山口 智嗣氏, 鹿児島大学大学院 理工学研究科 情報生体システム工学専攻
視覚認知の研究において、視線(眼球運動)と視覚認知との関連性について調査するために視線測 定システムを開発する。眼球運動には様々な種類があり、サッカードと呼ばれる急速な眼球運動は 注意と深く関わっているとされている。サッカードを捉えるためには高い時間分解能で眼球運動を 計測する必要があり、サッカードを測定可能な多くの市販の視線測定装置が存在するがどれも高価 である。また、視線測定装置は海外の製品が多く、問題が生じた際にサポートが難しい点や、製品 の仕様に縛られるため簡易的に視線測定を行えないという問題がある。
NI LabVIEW、NI Vision 開発モジュールを使用して視線測定プログラムの作成や高速カメラを制御することによって、安価・高精度・簡易的な視線測定システムを開発する。
本研究室では視覚認知に関する様々な研究が行われている。私の研究テーマでは、眼球運動を測定することで人の視覚的な情報処理過程を解明することを目的としている。上記で挙げられた課題や装置を使いこなすようになるまでの労力を考慮した結果、安価・高精度・簡易的なシステムを自作しようと考えた。
本システムでは、モニタを見ている際の瞳孔の動きを高速カメラで撮影し、独自のアルゴリズムを使用して瞳孔の動きからモニタ上の見ている位置(視線)を算出する。撮影画像に画像処理を施し、図1 に示すようにカメラ座標系における瞳孔中心座標及び角膜反射点座標を算出する。独自で考案したアルゴリズムを使用し、瞳孔中心座標・角膜反射点座標より、モニタ上の視線座標へと変換する。
図1. 瞳孔中心・角膜反射点算出までの様子
モニタ上の視線座標を算出するために操作するフロントパネル画面を図2 に示す。このフロントパネルにより、各種設定ボタン及びバーを操作することで、カメラから取り込んだ画像から瞳孔中心・角膜反射点を算出し、モニタ上の視線を測定することができる。
【ソフトウェア】
• LabVIEW 2012
• NI Vision 開発モジュール
• 視覚刺激呈示ソフトウェア「Presentation」
【ハードウェア】
• 高速カメラ(IDS 社製)
• 赤外線投光器(自作)
• 頭部固定用チンレスト(自作)
• NI USB-6009 × 2 台
LabVIEW 2012、NI Vision 開発モジュールを使用し、高速カメラの制御・視線測定・視線解析プログラムを作成した。また、視覚刺激呈示ソフトウェア「Presentation」を使用し、被検者に呈示する画像及び動画を制御した。LabVIEW側との同期方法は、NI USB-6009 を使用して同期パルスをLabVIEW 側へ送り、画像呈示と高速カメラとの同期を行っている。本システムの構成を図3 に示す。
また、視線測定システムとしての有用性を評価するために、視線測定精度評価実験を行った結果、本システムの平均注視点誤差は0.59°であった。視覚認知の研究に使用されている市販の視線測定装置(Arrington Research 社製)の測定精度は0.25°~ 1°であり、本システムの測定精度は視覚認知の研究に使用するシステムとして十分であることが示唆される。
LabVIEW 2012 と NI Vision 開発モジュールを使用することで、低価格・高精度・簡易的な視線測定システムを開発することができた。本システムの画像処理はNI Vision 開発モジュールを使用しており、OpenCV 等のように画像処理のプログラミングの勉強に多くの時間をかけることがなかったため、学生1 人で約1 年半という短い期間でシステムを開発することができた。
本システムは最高200 fps で視線測定を行うことができ、市販の視線測定システムと変わらない時間分解能で測定が可能である。市販のシステムは数百万円と高価であるが、本システムはソフトウェア代(LabVIEW 2012, NI Vision 開発モジュール)を差し引くと約10 万円のコストで構築することができた。尚、画像呈示に時間的な精密さを必要としない場合、Presentationを使用せずにLabVIEW を使用して画像呈示を行えるので、Presentation との同期に必要な費用を差し引くと、約5 万円という費用で視線測
定が可能である。
また、本システムはLabVIEW と NI Vision 開発モジュールが導入されているPC であれば、カメラ・赤外線投光器・チンレストを用意するだけで視線測定が可能という、簡易性に優れたシステムを実現できた。実際に、本研究室ではLabVIEW と NI Vision 開発モジュールをノートPC に導入し、ノートPC・カメラ・赤外線投光器・チンレストを持ち運ぶことで研究室外での計測も行っている。
山口 智嗣氏
鹿児島大学大学院 理工学研究科 情報生体システム工学専攻