分散計測システム構築

概要

アプリケーションが複雑化すると、自社によるセンサ配線はより困難になり、コストもかかります。人件費や設備費も加えると、センサケーブルの敷設コストが新規のデータ収集システムを導入する上での唯一で最も高額なアイテムになることは少なくありません。従来の集中データ収集システムに代わるアプローチでは、アプリケーションの周辺にデータ収集デバイスを分散させて、産業用ネットワークケーブル1本でサーバまたは制御室へのデータ転送を行います。たとえば、風力タービンでは、ブレードから中央ハウジングに伸びるワイヤは、ブレードの回転時にスリップリングを経由して自由に回転する必要があります。ブレードからの配線が多いほど、必要なスリップリングシステムが複雑になり、障害点とシステムコストが指数関数的に増加します。この記事では、より一般的な従来からの集中アプローチとは一線を画す、この分散センサ計測アーキテクチャの利点と使用例、および実装方法について説明します。

内容

集中計測システム比較した分散計測システム特長

基本的な計測システムは、テストから得られた信頼できる高品質の情報をオペレータに確実に届けるためのコンポーネントで構成されています。まず被試験ユニット (UUT) 関連では、信号調節 (高品質のセンサ計測に欠かせないセンサの励起、フィルタリングなど) に配線されたセンサがあります。信号調節によりクリーンアップされた信号はデータ収集システムに送られます。データ収集システムは、アナログセンサ信号をデジタル信号に変換し、コンピュータによる分析を行うか、後で処理するための保存を行います。また、オペレータはユーザインターフェースコンポーネントを使用してデータ収集システムとやり取りします。

図1.集中計測システムでは、コンポーネントはすべて1つのシステムにまとめられ、通常は被試験ユニットからある程度離れた場所に設置されます。

 

従来のデータ収集システムでは、中央制御室に大型の計測ハードウェアとコンピュータを収納した集中アーキテクチャが採用されています。このようなシステムの利点は、テスト環境の厳しさから隔離されることから、一般的に保守が容易になることです。ただし、このような集中システムでは、コストが高く過度に複雑な計測システムとなる可能性があります。

分散システムでは、データ収集用のハードウェアをUUTの周囲に配置します。多くの場合、テスト環境の内部、それも計測センサのできるだけ近くに配置します。これらの機器はローカルでUUTとやり取りし、テストオペレータが配置された中央サーバからのコマンドを受信したり、メッセージやデータを送信してログに記録したりします。このアーキテクチャには、集中システムに比べていくつかの利点があります。大規模な集中システムを分散した小規模なシステムに分割して、より小規模で安価なサブシステムを構築することで、障害の発生時に簡単に交換と保守ができるようになります。また、テストセルに数百本にも上るセンサワイヤを敷設する代わりに、分散サブシステムに1本の通信ケーブルを配線することで配線コストを削減することができます。このケーブル敷設の削減によりコストが削減できるだけではなく、さらに重要な点として、センサワイヤが短いほどノイズ、干渉、信号損失が発生しにくくなるため、分散システムでは計測精度が向上します。最後に、分散システムとすることで、メインの中央コンピュータで行われる処理の負荷軽減に貢献します。多くの分散データ収集システムは、中央のシステムにアップロードする前にデータを分析して重要なデータだけに絞り込むオンボードインテリジェンスも備えています。これにより、中央コンピュータは、ユーザインターフェースとデータストレージを処理しながら、未加工の計測チャンネルを処理する場合と比べて、大幅なコスト削減と高速性を実現することができます。

図2.分散アーキテクチャでは、システムコンポーネントを分離し、物理的に計測が行われている場所の近くに計測デバイスを配置します。

 

分散システム構築要件

分散計測システムに使用するデータ収集ハードウェアを選択するときは、特定の要件に留意する必要があります。システムの性質上、ローカライズされた信号調節とデータ収集に加えて、それ以外にも、すべての分散ノード間で計測を同期する機能、堅牢性、オンボード処理なども必要になりますが、それらは機能を選択して、アプリケーションのニーズに合わせてカスタマイズすることができます。アプリケーションとその要件によっては、ノードの分散とノードと通信を行うためのネットワークの選択も重要な決定事項となる可能性があります。

 

