自動搬送ため音源探知技術最適化

鈴木 真人 氏, アマノ株式会社 

"今回、VI制作、実験計画L18 直交実験、および、確認実験あわせて、ほど作業最適音源探知システム構築することできした。"

- 鈴木 真人 氏, アマ株式会社

課題:

騒音にまみれた工場内で自動搬送車が吹鳴する「音楽」のみを抽出し、自動搬送者の現在位置と進行方向を特定し、外部に設置したコントローラにより自動搬送車を誘導したい

ソリューション:

この音源探知システムを最適化するには、「発信する音響」、「受信するマイクロフォンとそのまわりの環境」、「信号処理におけるサンプリング周波数とフィルタの種類、および、その帯域」をシステム構成要素(制御因子)とし、それぞれの選択肢(水準)から最適なものを選び組み合せる必要があるので品質工学を活用することにした。

作成者:

鈴木 真人 氏 - アマノ株式会社
越水 重臣 氏 - 産業技術大学院大学

 

【背景】

市場要求の個別志向の強まりに対し、工場における多品種-少量生産への弾力的な対応が迫られ、セル生産方式、デジタル屋台方式など生産現場レベルでの改革がすでに始まっている。セル生産方式等では従来のベルト式生産ラインに対して、製造対象の変更にともなう工場内レイアウトの修正、変更は容易であり、その点でもメリットが大きい。

 

多くの工場では自動搬送車が普及している。自動搬送車は、床面に貼った磁気テープ、光学式反射テープなどをガイドとして、決まった軌道上を移動している。ところが、ガイドの張り替えは時間的、空間的、コスト的に負担が大きく簡単な作業ではない。工場レイアウトの変更にあわせて、自動搬送車の軌道を頻繁に変更することは難しい問題となる。

 

自動搬送車は、安全性の確保を目的としてその行動、存在を周囲に知らしめるため音楽を吹鳴しながら移動している。そこで本研究では、この音楽を音源として探知し、位置と移動方向を外部コントローラで認識し、自動搬送車を誘導するシステムの可能性を追求するための前提である、音源位置の特定に関する基礎技術に関する報告である。

 

【課題】

工場内は騒音にまみれている。その環境下で自動搬送車が吹鳴する「音楽」のみを抽出し、自動搬送車の現在位置と進行方向を特定し、外部に設置したコントローラにより自動搬送車を誘導することが目的である。これを実用化することにより、工場レイアウトの変更などにともなう軌道ガイドの張り替え等の負担もなく、自動搬送車の軌道変更に柔軟に対応することが可能となる。自動搬送車が吹鳴する「音楽」を抽出することが技術の最終形であるが、今回は原理実験として抽出しやすい音響の音源位置を探知することを目的とする。この音源探知システムを最適化するには、「発信する音響」、「受信するマイクロフォンとそのまわりの環境」、「信号処理におけるサンプリング周波数とフィルタの種類、および、その帯域」をシステム構成要素(制御因子)とし、それぞれの選択肢(水準)から最適なものを選び組み合せる必要があるので品質工学を活用することにした。

 

【システム原理実験方法、計画】

音源を探知するには、図1に示すように直交した2軸の端点(4箇所)にマイクロフォンを設置し、それぞれのマイクロフォンで音響を同時に収録する。そして、フィルタ処理をおこなった後、各軸ごとに音響信号の相互相関関数を計算して各軸ごとに音源の存在が想定される双曲線を描き、両双曲線の交点を音源の推定位置とする。音源の座標の計算式は  、、 そして、 は各軸の1/2 の長さとすると

 

 

実験は図2に示す室内に45°傾けて配置した5m四方の領域で行った。そして、機材は図3に示すとおりであり、パーソナルコンピュータ(以下PC)にはLabVIEW8。2がインストールされている。

 

