レーダーテスト重視すべ検討事項

概要

数多くのトレンドが技術革新の推進力となって、複数の業界でテクノロジを進歩させています。200万を超えるiPhoneアプリケーション、380万を超えるAndroidアプリケーションが利用可能になった結果、ソフトウェア駆動プラットフォームや多目的プラットフォームは電話の操作のあり方を変えています。低レイテンシ処理は、バーチャルリアリティやジェスチャテクノロジを通じて、今までとは違った方法で人々が世界と対話するきっかけを作り出しています。拡充するコネクテッドワールドは、モノのインターネット (IoT)、5G、そしてコネクテッドカーをもたらしました。ビッグデータ処理と情報公開によって、企業はロジスティクスを最適化できるようになり、医師は医療を進歩させることができるようになっています。機械学習と人工知能によって、人間の処理能力を超える大きなデータセットのパターンを認識できるようになり、自動運転車が実現しつつあります。こうしたトレンドは、商用製品のテクノロジを進歩させていると同時に、センサフュージョン、極超音速兵器、マルチスタティックセンサ、ドローン、ネットワーク型電子戦闘序列、コグニティブレーダー、およびコグニティブ/予測EWを組み込んだレーダーおよび電子戦 (EW) システムも進化させています。

内容

レーダーおよび電子トレンド

レーダーおよびEWに関しては、軍用レーダーの運用環境と要件が急速に変化しており、次のようなレーダーのトレンドに起因してシステムの複雑さが新たな極限まで増大しています。

  • 「コグニティブ」レーダーやLPIレーダーに用いられている無数とも思えるソフトウェア定義型の技術によって、「アクティブ電子走査アレイ (AESA)」レーダー、バイスタティックレーダー、パッシブレーダーなどのレーダーアーキテクチャが普及し、テストシステムに求められるテストの範囲が広がっています。
  • プラットフォームの小型化によってRFシステムの統合が進んでいます。将来的にはレーダー、EW受信機、通信システムが同じセンサプラットフォームを共有し、ユニットとしてテストされるようになることが予想されます。
  • 商用車市場と同様に自律化が進み、安全性と信頼性の確保のために、マルチセンサシステムとマルチプラットフォームシステムで必要とされるテストの量が大幅に増加します。

図1.レーダーとEWのトレンドとして、設計プロセスのすべての段階でレーダーモデリングとターゲットシミュレーションを行うことが必要となっている。他の種類のテストは特定の段階でのみ行われる。

設計プロセス全体を通じて実施可能なテストはレーダーモデリングとターゲットシミュレーションのみです。レーダーシステムの複雑さが増しているため、高額なフルシステムテストのコスト削減、プロセスの初期段階における設計上の問題の発見と解決、スケジュールリスクの軽減のためには開発中に柔軟なレーダーモデリングとシミュレーションを実施することが不可欠となっています。

最新レーダーおよびEWコンポーネントレベルシステムレベルテストに関する検討事項

ソフトウェア駆動プラットフォームと多目的プラットフォーム、低レイテンシ、コネクテッドワールド、ビッグデータ、機械学習、人工知能といった、より大きな業界のトレンドによって、新しいレーダーおよびEWシステムの技術革新が加速しています。こうした技術革新を踏まえ、将来直面するテストの課題についてテスト設計プロセスの早い段階で対処できるようにするためには、それらの課題のいくつかについて十分に理解しておく必要があります。たとえば、第5世代ジェット戦闘機、極超音速兵器、マルチスタティックセンサ/ドローン、ネットワーク型電子戦闘序列、コグニティブレーダーおよびコグニティブ/予測EWなど、レーダーおよびEW業界における新しい技術革新について、初期のコンポーネントレベルおよびシステムレベルのテストにおける考慮事項を理解しておく必要があります。

