機械テストおよび計測では、様々な力に対する物体の反応を把握する必要があります。力が加わったことで、物質に生じた変形の量を歪みと呼びます。歪みは、変形前の物体の長さに対する、変形した際の長さの変化分の比として定義します(図1)。歪みには、伸長による正(張力)、あるいは収縮による負(圧縮)があります。物体が一方向に圧縮されたとき、この力に対して垂直となる2方向に伸長する性質は、ポアソン効果として知られています。ポアソン比(v)は、この効果の尺度で、縦方向の歪みに対する横方向の歪みの負の比として定義します。無次元の場合も、歪みは、in./in.やmm/mmなどの単位で表されることがあります。 実際には、測定される歪みの大きさは非常に小さいものです。そのため、歪みはしばしばマイクロ歪み(µε)という単位で表されます。1マイクロ歪みはεX10-6です。
図1. 歪みは、変形前の物体の長さに対する、変形した際の長さの変化分の比である。
歪みには、軸歪み、曲げ歪み、せん断歪み、ねじれ歪みの4種類があります。軸歪みと曲げ歪みが最も一般的な歪みです(図2)。軸歪みは、物体に水平方向の直線力を加えた結果として、どのくらい物体が伸びる、または縮むかを測定します。曲げ歪みは、物体に垂直方向の直線力を加えたときの、物体の片側の伸びと反対側の収縮を測定します。せん断歪みは、部品に対して水平方向と垂直方向の両方向に加わる直線力から生じる変形の量を測定します。ねじれ歪みは、部品に対して垂直方向と水平方向の両方向に加わる回転力を測定します。
図2.軸歪みは、物体がどれだけ伸びたか、あるいは引っ張られたかを測定する。曲げ歪みは、片側の伸長と反対側の収縮を測定する。
歪みは複数の方法で測定可能ですが、最も一般的な方法は歪みゲージを使う方法です。歪みゲージの電気抵抗は、デバイスの歪み量に比例して変化します。最も普及している歪みゲージは、接着型の金属製歪みゲージです。金属製の歪みゲージは、極めて細いワイヤや箔をグリッド状にしたものです。グリッド状に構成することにより、平行方向の歪みがかかる金属製のワイヤや箔の量が最大になります。グリッドはキャリアと呼ばれる薄いバックプレートに接着されていて、このキャリアを直接試験片に取り付けます。したがって、試験片の歪みが直接歪みゲージに伝達され、歪みゲージの電気抵抗が線形的に変化します。
図3. 金属製のグリッドの電気抵抗は、試験片に加わる歪み量に比例して変化する。
歪みゲージの基本的なパラメータは歪みに対する感度で、これは定量的にゲージ率(GF)として表されます。GFは、長さまたは歪みのごくわずかな変化に対する電気抵抗のごくわずかな変化の比率です。
通常、金属製歪みゲージのGFはおよそ2です。特定の歪みゲージの実際のGFは、センサの販売元またはセンサのドキュメントで知ることができます。
歪みの測定を行う場合、数ミリストレイン(ε× 10-3)以上の大きさになることは、ほとんどありません。したがって、歪みを測定するには、抵抗値の極めて小さな変化を正確に測定する必要があります。例えば、試験片に500 mεの歪みが発生したとします。すると、GFの2の歪みゲージは2 (500 x 10-6) = 0.1 %の電気抵抗の変化のみを示します。120Ωゲージでは、この変化はわずか0.12Ωになります。
このような小さな抵抗の変化を測定するために、歪みゲージの構成はホイートストンブリッジの概念に基づいています。図4に示すような一般的なホイートストンブリッジは、励起電圧VEXを持つ4つの抵抗で構成されています。ここでは、励起電圧がブリッジに印加されます。
図4. 小さな抵抗の変化を検出するため、歪みゲージはホイートストンブリッジ回路で構成されている。
ホイートストンブリッジは、2つの分圧回路を並列に接続した電子回路です。R1とR2が1つの分圧回路を構成し、R4とR3がもう一方の分圧回路を構成します。ホイートストーンブリッジ出力Voとは、2つの分圧回路の中央のノード間を測定したものです。
