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PXIモジュール計測使用した電源管理ICテスト

概要

電源管理IC (PMIC) とは、携帯電話、タブレット端末、自動車ECUなどのシステム内で電力を管理したり変換したりするのに使用する集積回路です。携帯電話など、筐体内の容積が限られたハンドヘルドデバイスに使用されるような低電力PMICは、PCB上に直接実装され、デバイスの電源/バッテリと複雑な電子部品の間の極めて重要な橋渡しを担います。DC/DCパワーコンバータは一般的なPMICの一例で、電源変換回路を使って、ある電圧レベルから別の電圧レベルへ直流電源をアップコンバート/ダウンコンバートするICです。DC/DCコンバータそのものの製造前の設計検証でも、DC/DCコンバータを製品に組み込む場合の評価でも、これらのテストには再現性の高い高精度のテストシーケンスが必要です。

標準のDC/DCコンバータのテストシーケンスでは、電圧確度、効率、電源/負荷変動、過渡応答といった特性基準を測定します。このホワイトペーパーでは、以前なら電源、DMM、オシロスコープといった複数の異なる計測器を必要としていた多くのテストを、NIのシステムSMUの機能、精度、速度を利用して実行する方法を紹介します。

内容

コンポーネント例

図1:Texas Instruments TPS54360降圧DC/DCコンバータ (TI.com提供)

一般的な低電力DC/DCコンバータのシステムセットアップとテスト手順を説明する目的で、ここではTexas InstrumentsのTPS54360を取り上げます。図1に示すTPS54360は、自動車/通信システム用の降圧型コンバータです。4.5~60 Vの入力電圧に対応でき、これを0.8~58.8 Vの間の任意の電圧にダウンコンバートすることができます。また、最大出力電流は3.5 Aです。

TPS54360 DC/DCコンバータの各仕様を確認することで、それらの値の検証に必要なハードウェアを特定することができます。

消費電流

バッテリを電源としてDC/DCコンバータの入力側に電圧を入力する場合、多くのエンジニアの関心はDC/DCコンバータが消費する電流に向けられます。とりわけ関心の対象となるのが、DC/DCコンバータのシャットダウン電流と静止電流です。

シャットダウン電流 ― MAX8640Y DC/DCコンバータを動作させるには、SHDNピンに電圧を接続する必要があります。SHDNをGNDまたは論理LOWに接続すると、MAX8640Yはシャットダウンモードになります。メーカーはコンバータがこのシャットダウン状態で電源から引き込む電流、すなわちシャットダウン電流を関心対象とする場合があります。

静止電流 ― 静止電流は、DC/DCコンバータの反対側に負荷が存在しない場合に電源から流れる電流です。電源の供給電圧を100μV単位でスイープしながら、入力側で消費される電力をモニタすることで、テストエンジニアはこの特性を評価することができます。その評価を行った結果は、図2に示すグラフのようになります。

TPS54360の静止電流の特性評価

図2:TPS54360の静止電流の特性評価

 

パラメータテスト条件最小標準最大単位
供給電圧 (VIN端子)
シャットダウン時の消費電流EN = 0 V、25℃、4.5 V ≤ VIN ≤ 60 V 2.254.5µA
動作時: 非スイッチング供給電流FB = 0.9 V、TA= 25℃ 146175

 

表1:TPS54360データシートに記載された電源から供給される電流の仕様

 

表1からわかるとおり、TPS54360は通常値2.25 μAのシャットダウン電流と146 μAの静止電流を消費します。

テストシステム構築

図3に示すNI PXI-4139高精度ソースメジャーユニット (SMU) は、電流消費をテストするのに適しています。このモジュールは、DC/DCコンバータの入力側に接続して電圧を供給しながら、同時にDC/DCコンバータが引き込む電流を測定できます。PXI-4139は、測定範囲を1 µAとしたときに100 fAの分解能で電流測定ができ、静止電流やシャットダウン電流、ナノアンペアレベルの漏れ電流の特性評価には十分な計測能力を持っています。PXIe-4139を用いてDC/DCコンバータテストシステムを構築することで、高確度な測定が可能になるとともに、プログラムによってソースやスイープを実行することができます。

NI PXIe-4139をテストシステムのスロット1に追加

図3:NI PXIe-4139をテストシステムのスロット1に追加

次のセクションでは、PXIシステムにPXIe-4139をさらに追加して、テスト機能を拡張する方法を解説します。このドキュメントを最後までお読みいただくと、DC/DCコンバータのテストに必要なハードウェアが全て揃った完全なPXIシステムを構築する方法を習得できます。

