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マツダ株式会社、足立智彦
電子部品を協調動作させた状態でロジック (機能) の検証と堅牢性の評価の両方を実施するためのシステムを一から構築し、関連操作と結果判定を含めた一連の作業を自動化する。
NIプラットフォームを活用して、PXI製品、再構成可能I/Oモジュール (FPGA)、LabVIEWで構成されるHILSシステムを構築し、ノイズシミュレータ、GPSシミュレータ、堅牢性を評価する音声合成システム、タスク自動化のためのロボットおよび画像処理システムなどの追加要素を統合する。
マツダ株式会社 - 足立智彦
マツダ株式会社 - 岡田英之
マツダ株式会社 - 橘高徳昭
マツダ株式会社 - 谷口雅也
マツダ株式会社 - Yasuhisa Okada
自動車に搭載される電子機器が急速に増加していることは周知の事実です。自動化されたワイパーやドアロックに始まり、照明、エアコン、パワートレイン、インフォテインメント、さらには多様な安全システムまで、多くの車両コンポーネントに電子機器が組み込まれています。元々、自動車には、わずか数個のCPUしか装備されていませんでした。今日では、自動車に搭載されたCPUの数は100近くに上ります。
マツダの電子実研グループは、高品質の製品を顧客に提供するために、すべての電子部品の「ロジック」と「堅牢性」を評価しています。ここでの「ロジック」とは、各電子部品の機能を意味します。「堅牢性」の概念を理解するには、まず、電子部品の動作環境が常に理想的な状態にあるとは限らないことを認識する必要があります。たとえば、電子部品は、電源電圧の変動、高レベルのノイズ、低品質の入力信号の印加などの極端な条件に置かれる可能性があります。「堅牢性」とは、電子部品が過酷な環境でも正しいロジックで動作する能力を意味します。つまり、個々の電子部品がそうした困難な条件にどこまで耐えることができるかを評価することが必要でした。
電子部品のロジックと堅牢性については、以前から評価を行っていました。単純な機能を実行する数種類の電子部品しかなかった時代には、部品を特別に準備された環境で個別にテストしていました。しかし、電子部品の種類が増え、機能の複雑さが増すにつれて、いくつもの問題が浮かび上がってきました。今日では、複数の電子部品システム間で通信が行われ、1つのシステムの動作が他のシステムの結果に依存する度合いが増しています。システムを個別にテストすることに加え、マルチシステムテストを実施して、そうしたシステムの機能について意味のある評価を行う必要があります。さらに、システムの堅牢性を評価することも不可欠です。しかし、さまざまなコンポーネントやユニットが増え続けるなかで、評価の対象となるアイテムの数は指数関数的に増加します。そのため、評価システムを自動化する必要があることは明らかでした。
マツダは、そうしたニーズを10年ほど前から認識していましたが、すべてのニーズを満たす評価システムは存在しませんでした。現状を考慮し、この問題に正面から取り組むことにしました。具体的には、電子部品を協調動作させた状態でロジックの検証と堅牢性の評価を実施するためのシステムを一から構築し、自動化することにしました。
構築する必要があるシステムは、きわめて大規模で複雑なものになります。そのため、開発作業には数年を要し、段階的に実施することになるとの予測を立てました。 図1は、第1段階を示す概念図です。Stage-1のシステムは、HILS (Hardware-In-the-Loop Simulation) エンジン、ロボット、画像処理システムで構成されました。HILSエンジンには、PXI (PCI eXtensions for Instrumentation) 製品とRIO (再構成可能I/O) モジュールで構成されるNI HILSシステムを使用しました。これらのハードウェア製品で動作するソフトウェアは、LabVIEWシステム設計プラットフォームを使用して開発しました。
このシステムにHILSを組み込むのは、次のような理由からです。まず、世界初のものを開発し完成させることへのマツダの強い意欲です。この考え方の一例として、マツダは、他社に先駆けてモデルベースのソリューションを開発して実用化することに重点を置いています。このイノベーションの文化においては、可能な限り、モデルを利用して電子部品を評価したいと考えるのはごく自然なことでした。ただし、モデル化することが不可能な部品もあることはわかっていました。通常は、モデリングに適さない部品には別のシステムを使用しますが、マツダは代わりにHILSシステムの機能を拡張することにしました。NI PXIプラットフォームはさまざまなテストシステムの構築に適しているため、HILS部分と拡張部分の両方を単一のシステムに統合して構築することができました。