この式から、R1/R2= R4/R3のときに、電圧出力VOがゼロになるのがわかります。このような場合、ブリッジが平衡状態であるといいます。ブリッジのいずれかの抵抗が変化すると、出力電圧がゼロでなくなります。まず、図4でR4を歪みゲージと交換した場合、歪みゲージの抵抗が変化するとブリッジの平行状態が崩れ、出力電圧がゼロでなくなります。この出力電圧こそ歪みゲージの役割となります。
歪みゲージ構成には、クォータ、ハーフ、フルブリッジの3種類があり、これらは、ホイートストーンブリッジのアクティブ要素の数、歪みゲージの向き、測定対象の歪みのタイプによって決まります。
クォータブリッジ歪みゲージ
構成タイプI
図5. クォータブリッジ歪みゲージ構成
構成タイプII
歪みゲージの抵抗は、加えられた歪みに対してのみ変化するのが理想ですが、実際には、歪みゲージの材質と測定対象の試験片の材質は、温度変化に反応します。クォータブリッジ歪みゲージ構成タイプIIでは、ブリッジ内で歪みゲージを2つ使用すると、温度の影響を最小限に抑えることができます。図6に示したように、通常、1つ目の歪みゲージ(R4)はアクティブで、2つ目の歪みゲージ(R3)は温度の影響は受けながらも、試験片には接着されておらず、歪みの主軸に対して直角に配置されています。したがって、歪みはこのダミーゲージに対してほとんど影響しませんが、温度変化が生じると、双方のゲージに同じように影響します。温度変化は、双方の歪みゲージに同じように影響するため、双方間での抵抗比は不変であり、出力電圧Voも変動しないので、温度による影響は最小限に抑えることができます。
図6. ダミー歪みゲージは歪み測定に対する温度の影響を取り除く。
ハーフブリッジ歪みゲージ
ハーフブリッジ構成で双方にアクティブな歪みゲージを付けることによって、ブリッジの歪みに対する感度を2倍にすることができます。
構成I |
構成II - 曲げ歪みのみ |
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図7. ハーフブリッジ歪みゲージの感度はクォータブリッジ歪みゲージの2倍である。
構成タイプI
この構成はよくクォータブリッジタイプII構成と混同されますが、違いとして、タイプIには、歪みの試験片に接着されたアクティブなR3の要素があります。
構成タイプII
フルブリッジ歪みゲージ
フルブリッジ歪みゲージ構成には、4つのアクティブな歪みゲージが必要となります。3つの異なる構成タイプがあります。タイプ1および2は曲げ歪みを測定し、タイプ3は軸歪みを測定します。タイプ2と3のみがポアソン効果を補正しますが、3タイプ全てが温度の影響を最小限に抑えます。
構成I - 曲げ歪みのみ |
構成II - 曲げ歪みのみ |
構成III - 軸歪みのみ |
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図8. フルブリッジ歪みゲージ構成
構成タイプI
構成タイプII
構成タイプIII
測定する歪みの種類(軸歪みまたは曲げ歪み)を決めたら、感度、コスト、動作状況など、その他の点を検討します。同じ歪みゲージの場合、ブリッジ構成を変更すると、歪みに対する感度が向上する可能性があります。例えば、フルブリッジタイプI構成は、クォータブリッジタイプI構成の4倍感度が高くなります。ただし、フルブリッジタイプIには、クォータブリッジタイプIよりも歪みゲージが3つ多く必要です。また、歪み計測ターゲットの構造物の両面ともに歪みゲージを付ける必要があります。さらに、フルブリッジ歪みゲージは、ハーフブリッジやクォータブリッジゲージよりも大幅にコストがかさみます。各種歪みゲージの特徴を次の表にまとめました。
計測タイプ |
クォータブリッジ |
ハーフブリッジ |
フルブリッジ |
||||
タイプI |
タイプII |
タイプI |
タイプII |
タイプI |
タイプII |
タイプIII |
|
軸歪み |
可 |
可 |
可 |
不可 |
不可 |
不可 |
可 |
