階段昇ること可能車椅子、Scalevoプロジェクト開発

"LabVIEWmyRIO使用することで、身体障害自由移動可能にし、生活改善貢献する車椅子開発することできした。"

- Carlos Gomes, ETH Zürich, Project Scalevo

課題

車椅子の利用者が日常生活で直面する難所の1つに階段がある。古いビルや社会基盤の不十分な都市では、アクセシビリティの選択肢がほかにないので、特に不便である。

ソリューション

大学生のチームにより、安全に階段を昇ることができる車椅子を開発する。その車椅子では、折りたたんでいた2つのゴム製キャタピラを、あらゆる角度の傾斜に合わせて開けるようにする。また、平坦な場所では、2つの大きい車輪が自律的にバランスをとってSegway®(セグウェイ)のように動作するようにする。組込コントローラとしてmyRIOを使用し、車輪とキャタピラの2つのシステムを組み合わせることで、街中であればほぼすべての場所を自由に移動できるようにする。

制約ない移動実現

現代社会は、かつてないほどの人々の移動量によって成り立っています。それを支えているのは、自動車や自転車、電車、飛行機などです。しかし、人々は、身体障害者にとっては難所ばかりの社会であることに気づいていません。身体障害者にとっての基本的なニーズは、日常生活の中で、越えることのできない障害物をなくすことです。この問題を解決するために、段差を解消するためのスロープや、エレベータ、車椅子の昇降機といった高価な設備が導入されています。しかしながら、車椅子の利用者は、こうした設備の導入が急速に進んでいるとは思っていません。また、それらを利用する際には、人々の目が気になるとも言います。私たち(Scalevoチーム)は、こうした状況を改善したいと考えていました。

 

 

Scalevoチーム

Scalevoチームは、さまざまな人材で構成されています。スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校から8人(うち7人は機械工学部、1人は電気工学部の学生)、チューリッヒ芸術大学(ZHdK)デザイン学部から2人の学生が参加しています。プロジェクトを統括しているのは、ETHの自律システム研究室です。

 

ETHチューリッヒ校の学生:Carlos Gomes氏、Roman Käslin氏、Jonas Kühne氏、Dario Mariani氏、Milan Schilling氏、Ian Stähli氏、Miro Voellmy氏、Bernhard Winter氏

 

ZHdKの学生:Thomas Gemperle氏、Naomi Stieger氏

 

指導教員:Péter Fankhauser氏、Lehmann Daniel氏、Lennon Rodgers氏

 

ETHチューリッヒ校の学生は、1年間の集中プロジェクトの一環としてScalevoプロジェクトに参加しました。1年間のプロジェクトによって、教室での講義よりも実践的な開発作業を体験することができます。

 

大きな目標

上述したとおり、プロトタイプの開発に費やすことができる時間は1年間だけでした。電動車椅子は複雑で規模も大きいため、すべての作業を効率的に行う必要がありました。

 

機械系の作業が完了した後は、プログラムの開発を行う必要がありました。そのためには、効率的に開発を進められ、わかりやすい方法で記述できるプログラミング言語を選択しなければなりませんでした。多くの選択肢について調査した結果、このプロジェクトにはナショナルインスツルメンツ(NI)のLabVIEWが最適であると判断しました。機械系技術者の多くは、ほとんどプログラミングの経験がありませんでした。しかし、LabVIEWではグラフィカルなインタフェースを使用して開発が行えるので、短期間で使いこなせるようになりました。LabVIEWを採用した結果、与えられた期間内に開発を完了することができました。ほかのソフトウェア開発環境を採用していたとしたら、おそらく期間内に成果を出すことはできなかったでしょう。

 

 

機能デバイス

このプロジェクトで開発した車椅子は、よく知られた2つのシステムを1つのデバイスに組み込んでいます。起伏の多い場所ではゴム製のキャタピラがしっかりと地面をとらえ、平坦な場所では頑丈な車輪によって自由に移動することができます。

 

階段では、折りたたんであった2つのキャタピラが階段の角度に合わせて開きます。このキャタピラは階段用に特別に作られたもので、安全性を確保するために優れたグリップを備えています。車椅子が階段の最上段に達すると、椅子が落下しないように、2つの小さな車輪が後方に伸びます。

 

平坦な場所では、2つの大きな車輪でバランスをとります。これらの車輪によって、椅子はその場で回転したり、狭い空間を通ったりすることができます。myRIOは、IMU(慣性計測装置)とモータのエンコーダによって測定されたデータを受け取ります。それらの情報を使用し、myRIOは車椅子に組み込まれた倒立振子を制御して、2つの車輪だけで安全に動くようにします。目的地に着いたら、キャタピラと車輪を床まで下げて、安全に降りられるようにします。LabVIEWによって、このような複雑な移行動作を実現するプログラムを開発しました。

 

 

なぜ、LabVIEWmyRIOか?

当初から、このプロジェクトでは、時間が厳しい制約になることはわかっていました。LabVIEWを採用したことで、モータ制御の機能などを実現するプログラムを短期間で開発することができました。LabVIEWでは、グラフィカルインタフェースによって作業を進められるので、チーム全体が言語を迅速に習得することができました。そして、すぐにプログラムのチーム開発が行えるようになりました。また、LabVIEWを採用したことから、機能の共有や変更も容易に行うことができました。加えて、ハイライト表示機能によってデバッグ作業が大幅に効率化され、時間を節約することができました。さらに、シェア変数を使用することにより、タッチスクリーンからの入力を簡単に扱えるようになりました。

 

また、このプロジェクトを通じて、myRIOが非常に有用であることがわかりました。myRIOは小型な形状であることから、車椅子のフレームに安全に取り付けることができました。またmyRIOは、電子機器に必要なあらゆるインタフェースを搭載しています。さらに、myRIOが内蔵する無線LAN機能は、試作機の小型版をテストするときをはじめ、開発初期の段階で非常に役に立ちました。

 

まとめ

LabVIEWとmyRIOを使用することで、身体障害者の自由な移動を可能にし、生活の改善に貢献する車椅子を開発することができました。これらのツールによって、複雑なシステムの制御が行えるようになり、将来に向けて一歩前進することができました。次の段階では、より多くの目標を達成したいと考えています。

 

著者情報

Carlos Gomes
ETH Zürich, Project Scalevo
Leonhardstrasse 21
8092 Zürich
Switzerland
Tel: +41 78 742 20 51
gocarlos@ethz.ch

図1. Scalevoプロジェクトのメンバー
図2. 車椅子の外観
図3. 最終的な試作機