NI​の​SDR​を​活用​し、​5G​向け​OAM​多重​伝送​の​実証​実験​用​プラットフォーム​を​構築

"LabVIEW​や​USRP​から​なる​NI​の​SDR​製品​の​高い​開発​生産​性​を​活かす​こと​で、​自社​で​装置​を​一​から​設計​する​場合​と​比べ​て​約​1/4​程度​の​期間​で​実証​実験​用​の​プラットフォーム​を​開発​し、​期限​まで​に​重要​な​研究​成果​を​収める​こと​が​でき​た。」"

- 平​部 正司 氏, 日本​電気​株式会社​(NEC)

課題:

5G​において、​バック​ホール​の​伝送​容量​を​大幅​に​拡大​する​コア​技術​として、​OAM​モード​多重​伝送​技術​が​期待​を​集め​て​いる。​この​技術​の​有効​性​を、​実際​の​電波​伝搬​に​基​づ​い​て​実証​する​ため​の​実験​プラットフォーム​を​構築​する。​ただし、​その​プラットフォーム​は、​的​リソース​が​非常​に​限​ら​れ​た​中​で、​3​ヵ月​程度​の​期間​で​構築​する​必要​が​あっ​た。

ソリューション:

NI​の​LabVIEW​や​USRP​を​はじめ​と​した​SDR​製品​を​基​に、​ソフトウェア​で​機能/​仕様​を​定義​可能​な​柔軟性​の​高い​実証​実験​用​プラットフォーム​を​構築​する。​LabVIEW​の​開発​生産​性​の​高​さ​を​活かす​とともに、​計算機​シミュレーション​で​使用​した​信号​処理​スクリプト​を​LabVIEW​から​呼び出し、​過去​の​ソフトウェア​資産​を​再​利用​する​こと​で、​短期​開発​を​実現​する。

背景

5G(第​5 世代​移動​通信​システム)​の​実現​に​向け​て、​現在​は​世界中​の​企業、​団体、​機関​によって​実に​多様​な​活動​が​行​われ​て​いる​状況​に​ある。​5G​の​仕様​は​現時点​で​完成​し​て​いる​わけ​では​ない​が、​ピーク​時​の​データ​レート​は​20 Gbps(ギガ​ビット/ 秒)​の​レベル​に​まで​引き上げ​られる​と​見込​まれ​て​いる。​5G​に​向け​た​高速​通信​を​実現​する​ため​の​技術​として、​ミリ​波/ 準​ミリ​波​通信​や​Massive MIMO​など、​基地​局​と​端末​の​間​の​無線​アクセス​の​高速​化​を​志向​した​技術​が​広​く​認知​さ​れ​て​いる。​しかしながら、​この​よう​な​高速​通信​に​対応​する​に​は、​無線​アクセス​の​性能​を​高める​だけ​では​不十分​で​ある。​例えば、​基地​局​と​基幹​回線​を​結ぶ​バック​ホール​でも、​伝送​容量​を​大幅​に​拡大​する​必要​が​ある。​おそらくは、​数​十​Gbps​から​100 Gbps​の​レベル​が​求め​られる​ことに​なる​だ​ろう。​加​えて、​5G​では​4G​以前​より​も​高い​周波数​帯​を​活用​する​こと​など​を​背景​に、​従来​より​も​狭い​エリア​に​無線​アクセス​を​提供​する​スモール​セル​の​導入​が​検討​さ​れ​て​いる。​これまで​は​バック​ホール​回線​は​有線​接続​が​主​で​あっ​た​が、​多数​の​スモール​セル​を​空間​的​に​密​に​設置​する​場合、​設置​を​簡便​に​する​ため​に​バック​ホール​回線​も​無線​化​が​進む​と​目​さ​れ​て​いる。​つまり、​5G​の​導入​が​進​ん​だ​世界​において​は、​100 Gbps​クラス​の​無線​バック​ホール​技術​が​不可欠​と​なる。​この​こと​も​5G​が​抱える​課題​の​1​つ​なので​ある。

 

