ミリ​波​帯​――5G​に​は、​どの​周波数​帯​が​採用​さ​れる​の​か?

概要

ワイヤレス​機器​の​台数​と、​それら​によって​やり取り​さ​れる​データ​の​量​は​指数​関数​的​に​増加​し​てい​ます。​その​伸び​は​CAGR(年​平均​成長率)​で​53%​に​も​達し​ます​[1]。​ワイヤレス​機器​が​生成/​使用​する​データ​量​の​増加​に​伴​い、​それらの​機器​の​接続​先​と​なる​通信​インフラ​は​進化​する​必要​が​あり​ます。​3GPP(3rd Generation Partnership Project)​[2]​では、​広帯域​対応​の​モバイル​機器​により、​どこ​から​でも​瞬時​に​データ​に​アクセス​できる​よう​に​する​こと​を​目的​と​し、​5G(第​5​世代​移動​通信​システム)​の​ハイレベル​な​ユース​ケース​を​3​つ​定義​し​てい​ます​(図​1)。​これらの​ユース​ケース​を​実現​する​に​は、​データ​レート​を​階段​関数​的​に​増加​させる​必要​が​あり​ます。​しかし、​4G​に​基づく​ネットワーク​の​周波数​利用​効率​を​引き上げる​だけ​では、​その​よう​な​レベル​で​データ​レート​を​向上​する​こと​は​でき​ま​せん。​この​問題​を​踏​ま​え、​研究者​ら​は​この​問題​の​解決​策​の​候補​として​より​高い​周波数​について​調査​を​行​って​き​ま​した。​初期​段階​の​チャンネル​サ​ウン​ディン​グ​で​有望​な​結果​が​得​ら​れ​た​こと​から、​ワイヤレス​に​関連​する​世界中​の​標準化​団体​は、​新しい​周波数​と​より​広い​帯域​幅​を​いかに​し​て​5G​の​ワイヤレス​システム​に​取り入れ​て​活用​する​か​という​方向​で​検討​を​進​め​てい​ます。

コンテンツ

5G​における​KPI​の​定義

上述​した​ユース​ケース​は、​将来​の​ワイヤレス​規格​において、​既存​の​規格​では​十分​な​サービス​が​提供​でき​ない​新しい​アプリケーション​に​対応​できる​よう​に​定義​さ​れ​てい​ます。​ユース​ケース​毎​に​実現​すべ​き​アプリケーション​の​要件​が​異なる​ため、​それぞれ​に対して​異なる​新た​な​KPI(重要​業績​評価​指標)​が​必要​に​なり​ます。​IMT(International Mobile Telecommunications) 2020​の​ユース​ケース​で​定義​さ​れ​て​いる​eMBB(Enhanced Mobile Broadband)​では、​ピーク​の​データ​レート​を​10 Gbps(ギガ​ビット/​秒)​と​想定​し​てい​ます​[3]。​これ​は​4G​の​100​倍​の​値​です。​シャノン・​ハートレーの定理によれば、​達成​可能​な​最大​データ​レート​を​決定づける​通信​路​容量​は、​周波数​帯域​幅​と​チャンネル​の​ノイズ​の​関数​として​表​さ​れ​ます​[4]。​6 GHz​以下​の​帯域​は​すべて​さまざま​な​用途​に​割り当て​済み​なので、​6 GHz​以上​の​帯域、​特に​ミリ​波​帯​が、​eMBB​の​ユース​ケース​に​対応​する​ため​の​魅力​的​な​選択肢​となり​ます。

 

 

図​1.

3GPP​と​IMT 2020​で定義された​5G​の​ハイレベル​な​3​つ​の​ユース​ケース

 

ミリ​波​帯​――3​つ​の​周波数帯

世界中​の​サービス​事業​者​は、​莫大​な​投資​を​行​って​周波数​帯​を​確保​し、​顧客​に​サービス​を​提供​し​てい​ます。​周波数​帯​に対する​入札​価格​の​高​さ​は、​市場​における​その​価値​と、​この​貴重​な​リソース​の​不足​を​如実​に​物語​って​い​ます。​新たな周波数帯を開放すれば、​サービス​事業​者​は、​より​多く​の​ユーザ​に、​より​高速​な​モバイル​データ​通信​サービス​を​提供​できる​よう​に​なり​ます。​6 GHz​以下​の​帯域​と​比較​すると、​ミリ​波​帯​は​周波数​リソース​に​余裕​が​あり、​免許​の​取得​も​容易​です。​そのため、​世界中​の​サービス​事業​者​が​利用​でき​ます。​IC​の​製造​技術​が​進化​した​こと​から、​ミリ​波​に​対応​する​機器​の​価格​は​著​しく​低下​し​て​おり、​民生​向け​の​製品​として​提供​が​可能​な​レベル​に​まで​達し​てい​ます。​ただし、​ミリ波帯については十分な調査が進んでおらず、​技術​的​な​問題​が​完全​に​は​解決​でき​てい​ま​せん。​この​こと​が、​現時点​で​ミリ​波​帯​の​実用​化​に​影響​を​及ぼす​主要​な​課題​に​な​って​い​ます。

