このチュートリアルは、ナショナルインスツルメンツの計測の基本シリーズの一環です。このシリーズの各チュートリアルでは、理論や実用的な例を通して一般的な測定アプリケーションから特定のトピックを解説します。このチュートリアルでは、アナログサンプリングの品質について説明します。
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分解能とは、計測器またはセンサが確実に検出できる入力信号の変化の最小単位と定義されます。分解能は、%(yに対するx)、または最も一般的にビットで表記されます。分解能は、計測器のノイズ(回路ノイズまたは量子化ノイズ)および計測器の表示システムが検知できる最小変化により決定されます。たとえば、表示桁数が5 ½桁のノイズレスデジタルマルチメータの入力レンジを20 Vに設定した場合、このデジタルマルチメータの分解能は0.1 mVになります。この値は、最下位桁の変化により決定されます。たとえば、同じデジタルマルチメータでピーク-ピークノイズが10カウントだとすると、有効分解能は1 mVに下がります。これは、1 mV未満の信号変化をノイズと区別するのが不可能なためです。
A/D変換器(ADC)の場合、分解能はADCが信号の表現に使用できるバイナリレベルの数を指します。分解能より使用可能なバイナリレベルの数を求めるには、分解能のビット数から2ビットを差し引きます。つまり、分解能が高いほど、信号の表現に使用できるレベル数も多くなります。たとえば、分解能が3ビットのADCは、8(23)電圧レベルを測定でき、分解能が12ビットのADCは、4096(212)電圧レベルを測定できます。ADCの分解能は必ずしも3ビットとは限りませんが、ここでは分解能3ビットのADCを例にして説明します。最小電圧レベルが000、次のレベルが001というように、111まで続きます。
分かりやすくするために、分解能が異なるADCを通過した正弦波が、それぞれどのように表示されるかを見てみます。下の図1では、3ビットADCと16ビットADCを比較しています。先にも述べたように、3ビットADCは8つの離散的電圧レベルを表現できます。一方、16ビットADCは、65,536の離散的な電圧レベルを表現できます。以下の図から分かるように、分解能が3ビットADCによる正弦波は、正弦波というよりは階段関数のように見えます。一方、16ビットADCではきれいな正弦波が表現されています。分解能は、テレビの画面を例に考えると分かりやすいかもしれません。画面の分解能(画像の場合は「解像度」)が高いほど、画像を表示するためのピクセルの数が多くなり、より高質な画像が得られます。また分解能は、コンピュータモニタがイメージの表示に使用する色の数にたとえることもできます。3ビットカラーでは画像はガタガタになり詳細はよく見えませんが、16ビットカラーを使えば画像はスムーズになり画質も良くなります。分解能は、ADCでは一定ですが、測定デバイスによって異なります。
NI高速デジタイザは通常8~24ビット分解能、NIダイナミック信号集録デバイスおよびNIデジタルマルチメータは16~26ビット分解能、NI Mシリーズデータ集録デバイスは12~18ビット分解能を提供します。
感度とは、計測器が最小レンジ設定で測定できる信号の最小値と定義されます。感度は、分解能とは関連しません。たとえば、16ビットデータ集録ボードよりも8ビットアナログメータの感度の方が高い場合もあります。他にも、最小測定レンジが10 Vのデジタルマルチメータが、分解能1 mVの信号を検出できても、測定可能な最小電圧は15 mVということもあります。この場合、このデジタルマルチメータの分解能は1 mV、感度は15 mVです。
確度とは、計測器が測定対象の信号値を正確に示すことのできる能力と定義されます。この用語は、分解能と関連しません。測定確度の表し方は、使用する計測器の種類により異なります。デジタルマルチメータでは、通常次のように示されます。
たとえば、10 Vレンジに設定され、23±5 ºCで校正された後90日間作動しているデジタルマルチメータが、7 Vの信号を測定するとします。この状態の確度仕様は、±(読み取り値の20 ppm + レンジの6 ppm)です。同じ条件でのデジタルマルチメータの確度は、次の式で計算できます。
確度 = ±(読み取り値の20 ppm + レンジの6 ppm)
確度 = ±(7 Vの20 ppm + 10 Vの6 ppm)
確度 = ±(7 V(20/1,000,000) + 10 V(6/1,000,000))
確度 = 200 µV
結果、読み取り値は実際の入力電圧の±200 µV内になるはずです。確度は、次の理想伝達関数を使って偏差としても定義できます。データ集録デバイスでは、通常次のように示されます。
絶対確度 = 読み取り値 · (ゲインエラー) + レンジ × (オフセットエラー) + ノイズの不確かさ
ゲインエラー = 残差AIゲインエラー + ゲイン温度係数 × (前回の内部キャリブレーションからの温度変化) + 基準温度係数 × (前回の外部キャリブレーションからの温度変化)
オフセットエラー = 残差AIオフセットエラー + オフセット温度係数 × (前回の内部キャリブレーションからの温度変化) + INLエラー