第5世代ジェット戦闘機は、1,000万行を超えるコードで作成されたソフトウェア駆動の航空機で、一連のセンサを制御および接続して、航空機がより迅速な飛行修正を行えるようにします。一群のセンサから得られたデータを結合し、それらのデータに基づいてソフトウェア駆動の調整を行うシステムでは、主に2つのコンポーネントテストが重要になります。それらは、アンテナの波形分散テストと、システム入出力 (I/O) のシグナル整合性テストです。アンテナは多目的であるため、テストでは波形の変動を考慮し、アンテナの絶縁性と指向性がともに高いことを確認する必要があります。これらのセンサや、センサが生成するデータが混在しているため、システムのI/Oは複雑です。高いデータスループットと、カスタマイズ可能なシステムI/Oの使用を確保、維持するためには、シグナル整合性テストを行う必要があります。システムレベルのテストでは、ソフトウェアが高度にパッケージ化および統合されている場合、ソフトウェアの準備状態を確認し、潜在的なエラーや想定外の入力にも対処できることを確認するために、一連のマルチファンクションシミュレーションによるテストがさらに必要になります。

極超音速兵器システムや応答プラットフォームでは、環境に十分迅速に適応できるように、信頼性の高い低レイテンシシステムが必要です。その結果、レーダーおよびEWシステムのレンジ要件が高くなり、コンポーネントレベルのアンテナシステムにおいて、アンテナごとに装備するエレメントの数を増やし、位相制御や振幅制御によるレーダーのビームステアリングの精度を高める必要があります。システムレベルでは、極超音速のスピードに追随し、武器システムまたは対兵器システムの意思決定に追随できるように、低レイテンシのテスト、特にシミュレーションの迅速なアップデートレートが必要です。シミュレータがより迅速に更新を行い、こうした高速化されたシステムをテストできるようにするには、データを高速処理してモデルの現在の状態を更新でき、シミュレーション環境を正確に表現することのできるテストシステムが必要になります。

より小さいレーダーターゲットまたは環境について、多くの情報を早期に知る必要があることから、マルチスタティック/ドローンのシステムに対する需要が高まっています。これらのシステムは、拡充するコネクテッドワールドで効果的に運用できるように、相互に連携して機能する必要があります。コネクテッドシステムをコンポーネントレベルで装備すると、広帯域コンポーネントの必要性が高まります。これらのコンポーネントは線形成を持ち、場合によっては従来とは異なる障害を理解してテストする必要があります。フェーズドアレイアンテナのエレメントでは、高ゲインと指向性により、各エレメントの性能がより小さな領域で向上することが保証されると同時に、エレメントのシステム全体におけるフェーズドアレイアンテナ全体の正しいカバレッジが保証されます。指向性が高く、ビーム幅が狭くなることで、レーダーは遠方にある小さなターゲットを見つけることができます。システムレベルでは、複数のチャンネル間で厳密に同期された、高分解能かつ広帯域の低レイテンシテストが重要です。このようなレーダーシステムの堅牢性や確度をテストするためには、高密度の詳細なEWシミュレーションを使用して、より多くのチャンネルのバランスをとる必要があります。

コネクテッドワールドとビッグデータのトレンドは、ネットワーク型電子戦闘序列にも影響を与えました。これは、一連の新型のセンサとデバイスが連携して機能し、他のグループの動き、能力、階層を識別、特定、分類するものです。広範囲なセンサが使用されているため、コンポーネントレベルでのテストには、より複雑なI/O解析が必要です。システムレベルでは、並列テストや高速データ解析を必要とする、集約されたテスト構造が網羅されています。また、システムにはより高い忠実度を備え、より複雑な脅威シナリオを処理できる複雑なシミュレータも必要です。

これらのシステムはすべて、一連のセンサが連携して機能し、ソフトウェアを使用してシステムを制御するため、生成されるデータの量が多く、生成のスピードも高速です。より多くのデータがより高速に生成されるため、人間よりも高速に意思決定やデータの整理が行えるシステムが必要になります。コグニティブレーダーやコグニティブ/予測EWシステムが開発されたのは、こうした理由によります。これらのシステムの場合、コンポーネントやサブシステムのテストプログラムセットには、他のシステムよりも広い範囲の周波数と帯域幅が含まれます。また、従来のパラメトリックテストではシステム性能を完全に理解するには十分でない可能性があります。そのため、テストプロセスの早い段階でモデリングとシミュレーションのテストを行う必要があります。システムレベルでは、開ループシミュレータは実現可能なオプションではなくなり、テストアセットにおいては、コグニティブレーダーシステムのすべての機能が評価されない従来型の脅威データベースに頼るのではなく、ターゲットや環境をより正確にエミュレートする必要があります。

