温度を電気信号に変換するセンサには様々な種類があります。通常は、熱電対、RTD、サーミスタの3種類です。それぞれに固有の動作原理、メリット、考慮点、デメリットがあります。このホワイトペーパーでは、アプリケーションのニーズに最適な温度センサを選択するための情報を提供します。
温度センサを選択する際、動作範囲、感度、線形性、応答時間など、センサ自体の特性のほか、各センサが計測ハードウェアに課す要件についても考慮する必要があります。例えば、熱電対には、サーミスタと違って電流励起は不要ですが、冷接点補償は必要です。そして、冷接点補償は、特定の計測ハードウェアシステムでしか対応しません。温度計測に必要な計測ハードウェアをよく知るためには、「高確度のセンサ計測を実現するためのテクニカルガイド」をダウンロードしてお読みください。
表1では、タイプ別温度センサのハイレベルな比較を示しています。
表1. タイプ別温度センサのメリットとデメリット
メモ:この記事では言及していない、ICや光ファイバーグレーティングなど、他の温度計測センサを使うこともできます。
表2には、ここで検討している3種類のセンサの特性を示しています。
特性 |
熱電対 |
RTD |
サーミスタ |
温度範囲 |
極めて良い -210~1760 ℃ |
大変良い -240~650 ℃ |
良い -40~250 ℃ |
普通 |
良い |
良くない |
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低い |
中程度 |
大変高い |
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中程度~速い |
中程度 |
中程度~速い |
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普通 |
良い |
良くない |
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中程度 |
高い |
中程度 |
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しない |
はい、わずかにしやすい |
はい、とてもしやすい |
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極めて良い |
良い |
良くない |
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最も低い |
高い |
低い |
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信号調節要件 |
冷接点補償 増幅 熱電対断線検出機能 スケーリング |
励起 リード線抵抗補正 スケーリング |
励起 スケーリング |
表2:タイプ別温度センサの比較
次の特性を使って、温度センサの機能と性能を判断してください。これらは全ての温度センサに適用できますが、注意事項や例外があります。センサを選択する際、それぞれの特性が計測に対して与える影響を理解して、プロジェクト要件に細かく沿ったセンサを選択することが重要です。
センサの温度範囲は、センサが安全に動作し、正確な計測を行うと評価されている温度を定義しています。各熱電対には、熱電対の作成に使用されている金属の性質に基づいて指定された温度範囲があります。RTDは、温度範囲が狭い代わりに、線形性と確度に優れています。サーミスタは、温度範囲が最も狭いのですが、感度に優れています。センサをさらせる温度範囲を把握することで、センサの損害を防ぎつつ、良好な計測を実行できます。
最良なセンサは、完全な線形応答を備えています。温度に単位変化が起こると、センサの温度範囲全体にわたり、電圧出力に単位変化がもたらされます。ただ、実際には完璧な線形性を持ったセンサはありません。図1は、ここで検討している3つのセンサの温度/電圧応答を表したものです。
図1. センサの温度/出力応答
センサの感度とは、ある温度の変化に対する、計測可能な出力の割合の変化を示すものです。サーミスタなどの感度の高いセンサほど、熱電対などの感度の低いセンサよりも、小さな温度の変化を検出しやすくなります。ただし、この感度が高いと、線形性は損なわれます。計測する温度に対して最適なセンサを選ぶ際、これは重要な要因となり得ます。狭い温度範囲でほんのわずかな変化をとらえようという場合は、サーミスタやRTDがより適しています。広い温度範囲で大きな温度変化をとらえる場合は、熱電対で十分かもしれません。図2から、出力電圧の違いがわかります。
図2. 異なるタイプの温度センサの感度
応答時間とは、温度の変化にセンサが応答するのに要する時間です。応答時間の長さを左右する要因はたくさんあります。例えば、RTDやサーミスタは大きくなるほど応答時間が遅くなります。このデメリットがあることと熱がうまく分路しない代わりに、大きなRTDやサーミスタは自己発熱によるエラーの影響を受けにくくなっています。同様に、接地なしの熱電対接合点は、絶縁される代わりに応答時間が遅くなります。図3は、接地ありと接地なしの熱電対の応答時間の相対的な違いを表しています。
図3. 接地ありと接地なしの熱電対の応答時間
温度センサの安定性とは、与えられた温度で一貫性のある出力を維持できることを指します。 センサの安定性において、材質は重要な役割を果たします。RTDは、この理由から、また、反応性を低くするために、 大抵白金でできています。ただし、白金が接合されている回路基板は、高温に長時間さらされると変形する可能性があります。変形することによって、予測せぬ余分な歪みが生じ、計測した抵抗に変化が生じることがあります。
どの計測アプリケーションの場合も、信頼性の高い結果を得るには、確度のニーズを理解しておくことが重要です。計測の絶対確度を実現するには、センサおよび計測ハードウェアの選び方が重要です。しかし、配線、他の装置との相対的な近接性、シールド、接地といった詳細全てが確度に影響する可能性があります。センサを選ぶとき、規定の許容差と、その仕様に影響する可能性のある全ての要因(高温に長時間さらすなど)を確認してください。また、同様の確度が備わったセンサと計測デバイスを選ぶように注意してください。厳しい許容差を備えたRTDはコストもかさみますが、低品質の計測デバイスを使えば、確度を高めることはできません。
アプリケーションの持続期間中、適切に温度センサの動作を継続させるには、これらのセンサを実装する環境を把握する必要があります。一部のセンサ(熱電対など)は、その構造から元々他のセンサより耐久性に優れています。ただし、特定の熱電対に使用されている金属は、異なる耐食性を備えています。さらに、絶縁体となる鉱物と保護用の金属被覆で包まれたセンサは、長期間にわたる摩耗と腐食により強くなりますが、コストがより高くなり、感度が低下します。また、センサの構成が異なれば、特殊な取り付け要件に従って、物理的および温度的な接続をしっかりと確立する必要があります。
プロジェクトのいかなる観点からも、コストは大きな制限要因となり得ます。例えば、多チャンネルアプリケーションでは、RTDの線形性のメリットよりも、熱電対に対して相対的にコストが高くなることのほうが重視されるかもしれません。また、システム全体のコストを考えるとき、配線、取り付け、信号調節によってコストが追加されることも考える必要があります。
温度センサの各タイプは、計測した信号を適切に収集・デジタル化して処理を行うために、ある一定のレベルの信号調節を必要とします。選択する計測ハードウェアは、確実に高確度計測を行ううえで、センサと同じくらい重要であり、各センサのタイプのデメリットを軽減したり、悪化させたりする可能性があります。これらの信号調節機能には、次のものが含まれます。
各センサタイプの動作理論および違いの詳細については、次のセンサ別ホワイトペーパーをご参照ください。
http://www.omega.co.uk/temperature/Z/pdf/z019-020.pdf
http://www.engineeringtoolbox.com/temperature-sensors-d_448.html
http://www.itsirl.com/admin/pdfmanual/1420797923pt100acc.pdf