並列​化​確率​共振​ユニット​を​用​い​た​リアルタイム​信号​検出・​解析​システム​の​開発

"これまで​の​アナログ​電子​回路​の​システム​では​4​素子​の​改良​に​10​時間​以上​を​要​し​てい​た​が、​PXI​を​ベース​に​構築​さ​れ​た​システム​では、​96​ユニットの改良にかかる時間は僅か数十分程度と大幅に短縮され、​研究のスループット向上が図られた。"

- Yasushi Hotta, The Institute of Scientific and Industrial Research, Osaka University

課題:

プログラム​的​に​システム​の​構成​が​でき、​アナログ​電子​回路​の​よう​に​並列​動作​し、​且つ​多​チャンネル​の​ノイズ​を​供給​できる​システム​が​必要​で​あっ​た。

ソリューション:

PXI​シャー​シ​「NI PXI-1042Q」​を​ベース​に​再​構成​可能​(FPGA) マルチ​ファンクション​DAQ「NI PXI-7852R」​と​PXI​コントローラ​「NI PXI-8106」​を​組み合わせ​た​システム​を​導入​した。

 

1. 背景
​確率​共振​(Stochastic Resonance : SR)​は、​ニューロン​の​よう​な​非線形​閾​値​型​の​信号​伝達​システム​に​閾​値​以下​の​微弱​な​信号​と​ノイズ​が​入力​さ​れ​た​とき、​それら​が​確率​的​に​共振​する​こと​によって​閾​値​を​超​えて​出力​に​伝達​さ​れる​現象​で​ある。​通常、​ノイズ​は​システム​の​信号​伝達​を​阻害​する​が、​SR​現象​を​伴う​システム​では​適度​な​強度​の​ノイズ​が​ある​ときの​ほうが​出力​の​信号​/​ノイズ​比​(SNR)​が​向上​する。



​この​原理​を​利用​すると、​ノイズ​を​利用​し​て​微弱​信号​を​検出​する​こと​が​できる。​図​1(a)​は、​入力​が​閾​値​を​超える​と​パルス​発火​する​よう​な​1​個​の​非線形​閾​値​ユニット​に​微弱​な​信号​と​ノイズ​を​加​え​た​ときの​タイム​チャート​を​示し​て​いる。​入力​が​微弱​信号​のみ​の​とき​は​閾​値​を​超​え​ない​ので​パルス​発火​が​起​こら​ない​が、​この​状態​に​ノイズ​を​加える​と​信号​が​確率​的​に​閾​値​を​超​えて​パルス​発火​が​起​こ​り​(図​中​矢印​の​部分)、​入力​の​情報​が​出力​側​に​伝達​さ​れる。​信号​が​閾​値​を​超える​確率​は​ノイズ​の​強度​が​大きい​ほど​高​く​なる​が、​ノイズ​強度​が​大​き​すぎる​と​出力​が​乱​さ​れる。​そのため、​SNR​は​ノイズ​強度​の​変化​に対して​図​1 (b、​並列​数:​1​ユニット)​に​示す​よう​な​釣り鐘​型​の​曲線​と​なる。​これ​を​信号​検出​に​使う​場合、​高い​SNR​を​得る​ため​に​ノイズ​強度​を​チューニング​する​必要​が​あり、​実用​に​は​不向き​で​あっ​た。
​一方、​SR​現象​が​起こる​非線形​閾​値​ユニット​を​SR​ユニット​と​定義​し、​これ​を​並列​化​する​こと​により​広範囲​の​強度​の​ノイズ​で​SNR​を​向上​できる​こと​が​Collins et al [Nature 367, 236 (1995)] の​計算機​シミュレーション​を​用​い​た​解析​的​な​研究​により​示​さ​れ​て​いる。​[図​1(b、​並列​数:​100​ユニット)]​この​結果​は、​SR​現象​の​工学​的​有用​性​を​示し​て​おり、​例えば​信号​検出​システム​に​応用​すると、​ノイズ強度のチューニングを必要とせず​SR​現象​を​利用​する​こと​が​できる。