システムの複雑さが増して新たな技術革新が進むにつれて、それに適応したテスト計測器がコンポーネントレベルおよびシステムレベルで必要になります。また、新たな要件に応え、システムの堅牢性を確保し、テストスケジュールを維持するために、十分に考慮されたテスト手法が必要になります。

テスト計測に関する検討事項トレンド

レーダーシステムの統合とテストには、遅延線、商用オフザシェルフ (COTS) のFPGA対応計測器またはRFシステムオンチップ (RFSoC)、COTSレーダーターゲットジェネレータ、ターンキーテストおよび計測ソリューションという、4つの従来型テスト手法が使用されます。これらのテスト方法には、それぞれ長所と短所があります。

遅延線は、購入や開発が容易であり、非常に低いレイテンシという要件を満たす、堅牢で費用対効果の高いソリューションです。ただし、その機能は非常に限られており、単純なシステムの機能テストでしか効果を発揮しません。遅延線ソリューションは、対電子対策 (ECCM) 技術や実世界のシミュレーション、あるいはクラッタや干渉波のような現代のレーダーが直面するシナリオに対応していません。

COTSのFPGA対応計測器またはRFSoCは、低資本コスト、低レイテンシ性能、および固有の要件を持つ複雑なシステムに合わせて調整できる柔軟性を特長としています。しかし、初期開発において、非反復エンジニアリングコストのような多額の人的コストを必要とします。この計測器は、コーディングが複雑なためメンテナンスが難しく、常に信頼性が高いとは限りません。本来の用途は単なるテスト装置ではないため、新しいテストプログラムを使い始める際には、システムを効果的に稼動させるためにファームウェアとソフトウェアに関する多くの作業を行わなければなりません。

COTSレーダーターゲットジェネレータシステムは、ソフトウェアの開始点のレベルが高く、特定のアプリケーションニーズに合わせて調整できるため、非反復エンジニアリングコストへの投資が少なくてすみます。このため、領域専門家はテストシステムの設計プロセスの早い段階で自分の知識を生かすことができます。ただし、COTSレーダーターゲットジェネレータは一般的に高価で、アップグレードやメンテナンスにサポートが必要です。また、機能の大部分が既に定義済みであり、柔軟性に欠けます。他と比べてテスト機能の進化に時間がかかるため、新しいモードや機能の実装はテストベンダに頼らざるを得ません。

クローズドまたはターンキーのテスト/計測ソリューションは、フルソリューションとして定義されており、そのように提供されます。そのため、中核となるCOTSモデルに基づく優れたダイナミックレンジ、内容を熟知しているバランスの取れたサポート、複数のプログラムにわたって迅速に活用できるというメリットが得られます。ただし、ターンキーのテスト/測定ソリューションの機能はベンダ定義の機能に限定されており、独自のシステムニーズに合わせて構成するのは困難です。また、特定のテストに最適化されていない、一般的に位相コヒーレントではない、多くの場合に規定または開ループのシステムである、といった理由でレイテンシが大きくなります。こうした課題が存在することから、急速に変化する要件に応じて新しい機能を追加する際にはベンダに頼らざるを得なくなります。そのため、AESAや干渉分光法などのテクノロジに対応するマルチチャンネルRFシステムに拡張することは非常に困難であり、閉ループテストの実施能力が制限されます。    


図2.レーダーやEWの新たなテクノロジを急速に変化させている業界のトレンドに応じて、テスト計測器の適応性、ソフトウェア制御性、モジュール性も強化され、モデリングおよびシミュレーションテスト増加のニーズに対処している。

レーダーやEWの新たなテクノロジに影響を与える業界のトレンドによって、業界のコンバージェンス、ソフトウェア定義型プラットフォーム、テストシステムの保全性、テストシステムアーキテクチャといったテスト計測器の新たなトレンドも活発化しています。