​サービス​事業​者​は、​モバイル​アプリケーション​で​の​利用​に​最適​な​周波数​帯​を​特定​すべ​く、​ミリ​波​技術​の​評価​に​着手​し​てい​ます。​国際​電気​通信​連合​(ITU:International Telecommunication Union)​と​3GPP​は​共同​で、​2​つ​の​フェーズ​から​成る​計画​に​沿​って​5G​の​規格​策定​に​向け​た​研究​を​行​って​い​ます。​1​つ​目​の​フェーズ​は、​40 GHz​以下​の​周波数​を​調査​する​期間​で​あり、​2018​年​9​月​まで​に​商用​の​ニーズ​の​中​で​最も​緊急​性​の​高い​もの​を​洗い出し​ます。​2​つ​目​の​フェーズ​では、​100 GHz​まで​の​帯域​を​対象​と​し、​IMT 2020​において概要が定められた​KPI​に​取り組む​予定​です。​この​フェーズ​は​2018​年​に​開始​し、​2019​年​12​月​まで​に​完了​する​予定​です。
​ミリ​波​で​使用​する​周波数​帯​の​標準化​に​向け​て​は、​世界中​で​取り組み​の​足並み​を​揃える​べ​き​です。​そこで、​ITU​は​2015​年​の​世界​無線​通信​会議​(WRC:World Radiocommunications Conference)​の​後、​世界​的​に​実用​化​が​可能​な​帯域​の​候補​として​24 GHz​~​86 GHz​の​範囲​内​で​複数​の​周波数​帯​を​発表​しま​した​[5]。

 

24.25 GHz​~​27.5 GHz     31.8 GHz​~​33.4 GHz

37 GHz​~​40.5 GHz          40.5 GHz​~​42.5 GHz

45.5 GHz​~​50.2 GHz        50.4 GHz​~​52.6 GHz

66 GHz​~​76 GHz         81 GHz​~​86 GHz


​ITU​から​の​提案​の​直後​(2015​年​10​月​21​日)、​米国​連邦​通信​委員​会​(FCC:Federal Communications Commission)​は​規則​制定​案​告示​(NPRM:Notice of Proposed Rule Making)​を​公布​しま​した。​それ​により、​28 GHz、​37 GHz、​39 GHz、​64 GHz​~​71 GHz​の​各​周波数​帯​における​柔軟性​の​高い​新た​な​サービス​の​規則​を​提案​しま​した​[6]。

 



​図​2. FCC​が​モバイル​向け​に​提案​した​帯域​[6]



​ITU​や​3GPP​など​の​標準化​団体​は、​2020​年​を​5G​の​規格​策定​の​期限​として​定め​てい​ます。​しかし、​携帯​電話​の​事業​者​は、​それ​より​も​早く​5G​の​サービス​提供​を​開始​した​いと​考え​てい​ます。​米国​では、​Verizon Wireless​社​と​AT​&​T​社​が​2017​年​に​5G​の​初期​バージョン​の​提供​を​開始​する​という​計画​を​掲​げ​てい​ます。​韓国​は、​2018​年​の​冬季​オリンピック​で​5G​の​試行​サービス​を​導入​する​こと​を​目指​し​てい​ます。​日本​は、​2020​年​の​東京​オリンピック​の​タイミング​で​5G​技術​を​実演​した​いと​考え​てい​ます。​このように、​さまざま​な​国、​企業、​団体​が​さまざま​な​背景​を​動機​として​取り組み​を​進​め​てい​ます。​そうした​中​で、​まずは​28 GHz、​39 GHz、​72 GHz​の​3​つ​が​5G​で​使用​さ​れる​周波数​帯​の​候補​として​浮上​し​つつ​あり​ます。