ローカライズ信号調節データ収集

分散計測システムでは、センサ信号の調整とデータ収集は計測を行うセンサ近くのノード内に配置されます。信号調節は、データ収集デバイスの外部と内部のいずれにも配置することができます。信号調節をデータ収集デバイスに統合することで、システムの複雑さとコストを削減することができます。統合信号調節機能を購入すれば、ベンダーが統合、テスト、および認証した機能を利用することができるため、テストシステムの設計と展開がはるかに簡単になります。多くの場合、規模の経済がエンドユーザよりベンダーに有利に働くので、統合された信号調節機能を持つコンポーネントを購入することで、システムの総コストが削減されます。

 

堅牢性

分散システムは、センサにできるだけ近くなるよう、UUTと同じテスト環境内に設置される傾向があります。つまり、データ収集装置は過酷で厳しい条件下に設置されるため、通常のデスクトップ機器ではデータが不正確になったり、全体が故障する可能性が少なくないことを意味します。信号調節とデータ収集装置がテスト環境に対する耐性を確実に備えていれば、初回で正確なデータを集録できるため、コストのかかる再テストを行う必要がなくなります。システム要件の候補としては、非常に広い製品検証テスト温度範囲、衝撃と振動への耐性 (システムが計測対象機器に直接取り付けられる場合)、危険な場所への設置の認証取得などがあります。こうした要件に合致することで、海洋環境や爆発の危険性がある環境での安全なシステム稼動が保証されます。

さまざまな堅牢性の要件を満たす、データ収集システム用の筐体を設計することは可能ですが、環境への耐性を試験して認証を取得したシステムを購入するほうが、多くの場合、コスト的には有利です。堅牢性ソリューションの開発と統合を独自に行う場合、これらの手順を適切に実行する時間に加えて、設計、材料、テスト、およびコンプライアンスのコストが急速に積み上がり多額に上る可能性があります。ベンダーの場合、これらのコストを数千のユニットに分割して償却し、より低いコストで同じだけのメリットを提供することができます。

詳細については、堅牢性および環境に合った適切なシステムを選択する方法を参照してください。

 

同期

同期とは、最も基本的なレベルで、通常はクロックとトリガ信号を共有することにより、システムのすべての部分が同一の時間概念を持つことを保証することです。大規模な計測システムでは、テストで取得したデータを適切に相関させて分析する必要が生じることがよくあります。適切に同期されていないと、2つの計測が同時に発生したかどうか、また刺激/応答タイプのテストの場合、どの刺激に対する応答なのかを知るすべはありません。たとえば、ボーイングは、多数の分散マイクシステムを使用して、飛行機の音がさまざまなマイクに到達するまでの遅延を計測することにより、フライオーバーテストで飛行機の主要なノイズ源を三角測量しました。分散マイクノードが適切に同期されていなければ、異なるノード間の遅延を適切に計測できません。これらのノードは同一の時間概念を持たないからです。

集中計測システムでは、ほとんどのシステムが同じシャーシ内にあるため、同期はかなり容易です。分散システムには、場合によりかなり長距離間でシステムを同期するという固有の問題があります。分散システムで使用する同期のタイプには、ソフトウェア、時間ベース、信号ベースなどがあり、それから選択することができます。

ソフトウェア同期では、データ収集ソフトウェアにより、すべてのデバイスに同時に開始トリガを送信します。これは同期の実装としては最も貧弱なものであり、通常はミリ秒のオーダーです。分散されたサブシステム間では情報は共有されないため、内部クロックが時間の経過とともにドリフトし、計測中の同期が低下する可能性があります。

時間ベースの同期では、既知のクロックソースからシステムコンポーネントに対して時間の共通参照が与えられます。この共通参照時間があれば、それに基づいたイベント、トリガ、およびクロックを生成することができます。長距離の場合、GPS、IEEE 1588 v2、IEEE 802.1AS、IRIG-Bなどのさまざまな時間基準を使用して、計測システム間の直接接続の有無にかかわらず、世界中のどこでも絶対的タイミングで計測の相互関連付けおよび同期を行うことができます。時間ベースの同期は、すでに配置されているネットワークケーブルまたはGPSなどのワイヤレス同期クロックを使用するもので、サブシステム間で同期ケーブルを敷設する必要性を減らすか不要とする目的で、最もよく使用されます。

