およびノイズソースと信号回路の近接性によって異なります。したがって、回路の干渉から離してノイズソースの振幅を減少させることは有益です。伝導カプリングは直接接点を生じさせるので、ノイズ回路の物理的な距離を長くすることは役に立ちません。
放射カプリング
ラジオやTVのブロードキャストステーションおよび通信チャンネルなど、放射ソースが原因の放射カプリングは、通常、低周波数 (100 kHz未満) の帯域幅測定システムの干渉ソースとしてみなされません。ただし、高周波数ノイズは、「オーディオ整流」と呼ばれる処理を介し、低周波数回路に整流されて発生することがあります。この処理で、整流器としてICに非線形点が生じます。長い配線の終端にある受信機で、シンプルで受動的なR-Cローパスフィルタを使用することで、オーディオ整流を減少させることができます。
ユビキタスコンピュータ端末は、状況により変化する回路の付近では電界と磁界の干渉ソースとなります。図20は、オンボードのプログラマブルゲインアンプで500のゲインを使用するデータ収集デイバスで取得したデータのグラフを示します。入力信号は終端ブロックで短絡して、0.5 mの非シールド内部接続ケーブルが端子台とデバイスI/Oコネクタの間で使用されていました。差動信号接続では、チャンネルHIGH入力とチャンネルLOW入力を配線し、アナログシステムのグランドがされていて、シングルエンド接続では、このチャンネル入力はアナログシステムのグランドに対して接続されていました。
図20. 差動入力構成とRSE構成の耐ノイズ性 (DAQボードゲイン: 500、ケーブル: 0.5 m非シールド、ノイズソース: コンピュータモニタ) との比較
その他のノイズソース
振動する環境で内部ケーブルが振動してしまう場合は、常に、信号回路ループの磁束の変更による摩擦電気の影響と誘導電圧に注意することが必要です。ケーブル導体が固定されていない場合、そのケーブル内の誘電体に生成された電荷により摩擦電気が発生します。
磁束が変わると、一方または両方の伝導体のモーション (誘導カプリングとは別の現象) により発生する信号回路ループ領域で変更が生じます。これを避けるには、ケーブルが垂れさがらないように調整し、そのケーブルを固定することです。
不注意により異種類の金属で構成された熱電対など、非常に低レベルの回路を使用した測定回路では、別のソースの測定誤差に注意を払う必要があります。熱電対の影響による誤差は干渉タイプの誤差とはみなされませんが、低レベル信号測定のチャンネル間で不明なオフセットが発生する原因となる可能性があるため、確認が必要です。