​これら​3​つ​に​注目​が​集​まっ​た​背景​に​は​複数​の​理由​が​あり​ます。​まず、​60 GHz​では、​酸素​吸収​によって​約​20 dB/​km​もの​損失​が​生​じ​ます​[7]。​それに​比べる​と、​3​つ​の​周波数​帯​は​図​3​に​示す​よう​に​酸素​吸収​率​が​かなり​低​く、​長距離​の​通信​に​使用​できる​可能性​が​高い​と​考え​ら​れ​ます。​また、​これらの​周波数​帯​は​マルチ​パス​環境​でも​適切​に​機能​し、​見通し​外​(NLoS:Non Line-​of-​Sight)​通信​に​も​利用​可能​です。​非常​に​指向​性​の​高い​アンテナ​と​ビームフォーミング/​ビーム​トラッキング​を​組み合わせる​こと​により、​信頼​性​と​セキュリティ​に​優​れ​た​ミリ​波​帯​の​リンク​を​提供​する​こと​が​でき​ます。​28 GHz、​39 GHz、​73 GHz​について​は、​ニュー​ヨーク​大学 科学​技術​専門​校​の​Ted Rappaport​博士​と​学生​によって、​すでに​チャンネル​の​特性​と​潜在​的​な​性能​に関する​研究​が​開始​さ​れ​てい​ます。​同​博士​ら​は、​各​周波数​帯​における​伝搬​特性​と​サービス​停止​の​可能性​に関する​研究​結果​を​まとめ​た​複数​の​論文​を​発表​しま​した。​3​つ​の​周波数​帯​に関して​得​ら​れ​た​データ​や​研究​結果​と、​世界中​で​利用​可能​な​帯域​を​結び付ける​こと​で、​3​つ​の​周波数​帯​を、​ミリ​波​に​対応​する​プロトタイピング​の​出発​点​と​する​こと​が​でき​ます。

 

 

 

図​3.

ミリ​波​帯​における​大気​吸収​特性​[7]

 

28 GHz​帯​に関する​現状

サービスプロバイダ​は、​広大​で​割り当て​も​さ​れ​てい​ない​ミリ​波​帯​を​すぐ​に​でも​利用​した​いと​考え​てい​ます。​実際、​ミリ​波​帯​の​中​で​具体​的​に​どの​周波数​帯​を​使用​する​か​という​こと​について​は​サービス​プロ​バイ​ダ​が​多大​な​影響力​を​持ち​ます。​Samsung Electronics​社​は​2015​年​2​月、​独自​に​チャンネル​測定​を​実施​しま​した。​その​結果​を​基​に、​同社​は​28 GHz​が​携帯​電話​向け​の​通信​に​利用​可能​な​周波数​帯​で​ある​と​の​見解​を​示し​ま​した。​同社​が​行​っ​た​測定​により、​都市​部​における​パス​損失​の​予測​値​が​確認​さ​れ​ま​した​(パス​損失​指数​は​NLoS​リンク​で​3.53)。​この​結果​から、​「28 GHz​帯​の​通信​リンク​では​200 m​の​距離​に​対応​できる」​と​Samsung​社​は​主張​し​てい​ます​[8]。​また、​同社​は​フェーズ​ドア​レイ​アンテナ​を​用​い​た​研究​も​行​って​おり、​複雑​な​フェーズ​ドア​レイ​を​携帯​端末​の​内部​に​搭載​する​という​設計​を​行​っ​た​場合、​どの​よう​な​特性​が​得​られる​の​か​を​評価​する​作業​に​も​着手​し​てい​ます。​一方、​日本​では、​NTT​ド​コモ​が​Nokia​社、​Samsung​社、​Ericsson​社、​Huawei​社、​富士通​と​提携​し、​28 GHz​帯​(ならびに​その他​の​周波数​帯)​における​独自​の​フィールド​実験​を​成功​さ​せ​てい​ます。

​Verizon​社​は​2015​年​9​月、​「Samsung​社​を​含む​主要​な​提携​先​と共に、​2016​年​に​米国​で​フィールド​実験​を​行う」​と​発表​しま​した。​5G​の​規格​策定​時期​として​提案​さ​れ​て​いる​2020​年​より​4​年​も​早く​実験​を​行う​こと​で、​Verizon​社​は​いち早く​5G​の​市場​に​参入​した​いと​考え​てい​ます。​2015​年​11​月​に​は、​Qualcomm​社​が​128​本​の​アンテナ​を​用​い​て​28 GHz​帯​の​実験​を​実施​しま​した。​その​実験​により、​密集​した​都市​部​の​環境​下​でも​ミリ​波​技術​を​活用​できる​こと​と、​ビーム​フォーミン​グ​を​用​い​た​NLoS​通信​が​行える​こと​が​実証​さ​れ​ま​した。​FCC​が​「28 GHz​帯​は​モバイル​通信​に​利用​可能​で​ある」​と​発表​した​こと​から、​米国​では​より​多く​の​実験​が​続く​と​予想​さ​れ​ます。​さらに、​Verizon​社​は​XO Communications​から​28 GHz​帯​を​借用​する​という​リース​契約​も​発表​し​てい​ます。​この​契約​に​は、​2018​年末​に​その​帯域​の​買い取り​も​行える​という​オプション​が​付与​さ​れ​てい​ます。