信号ベースの同期では、サブシステム間でクロックとトリガを物理的に接続します。通常、この方法は最高精度の同期を実現できますが、同期信号を共有するための、サブシステムを接続する信号線が必要となります。信号ベースの同期の欠点は、物理的な信号線に沿ったルーティング遅延によるスキューと不確実性が発生する可能性があることです。

さまざまなタイプの同期の詳細を見る。

 

オンボードインテリジェンス

分散システムを特に構築しなくても、オンボードインテリジェンスを備えたデータ収集ノードは、システムに大きなメリットをもたらす可能性があります。ノードにインテリジェンスを配置することで、データ分析を分散し、場合によってはサブシステムを制御して、中央コンピュータの負荷を軽減する機能をノードに付与することができます。分散データ分析により、ネットワークを介してメインコンピュータに返送するデータ量を減らし、ネットワークトラフィックと必要な帯域幅を大幅に縮小することができます。  計測したすべての未加工波形をネットワーク全体に渡すのではなく、ローカルで分析を実行してから結果のみを中央コンピュータに渡して、そこで保存したり、より大規模な分析や意思決定に統合したりすることができます。当然ながら、異常事態が発生した場合はいつでも、ネットワーク経由で未加工の波形を送信することができます。

それぞれが異なるレベルの柔軟性と複雑さを備えた、3つのオンボードインテリジェンスから選択することができます。

Windowsは、選択肢として最もなじみのあるシステムです。MicrosoftはWindows組込システムへの投資を継続しているため、その組込システムを計測アプリケーションに使用する際の信頼性への懸念は限られています。  さらに、そのシステム上でユーザインターフェースを直接実行できることはアプリケーションにもメリットがあり、また他のより一般的な組込システムで必要になるコーディングについて心配することなく、一般的な.exe Windowsアプリケーションを実行することができます。

リアルタイムOS (RTOS) は、その信頼性と決定論的な特質により、分散計測システムでの使用に適しています。特定の時間制約内でのコマンドと計測の実行を保証することで、リアルタイムシステムは、稼働時間と信頼性への要求が高い、または決定論的な厳しいタイミング要件を持つ計測システムに最適です。

FPGAは再プログラム可能なシリコンチップであり、分散システムに究極の柔軟性とカスタマイズ性を提供します。再プログラミング可能なチップは、プロセッサ搭載システム上で実行するソフトウェアと同じ柔軟性を備えながらも、利用可能なプロセッサコア数の制約を受けることがありません。またプロセッサと異なり、FPGAは並列性を備えているため、異なる処理操作が同じリソースを巡って競合することもありません。さらに、シリコンチップにコードが書き込まれるため、FPGAはプロセッサベースのシステムよりもはるかに高速にデータを計測、分析、出力することができます。

 

ネットワーク

システムを分散するネットワークは、ハードウェアの分散と同程度に重要です。配信距離、データ帯域幅、同期、および決定論の要件に応じて、ネットワークの選択肢は多種多様です。シリアル通信技術に基づく通信ネットワークはさておき、この記事では、ますます普及が進行し、シリアル通信よりも多くの利点を低価格で提供できるイーサネットベースの技術に焦点を当てます。

イーサネット (UDP) は、データのブロードキャストのみを行う標準のイーサネットテクノロジです。UDPは、コントローラから複数の宛先にパケットをルーティングするマルチキャストプロトコルです。これは、1つのコントローラから複数の受信機にデータをブロードキャストするための効率的な通信方法ですが、ネットワーク帯域幅を消費するブロードキャストストームの原因となることがあります。情報が受信されたという保証はないため、重要でないデータを時間をかけて更新する場合にのみ使用すべきです。

イーサネット (TCP/IP) は、重要なデータに適した標準のイーサネットテクノロジの1つです。TCP/IPは、データをバッファリングして、データの適切な受信を保証する送信機と受信機間のハンドシェイクプロセスを実装するとともに、重要データの適切な処理を行い、またシングルポイントまたはストリーミングデータのいずれにも対応します。

OPC (OLE for Process Control) は、さまざまなベンダーのさまざまなデバイス同士が、共通のベンダーアグノスティックプロトコルを介して通信できるようにするための標準です。産業用のデータ収集および制御デバイスのサプライヤは、OPCとの連携が想定されています。

