ボルト​の​組み合わせ​荷重​試験​における​リアルタイム AE モニタリング​システム

大西 正​志 氏, 東京​工業​大学​大学院 理​工学​研究​科 機械​物理​工学​専攻 黛・​水谷​研究室

"LabVIEW​を​用いる​こと​で​3​週間​程度​で​完成​させる​こと​が​でき​た。​これ​は​LabVIEW​の​プログラム​作成​時​の​直観​性、​ヘルプ​の​充実​さ、​デバッグ​修正​の​容易​さ​など​の​性質​による​もの​だ​と​思う。" ​

- 大西 正​志 氏, 東京​工業​大学​大学院 理​工学​研究​科 機械​物理​工学​専攻 黛・​水谷​研究室

課題:

荷重​試験​では​ボルト​に​負荷​する​トル​ク​も​計測​する​こと​を​試み​た​ため、​そのデータをどのように取得するかが課題となった。​また​従来​の​手法​だ​と、​波形​の​保存​と​リアルタイム​な AE モニタリング​を​同時に​でき​ない、​2​台​の PC を​用​い​て​いる​ため​実験​装置​や​データ​管理​が​煩雑​に​なる、​データ​の​同期​が​でき​ない、​事後​解析​に​時間​が​かかる、​といった​問題​が​あっ​た。 ​

ソリューション:

LabVIEW 7.1​と​PXI​システム​を​用いる​こと​で、​ボルト​の​組み合わせ​荷重​試験​における​リアルタイム​AE​モニタリング​システム​を​開発​でき​た。​この​システム​を​用​い​た​実験​によって​AE​がボルトの塑性域締め管理に適用できる可能性を示せた。 ​

【背景】

自動車​業界​では​ボルト​の​緩み​や​疲労​に関する​トラブル​防止​の​ため​に​ボルト​の​塑性​域​締め​が​行​われ​て​いる。​塑性​域​締め​と​は、​ボルト​の​初期​締結​力​を​塑性​域​まで​高める​締結​法​で​ある。​一般​的​に​用​い​ら​れ​て​いる​弾性​域​締め​と​比較​すると、​塑性​域​締め​は、​初期​締結​力​が​高​く、​ばらつき​が​小さい​ため、​ボルト​の​緩み​と​疲労​に​有効​だ​と​いわれ​て​いる。​現在、​代表​的​な​ボルト​の​締結​管理​法​として、​トル​ク​法、​回転​角​法、​トル​ク​勾配​法​が​知​ら​れ​て​いる。​しかし、​最も​多用​さ​れ​て​いる​トル​ク​法​は​締結​体​の​摩擦​係数​によって​軸​力​が​大​きく​ばらつく​ため、​トル​ク​法​は​塑性​域​締め​に​は​適用​でき​ない。​また、​回転​角​法、​トル​ク​管理​法​を​用​い​れ​ば​塑性​域​締め​が​可能​で​ある​が、​装置​が​大掛かり​で​現場​で​の​使用​に​向い​てい​ない。​そこで​トル​ク​レンチ​の​よう​な​手軽​な​装置​で​簡単​に​塑性​域​締め​できる​システム​を​開発​する​こと​が​望​まれ​て​いる。
​一方、​材料​が​外力​を​受け​変形​すると AE(アコースティック・​エミッション)​と​呼ばれる​弾性​波​が​発生​する。
​そこで、​ボルト​締結​中​に​発生​する AE を​モニタリング​し、​AE を​ボルト​の​塑性​域​締め​の​指標​に​応用​でき​ない​か​(特許​出願​済み)​と​考え、​手軽​で​かつ​安定​した​ボルト​の​塑性​域​締め​を​可能​と​する​新しい​システム​の​開発​を​本​研究​の​目的​と​する。​将来​的​な​目標​として​は、​トル​ク​レンチ​に​変わる​よう​な​AE​レンチ​という​工具​の​開発​を​目指​し​て​いる。