​ただし、​28 GHz​帯​は、​ITU​が​定め​た​世界​的​に​実用​化​が​可能​な​帯域​に​は​含​まれ​てい​ない​ことに​注意​する​必要​が​あり​ます。​つまり、​5G​に​ミリ​波​が​採用​さ​れ​た​場合​でも、​28 GHz​帯​が​長期​的​に​使用​さ​れる​か​どうか​は​わか​り​ま​せん。​28 GHz​帯​は、​米国、​韓国、​日本​で​利用​が​可能​です。​また、​米国​の​各種​サービス​プロ​バイ​ダ​は​早い​段階​から​28 GHz​帯​の​フィールド​実験​に​取り​組​んで​い​ます。​そのため、​世界​的​な​規格​と​は​関係​なく、​米国​固有​の​モバイル​技術​として​28 GHz​帯​が​推​し​進​め​られる​可能性​が​あり​ます。​また、​韓国​は​2018​年​の​冬季​オリンピック​で​5G​の​技術​を​披露​した​いと​考え​てい​ます。​そのため、​標準化​団体​が​5G​の​規格​を​正式​に​策定​する​より​も​前​に、​28 GHz​帯​に​対応​する​民生​向け​製品​が​登場​する​可能性​が​あり​ます。​ただ、​この​周波数​帯​が、​IMT​が​提示​した​帯域​の​リスト​に​含​まれ​てい​ない​という​事実​が​看過​さ​れる​はず​は​ありま​せん。​実際、​FCC​の​中​に​は​これ​に​注意​を​払​って​いる​委員​も​い​ます。​FCC​の​委員​で​ある​Jessica Rosenworcel​氏​は、​2016​年​2​月​に​ワシントン​で​行​われ​た​に​講演​で​次​の​よう​に​述​べ​ま​した。


「高い視点から見れば、​米国​が​単独​で​進​め​てい​かな​け​れ​ば​なら​ない​こと​が​間違い​なく​存在​する​はず​です。​それに​は​28 GHz​帯​へ​の​対応​が​含​まれ​ます…​(略)​…​残念​ながら、​2015​年にジュネーヴで開催された​WRC(WRC-15)​では​28 GHz​帯​は​取り上げ​ら​れ​ま​せん​で​した。​5G​向け​の​周波数​帯​の​調査​リスト​に​は​含​まれ​てい​ない​の​です。​しかし、​28 GHz​帯​は​世界中​で​モバイル​向け​に​割り当て​ら​れ​てい​ます。​したがって、​米国​は​28 GHz​帯​の​調査​を​続ける​べ​き​で​しょう。​実際、​この​帯域​について​は​韓国​と​日本​でも​既に​試験​が​実施​さ​れ​てい​ます。​私​たち​も​この​タイミング​で​踏みとどまる​べ​き​では​ありま​せん。​独自​に​取り組み​を​進​め、​2016​年末​まで​に​28 GHz​帯​の​枠組み​を​構築​する​必要​が​ある​と​考え​ます」


​同じく​FCC​の​委員​を​務める​Michael O'Rielly​氏​に​至って​は、​FCC​の​ブログ​記事​で​WRC-15​の​結果​に対する​自身​の​不満​を​以下​の​よう​に​表明​しま​した。


「WRC-15​が​もたらす​実質​的​な​効果​と、​それ​が​今後​の​ITU​の​役割​に​及ぼす​影響​について、​憂慮​せ​ざる​を​得​ま​せん。​このまま​では、​今後​の​WRC​の​価値​が​低下​し​て​しまう​かも​し​れ​ま​せん。​また、​ITU​が​政府​機関​の​手先​となり、​現行​の​帯域​利用​者​による​効率​的​な​スペクトル​の​活用​や​技術​的​な​進歩​を​妨げる​存在​に​なり​かね​ない​という​こと​が​現実​的​な​懸念​に​な​って​い​ます​[9]」


確か​に、​28 GHz​帯​が​5G​で​広​く​採用​さ​れる​か​どうか​は​まだ​わか​り​ま​せん。​しかし、​現時点​で​重要​な​周波数​帯​で​ある​こと​は​明らか​です。