モデルに変換することが不可能なコンポーネントもあり、人間と車両をつなぐインタフェースの構築は非常に困難です。モデルベースの形式に変換できないコンポーネントとして、最も単純な例は速度計と言えるでしょう。たとえば、車両の速度計に「50 km/h」と表示されている場合、コントローラから「50 km/hr」を表示するためのコマンドが電気信号として発行されます。この信号はシミュレーション中に評価でき、実際の車両でも確認可能です。システムが正常に動作していれば、信号を受信することで速度計に「50 km/h」と表示されるはずです。しかし、実際に「50 km/h」が表示されているかどうかを確認するには、人間の目視が必要です。つまり、運転者が車両から情報を認識するプロセスはモデルに変換できません。同様に、運転者が車両に情報を伝達する操作もモデル化できません。たとえば、運転者がボタンを押してエアコンのオン/オフを切り替えたり、タッチパネルをタップしてナビゲーションシステムを操作したりするような微妙な状態の変化を正確に再現するモデルを構築することは不可能です。
モデルを持たないシステムを検証することは非常に困難ですが、マツダのモットーである「Be a driver」のもと、こうした困難な領域に対処するテストエンジニアリング戦略と方法論の開発に一層注力することにしました。上記のように、人間の運転者と車両の相互作用をモデル化することは非常に困難です。この仕組みをできるだけ平たく捉えると、運転者が車両 (電子部品) に情報を伝達するには、ボタンやその他の計測器を操作する必要があるということです。そのような操作を行うには人間の手が必要になります。実際にこのような手動テストが実施されてきました。しかし、手作業で行うテストには膨大な時間と労力が求められます。そのため、評価を自動化するメカニズムを開発することが不可欠でした。そこで、電子部品を操作するロボットを導入しました。このロボットはコンピュータで制御されており、人間の代わりにボタンを押してタッチパネルをタップします。同様に、車 (電子部品) から運転者にどのように情報を伝達するかについても検討する必要がありました。先に述べた速度計の例のように、従来のテストプロセスでは、人間が表示を目視することで実際に「50 km/h」と表示されているかどうかを確認していました。評価について、このプロセスを自動化するために、画像処理システムを導入しました。自動化されたプロセスでは、具体的に、速度計の表示をカメラで撮影し、取得した画像を処理して結果が正しいかどうかを判断します。たとえば、7セグメントLEDディスプレイを使用して速度を表示する場合は、カメラでLEDディスプレイを撮影し、取得した画像を処理して数値を識別し、表示された速度を確認しました。あるいは、針の表示で速度を表す場合は、画像処理を使用して針の角度を測定し、その値を使用して時速 (キロメートル単位) を算出しました。このように、自動テストシステムで制御器と表示器の両方からの信号を監視して比較することで、速度が正しく表示されているかどうかを判定します。
このシステムでは、各電子部品の代わりに、ソフトウェアを介した仮想システム (仮想電子部品) を使用することもできます。すべての電子部品の製造が完了するまで評価を進めることができないという状況は、大きな制約です。できる限り迅速にテストを開始して結果を得る必要があったため、可能な場合は常に、実際の電子部品の代わりに仮想の電子部品を使用しました。これらの仮想の電子部品は、その動作が実際の電子部品に類似しているだけでなく、外観や操作性も実際の電子部品に類似しています。仮想の電子部品を活用できることで、柔軟なテストが可能になります。テストの内容に応じて、必要と判断した場合は実際の電子部品を使用でき、それ以外の場合は、代わりに仮想の電子部品を使用できます。