実験要領は、あらかじめ用意した探知するべき音響は、ホワイトノイズ(0Hz~5kHz)に帯域通過フィルタ処理を施したもので、音響信号をPCとBluetoothで接続されているスピーカの片側から位置を探知するべき音響を発信し、もう一方側からは無音響(ノイズ因子第1水準)、あるいはホワイトノイズ(ノイズ因子第2水準)を交播に発信する。発信した音響を4つのマイクロフォンで集音し、DAQ(NI USB-6215)を介してPCに取り込み、音源から発信された音響が各軸ごとに軸端に配置したマイクロフォンに到達する時間差をLabVIEWの機能であるデジタルバンドパスフィルタと相互相関関数処理を使って求め、室温を加味して距離の差;δを計算する。そして、2つの双曲線の交点を求めて音源の位置とする。なお、距離の差の計算、双曲線の交点の計算もLabVIEWでおこなう。このようにして求めた音源位置の推定座標(xヘ、yへ)と別途入力する実際に音源をおいた目標値の座標(x、y)と比較し、目標値と探知した推定座標の偏差を求めて表示ならびにファイル化までの一連の処理をするVIを作成した。このVIを使って実験をおこなった。

 

品質工学による実験であるから、制御因子ごとの水準効果を調査することになる。各制御因子とその水準は音響発信の交播時間(50msec、100msec)、音響信号作成で使った帯域通過フィルタの帯域の中心(2250Hz、3750Hz、4500Hz)、マイクロフォン(高指向性、普通、フード付き普通)、マイクロフォンを設置する環境(床材、スポンジ、防振材)、床からのスピーカの高さ(床置き、50mm浮かす、150mm浮かす)、A/Dコンバータのサンプリング周波数(25kHz、35kHz、45kHz)、デジタルバンドパスフィルタの種類(バタワース、チェビチェフ、逆チェビチェフ)、音響信号の帯域とデジタルフィルタの帯域の関係(図4参照)とした。そして、表1に示すようにL18直交表に割り付けた。なお、1回の収録時間は160msecとし、25回繰り返した。図5にVIの実行画面を示す。

表1 L18直交表への割付

 

【結果】

L18直交表実験の結果から解析したシステムのノイズに対するロバスト性を示すSN比と感度の要因効果図を図6に示す。制御因子の各水準においてSN比は値が大きいほどよく、また、感度については今回の評価では1に近いほど音源位置の推定座標が目標値に近いことになる。この結果より、制御因子ごとに最適な水準を見つけることができる。ここで得られた最適な水準とその近傍の水準を組み合せて確認実験をおこなった結果、図7に示すような要因効果を得た。L18直交表実験の結果と合わせて考えると、今回の実験をおこなった環境下において、外乱ノイズに対してロバストな音響探知システムの各制御因子の組み合せは次のようになった。音源と収録に関しては、音源の周波数は高くし、指向性の高いマイクロフォンを使用して収録する。また、相互相関関数を求める前に施すデジタルバンドパスフィルタは、バタワースがよく、その通過帯域は音源の周波数バンドと一致しているのがよい。

 

今回、VI制作、実験計画とL18 直交表実験、および、確認実験をあわせて、3日ほどの作業で最適な音源探知システムを構築することができました。これも、LabVIEWの信号処理ライブラリの豊富さと、LabVIEW自身の汎用性の高さがあるからでこその結果である。

 

 

参考文献

[1] 高桑宗右ヱ門、”FA/CIMの経済性分析、” ㈱中央経済社1995

[2] 水沼渉、岡部一成、安部誠一郎、篠崎朗子、橋本秀樹、”重量物搬送用高速無人車(AGV)の開発、”三菱重工技報 Vol。36 No。4  1999

[3] 小野昌之、福井潔、柳原健太郎、福永茂、原晋介、北山研一、”無線を使った位置検出、” 沖テクニカルレビュー第204号Vol。72 No。4 2005

[4] 雨宮好文、佐藤幸男、”信号処理入門、” オーム社1987

[5]  坂巻佳壽美、”見てわかるディジタル信号処理、”  工業調査会 1998

 

著者情報:

鈴木 真人 氏
アマノ株式会社 

となる。
図1 2つの双曲線による音源探知の原理
図2 実験空間と直交軸の設置方法
図3 機器の構成
図4 音響信号とバンドパスフィルタの関係
図5 VIの実行画面
図6 各制御因子のSN比と感度の要因効果図
図7 確認実験のSN比と感度の要因効果図