Automatic Motor Tester 自動モーター検査装置

磯田 拓也 代表取締役, シバセ工業株式会社

" 今回システム開発における最も重要要素は、LabVIEW という開発システムあり、LaBVIEWなくて、これだけ複雑システムプログラム短期間一人開発すること出来なかた。そして、LabVIEW確実動作するNIボードあっこそ出来システムある。"

- 磯田 拓也 代表取締役, シバ工業株式会社

課題:

モーターの検査装置に必要な項目として以下の様な事が考えられる。 1. モーターの基本特性である誘起電圧の測定 2. モーターが正常に回転するかの検査 3. 絶縁性能試験 4. データの記録と再生 5. 製造ラインで問題が発生した際、原因を特定し、問題が解決できること 6. 様々な機種に対応できる汎用性 7. 製造ラインで使用する場合は、不慣れな作業者や異国の言葉の通じない作業者でも容易に使用することが出来、複雑な測定も容易にできること

ソリューション:

開発プログラムにNI LabVIEW、計測ハードウェアにNI PCI-6251(高速マルチファンクションMシリーズデータ集録ボード)、PCI-6509(PCI対応の工業用96チャンネルデジタルI/Oボード)、ならびにPCIe-GPIB(PCIeバス)を採用しシステムを構築したことで、これらすべての要件を満たすシステムを実現。

【開発背景】

 21世紀はモーターの時代であり、モーターの大幅な需要が見込まれるが、モーターの検査はまだまだ汎用的な測定器を使用して、いくつかの工程で検査するのが一般的である。モーターの製造コストを下げるためには、組立の効率化と同時に、製品の良否を判定する検査についても効率化が求められる。
 また、多くの製造メーカーは、人件費の安さ、市場の大きさから新興国へ進出しているが、かつては人件費の安さと豊富な労働力が魅力であった中国でさえ、人件費の高騰や沿岸部の人材不足から、製造ラインでは省力化の設備が求められるようになってきている。

 

【課題】

モーターの検査装置に必要な項目として以下の様な事が考えられる。
(1)モーターの基本特性である誘起電圧の測定
   誘起電圧を測定するには、一般的にモーターを外部からの力で回してコイル端子に発生する電圧を測定するので、外部から回すための装置が必要であり、自動測定は大掛かりになっていた。

 

(2)モーターが正常に回転するかの検査
   モーターをドライブ回路に接続して、実際にモーターを回転させて電流や回転数を測定する。ホールセンサーなどがあれば、その出力状態もチェックする必要がある。

 

(3)絶縁性能試験
   絶縁性能試験は、試験電圧として高電圧を印加するため 一般的には 絶縁性能試験だけの試験工程がある。

 

(4)データの記録
   検査したデータは、記録され何時でも見れるようにする必要がある。

 

(5)製造ラインで問題が発生したとき
   問題が発生した場合に、何が問題なのか、どこが不良なのかすぐに検証して問題を解決する必要がある。

 

(6)検査項目は、モーター仕様によって多種多様であり、色々な機種に対応できる汎用性が求まられる。

 

(7)製造ラインで使用する場合は、不慣れな作業者や異国の言葉の通じない作業者でも容易に使用することが出来て、かつ 複雑な測定も容易にできるようなシステムが望まれる。

 

【ソリューション】

 

【システム構成】

 

<測定用パソコン>  OS  : Windows XP
<開発プログラム>  LabVIEW 8.5 (日本ナショナルインスツルメンツ)

 

<計測ボード>    
PCI-6251(日本ナショナルインスツルメンツ、PCIバス)
PCI-6509(日本ナショナルインスツルメンツ、PCIバス)
PCIe-GPIB(日本ナショナルインスツルメンツ、PCIeバス)

 

<電源装置> PWR400M(菊水電子工業株式会社)

 

<電源コントローラ>  PIA4830(菊水電子工業株式会社、GPIB接続)

 

<絶縁耐圧試験機> TOS9200(菊水電子工業株式会社、GPIB接続)

 

<抵抗計> 3541(日置電機株式会社、GPIB接続)

 

<検査切替計測器> シバセ工業製

 

【 開発結果 】

(1)惰性回転測定法の確立
 モーターの誘起電圧測定では、従来 外部から回して測定していた誘起電圧測定を、モーター自身の惰性回転中に発生する誘起電圧を測定することで、自動検査を可能にした。
 モーターは、回転中にドライブ回路をOFFにすると、惰性回転により徐々に速度が低下する。速度と誘起電圧が比例するモーターでは、惰性回転中の連続した誘起電圧を測定して、速度低下係数を算出し、電圧補正と時間補正を行なうことで、あたかも一定回転で回っているときと同じ波形を作り出すことができる。
 補正した波形から、誘起電圧の任意の位置の電圧とホール信号との位相差などを求めている。

 

 モーターが惰性回転している間に、高速で正確に誘起電圧とホール信号の2つの信号を取り込むため1.25 MS/sの高速サンプリングが可能で、かつ安価な計測ボードであるDAQ PCI-6251 を使用した。
 元の波形から、速度を算出して、補正係数を割り出し、波形を補正してから、補正波形から電圧や位相差を求めるために、2 chサンプリングで 500 KS/sの速度で取り込むことで、かなり正確な誘起電圧と位相差の波形を再現することができた。また、プログラムも LabVIEW 8.5 を使用することで、開発期間も大幅に短縮できたと思うのだが、ここ10年以上LabVIEWしか使っていないので、比べようがない。
 ただ、私にはLabVIEWでないと開発は不可能であった。検査の短縮時間としては、10秒→2秒くらいの効果が見込まれる。