 

73 GHz​帯​に関する​現状

ここ​数​年間、​28 GHz​帯​を​巡る​取り組み​と​並行​し​て、​モバイル​通信​用​の​周波数​帯​として​E​バンド​も​関心​を​集め​てい​ます。​Nokia​社​は、​ニュー​ヨーク​大学​が​73 GHz​帯​で​行​っ​た​チャンネル​測定​の​結果​を​活用​し、​同​周波数​帯​の​研究​を​開始​しま​した。​また​同社​は、​ナショナル​イン​ス​ツル​メンツ​(NI)​の​年次​会議​で​ある​NI Week 2014​において、​NI​の​プロトタイプ​向け​ハードウェア​を​利用​し、​73 GHz​帯​を​使用​した​無線​(OTA:over the air)​で​の​デモ​を​同社​として​は​初めて​披露​しま​した。​その後、​研究​が​進む​に​連れ、​この​プロトタイプ​システム​は​さらに​進化​を​続​け​て​おり、​デモ​を通して​新しい​技術​的​な​成果​が​着実​に​発表​さ​れ​てい​ます。​Mobile World Congress(MWC) 2015​まで​に​は、​この​システム​に​レンズ​アンテナ​と​ビーム​トラッキング​を​採用​しま​した。​それ​により、​データ​の​スループット​を​2 Gbps​以上​に​高める​こと​が​でき​ま​した。​また​2015​年​の​Brooklyn 5G Summit​では、​この​システム​の​MIMO(Multi-​Input Multi-​Output)​版​により​10 Gbps​を​超える​動作​が​実現​さ​れ​ま​した。​それから​1​年足らずの時期に開催された​MWC 2016​では、​14 Gbps​を​超える​双方向​の​無線​リンク​が​披露​さ​れ​ま​した。

​MWC 2016​で​73 GHz​帯​の​デモ​を​披露​した​の​は​Nokia​社​だけ​では​ありま​せん。​Huawei​社​も​Deutsche Telekom​社​と​共同​で、​73GHz​帯​で​動作​する​プロトタイプ​を​披露​しま​した。​MU(マルチ​ユーザ) MIMO​を​採用​した​この​デモ​は、​高い​周波数​効率​を​実現​する​だけ​で​なく、​20 Gbps​を​超える​スループット​が​個々​の​ユーザ​に​提供​さ​れる​可能性​を​示す​もの​で​した。

​すでに、​73 GHz​帯​に対する​取り組み​は​始​ま​って​おり、​今後​3​年間​で​さらに​研究​が​進む​見込み​です。​73 GHz​帯​は、​28 GHz​帯​や​39 GHz​帯​より​も​優​れ​た​決定​的​な​特徴​を​備え​てい​ます。​それ​は​利用​可能​な​連続​帯域​幅​が​広い​こと​です。​モバイル​通信​において、​73 GHz​帯​では、​提案​さ​れ​て​いる​周波数​帯​の​中​で​最も​広い​2 GHz​の​連続​帯域​幅​を​利用​でき​ます。​米国​では、​28 GHz​帯​で​850 MHz、​39 GHz​帯​で​1.6 GHz/​1.4 GHz​まで​の​連続​帯域​幅​しか​利用​でき​ま​せん。​前述​した​とおり、​シャノン・​ハートレーの定理に基づき、​帯域​幅​が​広い​ほど​データ​の​スループット​は​高​く​なり​ます。​つまり、​73 GHz​帯​に​は​ほか​の​周波数​帯​に​勝る​大きな​メリット​が​ある​という​こと​です。

 

39 GHz​帯​に関する​現状

39 GHz​帯​について​は、​現在​の​ところ​あまり​多く​の​研究​成果​が​公開​さ​れ​て​いる​わけ​では​ありま​せん。​それでも、​39 GHz​帯​が​5G​の​規格​で​候補​と​なる​周波数​帯​の​1​つ​で​ある​ことに​間違い​は​ありま​せん。​実際、​ITU​は​世界中​で​実用​化​が​可能​な​周波数​帯​の​1​つ​として​39 GHz​帯​を​挙​げ​てい​ます。​ニュー​ヨーク​大学​も、​39 GHz​帯​による​実用​化​が​可能​で​ある​こと​を​示す​チャンネル​の​データ​を​すでに​公開​し​てい​ます。​39 GHz​帯​に関する​問題​の​1​つ​は、​28 GHz​帯​や​73 GHz​帯​と​比べ​て​すでに​多く​利用​さ​れ​て​いる​こと​です。​FCC​は、​モバイル​用​の​候補​として​39 GHz​帯​を​提案​する​とともに、​米国​における​この​帯域​の​研究​を​促進​し​てい​ます。