​【課題】

現在、​AE を​用​い​た​ボルト​の​塑性​域​締め​管理​法​の​実現​の​ため​に​基礎​的​研究​を​行​って​いる。​AE 法​を​ボルト​の​締結​管理​に​利用​する​際、​様々​な​座​面​摩擦​係数​で​適用​できる​必要​が​ある。​座​面​の​摩擦​が​大​きく​なる​と、​ボルト​に​は​軸​力​と同時に​負荷​さ​れる​トル​ク​の​割合​が​増大​し​てい​く。​そこで、​ボルト​締結​を​模擬​し​て​ボルト​に​引​張​と​ねじ​り​を​同時に​負荷​できる​組み合わせ​荷重​試験​機​を​製作​し、​ボルト​の​引​張​-​ねじ​り​試験​中​に AE モニタリング​を​実施​する​こと​を​試み​た。
​これまで​の​研究​では、​ボルト​の​引​張​試験​を​実施​し、​破断​まで​の​過程​で​発生​する​AE​の​モニタリング​を​実施​した。​この​従来​の​試験​では、​ボルト​に​負荷​する​荷重​や​伸び​の​データ​は​市販​の​引​張​試験​機​の​ソフト​を​用​い、​専用​の​PC​で​データ​を​取得​した。​一方、​AE センサ​より​取得​した AE 波形​は、​AE 専用​の​アナ​ラ​イザ​を​介​し​て、​別​の PC で​波形​データ​や AE 累積​数​の​データ​を​取り​込​ん​だ。​そして、​実験後にデータの統合を行った
​今回​の​組み合わせ​荷重​試験​では​ボルト​に​負荷​する​トル​ク​も​計測​する​こと​を​試み​た​ため、​そのデータをどのように取得するかが課題となった。​また​従来​の​手法​だ​と、​波形​の​保存​と​リアルタイム​な AE モニタリング​を​同時に​でき​ない、​2​台​の PC を​用​い​て​いる​ため​実験​装置​や​データ​管理​が​煩雑​に​なる、​データ​の​同期​が​でき​ない、​事後​解析​に​時間​が​かかる、​といった​問題​が​あっ​た。

 

【ソリューション】

 

1. システム​の​構成


​本​研究​において​設計・​製作​した​組み合わせ​荷重​試験​機​の​構成​を Fig.​1​に、​実験​装置​全体​と​試験​片・​センサ​部​の​拡大​写真​を Fig.​2​に​示す。​この​実験​装置​は、​(株)​島津​製作所​の​引​張​試験​機​と​自作​ねじ​り​試験​機​から​構成​さ​れ​て​おり、​ボルト​に​引​張​と​ねじ​り​の​組み合わせ​荷重​を​負荷​する​こと​が​できる。
​次に​試験​機​の​制御・​計測​系​について​述べる.​複数​の​データ​を​同期​させる​ため​に、​測定​装置​に​は​同期​性能​に​優​れ​て​いる PXI システム​を​用​い​た。
​ボルト​の​軸​力、​伸び、​トル​ク​は​複数​の​データ​集録​が​可能​な DAQ ボード​(PXI-6070E)​で​収録​した。​ボルト​の​軸​力​と​伸び​は​引​張​試験​機​の​外部​出力​から​の​データ​を DAQ ボード​に​取り​込​ん​だ。​一方、​ボルト​に​作用​する​トル​ク​は​自作​した​試験​機​の​治​具​に​装着​した​ひ​ずみ​ゲージ​の​電気​抵抗​変化​を​電気​信号​として DAQ ボード​に​取り​込​ん​だ。​なお、​取り​込​ん​だ​電気​信号​は PXI 上のコントローラで解析され、​ひ​ずみ​の​データ​に​変換​さ​れる。​また、​軸​力​負荷​の​影響​や、​ひ​ずみ​ゲージ​貼​り​付け​誤差​による​影響​も​コントローラ​内​で​補正​を​行い、​実験​後​すぐ​に​利用​できる​データ​として、​画面表示やデータ保存を行った。
​AE 波形はボルトの両端に取り付けられた​2​個​の AE センサ​から AE アナ​ラ​イザ​を​介​し​て​増幅​後に PXI-5122​で​収録​した。​AE は​周波数​が​高​く、​突発​型​波形​で​ある​ため、​高速​で​分解能​の​高い PXI-5122​を​選択​した。​AE アナ​ラ​イザ​に​は AE 取得​時に​パルス​を​発生​させる​外部​出力​が​装備​さ​れ​て​いる。​この​パルス​を​外部​トリガ​として​使用​し、​2​つ​の​波形​を​同期​し PXI-5122​の Ch.​0​と Ch.​1​に​収録​した。
​システム​構築​の​ため​の​プログラム​に​は LabVIEW 7.1​を​用​い​た。​ボルト​の​サイズ​や​強度​区分​など​の​試験​条件​や、​サンプリング​の​計測​条件​など​を​自由​に​設定​できる​よう​に​した。​計測​した​データ​は​解析​の​際​に​主に​使用​する、​荷重​-​伸び​線​図、​軸​力​-​トル​ク​の​関係​を​モニタ​に​表示​した。​また、​AE 波形​と AE の​位置​標定​結果​も​リアルタイム​で​解析​し​て​モニタ​上​に​表示​できる​よう​に​した。​なお、​位置​標定​の​際​に​は、​取得​した AE の​最大​振幅​の​到達​時間​差​を​解析​する​こと​によって、​AE 発生​場所​を​推定​する​よう​に​した。