 

2)ドライブ回路でモーターを回転させながら電流や電圧、ホール信号を測定しているが、全て波形を表示して、その波形から、電流電圧の平均値や実効値、最大値などを算出している。簡単に、波形表示システムを作れるのがLabVIEWの魅力であり、技術者なら波形を見ることで良否を判別できる。

 

ホール信号の測定では、波形のDUTYやH、L電圧なども波形から切り出して自動ポインティングして値を表示している。 また、惰性回転によるホール信号測定により、プルアップ抵抗を切り替えて測定ができるため、ホールICの漏れ電流などの不良判定に有効である。

 

(3)絶縁性能試験 
 絶縁性能試験は、検査装置側とモーターをリレーで切り離してから、絶縁試験電圧を印加するシステムであり、絶縁耐圧試験機をGPIBで制御して、試験条件を設定して試験している。

 

 絶縁性能試験を試験するときは、試験する高電圧から検査装置やドライブ回路を守るため、リレーで切り離しておく必要があるが、そのために100個近いリレーを使っている。
 そのリレーの制御には、 PCI-6509というDIOボード を使用している。PCI-6509は、96pinの入力出力の制御機能があるため、このボード1枚で100個近いリレーを制御できる。また、多くのリレーがあると、故障が発生しても故障箇所を発見することは容易ではないので、個々のリレーが故障していないかを自動でチェックするプログラムも LabVIEW8.5 で製作している。

 

リレーが正常に動作するかどうかは、個々のリレーを順番に、ONして電流が流れるか、
OFFして電流が流れないかで判定するが、この試験が出来るような回路構成に最初から設計してある。>

 

 絶縁耐圧試験機やミリオームテスターなどは、PCIe-GPIB を使ってGPIBで制御している。GPIBのプログラムは、測定器メーカーのVIもあり簡単に動作させることができた。

 

(4)データの保存
 測定したデータは、機種名と日付を元に自動的にデータファイルが作成され、CSV形式のファイルで自動的に保存される。また、バーコードリーダーによるバーコードからの読みも可能である。

 

 測定データは、フォルダの作成からファイルの作成まで完全に自動で記録保存されるため、作業者がデータ保存を意識することはない。

 

(5)マニュアル測定 
 製造ラインで不良品が発見された場合、原因を調査する必要がある。そのときに、個別に個々のマニュアル検査が出来れば解析に役立つことから、自動検査以外にマニュアル検査を標準装備している。自在にモーターを止めたり動かしたりしながら、不具合箇所の解析を行なえる。

 


※元開発部でモーターの設計をしていた立場から、欲しい機能を盛り込んだつもりである。開発部で使用すれば、設計評価の効率化につながる。

 

(6)多機種への対応として、SPECファイルを設けて、個々の機種の測定条件や検査項目、規格値などを 
 機種毎のファイルで保存することができる。保存できるファイル数は無制限で、同じ機種を毎日生産する場合にはプログラム起動時に自動的にセットされるので、作業者は、メインプログラムを立ち上げるだけで、使用準備ができる。 機種切替時にもSPECファイルを読み込むだけでセッティングが完了する。

 

(7)不慣れな作業者でも簡単に操作できる操作性と開発部隊でも使用できる複雑な汎用性を兼ねそろえたシステムになっている。

 

【後記】

 今回のシステム開発における最も重要な要素は、LabVIEW という開発システムであり、LaBVIEWなくして、これだけ複雑なシステムプログラムを短期間に一人で開発することは出来なかった。そして、LabVIEWで確実に動作するNIのボード群があってこそ出来たシステムである。

 

 私は元々、電子回路のハード技術者であり、C言語などのテキストプログラムは全く理解出来ないが、回路図を理解作成できる技術があり、LabVIEWは回路図のようにプログラムを作成できるので、電子回路技術者にとって理解しやすい開発システムである。

 

 最近のシステムは、ハードウエアとソフトウエアをうまく組み合わせてシステム化する必要があるが、目的によってハードで行なうかソフトで行なうか、どちらにするかで性能やコストが大きく異なってくる。一人のエンジニアが両方を受け持つことができれば最適のシステム設計が出来る。また、トラブルが発生した場合などでも、ハードとソフトで設計者が同じであれば、問題解決が容易である。

 

 ただし、ソフトウエアを専門に習得したエンジニアが、電子回路のハードウエア設計に進むことは容易ではないが、電子回路設計を習得したエンジニアが、ソフトウエアの習得に取り組むのにLabVIEWは、回路図的なビジュアル設計が可能で理解しやすく最適な開発システムである。私の理想は、システムをほぼ一人で全て設計できるマルチエンジニアである。それにはまず、アナログ電子回路技術者となり、同時又はその後 LabVIEWを習得するという道を推奨するものである。

1. システム構成
2. ソリューション - 誘起電圧の測定
3-1. ソリューション - モーターが正常に回転するかの検査
3-2. ソリューション - モーターが正常に回転するかの検査
4-1. ソリューション - 絶縁性能試験
4-2. ソリューション - 絶縁性能試験
5. ソリューション - データの記録
6. ソリューション - 製造ラインでの不具合発生時における問題解決
7. ソリューション - 様々な機種への対応
8. ソリューション - 不慣れな作業者でも使用可能な操作性