大型​放射光​施設​SPring-8 産業​利用​ビーム​ライン​における​自動​計測​システム​の​開発

"他社​製品​と​の​連携​が​容易​に​でき​た​の​も​LabVIEW​の​柔軟性​による​もの​だ​と​改めて​実感​した。​自動​光学​機器​調整​システム​において、​光学​調整​の​時間​を​約​50%​短縮​する​こと​が​でき​た。​また​自動​XAFS​測定システムにおいても効率が大幅に向上し時間が短縮された。" ​

- 谷口 陽介 氏, 財団​法人 高​輝度​光​科学​研究​センター​(JASRI/​SPring-8)​産業​利用​推進室

課題:

1. 光学​系​機器​調整​の​課題 ​従来​の​光学​系​機器​の​調整​は、​10​項目​以上​に​及ぶ​各​光学​機器​を​位置​調整​する​ため​の​計測​(スキャン)​範囲​と​結果​を​測定​者​の​判断​に​委​ね​てい​た​ため、​熟練者が操作しなければならなかった。 ​ ​2. XAFS​測定​の​課題 ​従来​の​試料​交換​方法​では​試料​毎​に​実験​ハッチ​(放射線​遮蔽​設備​が​整​っ​た​部屋)​に 出入り​しな​け​れ​ば​なら​ない​ため、​測定者がビームラインから片時も離れる事ができず、​負担が大きかった。

ソリューション:

自動​光学​機器​調整​システム​と​自動​XAFS​測定​システム​を​LabVIEW​を​用​い​て​構築。​調整​から​測定​まで​の​自動化​を​実現​する​こと​が​でき​た。 ​

1. 背景
​大型​放射光​施設​SPring-8*1​の​産業​利用​は​幅広い​業種​に​拡大​し​て​おり、​高​輝度​放射光​を​用​い​た​世界​最高​の​計測・​分析​技術​は、​企業​における​もの​づくり​の​ため​の​材料​評価​において​今や​必須​の​もの​と​な​って​き​て​いる。​産業​利用​Ⅱ​ビーム​ライン​BL14B2​は、​XAFS*2​と​呼ばれる​実験​手法​専用​の​ビーム​ライン​で​あり、​多く​の​企業​や​大学​等​の​研究者​が​様々​な​テーマ​で​日々​実験​を​行​って​いる。​放射光​を​使​って​限​ら​れ​た​時間​の​中​で​より​多く​の​試料​を​正確​に​測定​する​こと​は​優​れ​た​成果​を​創出​する​ため​に​は​必要​不可欠​で​ある​が、​従来​の​システム​では​複雑​な​機器​調整​や​実験​操作​を​ユーザ​が​手動​で​行う​必要​が​あり、​熟練​者​以外​に​は​敷居​が​高い​こと​が​問題​と​な​って​い​た。​これ​を​打開​する​ため、​筆者​ら​は​BL14B2​において、​これまで​手動​で​行う​必要​が​あっ​た​作業​の​大部分​を​自動化​した、​効率​的​で​ユーザ​フレンド​リー​な​システム​を​開発​した。

 

*1:​放射光​と​は、​高​エネルギー​の​電子​が​磁場​で​曲​げ​られる​とき、​その​進行​方向​に​放射​さ​れる​電磁波​の​こと​で​ある。​放射光​は​明​る​く、​指向​性​が​高​く、​また​光​の​偏光​特性​を​自由​に​変​え​られる​など​の​優​れ​た​特徴​を​持​って​いる。​大型​放射光​施設​SPring-8​は、​従来​の​X​線​発生​装置​の​1​億​倍​もの​高​輝度​X​線​を​得る​こと​が​できる​大型​の​実験​施設​で​ある。​巨大​な​蓄積​リング​の​周囲​に​は、​ビーム​ライン​と​呼ばれる​実験​ステーション​が​リング​の​接線​方向​に​設置​さ​れ​て​いる。

 

*2:​X​線​を​物質​に​照射​すると、​原子​が​X​線​を​吸収​し​て​光​電子​を​放出​する。​この​X​線​を​吸収​する​エネルギー​を​吸収​端​という。​放出​さ​れ​た​光​電子​の​波​が​隣接​する​原子​で​散乱​し​干渉​し​合う​こと​により​X​線​吸収​スペクトル​に​物質​特有​の​振動​が​現れる。​この​振動​を​解析​し、​特定​の​原子​に​隣接​する​原子​と​の​距離​や​両者​の​相互作用​の​様態​を​観測​する​手法​が​XAFS(X​線​吸収​微細​構造:​X-​ray Absorption Fine Structure)​で​ある。​吸収​端​エネルギー​は​元素​に​固有​の​ため、​XAFS​は​元素​選択​的​に​観測​する​こと​が​できる

 

