NIのPXI組込コントローラは、PXI Express (PXIe) 計測システム向けに、高性能かつコンパクトなシャーシ内組込コンピュータソリューションを提供します。PXI組込コントローラは、外部PCなしでPXIシステムを実行するために必要なすべての機能を備えており、PXIシステム内のすべての計測器の中央処理および制御ハブとして機能します。本書では、信頼性の高い高性能コントローラの実現を可能にするNI製品の機能についてご説明します。
NIは、25年以上にわたってPXI組込コントローラを発売してきました。同社は、IntelやAdvanced Micro Devices (AMD) などの主要プロセッサメーカーと緊密な協力関係を築いてきました。たとえば、NI (Emerson Test & Measurement) は、Intel Partner AllianceのTitaniumメンバーであり、最新のIntel製品ロードマップとサンプルにアクセスすることができます。このような関係から、NIは新しいPXI組込コントローラをリリースする際、主要なコンピュータメーカーが自社製品に使用しているのと同じデスクトップCPUを使用します。この傾向は、Intel Core i7やXeonプロセッサなどの最新技術を活用した高性能なPXI組込コントローラを計測業界に提供するという、NIの設計技術と取り組み姿勢を示しています。また、コンピューティング性能に加えて、I/O帯域幅も計測システムの設計において重要な役割を果たします。最新のテストおよび測定システムがより複雑になるにつれて、計測器とシステムコントローラの間でより多くのデータを交換する必要性が高まっています。PCI Express (PCIe) とPXI Express (PXIe) の導入により、NIの組込コントローラはそのようなニーズを満たせるようになり、PXI Expressシャーシのバックプレーンに最大24 GB/秒のシステム帯域幅を提供できるようになりました。
図1: 18コアIntel Xeonプロセッサを搭載したNI PXIe-8881組込コントローラは、高性能、高スループット、演算負荷の高いテストや計測用途に最適
PCI Express規格がPCI Express 3.0に進化したことで、PXI Expressでも新しい機能を活用しています。NI PXIe-8881組込コントローラは、PCI Expressの最新技術の採用により、X8 1つとX16 1つのGen 3 PCI Expressリンク経由でPXIシャーシのバックプレーンと通信できます。
NI PXIe-8881組込コントローラをNI PXIe-1095などのPXI Expressシャーシと併せて使用すると、システムの総データスループットは24 GB/秒となります。このような高帯域幅が実現できるため、次世代ワイヤレス通信の設計と試作、およびRF記録/再生など、高スループットのデータレートが求められる演算負荷の高いアプリケーションに容易に対応することができます。
テスト、計測、制御アプリケーションのニーズの発展に伴い、最大限の性能を実現するため、NIはPXI組込コントローラのアクセサリ製品ラインナップを拡張しています。メモリを多用するアプリケーション向けに、NIは最大64 GB RAMまで対応可能な組込コントローラのメモリアップグレードオプションを提供しています。
NIでは、メモリアップグレードオプションだけでなく、ハードドライブのアップグレードオプションも提供しています。高容量の標準ハードディスクドライブ (HDD) から、ソリッドステートドライブ (SSD) まで取り揃えています。アプリケーション上で計測データを保存する際は、組込コントローラのオンボードHDDに保存するのが便利です。必要なデータを全て保存できるように、NIは標準HDDを大容量のHDDにアップグレードするオプションをご用意しています。
テスト/計測システムを機密領域に実装するには、これらのシステムに、関連する機密解除プロセスを持たせる必要が発生する場合がよくあります。PXIシステムの機密解除には、シャーシ、コントローラ、モジュールといったシステム内の全てのメモリコンポーネントの知識が必要です。PXI組込コントローラには、ハードドライブ、またはフラッシュドライブの形で不揮発性ストレージが搭載されています。これによって、システムの電源を切った後でもユーザとシステムの情報が維持されます。不揮発性ストレージはPXI組込コントローラが動作するのに必要なため、取り外し可能なハードディスクドライブ (RHDD) が付いたNI PXIe-8862では、このストレージメディアを取り外して、安全な環境に配置することが可能です。さらに、NI PXIe-8862 RHDD組込コントローラは、同一のステーションハードウェア上に個別のソフトウェアイメージを読み込む機能を追加しています。
図2:取り外し可能ストレージオプションでは、フロントパネルからアクセス可能なハードドライブキャリアを介してハードドライブに簡単にアクセス可能
