CompactRIO​を​用​い​た​コンパクト​な​X​線​顕微鏡​の​開発

"ハードウェア​による​リアルタイム​処理​について、​当初​は​FPGA​ボード​の​委託​開発​や​FPGA​メーカー​製​評価​ボード​等​を​検討​した。​FPGA​評価ボードを用いてどう構築すれば分からなかったが、​CompactRIO​と​の​出会い​により​約​4​か​月​で​顕微鏡​システム​全体​を​構築​する​こと​が​でき​た。"

- Nobuhito INAMI, 高​エネルギー​加速器​研究​機構 物質​科学​研究所

The Challenge:

偏光​X​線​による​X​線​顕微鏡​を​用​い​た​磁区​構造​解析​において、​顕微鏡​像​を​2​枚​撮影​し​て​その​差分​を​取る​必要​が​ある。​今回開発を行った​X​線​顕微鏡​は、​試料​を​X-​Y​方向​に​動​かし​ながら​微小​領域​の​X​線​吸収​を​測定​し​て​顕微鏡​像​を​得る​走査​型​の​ため、​磁区​構造​解析​に​必要​な​2​枚​の​顕微鏡​像​の​撮影​に​は​ある程度​の​時間​差​が​生​じ​て​しまう。​時間​差​によって​問題​と​なる​熱​ドリフト​等​による​顕微鏡​像​の​ずれ​を​最小限​に​抑える​ため​に​は、​高速​に​走査​を​行い、​撮像​時間​を​短​く​する​必要​が​ある。​試料​の​高速​位置​制御​を​行い​ながら​X​線​吸収​の​パルス​カウント​を​ソフトウェア​処理​だけ​で​行う​こと​は​困難​で​あり、​ハードウェア​による​リアルタイム​処理​が​必須​で​ある​と​考え​た。

The Solution:

ハードウェア​による​リアルタイム​処理​について、​FPGA​ボード​の​委託​開発​や​FPGA​メーカー​製​評価​ボード​等​を​検討​した​が、​まず​NI Compact RIO「cRIO-9075」​および​各種​モジュール​の​性能​評価​を​行う​こと​と​した。​CompactRIO​を​用​い​て​位置​情報​を​読み取る​レーザー​干渉​計​から​の​5 MHz 48 bit​デジタル​パルス列​を​処理​する​回路​を​LabVIEW FPGA​で​試作​した​ところ、​実際​に​100 kHz​程度​で​位置​情報​を​取得​でき、​十分​な​性能​を​得る​こと​が​でき​た。​そこで、​さらに​試料​等​の​ピエゾステージ​を​駆動​する​ため​の​アナログ​出力​モジュール、​X​線​吸収​パルス​を​カウント​する​ため​の​デジタル​入力​モジュール​を​組み合わせ​て、​位置​制御​および​計測​を​同時​処理​する​回路​を​LabVIEW FPGA​上​で​構築​した。​計測​結果​は​PC​に​転送​し、​透過​X​線​による​顕微鏡​像​を​得る​ことに​成功​した。​当初​は​FPGA​評価ボードを用いてどう構築すれば分からなかったが、​CompactRIO​と​の​出会い​により​約​4​か​月​で​顕微鏡​システム​全体​を​構築​する​こと​が​でき​た。

高​エネルギー​加速器​研究​機構・​物質​構造​科学​研究所​では、​加速​さ​れ​た​電子​から​放出​さ​れる​放射光​を​用​い​て、​物質​の​構造​や​特性​を​明らか​にし​て​いる。​特に​我々​の​グループ​では、​放射光​から​の​X​線​を​用​い​て、​磁石​材料​の​研究​を​行​って​いる。

 

背景

2011​年​に​発生​した​東日本​大震災​以降、​人々​の​意識​の​変化、​電力​供給​等​の​問題​から​様々​な​ところで​省エネルギー​化​が​進​め​ら​れ​て​おり、​これ​に​伴​って​各種​装置​の​エネルギー​効率​を​上げる​取り組み​が​な​さ​れ​て​いる。​古く​から​用​い​ら​れ​て​いる​装置​で​ある​モーター​は、​エアコン​や​ハイブリッド​自動車​など、​様々​な​場所​で​利用​さ​れ​て​いる。​モーター​の​主要​部品​で​ある​永久​磁石​の​性能​を​上げる​こと​で、​同じ​性能​で​高​効率​化・​小型化​する​こと​が​でき、​結果、​省エネルギー​化​に​貢献​する​事​が​可能​と​なる。​永久​磁石​は​レ​アメ​タル、​レアアース​といった​材料​から​構成​さ​れ​て​おり、​これらの​使用​量​を​減らし​つつ​性能​を​上げる​ため​に​は、​その​構造​を​詳​しく​知る​必要​が​ある。​数​マイクロメートル​から​数​ナノ​メートル​範囲​の​局所​構造​解析​が​必須​で​ある​が、​電子​顕微鏡​では​磁石​材料​研究​に​重要​な​磁区​構造​を​調べる​事​が​困難​で​ある。​そのため、​磁石​材料​の​詳細​な​解析​を​行う​ため、​偏光​さ​れ​た​放射光​を​用​い​た​X​線顕微鏡を開発するに至った。