その​一方で、​通信​分野​では、​2010​年代​の​初頭​から​OAM(Orbital Angular Momentum:​軌道​角​運動量)​を利用した多重化技術に大きな注目が集まるようになった。​特に、​5G​の​無線​バック​ホール​の​大​容量​化​を​実現​する​手段​として、​この​技術​に​大きな​期待​が​寄せ​ら​れ​て​いる​ので​ある。​実際、​それに​向け​た​研究​を​推進​する​動き​が​国内外​で​加速​し​て​いる。​その​1​つ​が、​総務​省​の​主導​によって​展開​さ​れ​て​いる​研究​開発​プロジェクト​で​ある。​同省​は​重要​な​技術​テーマ​に​取り組む​企業/ 組織​を​募​って​資金​を​提供​する​こと​により、​電波​資源​の​拡大​に​向け​た​研究​開発​を​後押し​し​て​いる。​その​テーマ​の​1​つ​に、​「ミリ​波​帯​における​大​容量​伝送​を​実現​する​OAM​モード​多重​伝送​技術​の​研究​開発」​という​もの​が​ある。​そして、​この​プロジェクト​を​受託​した​の​が、​NEC​の​ワイヤレス​ネットワーク​開発​本部​で​ある。

 

当​部門​は、​移動​通信​システム​の​基地​局​や、​バック​ホール​で​使用​さ​れる​無線​システム​など​の​研究/ 開発​を​担​って​いる。​当​部門​として​も、​OAM​は​非常​に​有望​な​技術​だ​と​捉​え​てい​た。​OAM​を​利用​する​こと​で​ミリ​波​帯​に​対応​する​バック​ホール​の​多重​化​を​実現​できる​の​では​ない​か​と​考え、​2014​~​2015​年​くらい​から​本格​的​な​検討​を​進​め​てい​た。​当時​は​シミュレーション​など​を​ベース​と​した​机上​検討​を​行​って​い​た​の​だが、​ちょうど​よい​タイミング​で​総務​省​の​プロジェクト​を​受託​する​こと​が​でき​た。​この​プロジェクト​は、​机上検討から実機を用いた検討にまで歩を進められる良い機会だった。

 

 

では、​OAM​と​は​そもそも​どの​よう​な​もの​な​の​だ​ろう​か。​また、​それ​を​活用​する​こと​により、​何​が​可能​に​なる​の​だ​ろう​か。​以下、​これらの​点​について​説明​する。

 

従来​の​無線​通信​に​使​われる​電波​は、​平面​状​の​等​位相​面​を​備える。​それ​に対し、​OAM​と​呼ばれる​運動量​を​備え​た​電波​は、​そのため​に​設計​した​専用​の​アンテナ​を​使用​する。​アンテナ​の​設計​の​違い​に​応​じ、​螺旋​の​向き​や​螺旋​面​の​数​が​異なる​電波​(異なる​モード​の​電波)​を​生成​する​こと​が​可能​で​ある​(図​1)。​それら​異なる​モード​の​信号​は、​同じ​空間​で、​同じ​周波数、​同じ​時間​に​送信​さ​れ​た​場合​でも、​受信​側​で​元​の​信号​に​分離​する​こと​が​できる。​つまり、​無線​通信​の​多重​化​に​利用​できる​という​こと​で​ある。​しかも、​OAM​では​理論​上​は​モード​数​を​無限​に​拡張​できる​ことに​加​え、​それら​を​用​い​た​多重​化​技術​(OAM​モード​多重​伝送​技術)​は、​多値​変調​や​偏​波​多重​など​の​技術​と​組み合わせる​こと​も​可能​だ​と​さ​れる。​その​結果、​整数​倍​の​規模​で​周波数​の​利用​効率​を​高め​られる​と​考え​ら​れ​て​いる​ので​ある。

 

課題

今回​の​プロジェクト​は、​この​OAM​モード​多重​伝送​という​新た​な​技術​を​使用​し、​5G​に​対応​可能​な​バック​ホール​の​実現​を​目指す​という​もの​で​ある。​そのため​に​は、​以下のような仕様を満たすことが目標になった。

 