過酷な環境でコントローラを使用したりデータを保存したりする場合は、SSDもご利用いただけます。可動部品がないため、機械的な故障のリスクが大幅に低減され、システムの信頼性が向上します。強い衝撃、高標高や振動など、厳しい動作環境に対する耐久性にも優れています。SSDには、厳しい動作環境に対する優れた耐久性および信頼性のほかにも、読み取り/書き込み時間が標準のハードディスクドライブに比べて短いというメリットがあります。したがって、順次およびランダム読み書き速度が向上します。SSDを使用するアプリケーションは、ロード時間が短縮され、ファイルI/Oの高速化により全体のテスト時間も短縮されます。
過酷な動作環境であっても、最新の計測システムの信頼性を高く保つことは極めて重要です。そのためNIのPXI組込コントローラは、温度拡張バージョンと24時間365日稼働バージョンをご用意しています。これらの組込コントローラには、低温から高温までの過酷な環境でも高い信頼性を発揮するよう設計された堅牢なハードドライブが採用されており、100%デューティサイクルおよび24時間365日の連続運転に対応しています。これらの組込コントローラの標準バージョンで使用されているこのハードドライブは、5℃~50℃の温度範囲で動作し、PCやノートパソコンと同様に、1日あたり8時間、1週あたり5日の20%のデューティサイクルで動作できます。使用温度範囲を拡張した24時間365日稼働バージョンの動作温度範囲は0℃~55℃で、最大100%のデューティサイクル(24時間365日稼働) の連続動作が必要なアプリケーションに使用できます。特に過酷な環境においてシステム全体の信頼性をさらに向上させるために、回転式ハードドライブの代わりにソリッドステートドライブを選択することもできます。NIによるこの独自の設計配慮により、より厳しい用途にもPXIベースの計測器を展開することが可能です。
PXI組込コントローラは、常に市場で最新のプロセッサを搭載しています。あらゆる動作範囲にわたって組込コントローラが最大限の性能を発揮できるよう、NIでは温度、機械、電気テストを徹底して行っていますので、NI PXI組込コントローラのCPUは過酷な環境でも性能が低下しません。CPUが適切な性能と信頼性を発揮することで、PXIシステム全体の信頼性が向上します。NIが組込コントローラ開発の専門技術を活用し、高度な設計シミュレーションやカスタムヒートシンクといったテクニックを適用することで、このような製品が実現しています。
確定性を維持し、高い信頼性を実現するため、NIは、標準のWindows OSではなく、リアルタイムOS、NI Linux Real-TimeおよびNI LabVIEW Real‐Timeモジュールソフトウェアを実行するPXI組込コントローラを提供しています。Windowsをはじめとする汎用OSを搭載したシステムでは、一定の時間内に特定のタスクが終了する保証はありません。それは並列実行している他のシステムプロセスとプロセッサを共有しているためです。NI Linux Real-Time搭載の組込コントローラなら、プロセッサが全て特定のアプリケーションの実行専用に使われているため、確定性に優れた信頼性の高い動作が保証されます。
万が一組込コントローラのハードウェアに不具合が発生した場合でも、NIの組込コントローラはハードドライブやメモリといった重要コンポーネントを現場で即座に交換できる設計となっています。しかも保証には影響しません。ソフトウェアの誤動作からすばやく回復するため、NIのWindows搭載PXI組込コントローラには、ハードドライブの出荷時のイメージを保持する非表示のパーティションがあります。このイメージを使用して、コントローラを工場出荷時の状態にすばやく復元できます。最新のコントローラなら、デフォルトの工場出荷時イメージではなくハードドライブのカスタムイメージを作成して、ソフトウェアのクラッシュ時の復元用に使用することができます。これらのNI PXI組込コントローラの機能により、システムのダウンタイムが短縮され、PXIベースの自動テストや計測システムの生産性を最大限に高めることができます。
システム復旧とともに、PXI組込コントローラの保守性を向上させるために、ハードドライブおよびメモリ用の内蔵ROM診断ツールをすぐに利用できます。他社製のツールは必要ありません。これらの診断を実行することによって、ハードドライブやメモリの交換が必要かどうかを判断できます。したがって、コントローラの設計時、ハードドライブやメモリといった重要なコンポーネントをすばやく交換できます。しかも部品交換をユーザが行ったとしても製品保証上、全く問題ありません。予備のコンポーネントの購入プロセスを容易にするため、組込コントローラではハードドライブとメモリのアップグレードが可能です。これらの機能を全て組み合わせることで、組込コントローラの保守性は大幅に向上します。