Modbusは、標準のイーサネットハードウェアとTCP/IPトランスポート層を使用する、単純なクライアント/サーバアーキテクチャを備えた非決定論的プロトコルです。複数のベンダーが提供するハードウェアが混在し、低から中程度の帯域幅を必要とするアプリケーションに最適です。

EtherCATはBeckhoffにより開発されたもので、同期と決定論的データ転送をマスタ/スレーブアーキテクチャに統合します。EtherCATはシングルポイント通信用に最適化されており、機械制御などのモーションを伴うアプリケーションで普及しています。

 

分散計測システム向けNI製品

NIには、高品質の分散計測システムを構築するためのさまざまなプラットフォームと製品があります。PXIのパフォーマンスと豊富なチャンネル数から、NI CompactDAQの統合型信号調節と小型のフォームファクタ、CompactRIOの柔軟性とカスタマイズ性まで、アプリケーションのニーズに応えるNIプラットフォームが用意されています。

 

NI PXI

NI PXIは、PXIおよびPXI Expressオープンスタンダードを中心に構築された堅牢なPCベースのプラットフォームです。単一システムは、シャーシ、コントローラ、および最大18枚の高性能な多チャンネル数データ収集カードで構成されています。さらに、必要に応じて、シャーシをネットワーク化して緊密に同期させれば、より多くのチャンネル数を持つ分散サブシステムを形成できます。PXIコントローラは、シングルコア1.66 GHzアトムプロセッサからクアッドコア2.3 GHzプロセッサまで、WindowsとRTOSの両方におけるオンボード処理パフォーマンスを幅広く提供します。テストおよび分散計測のニーズに対応するため、センサ用の統合信号調節機能を備えたモジュールを含む、450を超えるNI PXIモジュールから選択することができます。

NI PXIシステムは、すべての主要な産業用ネットワーク規格をサポートしながら、分散計測システムの開発に必要な最高レベルの計測、同期、および処理パフォーマンスを提供します。

図3.NI PXIは、分散計測ノードに最高レベルのパフォーマンスとチャンネル数を提供します。

 

NI CompactDAQ

NI CompactDAQは、シャーシ、NI Cシリーズデータ収集モジュール、およびオプションのリアルタイムまたはWindowsコントローラで構成されるモジュール式データ収集システムです。NI CompactDAQは、PXIよりも設置面積が小さく、より頑丈な仕様で設計されており、ラボベンチから頑丈なテストセルまで、どこでも信頼性の高い計測を行うことができます。標準電圧からひずみ、温度、振動まで、あらゆる計測に利用できる60種以上のCシリーズI/Oモジュールを使用することで、統合信号調節でアプリケーションのニーズに対応するカスタム仕様の分散計測ソリューションを構築することができます。

NI CompactDAQは、USB、イーサネット、またはWiFiを介してホストコンピュータに接続された状態での動作、またはオンボード処理、データ削減、産業用ネットワーク通信を行うWindowsかRTOSを備えたスタンドアロンシステムとしての動作を行います。

図4.NI CompactDAQは、頑丈で分散設置が可能なフォームファクタを持ち、あらゆるタイプの物理的計測に接続するようカスタマイズすることができます。

 

NI CompactRIO

NI CompactRIOシステムは、通信/処理用組込コントローラ、ユーザによるプログラミングが可能なFPGAを搭載した再構成可能シャーシ、NI CompactDAQプラットホーム向けと同じホットスワップ可能なCシリーズI/Oモジュールで構成されています。バリューベースから高性能のデュアルコアWindowsまたはリアルタイムシステムまで、さまざまなコントローラオプションが用意されているCompactRIOは、アプリケーションに必要なオンボード処理や産業用ネットワークを確実に処理することができます。オンボードFPGAを使用すれば、カスタム仕様の信号処理、タイミング制約、またはプロトコルをさらに追加して究極の柔軟性を実現することができます。

図5.NI CompactRIOは、頑丈で分散設置が可能なフォームファクタを持ち、究極の柔軟性とオンボード処理を提供します。

 

関連情報

 

分散システム用の堅牢な計測ハードウェアの選択

分散サブシステムの同期

 

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