まず、​プロジェクト​の​最大​の​目的​は、​5G​で​必要​に​なる​伝送​容量​を​実現​する​こと​で​ある。​つまり、​最終​的​に​は​数​十​Gbps​~​100 Gbps の​伝送​容量​を​実現​する​こと​が​ターゲット​と​なる。​一方、​5G​では​スモール​セル​が​使用​さ​れる​ので、​バック​ホール​回線​の​通信​距離​は​短​く​て​済む。​そのため、​通信​距離​として​は​100 m 以上​という​目標​が​設定​さ​れ​て​いる。​ただ、​OAM​に​は、​長い​通信​距離​を​実現​する​ため​に​は​非常​に​大きな​アンテナ​が​必要​に​なる​という​課題​が​ある。​実用​的​な​大​きさの​アンテナ​を​使用​した​場合、​100 m​の​通信​距離​を​実現​する​こと​です​ら​必ずしも​容易​では​ない​の​だ。​結論​として、​実用​的​な​サイズ​の​アンテナ​で​100 m という​通信​距離​を​達成​する​に​は、​より​波長​の​短い​周波数​を​選択​する​しか​ない。​そこで、​ミリ​波​へ​の​対応​が​必要​に​なる。​この​プロジェクト​では、​ミリ​波​の​中でも​D バンド​(130 GHz ~ 174.8 GHz)​をターゲットとすることになった。​さらに、​総務​省​が​提示​した​基本​計画​では、​16 値​以上​の​多値​変調​方式​に​対応​した​4​多重​以上​の​OAM​モード​多重​伝送​技術​を​確立​する​とともに、​同​技術​と​偏​波​多重​の​併用​が​可能​で​ある​こと​を​実証​する​こと​も​求め​ら​れ​て​いる。

 

この​よう​な​目標​に対し、​プロジェクト​の​開始​時点​では、​そもそも、​現実​世界​における​OAM​伝送​の​挙動​を​十分​に​把握​でき​てい​ない​状態​に​あっ​た。​つまり、​実際​に​電波​を​使用​し​て​通信​を​行​って​み​て、​課題​を​抽出​しな​け​れ​ば​なら​ない​状況​だ​っ​た​という​こと​で​ある。​さらに、​D​バンド​に​実用​レベル​で​対応​する​デバイス​が、​その時点では存在しなかった。​したがって、​周波数​逓​倍​器​や​アンプ、​ミキサなどのデバイスの開発を待たなければ、​最終​的​な​目標​に​到達​する​こと​は​でき​ない。

 

上記​の​よう​な​状況​を​踏​ま​え、​この​プロジェクト​は、​2016​年度​から​の​4​年間で段階的に進められることになった。​2016​年度​に​は、​最初​の​ステップ​として、​机上検討の結果に基づき、​OAM​モード​多重​伝送​を​実際​の​電波​伝搬​の​下​で​行える​実験​プラットフォーム​を​構築​し、​この​伝送​技術​の​挙動​を​確認​する​ことに​した。​この​とき、​単なる​実験​装置​では​なく、​OAM​モード​多重​伝送​に関する​洞察​を​様々​な​角度​から、​かつ​効率​的​に​得る​こと​を​重視​し​て、​各種​の​実験​条件​に​柔軟​に​対応​可能​な​実験​プラットフォーム​を​構築​する​こと​を​重視​した。​また、​この​段階​では、​いきなり​ミリ​波​に​挑む​の​では​なく、​比較的​取り扱い​やすい​5 GHz​帯​を​使用​する​ことに​した。​また、​OAM​モード​の​信号​を​生成/ 分離​する​ため​の​アンテナ​として、​最大​8​つ​の​OAM​モード​の​多重​化​に​対応​できる​よう​に、​リング​状​に​8​個​の​アンテナ​素子​を​配列​した​アレイ​アンテナ​を​設計​する​こと​と​した。​さらに、​多値​変調​方式​として​は​16QAM(直交​振幅​変調)​を​採用​し、​偏​波​多重​も​組み合わせる​こと​で​16​多重​を​実現​し​て、​7 m​の​距離​で​伝送​を​行う​という​仕様​を​策定​した。​理論​上、​5 GHz​帯​を​用​い​た​7 m​の​伝送​は、​D​バンド​を​用​い​た​場合​の​100 m​の​伝送​に​相当​する​ため、​5 GHz​帯​で​の​7 m​の伝送を実証できれば、​数​十​Gbps ~ 100 Gbps​の​無線​バック​ホール​を​実現​する​上​で​の​重要​な​マイル​ストーン​の​ひとつ​と​なる。