2.  課題
​放射光​実験​は​利用​機会​が​限​ら​れ​て​いる​ため、​以下​の​光学​機器​調整​作業​と​XAFS​測定​を​独力​で​遂行​できる​熟練​した​ユーザ​は​ほとんど​い​ない。​実験​の​遂行​にあたって​は​担当​職員​の​全面​的​な​技術​支援​が​必要​で​あっ​た。

 

【光学​系​機器​調整​の​課題】
​試料​に​任意​の​エネルギー​の​X​線​を​照射​する​に​は、​測定​元素​の​吸収​端​に​応​じ​て​多く​の​機器​の​パラメータ​を​上流​から​順に​調整​する​必要​が​ある​(図​1)。​従来​の​光学​系​機器​の​調整​(以下、​光学​調整)​は、​図​2​に​示す​よう​に​10​項目​以上​に​及ぶ​各​光学​機器​を​位置​調整​する​ため​の​計測​(スキャン)​範囲​と​結果​を​測定​者​の​判断​に​委​ね​てい​た​ため、​熟練​者​が​操作​する​必要​が​あっ​た。

 

【XAFS​測定​の​課題】
​測定​の​際、​放射線​防護​の​必要​から​試料​及び​測定​装置​は​実験​ハッチ​と​呼ばれる​放射線​遮蔽​設備​が​整​っ​た​部屋​に​置​かれる。​試料​位置​調整​は、​光軸​上​に​試料​重心​位置​が​一致​する​よう​に​手動​で​調整​する​必要​が​ある​ため、​試料​交換​毎​に​実験​ハッチ​に​出入り​する​必要​が​あり、​この​調整​作業​に​は​2​分​程度​を​要する。​標準​的​な​試料​を​XAFS​測定​する​場合、​数分​程度​で​の​測定​が​可能​で​ある​が、​試料毎に実験ハッチに出入りする従来の試料交換方法では測定者がビームラインから片時も離れる事ができず、​負担​が​大幅​に​増加​する​ばかり​で​なく、​測定​能率​の​律速​に​も​な​って​い​た。

 

3. ソリューション
​上記​における​課題​を​解決​する​ため、​NI​社​製​LabVIEW​にて自動計測システムの開発を行った。

 

3-1. システム​構成
​制御​系​各​機器​は​光学​ハッチ​(光学​系​機器​を​配置)​と​実験​ハッチ​(データ​集録​用​計測​器、​試料​を​配置)​に​分散​し​て​設置​さ​れ​て​いる​こと​から、​制御​形態​は​必然​的​に​実験​制御​用​PC​から​の​遠隔​制御​と​なる。​GPIB​通信​の​ステ​ッ​ピン​グ​モータ​や​計測​器​も​NI GPIB-​ENET/​100​を​介する​こと​により​遠隔​制御​が​可能​となり、​機器​の​制御​から​データ​集録​まで​を​LabVIEW​を​用​い​て​包括​的​に​制御​し​て​いる。

 

【自動​光学​機器​調整​システム】
​図​1​に​示す​よう​に​構成​機器​に​は、​上流​から​二​結晶​分光​器、​高次​光​除去・​集​光​用​ミラー、​光​を​成形​する​スリット、​試料​を​保持​する​ステージ、​X​線​強度​計測​用​の​イオンチェンバー​(IC)​が​ある。​これら​各​機器​の​スキャン​結果​を​自動​判定​する​機能​を​開発​した。​スキャン​結果​が​妥当​でないと​判断​さ​れ​た​場合、​自動的​に​再​スキャン​が​行​われる。​この​機能​を​追加​した​こと​により、​図​2​に示す全ての調整手順が自動化された。

 

フロント​パネル​(Fe-​K​吸収​端​の​場合)​を​示す​(図​3)。​二​結晶​分光​器​角度、​ミラー​角、​輸送​チャンネル​(TC)​スリット​サイズ​等​の​値​は、​従来​入力​パラメータ​で​あり​光学​調整​前​に​検討​する​必要​が​あっ​た。​入力​パラメータ​の​最適​値​を​導出​する​計算​式​を​確立​し​プログラム​内​に​組み込む​こと​により、​吸収端と分光結晶面のみ選択すれば光学調整が開始可能となった。

 

XAFS​測定​では​吸収​端​に​応​じ​て、​最適​な​配合​の​混合​ガス​を​IC​に​流通​させる​こと​が​必要​で​ある。​BL14B2​では​ガス​混合​装置​(堀場​エステック​社​製 MU-2161)​を​使​って​He、​N2、​Ar、​Kr​から​ガス​種​を​選択​し、​流量・​混合​比​を​調整​し​ガス​を​供給​し​て​いる。​これまで​手動​操作​が​必要​で​あっ​た​ガス​混合​装置​の​16​台​の​マス​フロー​コントローラ​を​NI PCI-232/16(RS232)​を​使​って​外部​制御​し、​本​システム​に​IC​へ​の​ガス​供給​機能​として​組み​込​ん​だ。​この​機能​により、​光学調整中に適切なガスへの置換が自動で行われることになった。