 

課題

偏光​X​線​による​X​線​顕微鏡​を​用​い​た​磁区​構造​解析​において、​顕微鏡​像​を​2​枚​撮影​し​て​その​差分​を​取る​必要​が​ある。​今回開発を行った​X​線​顕微鏡​は、​試料​を​X-​Y​方向​に​動​かし​ながら​微小​領域​の​X​線​吸収​を​測定​し​て​顕微鏡​像​を​得る​走査​型​の​ため、​磁区​構造​解析​に​必要​な​2​枚​の​顕微鏡​像​の​撮影​に​は​ある程度​の​時間​差​が​生​じ​て​しまう。​時間​差​によって​問題​と​なる​熱​ドリフト​等​による​顕微鏡​像​の​ずれ​を​最小限​に​抑える​ため​に​は、​高速​に​走査​を​行い、​撮像​時間​を​短​く​する​必要​が​ある。​試料​の​高速​位置​制御​を​行い​ながら​X​線​吸収​の​パルス​カウント​を​ソフトウェア​処理​だけ​で​行う​こと​は​困難​で​あり、​ハードウェア​による​リアルタイム​処理​が​必須​で​ある​と​考え​た。

 

ソリューション

ハードウェア​による​リアルタイム​処理​について、​FPGA​ボード​の​委託​開発​や​FPGA​メーカー​製​評価​ボード​等​を​検討​した​が、​まず​NI Compact RIO「cRIO-9075」​および​各種​モジュール​の​性能​評価​を​行う​こと​と​した。​CompactRIO​を​用​い​て​位置​情報​を​読み取る​レーザー​干渉​計​から​の​5 MHz 48 bit​デジタル​パルス列​を​処理​する​回路​を​LabVIEW FPGA​で​試作​した​ところ、​実際​に​100 kHz​程度​で​位置​情報​を​取得​でき、​十分​な​性能​を​得る​こと​が​でき​た。​そこで、​さらに​試料​等​の​ピエゾステージ​を​駆動​する​ため​の​アナログ​出力​モジュール、​X​線​吸収​パルス​を​カウント​する​ため​の​デジタル​入力​モジュール​を​組み合わせ​て、​位置​制御​および​計測​を​同時​処理​する​回路​を​LabVIEW FPGA​上​で​構築​した。​計測​結果​は​PC​に​転送​し、​透過​X​線​による​顕微鏡​像​を​得る​ことに​成功​した。​当初​は​FPGA​評価ボードを用いてどう構築すれば分からなかったが、​CompactRIO​と​の​出会い​により​約​4​か​月​で​顕微鏡​システム​全体​を​構築​する​こと​が​でき​た。

 

アプリケーション/​プロジェクト​の​内容

放射光​は、​電子​を​線形​加速器​で​加速​し​て​放射光​リング​に​入射​し、​リング​軌道​で​電子​が​曲​げ​られる​際​に​放出​さ​れる​明るい​光​で​ある。​ここ​で​得​られる​放射光​に​は​さまざま​な​波長​が​含​まれ​て​いる​白色​光​で​あり、​実際​に​実験​に​用いる​際​に​は​分光​器​を​用​い​て​単一​波長​に​単色​化​さ​れる。​明​る​く​単色​化​さ​れ​た​放射光​の​特性​を​生​かし​て、​生物、​化学、​物理​学​の​分野​で​試料​の​微小​な​構造​から​結晶​構造​まで​の​解析​が​行​われ​て​おり、​磁石​材料​研究​も​その​一つ​で​ある。​永久​磁石、​特に​希土類​(レアアース)​磁石​は、​磁石​として​の​性能​向上​および​レアアース​や​レ​アメ​タル​の​使用​量​の​低減​が​求め​ら​れ​て​おり、​まず​磁石​の​基礎​的​特性​を​知る​必要​が​ある。​そのため​に​は​磁石​試料​の​局所​成分​分析、​磁区​構造​観察​が​必要​と​な​って​くる​が、​国内にはこれまで数マイクロメートルから数ナノメートルといった局所解析を行うことができる顕微鏡が導入されていなかった。​そこで​本​プロジェクト​では、​国内​において​磁石​材料​の​観察・​解析​を​行える​走査​型​透過​X​線​顕微鏡​(STXM)​の​構築​を​目指​した。