 

技術​的​な​面​では、​この​よう​な​目標​を​設定​した​わけ​だが、​開発​チーム​は​もう​1​つ​の​大きな​問題​を​抱え​てい​た。​それ​は、​人的​リソース​が​非常​に​限​ら​れ​て​いる​なか​で、​短期間のうちに結果を出さなければならないというものだった。​それ​まで​に​も​事前​の​検討​は​実施​し​てい​た​の​だが、​実験​装置​の​開発​作業​に​実際​に​着手​でき​た​の​は​2016​年​9​月中旬だったが、​2017​年​3​月末には最初のステップを完了しなければならなかった。​開発​チーム​と​って​重要​な​の​は、​優​れ​た​実験​装置​を​開発​する​こと​では​なく、​実験​により​OAM​モード多重伝送の知見を得ることだった。​そこで、​一​から​設計​を​行い、​基板​を​起​こ​し​て​カスタム​の​実験​装置​を​構築​する​の​では​なく、​COTS(商用​オフザシェルフ)、​すなわち​市販​の​SDR(ソフトウェア​無線)​製品​を​組み合わせ​て​短期間​の​うち​に​必要​な​システム​を​実現​する​という​アプローチ​を​採用​する​ことに​した。​まずは、​OAM​による​伝送​を​実機​で​実現​し、​挙動​の​確認​が​行える​よう​な​状態​に​する​という​ことに​焦点​を​絞​っ​た​という​こと​で​ある。​市販​の​SDR を活用すれば、​無線​機​の​RF フロント​エンド​や​送受信​回路、​PC​など​と​の​インタフェース​といった​ハードウェア​を​自ら​設計​する​工数​を​削減​できる。​また、​変復調​や​ア​ダ​プ​テ​ィ​ブ​ア​レ​ー​信号​処理​など​の​各種​信号​処理​は​ソフトウェア​で​自由​に​設計​できる、​そのため、​実験​毎​に​異なる​固有​の​条件​は、​ソフトウェア​側​で​柔軟​に​対応​する​こと​が​可能​だ。

 

ソリューション/​効果

上述​した​よう​な​方針​の​下、​開発​チーム​は​実験​装置​を​構築​する​ため​の​市販​品​として​ナショナル​イン​ス​ツル​メンツ​(NI)​の​図​1. OAM​の​モード​の​例​SDR​製品​を​選択​し、​図​2​の​よう​な​実験​用​プラットフォーム​を​構築​した。​この​図​は、​その​ハードウェア​構成​を​示し​て​いる。​送信​側/ 受信​側​の​アレーアンテナ​と​キ​ャ​リ​ブ​レ​ー​ション​用​ネットワーク​の​部分​は、​それ​まで​の​研究​成果​を​導入​し​て​自社​開発​した​もの​を​使用​した。

 

アンテナ、​キ​ャ​リ​ブ​レ​ー​ション​用​ネットワーク​以外​の​部分​は、​NI​の​SDR​で​ある​「USRP RIO」​と​PXI(PCI eXtensions for Instrumentation)​製品​で​構成​さ​れ​て​いる。​図​の​よう​に、​送信​側​装置​(図​中​の​「Tx System」)、​受信​側​装置​(図​中​の​「Rx System」)​に​は、​USRP RIO​シリーズ​に​属する​SDR​で​ある​USRP-2944R​もしくは​USRP-2954R​が​それぞれ​8​台​ずつ​使用​さ​れ​て​いる。​この​とき、​1​台​の​USRP RIO​に​は、​それぞれ​2​チャンネル​ずつ​RF​送信/ 受信​機能​が​搭載​さ​れ​て​いる​ため、​USRP RIO​を​それぞれ​8​台​使用​した​送信​側​装置、​受信​側​装置​は、​ともに​16​チャンネル​の​RF​送信/ 受信​機能​を​持つ​こと​と​なる。​送信​側​装置、​受信​側​装置​の​それぞれ​において、​8​台​の​USRP RIO​は​PXIe-8374​インタフェース​を​介​し​て​PXIe-1085​シャーシに接続され、​同じく​PXI​シャーシに接続された​PXIe-8880​コントローラ​が​制御​これら​複数​の​USRP RIO​を​一括​制御​する。