 

 

2.​結果

まず、​試験​方法​を​説明​する。​試験​片​に​は、​M8、​強度​区分​8.8、​長​さ​60 [mm] の​ボルト​を​使用​した。​ボルト​に​引​張​と​ねじ​り​を​負荷​させる​経路​として、​今回​は、​まず​ボルト​に​トル​ク​10 [Nm] を​負荷​し、​その後、​引​張​試験​で​ボルト​が​破断​する​まで​軸​力​を​負荷​する​ことに​した。​他​に​も​トル​ク​を​変化​さ​せ​て​実験​を​行い AE 活動​度、​発生​頻度​を​比較、​検討​した。
​仮想​計測​器​の​フロント​パネル​を​Fig.​4​に​示す。
​左上​の​タブ​制御​器​で​AE​センサ​に関する​実験​条件​と​データ​集録​の​設定​を​行う。
​右上​の​タブ​制御​器​で​引​張​試験​機、​自作​試験​機​に関する​実験​条件​と​データ​集録​の​設定​を​行う。
​左​の​2​つ​の​グラフ​制御​器​では​2​つ​の​AE​センサ​から​の​波形​を​AE​計測​ごと​に​リアルタイム​で​表示​さ​れる。
​中央のグラフ制御器では位置標定の結果が示され、​AE​の​発生​場所​を​リアルタイム​で​確認​できる。​なお​1​回​の​試験​で​計測​した​AE​の​評定​結果​を​すべて​表示​する。
​右上​の​グラフ​制御​器​では​試験​機​から​の​軸​力​と​トル​ク​の​データ​が​示​さ​れる。​なお、​ボルト​の​締結​状態​によって、​締結​手法​は、​弾性​域​締め、​降伏​点​締め、​塑性​域​締め​の​3​つ​に​分別​さ​れる。​この​3​つ​の​領域​を​示す​理論​曲線​も​同時に​計算​し​て​軸​力​-​トル​ク​の​関係​図​に​表示​する。
​右下​の​グラフ​制御​器​では​引​張​試験​機​から​の​データ​を​荷重​伸び​線​図​として​表示​する。

 

 

実験​結果​を​Fig.​5、​Fig.​6​に​示す。

​Fig.​5 は​ボルト​に​負荷​した​軸​力​と​トル​ク​の​負荷​経路​と、​ボルト​の​締結​手法​別​の​締結​領域​を​示す。​負荷​経路​より​試験​開始​から​トル​ク​が​上昇​し、​トル​ク​10[Nm]​から​引​張​試験​を​行​っ​た​試験​結果​を​正しく​検出​し​て​いる​こと​が​わかる。

