高速デジタイザにおける容量メモリ利点

概要

多くの場合、測定の品質は高速サンプリングレートで連続集録を維持できるかに依存します。このような場合、デジタイザの集録メモリ量は集録された信号の品質を決定します。大容量オンボード集録メモリが搭載された高速デジタイザは、高度な時間領域および周波数領域測定の実行が可能です。以下のようないくつかの一般的なアプリケーションでは、デジタイザのサンプリングレートを最大化しながら、長時間データをキャプチャする必要があります。

· 信号変調解析
· ジッタ性能特性評価
· パルス高さ測定
· ビデオ信号テスト

測定システム電力は、製品性能の特性評価、システム応答の解析、および欠陥の検出において常に重要です。ナショナルインスツルメンツの高速デジタイザでは、大容量オンボードメモリオプションによって時間と周波数の測定を改善することができます。

時間領域利点

時間領域(タイムドメイン)の解析を行う場合、特定のサンプル周期またはサンプリングレートを使用してデータを集録できる最大時間を把握することが重要です。データは、最終的にデジタイザからホストコンピュータのメモリに保管/表示/解析の目的で転送されるため、デジタイザのデータ転送速度はPCIのようなデータバスによって制限されます。通常データバスでは、高速デジタイザでの最大サンプリングレートによる集録に対応できる帯域幅がないため、大容量メモリが必要になります。大容量メモリを使用することで、デジタイザの最大レートでサンプリングが可能になり、データをローカルに保存して集録が完了した時点でホストコンピュータにデータを転送します。大容量メモリのデジタイザは、最大サンプリングレートを長時間保持できるため、集録時間の枠が広がります。集録時間枠によって、解析に必要な信号全体を集録できるかどうかが決定されます。次の等式を使用して集録時間枠を計算できます(S/s = サンプル/秒)。




または、最大サンプリングレートを単位として計算します。(デジタイザ仕様によって制限あり)


*オンボード集録メモリ = デジタイザのオンボードメモリに収まる最大サンプル数



サンプリングレートを選択する際は、ナイキスト定理を考慮する必要があります。ナイキスト定理は、波形を正確に再構築するために信号の最大周波数成分の2倍以上サンプリングする必要があると定義します。ナイキストレベル未満のサンプリングレートで集録を行うと、対象スペクトル内の高周波数成分でエイリアスが起こります。エイリアスとは、高周波数が低周波数として誤認される現象で、低サンプリングレートで集録されたデータで起こります。図1は、30 MS/s ADCで集録された25 MHz正弦波を示しています。点線は、25 MHzの周波数がエイリアス信号としてパスバンドに入り、5 MHzの正弦波として表示されます。エイリアスを防ぐには、この25 MHz正弦波を50 MHz (MS/s)以上のレートでサンプリングする必要があります。これは、信号集録において高サンプリングレートを維持する必要性を表した一例です。


図1.エイリアス



前述の等式では、デジタイザオンボード集録メモリの量は固定値であるため、サンプリングレートを長い集録時間枠とトレードオフすることもできます。大容量オンボード集録メモリを使用すると、高サンプリングレートを維持しながら長時間データをキャプチャすることができます。メモリ制限のあるデジタイザでは、ある程度長時間にわたり複数の成分で構成されたビデオ信号、ディスクドライブ読み取りチャンネル、シリアル通信信号などのパッケージ化された波形をキャプチャすることは難しくなります。そのため、このような条件下ではサンプリングレートを低くするしか信号包絡線全体を集録する方法はありません。しかし、低サンプリングレートは信号を劣化させ、信号包絡線内の個別の高速成分でエイリアスの原因になります。たとえば、NTSCビデオ信号のフレームレートは1秒につき30フレーム(fps)で、30 Hz~4.2 MHzの周波数成分を含みます。100 MS/sで全フレームをキャプチャするには、デジタイザで3.3 MB(330万サンプル)を超えるデータを集録する必要があります。1 MBメモリのデジタイザでは、サンプル集録を30 MS/s以下に削減しなければなりません。図2と3は、NTSCビデオ信号の全フレームをキャプチャする際に、サンプリングレートを100 MS/sから20 MS/sに削減した場合の信号劣化を示しています。水平ラインのカラーバースト領域で信号情報が消失していることが分かります。