​実際​に​並列​化​SR​ユニット​を​信号​処理​に​適用​する​場合、​多数​の​ユニット​で​リアルタイム​処理​が​要求​さ​れる。​そこで、​今回​提案​する​システム​を​用​い​て​並列​化​SR​ユニット​を​用​い​た​信号​検出・​解析​システム​の​開発​行い、​微弱​音声​信号​の​検出​と​入出力​信号​相関​の​解析​を​リアルタイム​で​行う​こと​を​目指​した。

 

 

 

2. 課題
​並列​化​SR​ユニット​システム​では、​並列​の​ユニット​数​が​多い​ほど​広範囲​の​ノイズ​強度​に対して​SNR​が​向上​する。​この​ため、​並列​化​SR​の​原理​を​信号​処理​に​適用​する​場合​に​は​数​十個​以上​の​SR​ユニット​を​リアルタイム​で​並列​に​動作​させる​こと​が​課題​と​なる。



​計算機​の​処理​では、​SR​ユニット​の​数​が​多く​なる​と​処理​速度​が​低下​する​ため、​数​十個​以上​の​ユニット​を​並列​動作​さ​せ​て​高速​に​信号​処理​を​する​こと​が​難しい。​アナログ​電子​回路​の​SR​ユニット​を​用いる​方法​では、​ユニット​の​並列​処理​は​可能​で​ある​が、​多数​の​SR​ユニット​回路​を​実際​の​並列​ユニット​数​だけ​作製​する​必要​が​あり、​時間​及び​費用​の​面​で​コスト​が​かかる。​その​上、​システム​の​改良​に​は​全て​の​回路​を​作り直す​必要​が​あり、​また​各​ユニット​に​供給​する​無​相関​ノイズ​を​ユニット​数​チャネル​分​用意​する​こと​も​困難​で​あっ​た。



​課題​解決​に​は、​プログラム​的​に​システム​の​構成​が​でき、​アナログ​電子​回路​の​よう​に​並列​動作​し、​且つ​多​チャンネル​の​ノイズ​を​供給​できる​システム​が​必要​で​あっ​た。

 

3. ソリューション
​3-1. システム​構成
​課題​を​解決​する​ため、​PXI​シャー​シ​「NI PXI-1042Q」​を​ベース​に​再​構成​可能​(FPGA) マルチ​ファンクション​DAQ「NI PXI-7852R」​と​PXI​コントローラ​「NI PXI-8106」​を​組み合わせ​た​システム​を​導入​した。​ソフトウェア​に​は、​LabVIEW 8.6​と​LabVIEW FPGA​モジュール​を​用​い​た。​FPGA​では、​内部​クロック​により​各​SR​ユニット​の​プログラム​ブロック​を​並列​動作​させる​こと​が​できる。​FPGA​の​ビット​ファイル​の​作成​に​は、​LabVIEW​同様​に​グラフィカル​プログラミング​が​利用​できる​ため、​短時間​で​システム​の​開発​と​改良​が​可能​に​なる。​この​よう​な​理由​から、​上記​組み合わせ​の​システム​が​課題​解決​に​最適​で​ある​と​判断​した。



​本​システム​の​ブロック​図​を​図​2​に​示す。​FPGA​マルチ​ファンクション​DAQ​の​アナログ​入力​(AI)​から​入力​さ​れ​た​信号​を​FPGA​内​で​並列​SR​ユニット​処理​し、​ホスト​を​介​さ​ず​に​アナログ​出力​(AO)​から​出力​する​こと​により​可聴​帯​の​周波数​領域​で​リアルタイム​に​信号​処理​できる​システム​を​目指​した。​各​ユニット​に​は、​FPGA​の​ノイズ​ジ​ェ​ネ​レ​ータ​により​発生​さ​せ​た​無​相関​ノイズ​を​入力​し​て​いる。​DAQ​の​AI​に​は、​SR​ユニットの閾値以下の微弱音声信号が入力され、​AO​に​接続​さ​れ​た​ヘッド​フォン​で​直接​音声​の​再現​性​を​確認​する​こと​が​できる​システム​構成​に​な​って​いる。

 

 

 

赤い​四角​で​囲​ま​れる​部分​が​SR​ユニット​単体。​n​は​ユニット​番号、​σ​は​平均​化​を​表す。​並列​化​SR​ユニット​部​は​FPGA​により​独立​に​動作​し、​微弱​信号​の​検出​を​行う。​ホスト​は、​SR​ユニット​の​パラメータ​制御、​信号​発生​器​の​制御、​データ​収集、​信号​解析​を​行う。​右​図​は、​システム​セットアップ​の​写真​を​示す。