 

 

Fig.​6 は、​ボルト​の​荷重​伸び​線​図​と、​AE​累積​数​を​示す。​なお​AE​の​各​プロット​の​大​き​さ​は AE 信号​の​最大​振幅​に​反映​し​て​いる。​トル​ク​負荷​時​と​ボルト​が​弾性​域​の​領域​で AE が​多数​発生​し​て​いる​こと​が​わかる。​そして、​変形​が​進行​する​に​したがって AE の​振幅​が​小​さく​なる​傾向​に​あっ​た。​トル​ク​を​変化​さ​せ​て​実験​した​結果​に関して​も AE の発生傾向は同様な結果が得られた。​したがって、​AE の​発生​傾向​は​ボルト​の​座​面​摩擦​係数​に​影響​しない​と​いえる。​したがって、​本​試験​より AE 活動度の変化がボルトの塑性域締め管理に適用できる可能性があることを示せた。

 

【まとめ】

LabVIEW 7.1​と​PXI​システム​を​用いる​こと​で、​ボルト​の​組み合わせ​荷重​試験​における​リアルタイム​AE​モニタリング​システム​を​開発​でき​た。​この​システム​を​用​い​た​実験​によって​AE​がボルトの塑性域締め管理に適用できる可能性を示せた。
​本​システム​を​用いる​こと​で、​実験​で​得​られる​複数​の​データ​を​最終​的​に​PXI​1​つ​に​統合​する​こと​が​でき​た。​そして、​各計測データに合わせた計測器や制御器を購入せずに、​従来​の​機器​で​計測​システム​を​実現​する​こと​で、​低​コスト​に​抑える​こと​が​でき​た。​また、​計測​データ​を​有効​データ​として​リアルタイム​で​解析​する​こと​によって、​計測​データ​の​処理​に​費やす​無駄​な​ルーチン​ワーク​の​時間​を​極力​削減​でき、​より​能率​的​に​研究​を​進める​こと​が​でき​た。
​私​は​プログラム​初心者​で​今回​の​システム​を​他の​言語​で​作成​し​てい​た​なら​実現​困難​で​あっ​た​と​思​われる。​LabVIEW​を​用いる​こと​で​3​週間​程度​で​完成​させる​こと​が​でき​た。​これ​は​LabVIEW​の​プログラム​作成​時​の​直観​性、​ヘルプ​の​充実​さ、​デバッグ​修正​の​容易​さ​など​の​性質​による​もの​だ​と​思う。​また、​Express VI​の​利用​も​開発​時間​の​短縮、​簡潔なプログラムの実現につながった。
​今後、​研究​を​進​め​てい​く​上​で、​センサ​の​増設​など​実験​装置​の​拡張​において​システム​の​開発​が​より​短時間​で​行える​の​では​ない​か​感じ​て​いる。​また​将来​的​に​AE​を​用​い​た​締結​システム​を​開発​する​場合、​AE​と​環境​に​起因​する​ノイズ​と​の​判別​が​問題​と​なる。​この​よう​な​問題​も​NI​の​ハードウェア​や​ソフトウェア​を​利用​する​こと​によって、​周波数​など​の​波形​パラメータ​による​判別​や、​複雑​な​手法​を​用​い​た​判別​を​リアルタイム​で​実施​し、​有効​な​データ​のみ​を​容易​に​抽出​できる​の​では​ない​か​と​考え​て​いる。

 

著者​情報:

大西 正​志 氏
​東京​工業​大学​大学院 理​工学​研究​科 機械​物理​工学​専攻 黛・​水谷​研究室
​Japan

​ ​Fig.​1 実験​装置​の​構成 ​
​ ​Fig.​2 実験​装置​全体​の​写真 ​
​ ​Fig.​3 試験​片、​センサ​部​の​拡大​写真 ​
​ ​Fig.​4 仮想​計測​器​の​フロント​パネル ​