図2.100 MS/sでサンプリングされたNTSCビデオの単一フレーム




図3.20 MS/sでサンプリングされたNTSCビデオの単一フレーム



図4は、大容量オンボードメモリを使用して拡張された集録時間枠で高サンプリングレートを維持できる利点を示しています。100 MS/sのサンプルレートおよび100 KBのオンボードメモリでは、最大サンプリングレートを最大1 msまで維持できます。2 msのデータを集録するには、このデジタイザのサンプリングレートを50 MS/s以下に下げる必要があります。100 MS/sのサンプルレートおよび32 MBのオンボードメモリでは、最大サンプリングレートを最大320 msまで維持できます。


図4.サンプリングレートとさまざまなメモリオプションがある集録時間ウィンドウ



NI 5112高速デジタイザをNI 5411任意波形発生器と統合して、波形を長時間にわたってキャプチャしながら再生成することもできます。これにより製造過程のテストアプリケーションにおける複雑な信号作成を簡素化できます。このようなアプリケーションにおける1つの対策として、NI 5112高速デジタイザで標準信号となるキャプチャし、その後NI 5411任意波形発生器でその信号を出力する方法があります。たとえば、NI 5112高速デジタイザでキャプチャしたビデオ信号をNI 5411またはNI 5431上で再生成し、テレビやDVDデバイスなどのビデオ機器をテストすることができます。さらに、NI 5112はNI 5411と同期することが可能で、長期間にわたって刺激応答測定を実行することができます。NI 5112およびNI 5411は、同じ基準クロックソースに位相ロックして、アプリケーションに要求されるようタイムベースを精密にアラインメントします。この高度なタイミングとトリガの統合は、多目的なPXIアーキテクチャに搭載されており、RTSIバスを介してPCIで実行することができます。

周波数領域利点


高速デジタイザは通常、周波数領域を解析するために信号を集録するために使用されます。周波数領域測定を行う場合、エイリアスの影響を考慮することが重要です。また、ナイキスト定理では集録された信号の最大周波数の2倍のレートでサンプルを行う必要性を定義しており、そうしない場合は高周波数信号成分でエイリアスが起こり、パスバンドで低周波数信号として表示されます。サンプリングレートが集録アナログ信号の最大周波数の2倍を超えると、周波数解析は正しい値になります。

周波数分解能

離散フーリエ変換(DFT)の計算には、いくつかのFFTアルゴリズムが使用されています。高速デジタイザ用のNI-SCOPE計測器ドライバでは、Split-Radix実数FFTアルゴリズムを使用します。分割基数アルゴリズムはnポイントで計算されます。ここで、nは2の累乗です。集録したポイント数が2の累乗でない場合、波形の最後にゼロパディングされ、次に大きい2の累乗のポイント数となります。パディングによってポイント数は増加しますが、FFT結果には影響しません。時間領域のnポイントでFFTを実行すると、正の周波数領域でn/2ポイントの結果になります。これらのポイントは、DCからサンプリングレートの半分までの周波数レンジを定義します。ポイント数がわかった時点で、次の式を使用してFFT測定の周波数分解能を計算することができます。



上の等式によると、周波数分解能はサンプリングレートが小さくなり集録したポイント数が大きくなるほど向上します。サンプリングレートを下げることで分解能を上げる方法は、周波数スパン、または使用できる帯域幅を縮小するため、通常は望ましくありません。大容量オンボード集録メモリを使用したデジタイザは、長期間高サンプリングレートを維持して集録したポイントの数を効果的に増大することで周波数分解能を向上させることができます。

たとえば、最大サンプリングレートが100 MS/sで100 KBメモリを搭載したデジタイザで、上の等式を使用して計算すると周波数分解能は次のようになります。サンプリングレートが100 MS/sでサンプル数を100,000に設定すると、周波数分解能は762.9 Hzで、周波数スパンはDCから50 MHzになります。100,000ポイントはゼロ詰めして131,072ポイントにし、100 MS/sを131,072で除算すると周波数分解能は762.9 Hzになります。16 MBのオンボードメモリを搭載したNI PCI-5911 Flex ADC高速デジタイザを使用すると、DC~50 MHzの同じ周波数スパンで5.96 Hz(100 MS/s時)の周波数分解能を実現できます。