 

アレーアンテナ​を​使用​し​て​OAM​モード​多重​伝送​を​行う​場合、​各​アンテナ​間​で​同期​を​確立​する​必要​が​ある​が、​単に​PXI​と​USRP RIO​を​接続​する​だけ​では​同期​は​確立​さ​れ​ない。​そこで、​送信​側​装置、​受信​側​装置​の​それぞれ​において、​PXIe-6674T​タイミング/ 同期​モジュール​と​OctoClock タイミング​信号​分配器​を​導入​し、​8​台​の​USRP RIO​の​間​で​同期​を​図れる​よう​に​した。

 

図​3​は​この​プラットフォーム​の​ソフトウェア​構成​を​示し​た​もの​だ。​各​ソフトウェア​は、​基本​的​に​グラフィカル​開発​プラットフォーム​「NI LabVIEW」​を​使用​し​て​実装​さ​れ​て​おり、​上述​の​PXIe-8880​コントローラ​上​で​実行​さ​れる。​また、​ソフトウェア​は、​図​4​に​示す​ユーザ​インタフェース​から​各種​制御​や​データ​の​可視​化​を​行える​よう​に​構築​さ​れ​て​いる。​この​よう​な​構成​により、​16 × 16​の​ネットワーク​による​多重​化​(8 OAM モード​× 2​偏​波)​を​実現​できる​よう​に​した。

 

NI​の​SDR​製品​を​選択​した​理由​の​1​つ​は、​開発​の​し​やす​さ​に​あっ​た。​他社​の​SDR​製品​の​場合、​SDR​製品​メーカー​は​一貫​した​ソフトウェア​開発​環境​を​提供​でき​て​いる​わけ​では​無​く、​各種​開発​環境​向け​の​ライブラリ​の​提供​に​留​ま​って​いる。​そのため、​ハードウェア​で​ある​SDR​とソフトウェア開発環境の統合性は十分に高いとは言えず、​この​統合​性​の​乏​し​さ​は​SDR​が​元来​持つ​開発​効率​という​魅力​を​損​ね​て​しまう​もの​で​ある。​一方、​NI​の​製品​で​あれ​ば、​ハードウェア​で​ある​USRP RIO​と​ソフトウェア​開発​環境​で​ある​LabVIEW​が​ひとつ​の​プラットフォーム​として​高度​に​統合​さ​れ​て​いる。​この​統合​性​は、​差し迫った期限までに実験プラットフォームを完成させ、​必要​な​結果​を​得る​上​で​重要​な​要素​で​あっ​た。

 

開発​の​し​やす​さ​という​意味​では、​もう​1​つ​重要​な​ポイント​が​あっ​た。​机上​で​の​検討​の​段階​では、​The MathWorks​社​の​「MATLAB」​を​使用​し​て​シミュレーション​用​の​コード​を​記述​し​てい​た。​それらの​コード​は、​LabVIEW​の​MATLAB​スクリプト​ノード​を​使う​こと​により、​LabVIEW​上​に​イン​ポート​し、​USRP RIO​を​用​い​た​無線​信号​の​生成​や​解析​に​そのまま​再​利用​する​こと​が​できる。​この点も大きな決め手になった。​他社​の​SDR​製品​の​中​に​も​MATLAB​へ​の​対応​を​謳う​もの​は​あっ​た​の​だが、​上述​の​よう​に​ハードウェア​と​ソフトウェア​の​統合​性​に​乏しい​問題​が​あっ​た。​今回、​MATLAB​で​記述​し​てい​た​の​は​図​3​の​ビームフォーマ​の​部分​で​ある。​それらの​コード​の​うち​中核​と​なる​部分​は​そのまま​再​利用​でき​た。

 

