NI​製品​によって、​実験​設備​の​状態​監視​に​使用​する​IoT​システム​を​構築

幾​田 直樹, 株式会社​SUBARU

"構築​する​システム​は、​試験​設備​の​自動​運転​も​想定​し、​24​時間​365​日​稼働​する​必要​が​ある。​また、​将来​を​見越し​て、​チャンネル​が​容易​に​拡張​できる​柔軟性​も​重要​視​し​てい​た。"

- 幾​田 直樹, 株式会社​SUBARU

課題:

ガソリン​など​の​危険​物​を​扱う​環境​で、​試験​者​が​安心・​安全​に​実験​を​行う​ため​の​システム​を​構築​する。​その​システム​は、​温度​や​CO、​HC(Hydro Carbon:​炭化​水素)、​漏液など各種センサを連携させ、​危険​な​状況​を​多面​的・​総合​的​に​検知​し、​未然​に​事故​を​防止​する​もの​でなければ​なら​ない。​また、​離れ​た​場所​から​でも、​関係​者​が​状況​を​正確​に​把握​し、​迅速​に​駆​け​つけ​対応​を​行える​よう、​IoT​ベースのシステムが求められた。

ソリューション:

CompactRIO​や​Single-​Board RIO​など​の​NI​製品​を​採用​する​こと​で、​柔軟性​が​高​く、​多種​多様​な​センサ​を​連携​可能​な​状態​監視​用​の​システム​を​構築​する。​遠隔​地​の​ユーザ​向け​の​ウ​ェ​ブ​アプリケーション​は、​LabVIEW​に​用意​さ​れ​て​いる​標準​関数​を​使用​し​て​構築​する。

作成​者:

幾​田 直樹 - 株式会社​SUBARU
​小山 貴​憲 - 株式会社​SUBARU
​大野 智紀 - 株式会社​ペ​リ​テック

 

背景

SUBARU​では、​ここ​数​年​の​間​に​ハイブリッド​車​が​製品​ライン​アップ​に​加わる​など、​開発​する​車​の​種類​が​増え​て​きた。​それに​伴​い、​性能​試験​の​内容​や​計測​方法​の​多様​化​が​進​んで​いる。​これらの​多様​化​に​対応​する​ため​に、​試験​設備​の​新規​導入​は​もちろん​の​こと、​既存​の​設備​について​も、​空調​など​付帯​設備​の​更新​が​必要​と​なる​場合​が​ある。

 

SUBARU 第二​技術​本部 パワー​ユニット​研究​実験​第四​部 パワー​ユニット​実験​設備​課​は、​「この​よう​な​試験​を​行​いたい」​という​ユーザ​から​の​要望​を​受け​て、​新規​設備​の​導入​を​行う。​また、​既存​の​設備​の​保守​など​を​実施​する​役割​も​担​って​いる。​これらの​既存​設備​に対し、​最新​の​通信​インターフェース​や​ソフトウェア・​ハードウェア​を​追加​する​こと​で​有用​な​仕組み​を​構築​した​り、​効率化を図ったり、​働き​方​を​改善​した​り​する​など​の​後押し​も​行​って​いる。

 

 

課題

自動車​の​心臓​部​とも​言​われる​エンジン​の​開発​工程​では、​さまざま​な​試験​が​行​われる。​そのため​の​設備​の​ひとつ​に、​エンジン​ベンチ​が​挙​げ​られる。​そこで​は、​エンジン​単体​に​ダイナモ​メータ​(動力​計)​を​接続​し、​回転​数​や​トル​ク​を​計測​する​試験​が​行​われる。

 

エンジン​ベンチ​で​の​試験​に​は、​ガソリン​を​はじめ​と​した​危険​物​を​取り扱う​性質​上、​程度​の​差​こそ​ある​ものの​火災​の​リスク​が​常に​付きまとう。​SUBARU​では、​第​一種​危険​物​取扱​所​で​の​災害​を​未然​に​防ぐ​ため、​温度​センサ​による​火災​報知​設備​や​消火​設備​は​もちろん、​目​に​見え​ない​CO​の​濃度​を​測定​器​で​確認​する​など、​安全​性​の​確保​に​向け​た​取り組み​を​従来​から​行​って​い​た。​しかし、​自主​保安​は​個別​の​試験​室​ごと​に​設け​ら​れ​て​おり、​統括的ではなかった。​加​えて、​万が一​火災​報知​設備​が​作動​した​場合​に​は、​社内​だけ​では​なく、​近隣​の​住民​に​も​多大​な​迷惑​を​かける​可能性​が​ある。​そこで、​所内​すべて​の​エンジン​ベンチ​に、​統括​管理​が​可能​な​安全​監視​システム​を​導入​しな​け​れ​ば​なら​ない​と​考え​た。

