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3次元マッピング機能持つ周波数変調方式原子顕微鏡(FM-AFM)走査装置開発

大藪 範昭 氏, 京都大学工学研究科電子工学専攻松重研究室

"今回ようプログラミング専門にしていない研究者でもLabVIEW自ら走査装置作製できことで、新たアイデア機能拡張など容易あり、また他の研究者からFM-AFM実験に関する開発依頼に対してコミュニケーション円滑え、開発試行錯誤スムースえている。"

- 大藪 範昭 氏, 京都大学工学研究電子工学専攻松重研究室

課題:

下記の要件を満たした走査装置を開発する。 ハードウェア必要条件 1. 入力:±10V, 16bit, 5kHz, 3CH(Δf、カンチレバーの振動振幅と加振信号)以上が好ましい 2. 出力:±10V, 16bit, 100kHz, 3CH (X, Y, Z) 以上が好ましい 必要な機能 1. 距離フィードバック(PI) 2. 2次元XY走査 3. 画像表示、ラインプロファイル表示 4. データ保存 5. プローブと試料表面との接触回避機能を有した2次元および3次元マッピング測定機能

ソリューション:

Real-time controllerとしてPXI-8106を、また必要な入出力を備えたFPGAボードとしてPXI-7833Rから成るPXIシステムを用いて実現。

1. 背景
どのような背景から今回のシステム構築、または更新に至ったのか
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope : AFM)は鋭いプローブで表面をXY方向に2次元走査することで、表面形状などの情報を得ることができる走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope : SPM)の一種である。近年、周波数変調方式のAFM(Frequency-Modulation AFM : FM-AFM)は、真空中における原子分解能観察が日常的に行え、さらにプローブと試料表面の相対位置制御を原子レベルで精緻に行うことによって原子操作や原子識別が可能となっている。さらに近年、申請者が所属する京都大学の研究グループでは主に回路系の低ノイズ化・高感度化により、従来では困難であった水中においても高分解能観察を達成し、鉱物表面や生体高分子の水中高分解能観察などの研究を行っている。また水中におけるFM-AFMの物性計測への応用として、表面に局在する水分子層(水和層)の研究などの新たな応用研究分野を切り開いている。

 

FM-AFMの測定原理を簡単に説明する。図1に示す通り、プローブ先端と試料表面との間がナノメータスケールで接近したときに働く相互作用力によって、カンチレバーの共振周波数(f0)が変化する。表面形状像は、カンチレバーの共振周波数の変化(Δf)を一定に保つように距離制御をしながらXY走査をすることで得られる。また水和層の研究においては、試料表面上でプローブが受ける相互作用力を、垂直および水平方向に3次元的にマッピングすることで水和層を可視化することが興味深い実験となる。

 

ここで、位置制御やデータ収集を行う制御コントローラと、パラメータの設定やデータの表示・保存を行うHost PCをまとめて一般に走査装置と呼ぶ (図1参照) が、上記のような表面観察や、水和層の可視化の研究では位置制御を精緻かつ柔軟に行える走査装置が必須となる。しかしながら現在のところFM-AFMの装置開発においては、ハードウェアの改良などに重点が置かれ、走査装置(主にソフトウェア)の開発が遅れており、必要とする機能を持った市販の走査装置は存在しなかった。

 

 

2. 課題
・ 走査装置のハードウェアと必要な機能
ハードウェア必要条件
 入力:±10V, 16bit, 5kHz, 3CH(Δf、カンチレバーの振動振幅と加振信号)以上が好ましい
 出力:±10V, 16bit, 100kHz, 3CH (X, Y, Z) 以上が好ましい
必要な機能
 距離フィードバック(PI)
 2次元XY走査
 画像表示、ラインプロファイル表示
 データ保存
 プローブと試料表面との接触回避機能を有した2次元および3次元マッピング測定機能

 

ここで、図2に通常の(a)表面形状像を取得する方法と、研究に必要な(b)2次元および(c)3次元のマッピングの手法と、(d)マッピング中の接触回避機能を示す。図 2(b)に示すようにFast scanをZ, Slow scanをXとするとΔfの2次元マッピングができ、また図2(c)のように2次元マッピングを画像ごとにY方向にΔYずらしながら取得することで3次元マッピングができる。図2(d)はマッピング中の衝突回避機能の概念図であり、プローブと試料表面が接触し必要以上の相互作用力が働いてプローブもしくは試料表面を破壊しないようにマッピングの接近中にΔfが予め設定した値(リミット値)を越えた場合、接近を中断する機能が必要となる。

 