​Verizon​社​は、​2016​年​に​行う​28 GHz​帯​の​フィールド​実験​に​力​を​注​い​で​い​ます。​しかし、​同社​は​39 GHz​帯​の​試験​も​すでに​計画​し​てい​ます。​XO Communications​社​は、​28 GHz​帯​だけ​で​なく、​39 GHz​帯​において​も​大量​の​免許​を​保有​し​てい​ます。​1​つ​の​サービス​プロ​バイ​ダ​が​これだけ​の​投資​を​行​って​いる​こと、​また​IMT​の​リスト​に​も​含​まれ​て​いる​こと​から、​39 GHz​帯​は​2020​年​に​策定​さ​れる​5G​の​規格​の​有力​な​候補​だ​と​言​え​ます。

 

ミリ​波​に​対応​する​プロトタイプ​の​開発

5G​において​ミリ​波​の​潜在​能力​を​活用​する​に​は、​新しい​技術、​アルゴリズム、​通信​プロトコル​を​開発​する​必要​が​あり​ます。​ミリ​波​の​チャンネル​の​基本​的​な​特性​は、​現行​の​携帯​電話​システム​の​モデル​と​は​異なる​ことに​加​え、​まだ​十分​に​解明​さ​れ​て​いる​と​は​言​え​ま​せん。​そのため、​特に​ミリ​波​の​研究​の​初期​段階​で​プロトタイプ​を​構築​する​ことに​は​極めて​重要​な​意味​が​あり​ます。​ミリ波に対応するシステムのプロトタイプを構築すれば、​技術​や​概念​の​実現​可能性​や​採算​性​について、​シミュレーション​だけ​では​得​ら​れ​ない​レベル​で​検証​できる​から​です。​さまざま​な​シナリオ​を​対象​と​し、​リアルタイムの無線通信を実現するミリ波対応のプロトタイプを利用すれば、​ミリ​波​の​チャンネル​について​未​解明​の​部分​を​明らか​にし、​技術​の​導入​と​普及​を​促進​する​こと​が​可能​に​なり​ます。

​ミリ​波​で​の​通信​を​実現​する​プロトタイプ​を​構築​する​うえ​では、​いくつか​の​課題​を​解決​しな​け​れ​ば​なり​ま​せん。​ここ​では、​数​GHz​の​信号​を​処理​する​こと​が​可能​な​ベース​バンド​サブシステム​について​考え​ます。​LTE​に​対応​する​ほとんど​の​実装​では​10 MHz(最大​で​20 MHz)​のチャンネルが使用され、​演算​の​負荷​は​帯域​幅​を​拡大​すると​直線​的​に​増加​し​ます。​そのため、​5G​で​求め​られる​データ​レート​に​対応​する​に​は、​演算​能力​を​100​倍​以上​に​高め​な​け​れ​ば​なり​ま​せん。​この​こと​から、​ミリ​波​対応​の​プロトタイプ​の​開発​では、​物理​層​の​演算​において​FPGA​が​不可欠​な​要素​に​なり​ます。

​ミリ​波​に​対応​する​アプリケーション​向け​に​カスタム​で​ハードウェア​を​構築​する​の​は、​気​の​遠く​なる​作業​です。​先述​した​よう​に、​ミリ​波​帯​の​周波数​が​通信​用途​にとって​非常​に​魅力​的​で​ある​理由​の​1​つ​は、​広大​な​連続​帯域​幅​を​使用​できる​こと​です。​5G​の​アプリケーション​では​1 GHz​~​2 GHz​の​帯域​幅​に​対応​する​必要​が​ある​はず​です。​この​ニーズ​に​対応​できる​市販​の​ハードウェア​(送信​機、​受信​機)​を​探し出す​の​は​容易​な​こと​では​ありま​せん。​使用​する​周波数​によって​は​対応​する​製品​が​見​つ​から​ない​可能性​が​あり​ます。​もし、​見​つ​か​っ​た​として​も​非常​に​高価​で​ある​かも​し​れ​ま​せん。​あるいは、​未処理​の​データ​の​処理​や​構成​が​行​え​ない​こと​も​ある​で​しょう。​それら​が​可能​だ​として​も、​何らかの​制約​が​ある​かも​し​れ​ま​せん。​そのため、​FPGA​を​採用​した​処理​用​の​ボード​を​カスタム​設計​する​という​の​が​魅力​的​な​選択肢​に​なり​ます。​FPGA​を​搭載​する​ボード​の​設計​に​は​それほど​時間​は​か​から​ない​と​思​われる​かも​し​れ​ま​せん。​しかし、​それと​通信​を​行う​ため​の​ソフトウェア​インタフェース​を​開発​する​ため​の​時間​も​合わせる​と、​非常​に​熟練​した​技術​者​で​あっ​て​も​1​年​以上​は​かかる​ことに​なる​で​しょう。​しかも、​それ​は​プロトタイプ​の​システム​の​うち​ほんの​一部​に​すぎ​ない​の​です。