負荷適用

DC/DCコンバータは、負荷となる他のデバイスに電力を供給することを目的としています。DC/DCコンバータを扱う場合、負荷電流とは、特定の電力レベルにおいて、出力側の回路がDC/DCコンバータから引き込む電流として定義されます。コンバータの出力側に負荷を適用することで、効率対負荷曲線、DCラインレギュレーション、DC負荷レギュレーション、電流リミットテストなどの一般的な業界仕様を評価することができます。

DC電源変動およびDC負荷変動 ― DC/DCコンバータの出力側は最大定格負荷に維持されている状態で、入力側に供給する電源電圧を定格最大値から定格最小値へとスイープすると、それに応じて出力電圧が変化します。DC電源変動とは、この出力電圧の変化の割合をmV/Vまたは%で表したものです。同様に、DC負荷変動とは、入力側に供給する電源電圧が一定に保たれている状態で、出力側に接続された負荷が指定の最小定格電流から最大定格電流 (最大負荷) に変動するときに、出力電圧の変化をmV/Aまたは%で表したものです。負荷変動は、一般に電源電圧が公称入力電圧に保たれているときに測定します。SMUを出力側に接続して測定を行うことで、これらの仕様として図4に示すグラフのような特性が得られます。

TPS54360データシートに記載されているDC電源 (左) と負荷 (右) 変動

図4:TPS54360データシートに記載されているDC電源 (左) と負荷 (右) 変動

効率対負荷曲線 ― 効率は、供給される電力に対する消費電力の比率であり、通常は% ([Vout x Iout]/[Vin x Iin] x 100) で表されます。効率対負荷曲線は、負荷を増加させたときのDC/DCコンバータの効率の変化を示す特性です。評価手法として、入力側の電圧を最小、公称、最大としたそれぞれの条件下で効率対負荷曲線を求めることも少なくありません。図5は、さまざまな電源電圧の設定した条件下におけるTPS54360の効率対負荷曲線を示しています。

TPS54360データシートに記載されているDC負荷変動

図5:TPS54360データシートに記載されているDC負荷変動

電流リミットテスト ― ピーク出力電流制限は、過負荷および/または短絡状態で出力電流があらかじめ定義された最大値に制限されることを確認することにより、DC/DCコンバータを保護します。これらは両方ともテスト中にシミュレーションできます。

テストシステム構築

SMUを使用すれば、DC/DCコンバータから引き込む電流負荷を変化させることができ、上記のテストに対応することが可能です。PXI-4139の4象限機能を活用することで、図6に示すように、2台目のPXI-4139 SMUをDC/DCコンバータの出力側に接続し、プログラム可能な負荷として振る舞わせることができます。PXI-4139は最大12 Wを継続的にシンクさせながら、同時にコンバータの出力電圧を測定することができます。

2台目のPXIe-4139 SMUをテストシステムのスロット3に追加

図6:2台目のPXIe-4139 SMUをテストシステムのスロット3に追加

 

SMUのハードウェアシーケンスエンジンとPXIシャーシの内蔵トリガ機能を使用して、両方の SMU のソースと測定アクションを同期できます。そのため、下図のようにさまざまな入力電圧や出力電流でDC/DCコンバータをすばやくテストすることができ、大規模なシーケンスをハードウェアタイミング出力で実行することが可能です。 

NI SMUを使用したTPS54360の効率プロット

図7:NI SMUを使用したTPS54360の効率プロット

DC範囲/確度テスト

テストシステム構築にあたって次に考慮すべき性能基準は、DC/DCコンバータの電圧確度の測定です。コンバータの出力によって駆動する負荷回路は電源に対する要件が厳しいことが少なくないため、負荷に供給される電圧は可能な限り高精度であるべきです。

DC範囲テスト ― 出力電圧範囲は、最大負荷状態でDC/DCコンバータが供給できる電圧範囲を指定します。上述のとおり、供給された入力電力と負荷の変化により出力電圧範囲は変動します。そのため、出力範囲特性を評価するには、負荷が一定に保たれ入力が損傷することなくサポートできる状態で、入力側の電源電圧を最大電圧から最小電圧へスイープしながら、コンバータの出力電圧を測定します。降圧型コンバータであるTPS54360は、表2に示すように、4.5~60 Vの範囲の入力を許容し、0.8~58.8 Vの範囲の出力が可能です。