テスト装置ベンダは通常、複数の業界を対象としているため、自動車、5G、防衛などの業界にまたがって計測器を展開できます。これらの業界のテクノロジやテストが新たなコネクテッドワールドに合流するにつれて、テスト計測器は、周波数範囲を拡大し、チャンネル数を増やして、より広い動作帯域幅で動作する必要が生じています。顧客が従来の手動テストシステムではなく、柔軟性、テスト速度、ソフトウェアの信頼性のほうを即座に選択するようになったため、テスト/測定ベンダは、計測器を稼動させるソフトウェアプラットフォームへの投資を増やし、収益を増加させています。レーダーテストの他の閉ループオプションと比較すると、テスト装置ベンダは、より高機能のテスト計測器を製造すると同時に複数の業界で装置を応用し、スケールメリットによってテスト計測ソリューションのコストを引き下げることができます。

業界では、テスト用のスタンドアロン型計測器に求められる製品寿命は8~12年であるとされています。ファームウェアは18〜24か月間隔でアップデートする必要があり、ハードウェアは18〜36か月ごとにアップグレードされる可能性があります。スタンドアロン型計測器は、携帯電話デバイスを参考にタッチスクリーンを採用し、物理的なボタンの数を減らしています。スタンドアロン型システムの製造元では、柔軟性を向上させるためにモジュール式デバイスをシステムに組み込んで容易なアップグレードを可能にしています。また、単一のシステムでより広範囲なテストを実行できるように、「スーパーボックス」と呼ばれるスタンドアロン型計測器の集合製品も製造しています。

モジュール式計測器は、無線フロントエンド、マルチプロセッサアーキテクチャ、レポート/ストレージのニーズの増加に伴い、業界で最も大きな成長を遂げています。モジュール式のハードウェアおよびソフトウェアプラットフォームを採用することで、設計の高速化から、スケジュールリスクの軽減、将来のより複雑なシステム要件への準拠といったさまざまなニーズに、テストシステムを適合させることができます。新しいモジュール式システムでは、同じデバイス内にあるFPGAハードウェアとRFハードウェアの柔軟性が向上しています。つまり、同じ計測器を使用し、リアルタイムプロセッサ、スペクトルモニタ、チャンネルシミュレータ、DUTコントローラなどのデバイスを切り替えることで、より多くの種類のテストを実行することができます。モジュール性には、高性能テストシステムか高密度テストシステムかを選ぶトレードオフも伴います。テスト性能を犠牲にして追加機能を優先させることが可能な場合は、モジュール式システムに多目的計測器を含めることができます。モジュール式多目的計測器はまた、測定IPの改善、より高性能なコンポーネント (特に、アナログ-デジタル変換器およびデジタル-アナログ変換器)、信号処理の進歩、ソフトウェアのアクセシビリティとアーキテクチャの向上ももたらします。さらに、モジュール式テスト計測器はテストシステムのコンパクト化ももたらしているため、スタンドアロン型計測器の複数の機能を、より小型のPXIベースのモジュール式計測器またはシステムに収めることができます。

全般的に、テスト計測器は、業界のコンバージェンス、ソフトウェア定義型計測器、多目的テスト計測器、モジュール式テスト計測器を活用し、それらに適応することで、レーダーやEWの新たなテクノロジのニーズを満たすように進化しています。

設計プロセス初期段階モジュールテスト計測によるシミュレーション導入すること業界新た期待応える

数多くのトレンドが推進力となって、レーダーやEWを含む複数の業界でテクノロジを進歩させています。ソフトウェア駆動プラットフォームと多目的プラットフォーム、低レイテンシの要件、コネクテッドワールド、ビッグデータ処理と情報公開、機械学習と人工知能は、コンポーネントレベルとシステムレベルの両方でテストの技術革新を促しています。レーダーおよびEWのテクノロジの進歩を加速させ、設計の堅牢性を確保するため、製造元は新たな要件を満たすように従来のテスト/測定機器を適応させようとしています。モジュール式計測器を導入し、さまざまなテストフェーズでモデリングやシミュレーションを増やすことで、こうしたレーダーおよびEWシステムのトレンドに対応することができます。また、モデリングやシミュレーションによって、費用のかかるフルシステムのテストを削減し、テストプロセスの早い段階で問題を特定して解決し、スケジュールのリスクを軽減できるようになります。新たなタイプのレーダーおよびEWテクノロジの実現が迫っている中で、テスト設計プロセスの早い段階で新たなテスト課題に対応し、新たな要件やアプリケーション固有のニーズを満たすことのできる適切かつ柔軟なテストシステムを探し出す必要があります。