 

システム​概要

STXM​は、​試料​を​X​線​により​走査​し、​透過​した​X​線​を​検出​し​て​顕微鏡​像​を​得る​装置​で​ある。​あらかじめ​100​ナノ​メートル​程度​に​薄片​化​さ​れ​た​試料​に​X​線​を​入射​し、​試料​後方​に​設置​した​検出​器​で​試料​を​透過​してき​た​X​線​を​測定​する。​入射された​X​線​は​試料​に​含​ま​れる​元素​に​吸収​さ​れる​ため、​特に​試料​を​構成​し​て​いる​元素​の​X​線​吸収​端​に​入射​X​線​の​エネルギー​を​合わせる​こと​で、​元素​選択​性​の​ある​X​線​吸収​が​得​られる。​試料​ステージ​を​X-​Y​方向​に​動​かし、​X​線光学レンズによりビーム径を絞った​X​線​で​試料​を​走査​し、​元素選択された​2​次元​の​X​線​吸収​顕微鏡​像​を​得る。​これ​により、​試料​内​に​含​ま​れる​元素​の​空間​的​分布​を​知る​こと​が​できる。

 

NI​製品​採用​の​理由

STXM​開発​当初​から、​位置​制御​や​X​線​計測​といった​高速​性​が​必要​な​処理​を​FPGA​による​書き換え​可能​な​仕組み​に​する​こと​で、​仕様​変更​に​容易​に​対応​できる​と​考え​てい​た。​また、​アナログ​および​デジタル​入出力​を​モジュール​化​し​て​おく​こと​で、​システム​の​アップデート​に​も​対応​できる​と​考え​てい​た。​FPGA​開発​する​にあたり、​装置​全体​の​開発​期間​が​1​年​という​制約​の​中、​プログラミング​スキル​を​身​に​付ける​ところ​から​始めて、​位置​制御、​計測、​PC​へのデータ転送処理を開発するのは困難であると考えられた。​特に、​FPGA​ボード​と​PC​上の​LabVIEW​と​の​通信​が​難しい​と​考え​ら​れ​た​ため、​LabVIEW FPGA​を​用​い​て​シームレス​に​開発​が​行える​cRIO-9075​を​試し​た​ところ、​処理​速度、​回路​容量​も​十分​で​ある​こと​が​確認​でき​た。​この​結果​から、​CompactRIO​を​採用​する​こと​が​顕微鏡​開発​の​近道​で​ある​と​結論​した。

 

 

 

システム​構成

図​1​に​開発​した​CompactSTXM​の​概要​を​示す。​大​きく​分け​て​光学​系​と​リアルタイム​処理​系​に​分け​られる。

 

光学​系:

放射光​リング​から​ビーム​ライン​へ​と​取り​出​さ​れ​た​放射​X​線​は、​挿入​光源​と​呼ばれる​アンジュレータ​によって​左​偏光​あるいは​右​偏光​の​光​として​取り​出​さ​れる。​この​X​線​ビーム​を​回折​格子​分光​器​で​単色​化​し、​4​象限​スリット​によって​ビーム​を​絞​って、​ここ​を​仮想​光源​点​と​する。​X​線​は​フレネル・​ゾーン・​プレート​(FZP)​と​呼ばれる​X​線レンズを用いて数ナノメートルまで集光され、​Order Sorting Aperture (OSA)​と​呼ばれる​0​次​光​および​3​次​光​以上​を​カット​する​ピン​ホール​を​通過​し​て、​試料​に​入射​さ​れる。​試料に入射された​X​線​は、​試料を構成している元素に吸収され、​その​残り​が​試料​を​透過​する。​この​透過​光​を​検出​器​で​ある​光​電子​増​倍​管​(PMT)​モジュール​で​検出​する。

リアルタイム​処理​系:

RIO​モジュール​および​CompactRIO​に​内蔵​さ​れ​て​いる​FPGA​を​用​い​て、​STXM​の​制御・​計測を行った。​FZP、​OSA、​試料​および​検出​器​の​各​ステージ​は、​高い空間分解能を持つピエゾステージに搭載され、​CompactRIO​の​アナログ​モジュール​を​用​い​て​FPGA​を通して​駆動​さ​れる。​これらの​ステージ​位置​を​レーザー​干渉​計​により​ピコ​メートル​の​分解能​で​正確​に​計測​し、​コントローラ​から​出力​さ​れる​位置​情報​5 MHz 48 bit​の​クロック​および​デジタル​パルス列​は、​FPGA​により​デコード​処理​さ​れる。​また、​これらの​処理​と同時に、​PMT​モジュール​から​の​最大​数​メガヘルツ​の​デジタル​パルス​も​FPGA​により​パルス​カウント​処理​さ​れる。

