NI LabVIEWPXI使用レゾルバ動作模擬し、マイコン評価大きく貢献

- 越川丈太郎氏、 土屋耕一氏, 富士通マイクロソリューションズ株式会社 MS開発本部 ソリューション開発統括部 マイコンシステム開発部

"従来は、レゾルバに関する評価実際レゾルバ使用する以外方法ない考えていた。しかし、LabVIEWPXI採用することによって、レゾルバ動作自由自在すること可能実現することできた。"

- 越川太郎氏、 土屋耕一氏, 富士通マイクロソリション株式会社 MS開発本部 ソリューション開発統括部 マイコンシステム開発部

課題:

レゾルバセンサー専用のインタフェース回路を搭載したマイコンのシステム評価には、レゾルバからの出力信号を生成する仕組みが必要になる。従来は、実際にレゾルバを動作させて信号を得ていたが、評価のために一定の状態を作ることが難しかった。そのため、再現性良く、定量的な評価結果を得ることができなかった。また、レゾルバが実際には起こりえないような異常な動作を起こした場合の検証も行いたかったが、そのための手法が存在しなかった。

ソリューション:

NIのPXI-7854Rを使用して、レゾルバの動作を模擬することが可能な信号生成用治具を開発した。レゾルバの動作と同等の処理を実現するデジタル演算ブロックは、同製品が搭載するFPGAによって実装した。そして、FPGAのプログラミングには、LabVIEW/LabVIEW FPGAモジュールを使用した。これにより、通常動作に加え、異常動作も模することが可能な信号生成治具を実現することができた。

 

【 背景】


富士通マイクロソリューションズ(以下、FMSL)は、最先端の半導体技術をベースとした大規模システムLSIの開発、ならびにそうしたLSIを活用したシステム開発を行う企業である。具体的な事業の例としては、富士通セミコンダクターが販売するマイコンの設計/開発、マイコンに搭載するソフトウェアの開発、システムソリューションの開発を担っている。これらの開発事業において大きな比重を占めていることの1つが、マイコンのハードウェアと、それに搭載するソフトウェアを組み合わせて動作させた結果、何も問題が発生しないことを検証することである。



そうした検証においては、実際のシステムで利用される構成要素(マイコンの周辺部品)の動作も含め、システムレベルでの評価を行わなければならない。例えば、富士通セミコンダクターの場合、レゾルバセンサー専用のインタフェース回路を搭載した32ビットマイコン「MB91580シリーズ」を製品化している。レゾルバは、図1に示すように、励磁コイルと、互いに直交する2つの検出コイル、ロータで構成される。励磁コイルに振幅/周波数が一定の正弦波信号が入力すると、検出コイルからは変圧器に似た仕組みで信号が出力される。このとき、ロータの角度に比例して検出コイルから出力される電圧が変化するので、その電圧量を検出すれば角度がわかるという仕組みである。一方のマイコン側は、レゾルバ用のインタフェース回路として、検出コイルからの信号を受け取り、角度情報をデジタルデータとして得るための角度検出器(RDC)を備えている(図2)。このようなマイコンの評価を行うには、レゾルバから出力されるものと同等の信号を用意しなければならない。しかも、システム評価では、角度検出器の動作のみならず、それ以外の回路ブロックがそのときどのような挙動を示すのかということも評価する必要がある。

 

【課題】


上述したような評価を行いたい場合、従来は検出コイルからの出力波形を得るために、実際にモータを使ってレゾルバのロータを回転させ、検出コイルからの実際の出力波形を得るという手法(図3)や、ファンクションジェネレータによって検出コイルからの信号を模した波形を生成する手法を用いていた。しかし、これらの方法には以下に挙げるような課題があった。



(1)安定性/再現性の高い評価環境が作れない
実機のレゾルバを使用する方法では、評価のために一定の状態を作ることが難しい。そのため、再現性良く、定量的な評価結果を得ることができなかった。



(2)レゾルバが異常動作した場合の検証が行えない
システムレベルの評価では、通常動作時の検証に加え、レゾルバが故障したときや、何らかの要因によってレゾルバが通常ではありえないような動作をしたときの検証も行う必要がある。しかし、実機のレゾルバを使う方法やシミュレーションでは、現実的にはこのような検証を行うことができなかった。



(3)実機のレゾルバをそのまま置き換えることができない
ファンクションジェネレータを使う手法では、本来であれば入力信号を受け取って出力信号を生成するレゾルバの代わりに、自律的に信号を生成するファンクションジェネレータを配置することになる。その場合、ファンクションジェネレータの部分で系が分断されることになり、システムレベルの評価としてふさわしいものとはならない。

