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並列確率共振ユニット使用したリアルタイム信号検出/解析システム開発

Yasushi Hotta、大阪大学、産業科学研究所

「信号検出/解析システムNI PXI-7852R利用し、並列SRユニット構築することで、リアルタイム処理可能なりした。」

- Yasushi Hotta、大阪大学、産業科学研究所

課題:

プログラム的な構成ができ、アナログ電子回路のように並列動作が可能で、複数チャンネルのノイズを供給することができる、リアルタイム信号検出/解析システムの開発。

ソリューション:

NI PXIフィールドプログラマブルゲートアレイ (FPGA) ハードウェアとNI LabVIEWソフトウェアを使用して、リアルタイム信号検出/解析システムを開発する。

 

確率共振 (SR) とは、しきい値未満の微弱な信号とノイズが、ニューロンのような非線形しきい値タイプの信号伝達系に入力され、しきい値を超えたレベルで出力に伝達される現象です。通常、ノイズは信号伝達を阻害しますが、SR現象を伴う系では、適度な強度のノイズがある場合に出力の信号/ノイズ比 (SNR) が向上します。

 

この原理を利用すると、ノイズを使って微弱信号を検出することが可能になります。図1 (a) は、入力がしきい値を超えるとパルスを発生する1個の非線形しきい値ユニットに微弱な信号とノイズを加えたときのタイムチャートを示しています。入力が微弱信号のみの場合はしきい値を超えないため、パルスは発生しません。ノイズが加わると、信号が確率的にしきい値を超えてパルスが発生し (図中の矢印)、入力情報が出力に伝達されます。信号がしきい値を超える確率は、ノイズの強度が大きいほど高くなりますが、ノイズ強度が大きすぎると出力が乱されます。そのためSNRは図1 (b) に示すように、ノイズ強度の変化に応じた放物線になります。高いSNRを得るにはノイズ強度の調整が必須となるため、この手法を信号検出のために使用することは実用的ではありません。

 

これに対して、Collins et al [Nature 367, 236 (1995)]のコンピュータシミュレーションを使用した解析的な研究では、SR現象を伴う非線形しきい値ユニットをSRユニットとして定義し、これを並列化することにより、幅広いノイズ強度でSNRを改善できることが示されています。この結果は、SR現象の技術的有用性を示しています。たとえば信号検出システムであれば、ノイズ強度を調整しなくてもSR現象を利用することができます。

 

実際に並列SRユニットを利用して信号処理を行うには、複数のユニットでリアルタイム処理を行う必要があります。そこで今回の提案では、微弱なオーディオ信号を検出し、I/O信号相関のリアルタイム解析を行うために、並列SRユニットを使用した信号検出/解析システムを開発しました。

 

問題点

並列SRユニットシステムでは、並列ユニットの数が多いほど幅広いノイズ強度におけるSNRが改善されます。このため、並列SRの原理を信号処理に適用する場合は、数十個のSRユニットを並列に動作させる必要があります。

 

コンピュータで処理する場合、SRユニットの数が多過ぎると処理速度が低下するため、数十個のユニットを並列に動作させて高速信号を処理することは困難です。アナログ回路のSRユニットを使用する方法も1つの解決策ですが、実際の並列ユニットの数だけSRユニットを作成する必要があり、膨大な時間とコストがかかります。さらに、システムを変更するには回路全体を作り直す必要があります。また、多数のユニットの各チャンネルに対応する無相関ノイズを同じ数だけ用意することは困難です。

 

このような問題に対処するために、プログラム的な構成ができ、アナログ電子回路のように並列動作が可能で、複数チャンネルのノイズを供給できるシステムが必要となりました。

 

 

システム構成

このような問題を解決するために、以下のハードウェアを使用したシステム構成を開発しました。

 

  • NI PXI-7852R: 再構成可能FPGAマルチファンクションデータ収集 (DAQ) モジュール
  • NI PXI-8106コントローラ
  • NI PXI-1042Qシャーシ

 