 

 

【自動​XAFS​測定​システム】
​自動​XAFS​測定​システム​は、​試料​の​交換​を​自動​で​行う​試料​自動​搬送​装置​(Sample Catcher​と​命名)​と​XAFS​測定​プログラム​を​連動​さ​せ​構築​した。​概念​図​を​図​4​に​外観​を​図​5​に​示す。

 

試料​自動​搬送​装置​は、​試料​ホルダ​の​把持​を​行う​圧​空​チャック、​試料​の​回転​を​行う​圧​空​ロータリー​シリンダ、​リニア​ステージ​3​台​を​組み合わせ​た​並進​駆動​機構、​試料​ホルダ​格納​部、​試料​認識​用​CCD​カメラ、​の​各部​から​なる。​試料​ホルダ​格納​部​に​は、​試料​ホルダ​を​40​枚​充填​できる​試料​カセット​を​2​台​セット​出来る​ので、​一度に​最大​80​個​の​試料​ホルダ​を​充填​可能​で​ある。​試料​位置​調整​について​は、​画像​認識​システム​(キーエンス​社​製 CV5500)​を​利用​した。​この​システム​により、​CCD​カメラ​で​撮像​した​測定​試料​の​形状​を​認識​する​こと​が​出来る。​試料​自動​搬送​装置​では、​CCD​カメラ​の​前​に​移送​した​試料​ホルダ​中​の​試料​の​重心​位置​(ピクセル​座標)​を​CV5500​で​認識​し、​これ​を​予め​求め​て​おい​た​基準​位置​に​一致​する​よう​に​試料​位置​を​調整​する。​基準位置と試料重心位置を一致させれば、​あと​は​所定​距離​だけ​移動​すると、​試料​重心​は​光軸​に​一致​する​ことに​なる。

 

フロント​パネル​(図​6)​上​で​試料​名、​データファイル​名、​測定範囲等の測定条件を入力してスタートボタンを押せば、​最大​80​試料​の​測定​が​全て​自動​で​行​われる。​また、​測定​に関する​ログ​は​NI Report Generation Toolkit​を​使用​し​て​リスト​形式​で​出力​する​機能​も​備​わ​って​いる。

 

3-2. 結果
​多く​の​光学​系​機器​と​計測​器​から​構成​さ​れる​ビーム​ライン​において、​自動​光学​機器​調整​システム​と​自動​XAFS​測定​システム​を​LabVIEW​により​構築​する​こと​が​でき、​調整​から​測定​まで​の​自動化​を​実現​する​こと​が​でき​た。​他社​製品​と​の​連携​が​容易​に​でき​た​の​も​LabVIEW​の​柔軟性​による​もの​だ​と​改めて​実感​した。

 

自動​光学​機器​調整​システム​において、​従来​の​光学​調整​の​時間​に​45​分​から​1​時間​程度​要​し​てい​た​の​に対し、​15​分​から​30​分​程度​の​約​50%​短縮​する​こと​が​でき​た。​また​自動​XAFS​測定システムにおいても効率が大幅に向上し時間が短縮された。​従来​の​手動​測定​で​試料​交換​に​2​分、​計測​に​8​分​を​要​し​てい​た​試料​を​80​個​測定​した​場合​で​効果​を​示す​と、​80​個​の​測定​に​要する​時間​は​800​分​で​あっ​た​の​に対して、​自動​XAFS​測定​システム​では​試料​交換​に​1​分、​計測​に​7​分​で​試料​80​個​の​測定​は​20%​短縮​の​640​分​で​完了​する。​しかも​この間、​試料​毎​に​実験​ハッチ​に​入り​試料​交換​を​する​必要​も​測定​条件​を​入力​する​必要​も​なく​な​っ​た​こと​により、​ユーザ​の​負担​の​軽減​に​も​大​きく​寄与​した。​また、​試料​位置​調整​が​測定​者​や​試料​形状​に​依存​しない​ため、​データ​の​再現​性​も​向上​した。

 

課題​に​挙​げた​問題​も​解決​した​これらの​システム​は、​SPring-8​産業​利用​Ⅱ​ビーム​ライン​BL14B2​で​既に​供用​を​開始​し​て​おり、​ユーザ​から​の​好評​を​得て​いる。

図​1 ​BL14B2​機器​構成​図
図​2 ​光学​機器​調整​フローチャート
図​3 ​自動​光学​機器​調整​システム​の​フロント​パネル
図​4 ​システム​概念​図
図​5 ​システム​の​外観
図​6 ​自動​XAFS​測定​システム​の​フロント​パネル