トカマクCOMPASSにおける核融合プラズマ温度/密度計測、LabVIEWPXI実現

「すべてシャーすべてチャンネルは、NI PXI-6653から基準クロック厳密同期とらます。NITClkテクノロジ組み込み位相同期回路使用することで、チャンネル多いこのシステムチャンネルスキュー300 ps未満抑えることできした。」

- Milan Aftanas、Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i.

課題:

磁気閉じ込め核融合の厳しい制御要件を満たすトカマク計測システムを開発する。

ソリューション:

NI LabVIEWソフトウェアとPXIハードウェアを使用し、必要に応じて将来拡張が可能な核融合プラズマ計測システムを構築する。

投稿​者:

Milan Aftanas - Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i.
Petra Bilkova - Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i.
P. Bohm - Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i.
V. Weinzettl - Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i.
M. Hron - Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i
R. Panek - Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i.
Dr. Daniel Kaminsky - Elcom, a. s.
T. Wittassek - Elcom, a.s.
M. Rumpel - Elcom, a.s.
J. Sima - Elcom, a.s.

 

核融合は星の自然の動力源です。核融合は、複数の原子核を融合して単一のより重い原子核を形成するプロセスです。水素などの軽い原子核を結合すると、大量のエネルギーが放出されます。これは、核融合が安全かつクリーン、また実質的に無限に活用できる発電用エネルギー源となりうることを意味しています。ただし、その制御には非常に厳しい要件が必要とされ、核融合反応を民間利用するのは非常に困難です。そうした中、磁場閉じ込め方式が、核融合の利用の難しさを克服し、エネルギー源としての利用を可能にする方法として注目されています。最近私たちは、トカマク型の装置が磁気閉じ込めに最も将来性のある装置と結論付けました。現在、トカマク型の装置は、他のどのタイプの磁気閉じ込め装置、または慣性核融合装置よりも有望視されています。

 

 

 

 

 

トカマクCOMPASS

トカマク型の装置は、磁場を用いて高温、高密度のプラズマを維持します。Institute of Plasma Physics ASCR, v.v.i. (IPP) は、欧州原子力共同体 (EURATOM) に属する研究機関で、世界的な核融合研究プログラムに参加しています。IPPは、英国のCCFE Culhamに設置されていたトカマク型COMPASS (図1) を、チェコ共和国のIPP Pragueに再設置しました [1]。最初のプラズマ閉じ込めは2008年12月に実施されました。

 

トムソン散乱

プラズマの動きを研究し、それを制御して均衡を維持するには、一連の診断ツールが必要でした。核融合プラズマ研究で、最も重要なパラメータはプラズマの温度と密度です。トムソン散乱 (TS) は、この目的を達成するユニークな診断手法です。TSは、レーザを用いたプラズマ診断方法で [2]、非常に局所的な計測を行うことができます。TSの欠点としては、設計が複雑であること、また散乱効率が非常に低いため、設備が大規模化することが挙げられます。

 

 

 

 

 

 

現在、私たちはCOMPASS上に、TSに対応したシステムを構築しています [3]。図2にこのシステムの構成図を示します。基本的な構成要素は、高出力のレーザ、散乱スペクトルを計測するポリクロメータ、高速なA-Dコンバータ (以下、ADC) です。このシステムでは、2台のネオジム添加イットリウムアルミニウムガーネット (Nd:YAG) レーザを使用しました。いずれも、繰り返し率は30 Hz、最大出力エネルギーは1.5 Jです。レーザ光はプラズマを通過する際に部分的に散乱します。この散乱で単色光のスペクトルが広がります。空間中の56のポイントから発せられた散乱光は、複雑な集光部品と光ファイバを通してポリクロメータ (英国CCFEが設計) に導かれます。ポリクロメータは、複数のスペクトルフィルタとアバランシェフォトダイオード (APD) を使用して入力光のスペクトル解析を行います。各ポリクロメータが有する最大5つのスペクトルチャンネルを使用して、システムがスペクトル判定を行います。最後に、各APDからの信号は高速ADCでデジタルデータに変換されます。

 

 

 

データ収集要件

レーザの1パルスの継続時間は8 nsです。両方のレーザを同時に駆動することも、調整可能 (1 μs~16.6 ms) な遅延時間で別々に駆動することもできます (図3を参照)。レーザパルス時間発展を再構成するのに十分な高いサンプリングレートで、このような信号をデジタルデータに変換する必要があるため、高速ADCにはそれに対応した性能が求められます。

 

システムハードウェア

すべてのポリクロメータ (120スペクトルチャンネル) からの信号は、高速のNI PXI-5152デジタイザと低速のD-tAcq ACQ196CPCI ADCカードにより同時にデジタルデータに変換されます。高速ADCは、1 GS/秒の高いスループット、8ビットの分解能、300 ps未満のチャンネル間スキューでデータを変換します。ADCカードはカードごとに2チャンネルを備えたADCモジュールで、チャンネルあたり8 MBのオンボードメモリを搭載し、4台のPXI-1045シャーシに収納されています。