これらは、自動テストシステムで電子部品を検証するロジックに関する機能です。さらに、堅牢性を評価する機能を導入する必要がありました。マツダは、単にロジックの正確性を判断するにとどまらず、堅牢性を検証することも重視しています。マツダにおける堅牢性の評価では、まずロジックの観点から操作の正確性が限界に近づく条件を特定し、次に許容範囲を決定します。結果を合格として判定するのに必要な許容範囲は、別途社内基準に従って決定されます。この評価プロセスにより、マツダは、優れたユーザエクスペリエンスを提供すると同時に、マツダおよびサプライヤの設計部門に正確なフィードバックを提供することができます。
堅牢性のテストに使用される条件のうち、最も代表的な条件は電源電圧の変動とノイズの多い環境です。たとえば、電源電圧を変化させながら、評価対象の電子部品がどの状態で正しく動作しなくなるかを確認するなどです。ノイズの多い条件下での堅牢性を評価するために、第2段階のシステムでは、図1の第1段階のシステムにノイズシミュレータを追加しました。
しかし、堅牢性評価の対象となる要素は、不利な条件下におけるロジック面の動作性能だけではありません。たとえば、車両の機能として、車両を操作するためのボイスコマンドが挙げられます。この機能も堅牢性評価の対象となります。この堅牢性評価を実施するために、自動テストシステムに音声合成システムを導入しました。この音声合成システムは、日本語と英語の両方に対応し、老若男女のさまざまな声の強弱や活舌で音声コマンドを発することが可能です。このようにさまざまな声質による指示が車両システムで正確に認識される範囲を特定する必要がありました。
第3段階では、GPSシミュレータを導入しました。このGPSシミュレータは、日本各地のGPS座標に対応する模擬無線信号を生成するために使用されました。これにより、実際に現地に赴くことなく模擬評価を行うことができました。GPSシミュレータからの電波強度が変化しても、車両システムが正確に機能するかどうかを評価できるようにする必要がありました。つまり、この点も堅牢性を評価する要素です。重要な点として、この第3段階では、操作ロボットは一度に複数の場所にタッチまたはタップできるタイプに更新されました。
第4段階では、GPSシミュレータをアップグレードし、世界中で使用できるようにしました。さらに、音声合成システムにスペイン語のサポートを追加しました。さらに、Bluetooth信号アナライザと、セキュリティの脆弱性を検出するファジングテストツールを導入しました (図2を参照)。しかし、ここまでに述べたすべての機能を備えた自動テストシステムを設置するにはかなりのスペースが必要です。テストの利便性を向上させるために、このシステムを特定の機能ごとに分割することで、複数の小型のシステムとしました (図3および図4を参照)。
このようにして、マツダは、複数の電子部品を協調動作させた状態でそのロジック性と堅牢性の両方を自動的に評価するシステムを構築することに世界で初めて成功しました。先に述べたとおり、この自動テストシステムは、これまでにない完全に新しい概念に基づくものでした。しかも、非常に複雑で大規模なシステムでした。このシステムを実現できた背景には、いくつかの要因があります。
何よりもまず、マツダの電子実研グループの存在がありました。つまり、この成功には、マツダが社内にテストエンジニアリング専門のチームを設置していたことが大いに寄与しています。電子部品の評価技術が限界に近づくにつれ、テストエンジニアはその技術をどのように改革すべきかについて検討を迫られる可能性があります。このような複雑な課題に直面した場合、テストに関連する事柄の大部分を外部に委託したところで何の解決にもなりません。マツダでは、高い専門性を備えた社内チームが存在したため、実現可能なソリューションとそれに対応する実装方法を十分に検討することができました。したがって、こうした課題に対して主導的な役割を果たせる社内組織を持っていたことが成功に不可欠な要因でした。
もう1つの成功要因は、NI製品シリーズです。NIの強みの1つは、NIプラットフォームを中心としたエコシステムであり、これにはパートナー企業や関連企業が提供する互換性のある製品が含まれます。たとえば、マツダが構築したシステムには、ロボット、画像処理システム、音声合成システムなど、さまざまな要素が組み込まれていますが、これらの要素のすべてを単一の企業から入手するのは困難です。代わりに、さまざまな企業の製品から最適な要素を選択し、LabVIEWとその他のソリューションを使用してNIのHILシステムにすべての要素を統合しました。これが成功の鍵となり、実際にNIのエコシステムは大きな支えとなりました。当然ながら、必要に応じて、広く利用されているターンキー方式のソリューションを組み込むこともできます。ただし、これまでにないシステムを構築するという目的を考慮すると、NIのソリューションはマツダのこのニーズに最も合致していました。