ピエゾ​による​ステージ​の​駆動、​試料走査して得られた​X​線​吸収​測定​データ​は、​CompactRIO​上の​LabVIEW Real-​Time​で処理しされ、​1​ライン​走査​ごと​に​CompactRIO​から​ネットワーク​ストリーム​を​介​し​て​PC​へ​と​転送​さ​れる。​PC​上​では​LabVIEW​により​これらの​データ​を​まとめ、​2​次元​の​顕微鏡​像​を​構成​する​(図​3​上、​左下)。

 

 

 

有用​だ​と​思​っ​た​機能

一般​的​な​FPGA​ボード​では​PC​と​の​通信​を​構築​する​こと​が​難しい​が、​LabVIEW​では​プロジェクト​ファイル​を​用​い​て​CompactRIO​および​RIO​モジュール​の​一元​管理​を​行​って​おり、​また​自動​検出​さ​れる​ため、​配置​配線​指定​する​わ​ず​ら​わし​さ​が​ない。​プロジェクト​ファイル​上​で​シームレス​に​扱える​ので、​FPGA​と​PC​の​間​の​通信​方法​を​意識​せ​ず​システム​を​構築​できる。

 

導入​効果

開発​開始​直後​は​国内​に​走査​型​透過​X​線​顕微鏡​(STXM)​が設置されておらず、​実際、​我々​の​グループ​でも​海外​の​放射光​施設​で​測定​を​行​って​い​た。​そのため、​試料の準備等を含めて容易に測定を行うことが難しかった。​国内​に​STXM​を​導入​する​にあたり、​他​施設​の​装置​を​参考​にし​ながら​一​から​設計・​開発を行った。​振動​対策、​構成​部品​の​小型化、​リアルタイム​処理​による​高速​化​等​で、​これまでに​無い​非常​に​コンパクト​な​構成​と​する​こと​が​でき​た​(図​2)。​振動​を​抑え、​さらに​リアルタイム​処理​による​高速​化​を​行​っ​た​結果、​温度ドリフト等の影響が非常に少ない顕微鏡像を得ることが可能となった。​これ​は、​特に​磁石​材料​の​磁区​構造​を​解析​する​際​に​必要​な​2​枚​の​顕微鏡​像​に​ほとんど​ずれ​の​ない​結果​を​示し​た​(図​3​右下)。

 

 

 

NI​製品​を​採用​する​メリット

通常​の​FPGA​アプリケーション​開発​では、​回路​記述​の​ため​の​HDL​言語、​アナログ​および​デジタル​入出力​の​配置​配線​等​を​含む​ツール​使用​の​習得​等​が​必要​で​ある。​一方、​CompactRIO​と​LabVIEW FPGA​を​用​い​た​FPGA​開発​では、​そのような習得を必要とせず、​従来​の​LabVIEW​による​グラフィカル​開発​と​ほぼ​同様​に​プログラム​を​記述​可能​で​ある。​さらには、​FPGA​と​PC​と​の​データ​の​やり取り​も​LabVIEW​プロジェクト​上​で​シームレス​に​取り扱う​こと​が​できる​ため、​測定​データ​の​取得、​測定​の​制御​も​容易​に​記述​可能​で​ある。​この​メリット​の​おかげ​で、​我々​の​プロジェクト​では​およそ​4​か​月​で​システム​を​構築​する​こと​が​でき​た。

 

今後​の​展望

Compact RIO​および​LabVIEW FPGA​を​用​い​て、​小型​で​高速​な​走査​型​透過​X​線​顕微鏡​システム​を​構築​した。​特に、​FPGA​を​用​い​て​各​ステージ​の​位置​制御、​透過​X​線​の​検出​といった​高速​処理​を​非常​に​短期間​に​実装​でき​た​の​は、​LabVIEW FPGA​で​グラフィカル​に​プログラミング​でき​た​こと​が​大きい。​今後​は、​FPGA​プログラム​を​修正​し、​フィードバック​位置​制御​を​組み​込​ん​だ​局所​解析​機能​の​追加​を​検討​し​て​いる。

 

Author Information:

Nobuhito INAMI
高​エネルギー​加速器​研究​機構 物質​科学​研究所
​Japan

図​1. ​ ​Compact STXM​の​概略​図 ​
図​2. ​ ​Compact STXM​の​外観 ​
図​3. ​ ​STXM​制御、​測定​結果​パネル、​および​解析​結果 ​