図5は、集録された波形の周波数解析を実行する場合に、周波数分解能を最適化する重要性を示しています。周波数で接近して配置された2つの信号は、周波数分解能が制限されたFFT解析では1つのピークとして表されます。図5の集録信号には、12.000000 MHzおよび12.000180 MHzの周波数成分が含まれています。最大サンプリングレートが100 MS/sで100 KBのメモリを搭載したデジタイザでは、これら2つの周波数を見つけ出すことはできません。サンプリングレートを信号帯域幅の2倍に下げても、2つの信号を見つけ出せないでしょう。この2つのピークは、400万サンプルを集録する大容量オンボードメモリのデジタイザを使用することで検出できます。

図5.400万ポイントを集録する場合のFFT周波数分解能と10万ポイント

スペクトル漏れおよび処理

離散フーリエ変換(DFT)またはFFTを使用して信号の周波数成分を検出する場合、周期的に繰り返される波形を集録したと仮定しています。これは、FFTが有限集録を無限回数再現することで連続フーリエ変換(CFT)を概算しようとするためです。集録データに整数の期間数が含まれない場合、無限シーケンスは隣接する有限集録間で不連続が起こります。図6は、整数以外の期間数を集録した場合の状態を示しています。


図6.整数でない期間数有限集録を再現した場合に起こる不連続


これらの人工的な不連続は、元の信号には存在しない高周波成分としてFFTスペクトルに現れます。これらの周波数は、ナイキスト周波数よりも大幅に高く、0~fs/2(fs = サンプリングレート)の間でエイリアスが起こります。そのため、FFTを行って取得したスペクトルは元の信号の実際のスペクトルではなく、不鮮明なスペクトルです。ある周波数のエネルギーが他の周波数に漏れているように見えます。この現象を「スペクトル漏れ」と呼びます。スペクトル漏れは、細いスペクトル線を幅の広い信号に広げてしまいます。

以下の図7は、NI PCI-5911デジタイザで集録した正弦波、そしてそのFFT振幅スペクトル(デシベル単位)を示します。時間領域波形のサイクル数は整数(この場合は2)で、不連続性は生じていません。



図7.スペクトル漏れのないFFTスペクトル


図8は、時間領域の波形を整数倍でない周期分集録した場合を表しています。この信号の周期拡張により、図6に示される図のような断続部分が生じます。エネルギーが広範な周波数帯域に分散され、FFTのピーク振幅と隣接するビンの間の相対的な高差が減少することに注意してください。この不鮮明なエネルギーをスペクトル漏れと呼びます。スペクトル漏れは、特定の周波数成分から漏れたエネルギーが隣接する周波数ビンに分散することで測定に歪みを発生させます。


図8.スペクトル漏れのあるFFTスペクトル


スペクトル漏れは、集録された信号が整数でない周期数実行されることによって無限シーケンスの隣接部分間で断絶が起こるために発生します。窓処理と呼ばれる手法を使用すると、整数でないサイクル数でFFTを実行する影響を最小限に抑えることができます。窓処理は、デジタイザで集録された各有限シーケンスの境界で起こる不連続による振幅を低減します。

窓処理では、時間レコードを最初と最後のデータがゼロに近くなる有限窓と乗算します。そのため、有限長のデータでFFTスペクトル解析を行う場合、窓処理を使用して遷移エッジを最小に抑えることで無限シーケンスの不連続部分を除去します。高速デジタイザ用のNI-SCOPE計測器ドライバでは、長方形、ハニング、ハミング、ブラックマン、三角形、フラットトップの6種類の窓処理機能を提供しています。

図9は、信号が整数でない周期数の集録を行う場合にハニング窓を使用した利点を示しています。最初のグラフは、図8から集録された元の信号を示します。2番目のグラフは、ハニング窓が適用された後の時間領域信号を示します。3番目のグラフは窓処理された信号のFFTスペクトルを示します。図9の窓処理されたFFTでは、図8での窓処理されていない同じ信号のFFTと比べてスペクトル漏れが著しく減少していることが分かります。


図9.ハニング窓FFTスペクトル



対象の波形に周波数が微妙に異なる信号が2つ以上含まれる場合、スペクトル分解能が重要になります。この場合、ハニング窓のようなメインローブが大変狭い窓を選択することが最適です。単一周波数成分の振幅確度が特定の周波数ビン内の成分にある確実な場所よりも重要な場合は、フラットトップ窓のようなメインローブが広い窓を選択します。ハニング窓は周波数分解能に優れ、スペクトル漏れも削減するため、最も一般的に使用される窓タイプです。しかし、周波数分解能が大容量メモリのデジタイザによって向上することを考慮すると、フラットトップ窓の方がハニング窓より優れた点があります。フラットトップ窓を使用すると、最高の振幅確度を得ることができ、サイドローブの低下も最も顕著になります。窓処理および窓処理のテクニックについての詳細は、NI Developer Zone(英語)を参照してください。