さらに、NI製品は高性能でプログラミングの自由度も高く、このシステムの開発に最適でした。ハードウェアの性能として、サンプリング速度 (時間分解能) が高いことが重要な要件でした。このシステムでは、ロジックの検証にミリ秒オーダーの時間分解能が必要でした。一方、ノイズの影響は、マイクロ秒オーダーでサンプリングを実施しない限り、評価することができませんでした。そして、マイクロ秒オーダーでサンプリングを実施できる唯一の製品がNIハードウェアでした。さらに、NIハードウェアにはユーザがプログラミングすることが可能なFPGAが組み込まれていました。これほどまでに自由度を備えた製品は他に存在しませんでした。ターンキー方式のソリューションの場合、車両の世代が更新されるたびに完全に新しいシステムを購入し直さなければならない可能性が高いです。一方、NIのソリューションは柔軟性と持続性の両方を備えています。ほとんどのNIハードウェアは引き続き使用することができ、必要な調整は特定のモジュールの追加や変更のみです。将来のニーズに対応できることも、このシステムの大きなメリットです。
新しく開発されたシステムにより、多数の電子部品を協調動作させた状態でロジックの検証と堅牢性の評価を実施することが可能になります。そのようなシステムが以前に存在しなかったという事実により、私たちが達成した成果はなおさら驚くべきものとなります。さらに、さまざまな関連操作とさまざまなテストに対する結果判定を自動化することもできました。これにより、作業負荷が大幅に軽減され、大きなメリットが得られました。単一の電子部品の場合、手作業でテストを行う場合と比べてテスト時間が90%短縮されました。さらに、速度計などの計測器の表示をカメラで撮影し、その画像をマツダのシステムの自動評価機能で処理することにより、従来の方法と比べて必要な工数が90%削減されました。
2019年の時点で、以下のような事業成果が得られています。
1.サプライヤと共同で行うトラブルシューティングにかかる時間を短縮し、システムの試作品の品質を向上
共通の評価プラットフォームを使用して詳細なテスト条件を共有することで、トラブルシューティングの時間を短縮しました。
発生頻度が低い現象の再現時間を短縮しました。
テスト範囲をより包括的なものとすることができ、サプライヤが開発した試作品の品質が向上しました。
2. アップグレードに伴うコストを90%削減
マツダは、PXIボード (例: I/O、通信インタフェースボード) とPXIコントローラを交換するだけで、非常に円滑にシステムをアップグレードできるようになりました。従来のように、テストシステム全体を再構成したり、新しいターンキーを購入したりする必要はありません。その結果、既存のIVI評価機能にECU評価を追加することができました。テストにかかるコスト全体の観点から、NIプラットフォームを使用することでコストを約90%削減できたとマツダは推測しています。
3. 市場投入までの時間を短縮
従来、妥当性確認テストに割り当てられる期間は研究開発段階よりも短く、当然ながら、新規開発車の発売時期も定められています。そのため、テストエンジニアは、短期間で検証環境を構築し、テスト範囲をより包括的なものとする必要があります。NIプラットフォームを最大限に活用することで、マツダはこの課題を解決することができました。
マツダが最近開発したシステムは、徐々に進化していきます。現在は、このNI製品ベースのシステムを使用して、すべての電子部品を評価できるようにすることを目指しています。そのため、電子実研グループは現在、すべての電子部品を対象としており、その中にはパワートレインに関連する部品も含まれます。この新開発のシステム以前には、パワートレイン関連の部品はターンキーHILシステムを使用して評価していました。したがって、パワートレイン関連の部品は、現在のシステムでは対象外としました。
エンジンであろうと電子部品であろうと、マツダは今後も世界初のものを作り出していきます。また、車両部品のイノベーションが進むほど、テストのイノベーションも必要とされるため、マツダは引き続き評価プロセスの進化に取り組んでいきます。
足立智彦
マツダ株式会社
広島県安芸郡府中町
日本