DC確度テスト ― DC/DCコンバータの出力電圧確度仕様は、ユーザが指定した条件で動作している場合の出力電圧の最大変動を示します。DC/DCコンバータの周囲の温度の変化や時間の経過によって、確度は変動します。また、確度は通常予測値または公称値の%という形で示されます。たとえば、TPS54360の内部基準電圧確度は、-40~150℃の温度範囲で±1%と表します。

 

 最小最大単位
VIN 電源入力電圧4.560V
VO 出力電圧0.858.8V
IO 出力電流03.5A
TJ 接点温度-40150°C

 

表2:TPS54360データシートに記載されている範囲の仕様

テストシステム構築

PXIシステムで、1つのPXI-4139が入力電圧を供給し、2台目のPXI-4139がプログラム可能な負荷として動作します。そのため、上述のDC確度の特性評価を行うのに必要な測定は、コンバータの出力電圧の測定のみです。2番目のSMUは、DC/DCコンバータ電流をシンクする際の過電圧状況によるハードウェアの損傷を防ぐために、すでにこの電圧を測定しています。この値はハードウェアから簡単に読み取ることができます。

なお、DC/DCコンバータのテストの際に十分に高い測定確度を担保したい場合は、負荷電流の流れているリード線上での電圧測定を避けることが望ましいとされます。リード線を負荷電流が流れていると、リード線の抵抗に起因して、測定に何ミリボルトもの誤差が生じる可能性があります。また、DC/DCコンバータの確度測定におけるもう1つの注意点として、検査対象デバイスより少なくとも10倍の精度を持つテスト機器を使用する必要があります。そうでないと、検査対象デバイスの確度ではなく、テスト装置自体の不正確性を測定することになりかねません。

上記の2つの問題は、PXI-4139のリモートセンス機能で対処できます。リモートセンシングとは、UUTで電圧を直接測定することで、リード抵抗の両端の電圧降下によって引き起こされる測定誤差を排除します。SMUのリモートセンス端子は入力インピーダンスが高いため、リモートセンス端子に接続されるリード線を流れる電流量はごくわずかです。そのため、リード抵抗の影響が軽減され、負荷電圧を正確にモニタすることができます。

PXIe-4139は電圧を高確度かつ高精度で測定できるため、以前は別途DMMが必要であった場合でも、SMUモジュールだけで測定を行うことも十分に可能となっています。

 

デバイス分解能確度
PXI-4071 DMM1 µV(10 Vレンジ)125 µV (0.0012%)
PXIe-41391 uV(6 Vレンジ)1.5 mV(6 Vレンジで0.025%)

 

表3:PXIe-4139 SMUとPXI-4071 DMMの分解能と確度の仕様比較

注記:特定のデバイスと範囲の分解能と確度を特定する方法について詳しくは、ni.comで当該デバイスの仕様ページをご覧ください。

過渡応答ノイズ

過渡応答とは、もともと平衡状態にあったシステムに変化が生じた際のシステムの応答です。DC/DCコンバータの起動時の電圧と電流の応答や、電源や負荷における変化への応答、オーバーシュート/アンダーシュートや整定時間などの特性を図式化して評価できます。

ライン過渡応答 ― 電源過渡応答とは、DC/DCコンバータの出力ピンでの電圧/電流が入力電圧の変化にどう応答するかを示すものです。DC/DCコンバータへの入力電圧を低い状態から高い状態に遷移させながら、出力電圧をモニタすることで、図7の右上のようなグラフが得られます。

負荷過渡応答 ― 反対に、図7の左上に示す負荷過渡応答は、出力電流の負荷が変化した後、出力電圧が指定の確度に整定するまでの時間を示すものです。様々な振幅ステップでテストすることで、負荷過渡応答について深く理解することができます。それは携帯電話やデジタル家電製品のテストでは極めて重要です。

起動時の波形 ― 最大サンプルレートが1.8 MS/sのPXIe-4139を使用すれば、DC/DCコンバータの最小ON時間を測定することができます。これが整定時間、つまり最大負荷での出力時に、出力電圧が指定の確度に到達するのにかかる時間です。たとえば、最小ON時間は、入力電圧が0から公称電圧に引き上げられ、出力が整定にかかる時間が測定値となっている場合に特定できます。また、TPS54360の最小ON時間の測定には、Vinが存在しているときにENピンを有効にすることでも実施できます。  起動時の波形は図7の左下と右下のグラフに示しています。