ダイナミックレンジ

周波数領域測定を行う場合、測定システムのダイナミックレンジを知っておくことが重要です。ダイナミックレンジは、測定システムで扱うことができる最大信号レベルと最小信号レベルの比率です。これにより、振幅の大きな信号において測定できる最小信号振幅がわかります。

デジタルオシロスコープのダイナミックレンジは、A/D変換器 (ADC) の内部不完全性によって制限されます。また、アナログフロントエンドの非線形応答およびADCは、FFTスペクトル解析のアーチファクトとして現れる高調波歪みの原因になります。

図10は、NI PCI-5911高速デジタイザで集録した10 MHz信号のFFTスペクトルを示します。このグラフには、10 MHz信号の一部ではないスペクトルラインが含まれていることが分かります。基本の10 MHz信号と30 MHz時の最大スペクトルアーチファクト間のダイナミックレンジは約46 dBです。


図10. 図10. 100 MS/sで集録した10 MHz信号のFFTスペクトル


非同期ノイズフロアは、FFTスペクトルの計算に使用するサンプル数を増やすことで削減することができます。各FFTビンはそのビン内のすべてのエネルギーを表します。さらにFFTのサンプルを集録することで、各ビンの帯域幅が狭められ、これによってFFTスペクトルの周波数分解能が増加します。各ビンの帯域幅を狭めることで、各ビンの全ノイズは低下し、ノイズフロアも削減されます。このノイズフロアの改善は、FFT計算でポイント数を増やしてもFFTスペクトル全体の全ノイズ電力は変わりません。図11は、集録ポイントの数を1024から400万に増やした場合の効果を示しています。


図11.400万ポイントのFFTスペクトルと1024ポイント


サンプル数を増やすことで、非同期ノイズソースからのノイズフロアが縮小し、デジタイザの内部不完全性によって追加のスペクトルラインが現れます。デジタイザによっては、有効ビット数 (ENOB) またはSN比 (SNR) の仕様を含むものもあります。SNRは、通常デシベル(dB)で表した信号電力全体に対する雑音電力の比率です。SNRおよびENOBは、以下の式で計算できます。


PCI-5911高速デジタイザは、特許取得済みのFlex ADC技術を搭載しており、これによりADC分解能を増加して低いサンプリングレートでのダイナミック性能が向上します。たとえば、PCI-5911の有効分解能は、12.5 MS/sでサンプリングする場合は11ビット、50 kS/sでサンプリングする場合は19.5ビットです。Flex ADCの独自のテクノロジーは、広範囲のサンプリングレートでさまざまな分解能オプションを提供します。図12は、標準の14ビット有効分解能でサンプリングレートを5 MS/sに低下した場合のダイナミックレンジのゲインを示します。ダイナミックレンジはおよそ83 dBに増加します。


図12.図5. 5 MS/s、14ビット有効分解能でのNI PCI-5911可変分解能を用いたFFTスペクトル

 

平均化

デジタイザで集録されたデータには、2種類の平均化を使用できます。波形平均としても知られる時間領域平均は、FFTを計算する前に時間領域信号で実行されます。それに比べてFFT平均は、各波形を集録し、FFTを計算した後でFFTスペクトルを平均します。各平均化にはそれぞれの利点があります。

時間領域平均は、複数のトリガで集録された波形データを平均して計算されます。これにより、デジタイザからの内部非同期ノイズ効果が減衰され、ダイナミックレンジが拡張します。ノイズフロアは、平均数に直接関連する範囲まで削減されますが、ノイズフロアの変動は一定に保たれます。これらの効果は、図13に示されており集録信号においてダイナミックレンジでの波形平均化する利点が分かります。


図13.波形平均スペクトル



FFT平均は、各波形を集録し、FFTを計算した後でFFTスペクトルを平均して計算します。このタイプの平均化は、ノイズフロアの変動を削減するのに役立ちます。図14は、FFT平均化の効果を示しています。


図14.FFT平均化スペクトル