 

その​システム​に​は、​火災​報知​が​発​報​する​前段​で​異常​を​検知​し、​人と設備の安全を確保する仕組みが求められた。

 

 

ソリューション/​効果

図​1​に​示し​た​の​は、​システム​の​構成​図​で​ある。​図​の​白い​枠内​が、​ダイナモ​メータ​(動力​計)​が​配備​さ​れ​た​実験​室​に​相当​する。​黄色の網掛け部分は計測室と呼ばれ、​ここ​に​試験​者​が​駐在​し​て​いる。​実験​室​に​は、​試験​の​対象​と​なる​エンジン​(E/​G)​など​が​あり、​その​先に​ダイナモ​メータ​(動力​計)​が​接続​さ​れ​て​いる。​エンジン​に対して​は​外部​の​燃料​タンク​から​配管​を​介​し​て​給油​が​行​われる。​エンジン​から​の​排気​ガス​は、​建屋​の​空調​で​吸​い​上げ​て​室外​に​排出​さ​れる。

 

この​実験​室​に​は、​危険​を​多面​的・​総合​的​に​検知​する​ため​に、​複数​種類​の​センサ​を​配備​する。​まず、​ガソリン​が​室内​に​漏れ​てい​ない​か​どうか​を​検知​する​ため​の​HC​計​や、​排気​ガス​による​CO​の​充満​を​検知​する​ため​の​CO​計​が​必要​で​ある。​次に、​漏​液​センサ​により​ガソリン​や​エンジン​オイル、​クーラント​(冷却​水)​など​が​床​面​に​こぼれ​てい​ない​か​を​測定​する。​熱電​対​で​室内​温度​を​モニタリング​し、​さらに​炎​センサ​も​配備​する。

 

これらの​センサ​群​から​の​信号​は、​図​中​に​水色​で​示し​て​いる​「EDM(エンジン​ベンチ)​安全​監視​中継​制御​盤」​に​集約​さ​れる。​この​制御​盤​は​各​計測​室​に​1​台ずつ配備され、​異常​を​検知​した​際​に​は、​計測​室​に​駐在​し​て​いる​試験​者​に​パトライト​と​ブザー​で​知らせ、​さらに、​事故​を​防止​する​ため、​ダイナモ​用​の​操作​盤​に対して​インター​ロック​信号​を​送信​する。​この信号を受け取ったら、​操作​盤​は​2​つ​の​処理​を​行う。​ひとつ​は​エンジン​ベンチ​を​安全​に​停止​させる​処理​で​あり、​もう​ひとつ​は​ガソリン​供給​の​ため​の​燃料​配管​につけ​ら​れ​た​電磁​弁​を​止める​処理​で​ある。​なお、​センサ​で​計測​さ​れる​現在​値​を​確認​し、​しき​い​値​を​変更​できる​よう、​各​計測​室​に​は​タッチ​パネル​型​の​モニタ​も​配備​さ​れる。

 

各​実験​棟​に​は、​実験​室/​計測​室​が​約​10​部屋​ずつ​設け​ら​れ​て​いる。​そして、​各​実験​棟​の​入り口​に​は​「実験​棟​安全​監視​用​PC」​が設けられ、​どの​部屋​で​異常​が​起​き​て​いる​の​か​を​把握​する​こと​が​できる。​また、​この​PC​に​は​感​震​計​(ビブコン)​を​接続​し、​震度​5​以上​の​揺れ​を​検知​した​場合​に​は、​棟​内​の​すべて​の​EDM(エンジン​ベンチ)​安全​監視​システム​より​インター​ロック​信号​が​送信​さ​れる。​現在​値​の​表示、​データ​の​一定​期間​保存​により、​後​の​解析​に​役立てる。​CO​濃度​や​温度​履歴​により​試験​条件​と​空調​能力​の​相関​を​取る​こと​など​が​可能​だ。​さらに、​実験​棟​安全​監視​用​PC​は社内ネットワークに接続され、​各​実験​棟​の​状態​が​正常​で​ある​か​否​か、​管理者​他​が​居室​に​い​て​も​確認​できる​よう​に​する。​各人​の​PC​から、​Web​ブラウザ​を​用​い​て​図​2​の​よう​な​画面​を​確認​し、​問題​が​あれ​ば​現場​に​駆けつける​といった​対応​を​図る​こと​を​可能​と​する。