ノイズとリプル ― ノイズとリプルとは、DC/DCコンバータの出力で行うAC測定で、単位はミリボルトRMSまたはミリボルトピークピークのいずれかになります。出力リプル電圧は、高周波成分を持つ連続した微小パルスで、通常mVピーク-ピークで表します。DC/DCコンバータの出力におけるリプルとノイズの主な原因は、コンバータがもたらすスイッチングノイズと電源ソースに由来するラインリプルです。ラインリプルの場合、DC/DCコンバータのソース側である程度のリプル除去が可能ですが、除去しきれなかったリプルは負荷に到達します。DC/DCコンバータの出力側に現れるリプルをフィルタする最も一般的な方法は、コンバータの出力でインダクタを直列、キャパシタを並列接続する方法です。これは通常「LCネットワーク」と呼ばれます。 ノイズやリプルは高い周波数成分を持つため、測定には広帯域のデジタイザを使用することをお勧めします。そうすることで、リプルスパイクの全ての重要な高調波が含まれるようになります。

負荷-過渡応答 (TPS54360データシートを参照)  

図8:負荷-過渡応答 (TPS54360データシートを参照、左上)

TPS54360データシートに記載された電源-過渡応答 (右上)

TPS54360データシートに記載された起動時の波形 (下)

テストシステム構築

従来方式の過渡応答/ノイズテストでは、DC/DCコンバータの入出力ラインを、別途用意したオシロスコープで測定する必要がありました。ただしPXIe-4139 SMUは、1.8 MS/sと高速なサンプリングレートで高速で電源/負荷過渡のサンプリングが可能なため、別の計測器を追加する手間やコストがかかりません。図8は、PXIe-4139 SMUで測定したTPS54360の負荷/電源過渡応答波形を示しています。これらのテストでは、SMUは高精度DC電源、外部負荷、オシロスコープとして機能します。外部負荷は500 μsパルスで最大電流の25%から75%まで変化し、SMUはDCコンバータの電流引き込みと電圧出力の両方を測定します。

注記:オーバーシュートも振動もなく、500 μsという高速の立ち上がりのパルスを実現できたのは、SMUの過渡動作を制御できるデジタル制御ループ技術、NI SourceAdaptテクノロジによるものです。

NI SMUを使用したTPS54360の負荷および電源過渡特性

図9:NI SMUを使用したTPS54360の負荷および電源過渡特性

 

さらなる高速収集や周波数解析を行う場合、PXIシャーシの空きスロットモジュールを挿入するだけで、テストシステムに高速オシロスコープを簡単に追加することができます。NIでは、様々なPXIオシロスコープを提供しており、最大24ビットの垂直分解能を持つモジュールから、最大5 GS/sのサンプリングの高分解能/高速測定を持つモジュールまで、1つの空きPXIスロットで実現できます。たとえば、PXIe-5162 4チャンネル、5 GS/s、10ビットオシロスコープとソフトフロントパネルを用いれば、DC/DCコンバータの入出力のノイズの周波数成分を詳しく調べることができます。この場合、600 kHz付近で数ミリボルトのスイッチングノイズが見られます。

PXIe-5162オシロスコープを使用した2チャンネル周波数プロット

図10:PXIe-5162オシロスコープを使用した2チャンネル周波数プロット

テストシステム拡張自動化

PXIフォームファクタなら、一旦テストシステムを構築した後でも、テスト機能を柔軟に拡張することができます。PXIシャーシの空いているスロットには、追加のPXIモジュールをいくつでも挿入することができます。DC/DCコンバータをテストする際に必要となることの多いハードウェアとしては、RF/ミックスドシグナル計測機能や、タイミング解析や検査対象デバイスとの通信のための高速デジタルI/O、閉ループ制御/プロトコルテストのためのFPGAベースI/O用のPXIモジュールがあります。

また、NIのソフトウェアとハードウェアの優れた統合性を利用して、一貫したデータの正確で再現可能なタイミングを実現するPXIテストシステムの自動化を実装できます。NI LabVIEWソフトウェアなどの開発環境を使用して、前述の仕様テストを段階的に実行するテストシーケンスを簡単に作成し、すぐに実行できる強力なテスト管理環境であるNI TestStandを使用して自動化できます。

図11は、拡張シャーシの例を示します。

拡張シャーシの例

図11:拡張シャーシの例

 推奨ハードウェア

PXIシステムには、PXIシャーシと内蔵コントローラが必要です。 PXIシャーシおよびコントローラの詳細については、PXIの概要を参照してください。

このシステムでは、以下のハードウェアコンポーネントが使用されています。