 

【ソリューション/効果】

上述した課題を解決するために、NIのハードウェア/ソフトウェア製品を活用することで、実際のレゾルバをそのまま置き換えることが可能な信号発生用治具を開発した。システム構成としては、図4に示すように、A-Dコンバータ(ADC)、D-Aコンバータ(DAC)、デジタル演算部によってレゾルバの各構成要素を置き換えることにした。そのためのハードウェアとしては、NIのRシリーズマルチファンクションRIO「PXI-7854R」を採用した。ADCとDACについては、同製品が搭載する分解能が16ビットでサンプリングレートが750 kHzのADCと、分解能が16ビットでサンプリングレートが1 MHzのDACを使用した。そして、デジタル演算ブロックは同製品が搭載するFPGA(Xilinx社の「Virtex-5」)によって実装することにした。FPGAのプログラミングには、グラフィカルシステム開発プラットフォームである「LabVIEW」と「LabVIEW FPGAモジュール」を使用する。

 

この構成を採用したことのメリットとして、大きく2つのポイントを挙げることができる。1つは、FPGAが備える高い処理性能である。レゾルバの動作を模擬するデジタル演算は、PC上のソフトウェア処理で行うよりも、FPGAによるハードウェア処理で行う方が高速化を図ることができた。もう1つは、LabVIEWによるFPGAプログラミングの容易さである。LabVIEW/LabVIEW FPGAモジュールを利用することにより、グラフィカルな操作だけでFPGAのプログラミングが行える。

 

このような構成により、レゾルバの動作を模擬する信号発生用治具を作り上げることができた(図5)。検出コイルの出力波形は、LabVIEWで作成したGUI画面にいくつかのパラメータを設定するだけで生成できる。しかも、実機では精度が劣化する極低速の信号や超高速の信号まで自由自在に生成することが可能である(図6)。また、起動や停止などの状態設定についても自在に操ることができる。さらには、レゾルバのショート、断線などに対応する振幅異常や、速度の急変、飛びなどに対応する角度異常なども、GUI画面におけるパラメータの設定によって、自在かつ非常に高い再現性で模擬できるようになった(図7)。

 

【 今後展開】

今回は、レゾルバ用のインタフェースを対象としたわけだが、マイコンにはほかにもADC/DACやシリアル通信ユニットといったペリフェラルが数多く存在する。それらが動作している際、ほかのブロックがどのような状態になっているのかを同時に検証することがシステム評価の目的の1つである。そこで、マイコンのシステム評価において、複数のブロックの機能を同時に検証できるように、汎用性/拡張性を備えるLabVIEW/PXIをプラットフォームとして活用していきたいと考えている。

 

従来は、各種の汎用計測器を用意し、それらをGPIBでつないで、テキストベースの言語で記述したプログラムをPC上で実行することによって制御/計測を行うという手法で評価を行っていた。この方法だと、実際の評価作業よりも準備作業に多くの時間を割かなければならない。しかも、各社の測定器の違いなどによって評価の再現性が低下するといった問題も起きる。LabVIEW/PXIを標準的なプラットフォームとして使用すると決めれば、常に同等の条件下での評価が可能になり、品質の均一性が保たれると考えている。また、制御用のプログラムについても、テキストベースの言語で記述するよりも、LabVIEWによるグラフィカルな記述のほうが容易である。LabVIEW/PXIを標準的なプラットフォームとして使用すれば、評価にかかる工数を現状の1/3くらいまで減らせるのではないかと考えている。

 

また、この信号発生用治具は、すでにFMSL社内で異常状態の評価に活用されており、今後はレゾルバを使っている顧客に対して紹介することも想定している。

 

その際には、NIのPXI製品のCOTS(商用オフザシェルフ)品として特徴を活かし、2台目以降の製作はソフトウェアの移植を行うだけで可能になるというメリットを享受できる。

 

著者情報:

越川丈太郎氏、 土屋耕一氏
富士通マイクロソリューションズ株式会社 MS開発本部 ソリューション開発統括部 マイコンシステム開発部

図1. レゾルバの構造と入出力信号
図2. レゾルバと角度検出器の関係
図3. 従来の出力波形の生成方法
図4. 信号発生用治具の構成
図5. 信号発生用治具の外観
図6. 生成した波形の例
図7. 角度が急変した場合の波形の例