ソフトウェアプラットフォームとして、LabVIEWLabVIEW FPGAモジュールを使用しました。FPGAでは、各SRユニットのプログラムブロックを内部クロックに合わせて並列動作させることができます。LabVIEWによってグラフィカルプログラミング環境でFPGAビットファイルを作成できるため、ユーザは短期間でシステムを開発することができます。このような理由から、上記の条件で開発したシステムが問題を解決するのに最も適していると判断しました。このシステムのブロック図を図2に示します。

 

 

 

FPGAマルチファンクションDAQモジュールのアナログ入力 (AI) から入力された信号をFPGA内の並列SRユニットで処理し、処理結果をホストを介さずにアナログ出力 (AO) から出力することにより、可聴周波数範囲でリアルタイムに信号を処理できるシステムを構築しました。FPGAのノイズ発生器によって発生した無相関ノイズが、各ユニットの入力となります。SRユニットのしきい値に達しない微弱なオーディオ信号がデータ収集AIへの入力となります。AO信号に接続されたヘッドホンを使ってオーディオの再現性を直接確認できるシステム構成になっています。FPGAターゲットのフロントパネルを図3に示します。

 

 

6つのグループに分けられた合計96個のユニットが用意されています。SRユニットのパラメータは、グループごとに設定することができます。1つのグループは16個のSRユニットで構成されています。ホストVIのフロントパネルを図4に示します。ニューロンユニットのパラメータは、スライドにより直感的に操作できます。自動計測機能によるシーケンス制御を使用することで、実験を効率化できます。制御可能な入力パラメータとしては、ノイズ強度、ニューロンのしきい値、並列SRユニットの数、出力レベル調整などがあります。

 

入出力波形は、ダイレクトメモリアクセス (DMA) によってホストに転送され、グラフ表示でリアルタイムに監視できます。また、入出力信号間の相関関係をノイズ強度に対してリアルタイムに解析できるため、解析時間を短縮することができます。最大750 kS/sのサンプリングレートで入出力波形を記録できるため、オフライン解析が可能です。

 

 

結果

このシステムでは、96個の並列SRユニットとFPGAノイズ発生器を使用して、96チャンネル分の無相関ノイズを供給することができます。また、システムの変更にかかる時間も大幅に短縮されました。従来のアナログ電子回路のシステムでは、4個の素子を修正するのに10時間以上かかっていましたが、このシステムを使用すると、96個のユニットを変更するのにかかる時間が数分程度と大幅に短縮されるため、研究のスループットが向上します。

 

周波数範囲が20 Hz~20 kHzで、振幅がしきい値よりも低い正弦波信号を使用して解析したところ、可聴範囲の信号をリアルタイムで検出できることが確認され、音楽のような非周期信号に対してもシステムを利用できることがわかりました。さまざまなノイズ強度でSNRが向上するというメリットが明確に計測されました。これは、SRユニットの並列化によって得られる効果です。システム開発当初の問題は、すべて解決されました。

 

信号検出/解析システムにNI PXI-7852Rを利用し、並列SRユニット群を構築することで、リアルタイム処理が可能になりました。この構成は、オーディオ信号だけでなく、さまざまなセンサからの信号を検出するシステムにも適用できます。また、NI PXI-7854Rを使用するか、ボードを増設すると、SRユニット数をさらに増やせるため、今後の研究をさらに発展させることができます。

 

作成者​情報:

Yasushi Hotta
大阪大学、産業科学研究所

図1: (a) SRユニットに微弱な信号とノイズを加えたときのタイムチャート。(b) SRユニットにおけるSNRのノイズ強度の依存関係により、SR特有の放物線が描かれています。
図2: (左) 1個のSRユニットを赤い四角で示したシステムブロック図。Nはユニット番号、σは平均化を表します。(右) システム構成の写真。
図3: FPGAターゲットのフロントパネル。各SRユニットのパルスステータスがLEDで確認できる様子を示しています。これらのLEDは動作中に点滅し、古い映画に登場する人工知能コンピュータを連想させます。
図4: ホストプログラムのフロントパネル。スライダを使用してニューロンユニットのパラメータを直感的に調整できる様子を示しています。