​また、​プロトタイプ​の​システム​では、​FPGA​を​搭載​する​ボード​に​加​えて、​1 GHz​~​2 GHz​の​帯域​幅​に​対応​する​ため​に​最新​の​D/​A​コンバータ​や​A/​D​コンバータ​を​使用​する​必要​が​あり​ます。​現在​では、​ベース​バンド​と​ミリ​波​の​間​で​周波数​変換​を​行う​ため​の​チップ​を​含​め​て、​さまざま​な​RF IC​が​市場​に​提供​さ​れ​てい​ます。​しかし、​利用​可能​な​機能​が​限​ら​れ​て​いる​ことに​加​え、​ほとんど​の​製品​が​60 GHz​帯​を​対象​として​い​ます。​RF IC​の​代わり​に​IF/​RF​段​を​使用​する​こと​も​可能​です。​ベース​バンド​と​IF​の​ソリューション​が​ある​なら、​ミリ​波​対応​の​無線​ヘッド​の​ため​に、​ベース​バンド​RF IC​以外​の​選択肢​を​考える​こと​も​でき​ます​(ただし、​そうした​製品​は​まだ​多く​は​ありま​せん)。​ミリ​波​対応​の​無線​ヘッド​を​開発​する​に​は、​RF​と​マイクロ​波​を​扱う​回路​の​設計​について​専門​的​な​知識​を​持​って​いる​必要​が​あり​ます。​それらの​知識​は、​FPGA​を​搭載​する​ボード​を​開発​する​ため​に​必要​な​スキル​セット​と​は​まったく​異​なり​ます。​したがって、​ミリ​波​対応​の​無線​ヘッド​に​必要​な​すべて​の​ハードウェア​を​開発​する​に​は、​さまざま​な​分野​の​スキル​を​備え​た​メンバ​を​擁する​チーム​が​必要​です。​FPGA​は、​ミリ​波​ベース​バンド​の​プロトタイプ​システム​における​中核​的​な​要素​として​捉える​必要​が​あり​ます。​数​GHz​を​扱う​チャンネル​に​対応​可能​な​複数​の​FPGA​を​プログラミング​する​場合​に​は、​システム​の​複雑​さ​が​増大​する​ことに​なり​ます。​実際、​サービスプロバイダ​や、​通信​分野​の​研究者​ら​は、​システム​の​複雑​さや​ソフトウェア​に関する​課題​に​直面​する​ことに​なり​ます。​そうした​負荷​を​軽減​する​ため​に、​NI​は​ミリ​波​に​対応​する​プロトタイプ​向け​の​構成​可能​な​ハードウェア​製品​群​と、​ミリ​波​システム​ベース​バンド​の​基本​部分​と​なる​物理​層​の​ソース​コード​を​提供​し​てい​ます。​また、​各種​の​タスク​を​簡素​化​する​ため​に、​複数​の​FPGA​間​で​行う​データ​の​移動​や​処理​を​抽象​化​できる​よう​にし​てい​ます。​これらの​ツール​は、​プロトタイプ​から​システム/​製品​へ​の​移行​という​5G​技術​の​開発​に​必須​の​作業​を​支援​する​こと​を​目的​と​した​もの​です。

 