曲げ歪み |
可 |
可 |
可 |
可 |
可 |
可 |
不可 |
補正 |
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|
横断方向の感度 |
無 |
無 |
有 |
無 |
無 |
有 |
有 |
温度 |
無 |
有 |
有 |
有 |
有 |
有 |
有 |
感度 |
|
|
|
|
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感度(1000 µε時) |
~0.5 mV/V |
~0.5 mV/V |
~0.65 mV/V |
~1.0 mV/V |
~2.0 mV/V |
~1.3 mV/V |
~1.3 mV/V |
取り付け |
|
|
|
|
|
|
|
取り付けゲージの数 |
1 |
1* |
2 |
2 |
4 |
4 |
4 |
取り付け位置 |
片面 |
片面 |
片面 |
両面 |
両面 |
両面 |
両面 |
ワイヤ数 |
2または3 |
3 |
3 |
3 |
4 |
4 |
4 |
ブリッジ構成抵抗 |
3 |
2 |
2 |
2 |
0 |
0 |
0 |
*2つ目の歪みゲージは温度の影響は受ける位置に取り付けられるが、試験片には接着されない。 |
グリッド幅
取り付ける場所に制限がない場合、幅の広いグリッドを使えば、放熱がより促進され、歪みゲージの安定性が強化されます。ただし、試験片に、歪みの主軸に対して直角の、急な傾斜がついた歪みがある場合、幅の狭いグリッドを使って、せん断歪みおよびポアソン歪みの影響で生じる誤差を最小限に抑えるようにしてください。
公称ゲージ抵抗
公称ゲージ抵抗は、歪みのない位置の歪みゲージの抵抗です。特定ゲージの公称ゲージ抵抗は、センサの販売元またはセンサのドキュメントで知ることができます。市販の歪みゲージの最も一般的な公称抵抗値は、120 Ω、350 Ω、および1,000 Ωです。励起電圧によって生じる熱量を軽減するには、より高い公称抵抗を検討してください。高い公称抵抗は、温度の変動によりリード線抵抗が変化して生じる信号の変化を軽減するのにも役立ちます。
温度補正
歪みゲージの抵抗は歪みのみに応じて変化するのが理想的です。しかし、歪みゲージの低効率と感度は、温度によっても変化します。これは測定エラーにつながります。歪みゲージメーカーは、測定対象となる試験片の熱膨張を補償するようにゲージの材質を加工することにより、温度の影響を最小限に抑えることに努めています。これらの温度補正ブリッジ構成は、より温度の影響を受けにくくなっています。温度変動による影響の補正をサポートする構成タイプも検討してください。
取り付け
歪みゲージの取り付けには、時間とリソースを大量に費やす場合があります。ブリッジ構成によってこの量は大きく変わります。接着ゲージの数、ワイヤの数、取り付け位置の全てが、取り付けに必要な工数に影響します。一部のブリッジ構成では、測定対象物の両面にゲージを取り付ける必要さえあります。これは難しかったり、全く不可能だったりする場合があります。クォータブリッジタイプIが最も単純です。1個のゲージを取り付けて、2、3本のワイヤが必要なだけだからです。
歪みゲージ測定は複雑で、複数の要素が測定性能に影響し得ます。したがって、ブリッジ、信号調節、配線、およびDAQコンポーネントを適切に選択・使用して、信頼性の高い測定データを生成する必要があります。例えば、歪みがない場合、ゲージアプリケーションによって引き起こされる抵抗公差や歪みによって、多少の初期オフセット電圧が生成されます同様に、長いリード線はブリッジのアームに抵抗を加えることがあります。これによって、オフセットエラーが加わり、ブリッジの出力の感度が下がります。高精度の歪み測定を確実に行うには、次の点を考慮する必要があります。
これらの誤差の補正方法や、歪み測定に関する他のハードウェアの考慮点については、「高確度のセンサ計測を実現するためのテクニカルガイド」をダウンロードしてください。