・ 従来どのような方法を用いてこうした問題の解決に取り組んでいたのか
従来の解決方法1)市販走査装置の改良をメーカーに依頼する。
欠点)メーカーに依頼するため仕様書を作成する必要があるが、メーカーのプログラマーはFM-AFMの原理や様々な実際の実験上の問題点を熟知しているわけではないため、意思疎通が困難な場合があったり、仕様書を非常に詳細に記述する必要があった。また納期やコストが問題となるため、スピーディーな試行錯誤が困難であった。また、海外には多機能かつユーザーがカスタマイズ可能な制御コントローラを販売している企業があるが、制御コントローラの価格が1,000万円前後と非常に高額である。また、海外のメーカーということで、言語や時差の壁があり、こちらも迅速な改良が難しい。またカスタマイズする場合は、カスタマイズ用のプログラミング言語を習得しなければならず、必要な実験を実現するのは容易ではない

 

従来の解決方法2)一般的な言語・ハードウェアで自作する。
欠点)一般的に市販されているFPGAやLinuxのReal-time版上でプログラムを作製すればハードウェアやソフトウェアのコストが抑えられるが、プログラムに関してはFPGA用にVerilogやVHDL、またPCやLinux用にC/C++などの言語を個別に習得しなければならないという問題がある。また入出力などの周辺回路も自分で準備する必要がある。

 

 

3. ソリューション
3-1. システム構成
Real-time controllerとしてPXI-8106と、必要な入出力を備えたFPGAボードとしてPXI-7833Rから成るPXIシステムを用いた。図3に(a)FM-AFM実験装置の外観図と、(b)AFMヘッド部の拡大写真と、(c) 作製した制御ソフトウェアのインターフェースの一例を示す。図3(a)に示す通り、今回作製したPXIとHost PCから成る自作走査装置が、AFMヘッド部と回路部を通して接続されている。図3(c)は、XYキャリブレーション用サンプル(2D200, Nanosensors)の観察中の画面であり、左から表面の画像と形状信号のラインプロファイルのウィンドウ、パラメータ設定用ウィンドウ、各チャンネルのラインプロファイル表示ウィンドウ、3D表示ウィンドウ、アプローチ用ウィンドウであり、さらに別途画像表示用のサブウィンドウなどを呼び出すことができる。また開発した走査装置を用いて水中においてCalcite(CaCO3)の表面原子分解能観察に成功しており、自作した走査装置が高分解能観察実験に十分な性能を有していることがわかった。

 

3-2. 結果
水和層の可視化の研究のため、開発した走査装置を用いて、1mol/l KCl水溶液中でMuscovite mica(雲母)上で3次元のΔfマッピングを行った。3次元マッピングのデータが取得できれば図4(a),(b)に示す通り任意断面の画像を得ることができる。図4(a)はある高さZでのXY断面、図4 (b)は任意の水平位置のLateral-Z断面の模式図である。図4 (c)、(d)、(e)は実験データから得られた任意断面図である。図4(c)はZ=0.2nmでのXY断面で、(d)は図(c)中の1-1’、(e)は図(c)中の2-2’のLateral-Z断面であり、(d),(e)中の破線はZ=0.2nmを示す。図4に示す通り、表面に局在する水和層に起因するΔfの分布が、垂直方向および水平方向に可視化できた。

 

・ 導入効果について
約2年の開発期間で3次元マッピング実験に必要な機能を作製できた。また開発から約3年が経った現在も日々改良を進めているが、すべてを自作したため、新たに発生する問題に対してもその対応策の実装や試行錯誤が容易となっている。今回のようにプログラミングを専門にしていない研究者でもLabVIEWを用いて自ら走査装置を作製できたことで、新たなアイデアに基づいた機能の拡張なども容易であり、また他の研究者からのFM-AFM実験に関する開発依頼に対してもコミュニケーションが円滑に行え、開発や試行錯誤がスムースに行えている。

 

開発費としては、PXIシステムがアカデミック価格で130万円程度、LabVIEW(主にver. 8.6.1で開発)は大学のサイトライセンスを用いたため、周辺機器(インターフェース回路やHost PC)を含めても200万円以内で制御コントローラを作製することができ、海外の市販走査装置の購入と比較しコストを大きく抑えることができた。現在、プログラムを実行形式にして必要な研究機関に配布しており、京都大学内外を含め10台以上のコントローラが稼働し、研究成果を挙げつつある。また、最近では、LabVIEWを走査装置の開発のみならず、たとえば図4で示した3次元データの任意断面の切り出しやその断面の画像化などのデータ解析にも、LabVIEWを使用している。

図1. FM-AFMの装置構成。一般に制御コントローラとHost PCをまとめて走査装置と呼ぶ。
図2. (a)表面形状像、(b) 2次元マッピング、(c) 3次元マッピングの概念図。(d)はマッピング中の衝突回避機能の概念図。
図3. (a)FM-AFM実験装置の外観図と(b)AFMヘッド部の拡大写真。今回作製したPXIとHost PCから成る自作走査装置が、AFMヘッド部と回路部を通して接続されている。(c)作製した制御ソフトウェアのインターフェースの一例。
図4. 3次元マッピングデータから得られる(a)ある高さZでのXY断面、(b)は任意の水平位置のLateral-Z断面の模式図。(c)、(d)、(e)は1mol/l KCl水溶液中で得られた3次元のΔfマッピングデータから得た任意断面図。