 

 

上述​した​構想/​方針​を​基​に、​具体​的​な​設計/​実装​を​担​っ​た​の​が​ペ​リ​テック​で​ある。​同社​は​計測・​試験​システム​の​開発​に​特​化​した​システム​イン​テグ​レ​ータ​で​あり、​NI​の​プラチナ​ア​ライアン​ス​パートナー​で​ある。​同社​は、​本​システム​システム​に​要求​さ​れる​事項​を​整理​し、​実現方法の検討を進めていった。

 

まず、​本​システム​は​IoT(Internet of Things)​を​活用​した​非常​に​大規模​な​システム​と​なる​こと。​次に、​ハードウェア​に​堅牢​性​を​有​し、​24​時間​365​日​の​稼働​に​耐え​られる​こと。​第三​に、​データ​の​保存​方法​や​UI​など​の​面​で、​ソフトウェアについては既製品では要件を満たせず、​新規​に​構築​する​必要​が​ある​こと。​さらに、​仕様​が​随時​ブラッシュ​アップ​さ​れる​こと​も​想定​さ​れ​た​ため、​初期​の​ハードウェア​構成​に​縛​られる​こと​なく、​プログラム​を​更新​する​だけ​で​スピーディ​に​機能​を​改変​できる​よう​な​柔軟性​も​備え​て​いる​こと。

 

同社​は​NI​製品​を​はじめ​と​する​様々​な​計測​器​を​熟知​し​て​おり、​その​中​で​この​よう​な​ニーズ​に​最も​見合う​の​は​NI​製品​で​ある​と​結論​付け​た。​この結論に基づき、​システム​の​構成​要素​を​NI​製品ベースで選定していった。​まず、​多種​多様​な​センサ​が​接続​さ​れる​EDM(エンジン​ベンチ)​安全​監視​中継​制御​盤​に​は、​「CompactRIO」​を​使用​する​ことに​した。​計測​室​に​駐在​する​試験​者​が​使用​する​システム​の​入出力​装置​として、​NI​製​の​タッチ​パネル​を​採用​した。​さらに、​感​震​計​の​部分​に​は​「Single-​Board RIO」​を​採用​した​(図​3、​図​4)。​センサ​として​は​各​メーカー​の​防​爆​仕様​の​製品​を​用​い​た。​これらの​要素​を​組み合わせ​て、​安全​性​の​確保​を​目的​と​した​状態​監視​システム​を​構築​した。​この​プロジェクト​に​は​2015​年​に​着手​した。​構想​段階​を​経​て、​2015​年​5​月​から​ペ​リ​テック​が​設計/​実装​を​行い、​同年​10​月​に​は​システム​が​完成​し​てい​た。​実装​に​か​か​っ​た​期間​は​約​2​ヵ月​ほど​で​ある。​システム​開発​環境​「LabVIEW」​を​使用​し​て、​プラチナ​ア​ライアン​ス​パートナー​で​ある​ペ​リ​テック​が​開発​する​こと​で、​この​よう​な​短期間​で​の​システム​実現​が​可能​に​な​っ​た​ので​ある。​また、​今回​の​システム​の​機能​の​ひとつ​で​ある、​遠隔​地​から​の​モニタリング​は、​専用​の​ソフトウェア​を​インストール​する​こと​なく、​不特定​多数​の​人​が​利用​できる​よう​に​する​必要​が​あっ​た。​すなわち、​社内​ネットワーク​に​接続​さ​れ​て​いる​任意​の​PC​上​で、​ウェブブラウザ​を​使​って​URL​を指定するだけで利用できるようにしなければならなかった。​この​よう​な​ウェブベース​の​アプリケーション​に​必要​な​機能​も、​LabVIEW​では​すべて​標準​関数​として​提供​さ​れ​て​いる。​そのため、​LabVIEW​という​単一​の​プラットフォーム​上​で​すべて​の​ソフトウェア​を​構築​する​こと​が​でき​た。