まとめ

5G​が​具体​的​に​どの​よう​に​実装​さ​れる​の​か​は​まだ​明確​に​な​って​いま​せん。​しかし、​ミリ​波​が​そのため​の​技術​の​1​つ​に​なる​こと​は​間違い​ありま​せん。​その​理由​の​1​つ​は、​データ​の​スループット​に対する​要件​を​満たす​ため​に​は、​24 GHz​以上​の​帯域​で​利用​可能​な​広大​な​連続​帯域​幅​が​必要​に​なる​こと​です。​これ​について​は、​ミリ​波​技術​を​採用​する​こと​により、​14 Gbps​を​超える​データ​レート​を​達成​できる​こと​が​プロトタイプ​の​開発​を通じて​すでに​実証​さ​れ​てい​ます。​まだ​解決​さ​れ​てい​ない​最大​の​問題​は、​「ミリ​波​の​中でも​どの​周波数​帯​が​モバイル​通信​に​使​われる​ことに​なる​の​か」​という​こと​です。​5G​について​は、​ITU​が​その​周波数​帯​の​選定​に​一役​買う​可能性​が​あり​ます。​現在、​世界中​で​使用​可能​な​携帯​端末​を​製造​する​に​は​チップ​セット​が​複数​必要​に​なり​ます。​それら​を​置き換える​1​つ​の​チップ​セット​が​開発/​使用できるようになれば、​端末​メーカー​や​消費者​が​負担​する​コスト​を​低減​する​こと​が​でき​ます。​しかし、​現在​の​周波数​の​割り当て​を​変更​する​に​は​多大​な​コスト​が​かかり​ます。​世界中​で​合意​が​得​られる​単一​の​帯域​を​見出す​こと​が、​現在​懸命​に​追​い​求め​ら​れ​て​いる​理想​的​な​目標​です。​しかし、​最終​的​に​この​目標​が​達成​さ​れる​と​は​限り​ま​せん。​一方で、​各国/​地域​の​サービスプロバイダ​は、​できるだけ​早く​5G​を​実現​した​いと​考え​てい​ます。​そのため、​ITU​の​勧告​を​無視​し、​世界​規模​の​拡張​は​行​え​なく​て​も、​最も​利用​し​やすい​周波数​帯​を​採用​しよう​として​い​ます。​また、​適切​な​プロトタイプ​を​開発​できる​製品​を​活用​し、​5G​の​開発​において​必須​の​要素​と​なる​双方向​通信​リンク​の​フィールド​試験​も​行​って​い​ます。​その​結果​を​活用​する​こと​で、​研究者​ら​は​この​新た​な​技術​の​実証​を​行い、​かつて​ない​ほど​の​スピード​で​標準化​を​進​め​てい​ます。

​未知​の​部分​は​少​なく​ありま​せん。​しかし、​ミリ​波​技術​が​実用​化​さ​れる​こと、​そして​その日​が​近い​こと​は​確か​です。​次世代​の​ワイヤレス​通信​が​登場​する​日​を​目前​に​控え、​世界中​が​その​具体​的​な​実装​方法​に​期待​を​込​め​つつ​注目​し​てい​ます。

 

参考文献

[1] CISCO VNI 2016: http://​www.cisco.com/​c/​en/​us/​solutions/​collateral/​service-​provider/​visual-​networking-​index-​vni/​mobile-​white-​paper-​c11-520862.html

[2] RAN 5G Workshop, Sep 19, 2015   http://​www.​3gpp.org/​news-​events/​3gpp-​news/​1734-​ran_5g

[3] IMT 2020 https://​www.itu.int/​dms_pubrec/​itu-​r/​rec/​m/​R-​REC-​M.​2083-0-201509-​I!!​PDF-​E.pdf

[4] Taub, H., & Schilling, D. L. (1986).Principles of Communication Systems. (通信​システム​の​原理)​McGraw-​Hill.

[5] Resolution Com6/20, Provisional Final Acts WRC-15. WRC-15 (pp.​424-426). Geneva:ITU. http://​www.itu.int/​dms_pub/​itu-​r/​opb/​act/​R-​ACT-​WRC.​11-2015-​PDF-​E.pdf

[6] Use of Spectrum Bands Above 24 GHz for Mobile Radio Services(24 GHz​以上​の​周波数​帯域​を​使用​した​モバイル​無線​サービス), GN Docket No. 14-177, Notice of Proposed Rulemaking, 15 FCC Record 138A1 (rel. Oct. 23, 2015)

[7] T. S. Rappaport, J. N. Murdock, and F. Gutierrez, ''State of the art in 60 GHz integrated circuits & systems for wireless communications(60 GHz​を​利用​する​無線​通信​用​の​IC/​システム​の​最新​動向),'' Proc. IEEE, vol. 99, no. 8, pp.​1390–​1436, Aug. 2011.

[8] Samsung "5G Vision(5G​の​ビジョン)", p. 7, http://​www.samsung.com/​global/​business-​images/​insights/​2015/​Samsung-5G-​Vision-0.pdf page 7

[9] O’Rielly, M. (2016, January 15). 2015 World Radiocommunication Conference: A Troubling Direction(WRC-15:​憂慮​すべ​き​方向​性) https://​www.fcc.gov/​news-​events/​blog/​2016/01/15/2015-​world-​radiocommunication-​conference-​troubling-​direction