 

1台目のシャーシはマスタシャーシで、クアッドコアの組み込みPXI-8110コントローラに加え、残り3台のスレーブシャーシと同期をとるトリガ/タイミング用カードを収容しています。マスタシャーシは、データ保存、演算実行、リモートコントローラを介したスレーブシャーシとの通信、イーサネットを介した低速ADCカードおよびCOMPASS制御システム (CODAC) との通信を行います。すべてのシャーシのすべてのチャンネルは、NI PXI-6653からの基準クロックで厳密に同期がとられます。NIのTClkテクノロジと組み込みの位相同期回路 (PLL) を使用することで、チャンネル数の多いこのシステムでチャンネル間のスキューを300 ps未満に抑えることができました。低速デジタイザは、500 kS/秒のサンプリングレートで真の同時アナログ入力を実現するために、チャンネルごとに16ビットADCを備えています。また低速ADCカードとして、それぞれが96チャンネル、400 MHzの縮小命令セットコンピューティング (RISC) プロセッサ、および512 MBのオンボードメモリを備えた2枚のカードを使用しました。

 

 

 

システムソフトウェア

TSシステムのデジタイザを制御するプログラムはLabVIEWを使用して開発しました。ソフトウェアの基本的な機能には、パラメータの設定、トリガの設定、データの収集と収集したデータの表示、データの保存 (ファイルへの出力、図4を参照) などが含まれます。将来的には、必要に応じて、解析、データインタフェース、その他の機能も追加していく予定です。開発したソフトウェアは、Microsoft Windowsで動作します。将来的には、トカマク制御ループ内での決定論的動作にLabVIEW Real-Timeモジュールを使用するかもしれません。

 

 

 

 

 

 

DAQ機能

COMPASSではレーザのパルスをトリガとしてデータ収集 (DAQ) を行うため、レーザのタイミングがCOMPASSでのリアルタイムTSを制限する要因となっています。TS DAQ用のハードウェアとソフトウェアはモジュール式なので、将来的にはデジタイザの数を増やし、できればマスタシャーシ内の組み込みコンピュータを使用したレーザトリガの採用を検討しています。データはセグメント単位で収集します。

 

NI PXI-5152デジタイザのマルチレコード収集機能により、セグメントでの収集は1 μsという短い間隔で行うことができます。各セグメントはレーザの1パルスに相当しますが、レーザの同時発射、または非常に短い遅延時間 (1 μs未満) で発射された場合にはダブルパルスにも対応します。レーザからのハードウェアベースのトリガパルスによって、OSが介入することなく、各セグメントの収集が開始されます。実験の完了後 (プラズマ照射後)、すべてのセグメントを一緒に各デジタイザのオンボードメモリからマスタシャーシの組み込みコンピュータにダウンロードし、そこで未処理データの処理を行います。校正データは組み込みコンピュータに保存され、低速ADCでサンプリングしたバックグラウンド放射のデータと、エネルギーモニタから得たレーザエネルギーのデータにアクセスすることができます。システムは散乱信号を積分する一方で、温度と密度の算出結果をイーサネットを介してCODACに送信します。

 

まとめ

トムソン散乱診断用のCOMPASS DAQシステムを使用することで散乱信号の変化の計測が可能になり、これで温度と密度のプロファイルの再構成に必要な情報が取得できるようになりました。また、さまざまなプラズマ条件での計測に必要な、3種類の計画的なレーザータイミング設定で信号を計測することもできます。
今までにすべてのトムソン散乱システムのテストを終え、現在はラマン散乱信号の測定を行っています。

 

謝辞

このプロジェクトへの多大な支援と協力に対して、カルハム研究所の次の英国人同僚の皆さんに感謝いたします。Dr. Michael Walsh (ITER Organization、フランス)、Dr. Rory Scannell、Dr. Graham Naylor、Dr. Martin Dunstan (核融合エネルギーカルハムセンター、英国)。MAST設計の一部を採用しています。

 

参考資料

[1] R. Panek, J. Czech Physics 56 (Suppl.B) (2006) B125-B137.
[2] A. J.H. Donne et al., Fus.Sci. and Technology 53, 397-430 (2008)
[3] P. Bilkova et al., Nucl.A (2010), doi:10.1016/j.nima.2010.03.121

 

この研究は、GA CR no. 202/09/1467、UFP AVCR (#AV0Z20430508)、MSMT #7G10072、Euratomから助成金を得て実施しました。本稿の内容は、必ずしも欧州委員会 (EC) の見解や意見を反映するものではありません。

 

投稿情報:

Milan Aftanas
Institute of Plasma Physics AS CR, v.v.i.
Za Slovankou 3
Prague 8 182 00
Czech Republic
aftanas@ipp.cas.cz

IPP Pragueに設置されたトカマク型COMPASS
トムソン散乱システムの構成
レーザレジーム
LabVIEW制御ルーチン