 

NI​以外​の​ベンダ​の​製品​を​使​って​システム​を​構築​する​こと​も、​もちろん不可能ではなかった。​しかし、​NI​製品​を​使用​した​ほうが​システム​を​シンプル​に​構築​できる。​例えば、​EDM(エンジン​ベンチ)​安全​監視​中継​制御​盤​では、​CompactRIO​を​使​って​データ​収集​用​の​システム​を​組み込み、​その​先に​は​操作​用​の​タッチ​パネル​を​直接​接続​し​て​いる​(図​5)。​仮に​この​構成​に​他社​製​の​PLC(Programmable Logic Controller)​を​使用​した​と​すると、​PLC​に​データ​の​表示​や​操作​を​行う​ため​の​PC​を​接続​し、​それ​を​ユーザ​が​操作​する​といった​形​に​なる。​システム​の​主要​な​構成​要素​を​NI​の​製品​で​統一​し、​フロント​機能​を​ア​ライアン​ス​パートナー​で​ある​ペ​リ​テック​に​集約​した​点​も​メリット​の​1​つ​で​ある。​さまざま​な​メーカー​の​ハードウェア​や​ソフトウェア​を​寄せ​集め​た​構成​だ​と、​トラブル​が​発生​した​とき​に、​エンド​ユーザ​が​問題​箇所​の​切り分け​を​行う​か、​あるいは​構成​要素​を​提供​する​全て​の​メーカー​に対して​調査​を​依頼​する​か​の​対応​が​必要​と​なる。​可能​な​限り​シンプル​な​構成​と​する​こと、​パーツ​ベンダ​の​数​を​少​なく​抑える​こと、​フロント​機能​を​ひとつ​の​企業​に​集約​する​こと​で、​MTTR(平均​復旧​時間)​を​最小限​に​抑え​られる​と​考え​た​ので​ある。

 

 

今後​の​展開

開発​した​システム​は、​60​ヶ所​以上​の​実験​室/​計測​室​に​配備​する​予定​で​ある。​現在​は、​そのうち​半数​ほど​の​作業​が​完了​した​段階​に​ある。​SUBARU​は、​現状​こそ​エンジン​ベンチ​を​主​な​設置​対象​として​いる​が、​無人​運転、​自動​運転​の​進展​に​合わせ、​すべて​の​試験​設備​を​導入​対象​と​する​こと​を​考え​て​いる。​SUBARU​の​構想​を​NI​の​製品​と​プラチナ​ア​ライアン​ス​パートナー​の​技術​と​で​実現​した​本​システム​は、​効率​化​と​安全​性​の​両立​に​は​欠​か​せ​ない​仕組み​だ。​安全​を​監視​「し​続ける」​性質​上、​一度​導入​し​て​稼働​し​始め​た​後​も、​その​クオリティ​を​維持​し​ながら​稼働​し​続ける​こと​が​重要​で​ある。​また、​運用​する​中​で、​構想時には想定しきれなかった、​チャンネル​拡張​等​の​機能​追加​要望​も​発生​し​うる。​その​際​に​は、​システム​を​構成​する​NI​の​プラットフォーム​が​有する​柔軟性​と、​それ​を​最大限​活用​できる​ア​ライアン​ス​パートナー​の​技術​が​あれ​ば、​将来​にわたり​新た​な​要望​に​も​対応​できる​はず​だ。

 

著者​情報:

幾​田 直樹
株式会社​SUBARU
​東京​都​三鷹​市 181-8577
​Japan
ikuta.naoki@subaru.co.jp

 

図​1. ​システム​の​構成​図
図​2. ​各​部屋​の​状態​を​表示​する​画面
図​3. ​EDM(エンジン​ベンチ)​安全​監視​中継​制御​盤
図​4. ​感​震​計​ユニット
図​5. ​タッチ​パネル​で​操作​可能​な​制御​用​ソフトウェア