NI PXIコントローラは、アプリケーションのニーズに応じて、Windows OS、リアルタイムOS、OSオプションなしのオペレーティングシステムに対応しています。
これらのコントローラは、LabVIEW、C/C++、C#/.NET、Pythonなどの開発環境にも対応しています。NIは、LabVIEWとの言語統合や、PythonをNIのハードウェアおよびソフトウェアで使用する方法などに関する情報をオンラインで提供しています。また、すべてのPXI組込コントローラは、PXI Platform Servicesがインストールされた状態で出荷されます。このNIドライバを使用することで、PXIコントローラの温度、CPU負荷、メモリ、ディスク容量など、システムの健全性を監視できます。
セキュアな暗号プロセッサであるTPM (Trusted Platform Module) は、一部の組込コントローラに搭載されたコンポーネントであり、キー操作やその他のセキュリティ上重要な処理のための保護領域を提供することで、現在のソフトウェアの能力を超えるプラットフォームセキュリティを実現するよう特別に設計されています。TPMは、ハードウェアとソフトウェアの両方を使用して、暗号化キーと署名キーを最も脆弱な段階 (キーが暗号化されずにプレーンテキスト形式で使用される場合の操作) で保護します。TPMは、暗号化されていないキーおよびプラットフォーム認証情報をソフトウェアベースの攻撃から保護するように特別に設計されています。NI PXIe-8881およびNI PXIe-8862/42/22モデルには、すべて最新バージョンのTPM 2.0が搭載されています (図3の#3を参照)。
1. 64 GBのDDR4 RAM | 2.高帯域幅ストリーミング | 3.TPM v1.2で安全保護 | 4.最大でXeon 18コアプロセッサに対応 | 5.2つのThunderbolt™ポート | 6.GPIBポート | 7.2つのギガビットEthernetポート | 8.4つのUSBポート | 9.ディスプレイポート | 10.2つのUSB 3ポート | 11.外部SMBウォッチドッグ/トリガ
図3: Xeon 18コアまでのプロセッサオプションを搭載したPXIe-8881組込コントローラは、高性能、高スループット、演算負荷の高いテストや計測用途に最適
Intel社の共同設立者であるGordon Moore氏は、1965年、自らの経験に基づき、集積回路のトランジスタ数は24カ月ごとに倍になると主張しました。この発言こそ、ムーアの法則として知られるもので、IntelやAMDなどのチップメーカーによって現在も支持され、1つのシリコンチップに搭載されるトランジスタ数の指数関数的な増加をもたらしました。
そのような急増が直接的に影響して、より効率の高い高速の最新プロセッサが毎年リリースされるようになりました。PXIベースの計測器もそのような進化の恩恵を受けていますが、気を付けなくてはならないのは、新たなプロセッサの登場によって以前のプロセッサが陳腐化するという事実です。
NIでは、陳腐化の影響を極力軽減するため、組込コントローラを平均して5年間ごとに更新しています。延長サポート期間が必要な場合は、NIのサービスチームがお客様のニーズに合わせてサービスプランを作成いたします。サービスプランには、予備部品と迅速交換、長期修理・校正 (製品の製造終了以降まで)、ライフサイクル/陳腐化に関する年間レポート、NIの技術リソースによる技術更新計画などのサービスが含まれます。最新技術に移行可能なアプリケーションについては、NIはUSB、Ethernet、GPIB、シリアルといった標準の周辺I/Oを提供していますので、新製品の組込コントローラを旧世代製品の代替品として利用できます。そのため組込コントローラの設計の際には、最高性能を提供するプロセッサで、コントローラのライフサイクル全体を通して可用性が保証されるものを選ぶ必要があります。
NIは、2つの主要なプロセッサメーカーとの緊密かつ長期的な関係を活用し、長期ロードマップに基づいたPXI組込コントローラ向けのプロセッサおよびチップセットを選定しています。これにより、これらのコンポーネントはコントローラのライフサイクル全体を通じて、必要な修理や交換に対して常に入手可能な状態が保たれます。それは結果として組込コントローラの付加価値となり、PXIベースの計測システム全体のライフサイクル延長につながります。
結論として、NIのPXI組込コントローラは、テストシステム向けに高性能かつコンパクトなソリューションを提供します。これらのコントローラは中央処理および制御ハブとして機能し、外部PCなしで動作可能です。NIの設計機能は、プロセッサメーカーとの連携による最新技術の統合、過酷な動作環境への対応、リアルタイムOSオプションによる24時間365日の連続運転により、信頼性と性能を実現します。パートナー企業との連携と標準プラットフォームへの長期的な取り組みにより、NIのPXIコントローラは、テストおよび計測のニーズに対して高性能で柔軟なアプローチを提供します。