NI​の​製品​を​選択​した​もう​1​つ​の​理由​に、​スペック​の​高​さ​が​ある。​今回、​RF​信号​帯域​幅​として​は​100 MHz​が​必要​で​あっ​た。​USRP RIO​は​この​スペック​を​満​た​し​てい​た。​一方、​他社の製品はその半分くらいまでしか対応していなかった。​また、​マルチチャンネルに対応できるプラットフォームであったことも重要だった。​ソフトウェア​無線​製品​を​使​って​16 × 16​の​ネットワーク​構成​を​実現​する​の​は​必ずしも​容易​な​こと​では​ない。​しかし、​NI​の​製品​で​あれ​ば、​複数​の​USRP RIO​を​統合​し、​タイミング​同期​を​確立​する​ため​の​ハードウェア​が​用意​さ​れ​て​いる。​加​えて、​複数​の​USRP RIO​を​統合​した​マルチ​チャンネル​システム​向け​の​サンプル・​プログラム​が​提供​さ​れ​て​おり、​マルチ​チャンネル​システム​特有​の​複雑​さ​を​ある程度​解消​できる。​その​こと​が、​開発​期間​の​短縮​に​つながる​こと​は​間違い​ない。

 

現に、​今回​の​実験​に​向け​て​SDR​製品​の​選定​を​開始​した​時点​で、​NI​の​SDR 製品​を​使用​し​て​100​チャンネル​に​及ぶ​通信​システム​の​試作​事例​も​報告​さ​れ​てい​た​ため、​16 × 16​の​構成​を​実現​する​自信​を​持つ​こと​が​でき​た。

 

NI​の​製品​は、​開発​の​し​やす​さ​と、​優​れ​た​性能​の​両方​を​満​た​し​てい​た​という​こと​で​ある。​なお、​NI​製品​の​比較​の​対象​と​した​の​は、​いずれも海外メーカーの製品だった。​国内​では、​それらの​メーカー​の​製品​は​代理店​が​取り​扱​って​いる​の​だが、​サポート​面​に​不安​を​感じ​た。​NI​も​海外​の​メーカー​に​は​違い​ない​の​だが、​日本​法人​が​しっかり​として​おり、​サポート​も​十分​に​得​られる​と​考え​た。

 

NI​の​製品​を​選択​した​結果、​実験​用​プラットフォーム​を​3​ヵ月​程度​で​構築​する​こと​が​でき​た​(図​5)。​開発​期間​が​3​ヵ月​という​の​は、​良い意味で非常に大きなインパクトだった。​自社​で​ハードウェア/ ソフトウェア​の​開発​を​行う​と​なる​と、​おそらく​その​4​倍​くらい​の​時間​が​かかる​と​考え​られる。​もちろん、​自社​開発​の​場合、​性能/ 精度​の​面​で​最適​化​した​もの​を​実現​できる​の​だが、​その​アプローチ​では、​時間​的​な​面​で​目標​を​達成​する​の​は​不可能​だ​っ​た​はず​だ。

 

また、​実験​の​過程​では、​受信​側​で​の​OAM​多重​信号​の​分離​処理​について​何​度​か​変更​を​加える​機会​が​あっ​た。​その​際​に​は、​プラットフォーム​自体​は​そのまま​で、​MATLAB​の​コード​だけ​修正​し​て​イン​ポート​し​直す​という​方法​で​対応​でき​た。​つまり、​開発​チーム​にとって​使い​やすい​実験​用​プラットフォーム​を​構築​し、​当初​想定​し​てい​た​とおり​の​こと​を​実現​する​こと​が​でき​た。​なお、​LabVIEW​による​ソフトウェア​の​実装​は、​NI​の​パートナー​企業​で​ある​ドルフィン​システム​が​担当​した。​工数​の​問題​の​解決​に対して、​NI​の​エコ​システム​が​有効​に​働​い​た​と​言える。

 

この​よう​な​実験​用​プラットフォーム​を​利用​する​こと​により、​2016​年度​の​目標​として​設定​した​仕様​を​満​た​し​つつ、​OAM​を​利用​した​多重​伝送​を​具現​化​する​こと​が​でき​た​(図​6)。​すなわち、​OAM​に​は、​16​多重​を​実現​可能​な​ポテンシャル​が​ある​こと​を​確認​でき​た​という​こと​で​ある​(図​7)。​また、​OAM​を​利用​した​伝送​の​挙動​を​確認​し​て​課題​を​抽出​する​こと​で、​多く​の​知見​が​得​ら​れ​た​と​考え​て​いる。​プラットフォーム​の​開発​後、​残り​の​3​ヵ月​で​実験​を​行い​レポート​を​まとめる​こと​で、​初年度​の​ステップ​を​完了​させる​こと​が​でき​た。