 

FPGA​ターゲット​の​フロント​パネル​を​図​3(右上​の​画像​参照)​に​示す。​実装​では、​16​個​の​SR​ユニット​を​1​組​と​し、​それら​が​6​組​で​計​96​ユニット​が​配置​さ​れ​て​おり、​SR​ユニット​の​パラメータ​は、​各組​ごと​に​設定​可能​に​な​って​いる。

 

ホスト​VI​の​フロント​パネル​を​図​4(右上​の​画像​参照)​に​示す。​ニューロン​ユニット​の​パラメータ​は、​スライダ​により​直感​的​に​操作​でき、​また​シーケンス​制御​による​自動​計測​により​実験​の​効率​化​が​図​ら​れ​て​いる。​入力​パラメータ​として​は、​ノイズ​強度、​ニューロン​の​閾​値、​並列​化​SR​ユニット​の​数、​出力​レベル​調整​が​制御​可能​と​な​って​いる。​入出力​信号​は、​DMA​データ転送によりホストに取り込まれてグラフ化され、​波形​が​リアルタイム​に​確認​できる。​更に、​入出力​の​信号​間​の​相関​を​ノイズ​強度​に対して​リアルタイム​に​解析​できる​ため、​解析​時間​を​短縮​できる。​入出力​の​波形​は​最高​750 kS/​Sec​の​サンプリング​レート​で​記録​でき、​事後​の​解析​に​も​対応​できる​よう​に​な​って​いる。

 

 

各​SR​ユニット​の​発火​状態​は​LED​によって​確認​できる。​動作​中​は​これら​が​点滅​し、​さながら​昔​の​映画​に​登場​した​人工​知能​コンピュータ​を​彷彿​させる。

 

3-2. 結果
​本​システム​を​用いる​こと​で、​96​個​の​SR​ユニット​の​並列​化​と​FPGA​の​ノイズ​ジ​ェ​ネ​レ​ータ​により​96​チャネル分の無相関ノイズを供給することが可能になった。​また、​システム改良にかかる時間が大幅に短縮された。​これまで​の​アナログ​電子​回路​の​システム​では​4​素子​の​改良​に​10​時間​以上​を​要​し​てい​た​が、​本​システム​では、​96​ユニットの改良にかかる時間は僅か数十分程度と大幅に短縮され、​研究のスループット向上が図られた。



​周波数​が​20 Hz​~​20 kHz​で​振幅​が​閾​値​以下​の​sin​信号​を​システム​入力​し​て​解析​を​行​っ​た​結果、​可聴帯域の信号をリアルタイムで検出できることが確認され、​また音楽のような非周期信号の検出にも利用できることが分かった。​SR​ユニット​を​並列​化​する​メリット​で​ある​様々​な​ノイズ​強度​で​の​SNR​向上の効果が明確に観測され、​今回​の​システム​開発​時​の​課題​を​全て​解決​する​こと​が​でき​た。



​今回​は、​NI PXI-7852R​を​リアルタイム​性​が​要求​さ​れる​並列​化​SR​ユニット​による​信号​検出・​解析​システム​に​利用​する​こと​を​提案​した。​本​システム​は、​音声​信号​の​他​に​も​センサ​信号​を​検出​する​システム​など​に​応用​する​こと​が​できる。​また、​上位​の​NI PXI-7854R​を​用​い​たり​ボード​を​増設​した​り​する​こと​で​更​なる​SR​ユニット​数​の​増加​を​行う​こと​が​でき、​ユニット数を増やした高度な研究にも対応できるシステムで構成となった。

 

著者​情報:

Yasushi Hotta
The Institute of Scientific and Industrial Research, Osaka University

Figure 1: (a) ​ ​A time chart that shows when a weak signal and noise are applied to the SR Unit (b) The noise intensity dependency of SNR of the SR Unit shows the parabolic curve is characteristic of SR. ​
■​図2 ​ システム​の​ブロック​図 ​
■​図3 ​ ​FPGA​ターゲット​の​フロント​パネル ​
Figure 4: ​ ​The front panel of the host program that shows how parameters of the neuron units can be adjusted intuitively using sliders. ​