たとえば、10 Vレンジでは、NI 628x Mシリーズデータ集録デバイスのフルスケールでの絶対確度は次のようになります。
ゲインエラー = 40 ppm + 17 ppm × 1 + 1 ppm × 10
ゲインエラー = 67 ppm
オフセットエラー = 8 ppm + 11 ppm × 1 + 10 ppm
オフセットエラー = 29 ppm
ノイズの不確かさ = 18 µV
絶対確度 = 10 V × (ゲインエラー) + 10 V × (オフセットエラー) + ノイズの不確かさ
絶対確度 = 980 µV
計測器の確度は、計測器のみでなく測定する信号によっても変わることに留意してください。測定する信号にノイズが含まれている場合は、測定の確度は低下します。
精度は、計測器の安定性の尺度であり、同じ入力信号を繰り返し同じ値に測定できる能力を指します。精度は次の式で計算します。
精度 = 1 - │ Xn - Av(Xn)│/ │ Av(Xn) │
Xn = n回目の測定値
Av(Xn) = n回行った測定の平均値
たとえば、1 Vの定電圧を監視し、各測定間での測定値に20 µVの変化があった場合、測定精度は次のようになります。
精度 = (1 – 20 µV/ 1 V) × 100 = 99.998 %
この仕様は、電圧計を使ってデバイスを校正する場合や相対測定を行う場合に特に重要です。図2は、確度と精度の違いを示しています。確度は測定値が真の値にどれだけ近いかということを意味するのに対し、精度は各測定値同士がいかに近いかということを意味します。
ノイズは、測定しようとする信号に干渉する不要な信号です。ノイズは、不確実性が高くなり、測定結果に影響を与え、時間変化する傾向があります。ノイズはランダムまたは周期的に発生します。
ノイズには、過度的なもの、高調波またはミキサ製品のように固定周波数を持つもの、または広帯域ランダムノイズがあります。ノイズは、平均化や他の手法により測定時に削減することが可能なため、確度仕様とは別に扱われる場合があります。しかし、確度仕様の一部として表記される場合もあります。ノイズが確度仕様に含まれているかどうかは、仕様の脚注に記されています。
ノイズソース
計測システムに発生するノイズソースにはさまざまなものがあります。ソース(または被測定物)に起因するノイズは「固有ノイズ」と呼ばれます。これらのノイズソースには、抵抗のノイズのような熱源に起因するノイズや半導体デバイスに起因する1/fノイズがあります。また、電源ライン、照明、モータ、および無線周波数ソース(無線送信機、携帯電話、ラジオ局など)などのような外界からのノイズもあります。
熱ノイズ
理想的な電気回路では、回路自体にはノイズが存在しないため、出力信号中のノイズは元の信号にあったもののみということになります。しかし、実際の電気回路やコンポーネントには、ある程度の固有ノイズが存在します。単純な固定抵抗値の抵抗にもノイズは存在します。
図3aは、ノイズなしの理想的な抵抗が存在する同様の回路を示しています。固有ノイズは、図3bにノイズなしの理想的な抵抗(Ri)に直列されたノイズ電圧ソース(Vn)として示されています。絶対零度(0°Kまたは-273 ºC)を超える任意の温度では、すべての物質の電子が常にランダムに運動します。しかし、このランダムな運動特性のため、一定方向に流れる電流を検出することはできません。言い換えれば、ある方向の電子の流れは、相対する反対方向の電子の流れにより瞬く間に相殺されるということです。このため、電子運動は統計的には非相関です。しかし、物質内には一連のランダム電流パルスが絶え間なく生成されており、外界から見た場合、これらのパルスはノイズ信号となります。こういった信号は、ジョンソンノイズ、熱運動ノイズ、または熱ノイズなどと呼ばれています。
熱ノイズは次のように表現されます。
ここで
Vn = ノイズ電圧(V)
K = ボルツマン定数 (1.38 X 1023 J/°K)
T = 温度(°K)
R = 抵抗 (Ω)
B = 帯域幅 (Hz)
定数を収集して、表現を1 kΩに正規化すると、上の式は次のようになります。
上の式の結果は通常「平方根ヘルツ分のナノボルト」と読みます。この式によると、1 MΩ抵抗は126 nV/ ÖHzの熱ノイズをもつことになります。注意が必要なのは、ノイズは温度と抵抗に対して平方根に比例して増加するという点です。このため、抵抗のノイズを2倍にするにはその抵抗を4倍にする必要があります。
フリッカノイズまたは1/fノイズ
半導体デバイスには周波数に対して平坦でないノイズが含まれることがあります。このノイズは周波数が低くなるにつれ増加します。これは、1/fノイズ、ピンクノイズ、過度ノイズ、またはフリッカノイズなどと呼ばれています。1/fノイズは、電気以外の物理システムでも発生します。この例としては、タンパク質、認知過程の反応時間、および地震活動などが挙げられます。
ノイズは、低信号レベルを扱う際には特に大きな問題ですが、システムに与えるノイズの影響はさまざまな手法によって軽減できます。以下に例を示します。
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