 

この​プロジェクト​では、​すべて​を​自社​で​開発​する​の​では​なく、​市販​の​SDR​製品​を​活用​する​手法​を​選択​した。​最終​的​な​製品​の​開発​について​は​別​だが、​いわゆる、​原理​検証​や、​何らかの​方式​の​性能​検証​といった​用途​では、​SDR​を​用​い​た​アプローチ​が​効果​的​な​ケース​が​ある​ことに​間違い​は​ない。​つまり、​目的​を​明確​に​した​うえ​で​適切​な​選択​を​行​え​ば、​通信​分野​だけ​で​なく、​車載​分野​や、​航空​宇宙​分野​など​で​無線​技術​に​携​わ​って​いる​企業​や​研究​機関​も​メリット​を​享受​できる​可能性​が​ある。​例えば、​研究​分野​では、​シミュレーション​を​ベース​と​する​机上​検討​まで​しか​行​われ​ない​ケース​が​少​なく​ない。​しかし、​このようなソリューションを活用すれば、​実機​の​システム​を​迅速​に​構築​し、​現実​の​世界​で​検証​を​行う​こと​が​可能​に​なる​という​こと​で​ある。

 

今後​の​展開

最初​の​ステップ​として、​OAM​による​伝送​の​課題​を​抽出​する​こと​が​でき​た。​次​の​段階​として、​現在​は​それらの​課題​の​対策​を​考え​たり、​ミリ​波​へ​の​移行​を​進​め​たり​し​て​いる​状況​に​ある。​ただ、​最初​から​D​バンド​へ​の​対応​を​図る​の​は​難易度​が​高​すぎる。​そこで、​まずは​実績​の​ある​80 GHz​帯​を​使用​した​40 m​の​伝送​に​取り​組​んで​いる。​最終​的​に​は、​150 GHz​帯​を​使用​し、​100 m​の​通信​距離​で​OAM​を​利用​した​多重​伝送​を​実現​する​こと​が​プロジェクト​の​ゴール​に​なる。

 

伝送​容量​ついては、​数​十​Gbps​の​レベル​の​結果​を​得て​いる​例​も​ある。​ただ、​その​場合​の​伝送​距離​は​2 m​程度が最長だった。​開発​チーム​が​達成​した​7 m​という​通信​距離​は​現時点​では​世界​初​の​例​では​ない​だ​ろう​か。​上述​の​よう​に、​今回行った​5 GHz​帯​で​7 m​の​伝送​実験​は、​150 GHz​帯​で​実用​的​名​サイズ​の​アンテナ​を​用​い​て​100 m​の​伝送​を​実現​する​こと​を​想定​した​ス​ケ​ー​リング​モデル​だ。​つまり、​今回​の​実験​により、​最終​目標​を​実現​できる​可能性​を​示す​こと​が​でき​た​と​言える。​なお、​数​十​Gbps​~ 100 Gbps​の​伝送​容量​について​は、​今後​モデム​の​LSI​開発​が​進​め​ば​達成​できる​はず​だ。

 

当社​として​の​目標​は、​5G​で​要求​さ​れる​バック​ホール​の​要件​を​満たす​こと​だ。​ただ、​5G​に​限​ら​ず​大きな​伝送​容量​が​必要​な​用途​が​あれ​ば、​OAM​技術​によって​ニーズ​を​満たす​こと​が​できる​可能性​も​ある​だ​ろう。

 

著者​情報:

平​部 正司 氏
日本​電気​株式会社​(NEC)
​Japan

図​1. ​OAM​の​モード​の​例
図​2. ​実験​用​プラットフォーム​の​ハードウェア​構成
図​3. ​LabVIEW​で​実装​した​ソフトウェア​の​構成
図​4. ​LabVIEW で​構築​した​ユーザ​インタフェース。​(a) は​送信​側​装置​向け、​(b) は​受信​側​装置​向け
図​5. ​実験​用​プラットフォーム​の​外観
図​6. ​電波​暗室​で​行​われ​た​実験​の​様子
図​7. ​実験​結果​と​シミュレーション​結果​の​比較