誘電​率​センシング​による​GFRP 製​風力​発電​ブレード​の​損傷​モニタリング

- 水上 孝一​氏, 東京​工業​大学​大学院 機械​物理​工学​専攻

"開発​した​センサ​の​テスト​では、​NI PXI-5421​と​NI PXI-5122​は​ともに​高い​分解能​を​有​し​て​おり、​かつ​それら​を​同期​する​ロック​イン​アンプ​を​LabVIEW​により​容易​に​構築​可能​で​ある​こと​から、​本​研究​では​高​精度​な​測定​システム​を​2​か​月​という​短期間​で​構築​する​こと​が​でき​た。"

- 水上 孝一​氏, 東京​工業​大学​大学院 機械​物理​工学​専攻

課題:

GFRP​製​風力​発電​ブレード​に​生​じ​た​内部​損傷​を​検出​可能​な​安価​な​センサ​を​開発​し、​損傷​モニタリング​へ​の​適用​を​目指す。​また、​健全​状態​と​損傷​状態​を​判別​可能​な​統計​的​無​学習​診断​アルゴリズム​を​組み​込​ん​だ​システム​と​する。

ソリューション:

NI PXI​製品​と​LabVIEW​により、​開発​した​誘電​率​センサ​の​駆動、​測定​システム​を​構築​し、​損傷​検知​へ​の​適用​性​を​テスト​した。​さらに、​LabVIEW​で​診断​プログラム​を​作成​し、​駆動、​測定、​診断​が​一体​と​な​っ​た​システム​を​構築​した。

概要

当​研究室​では​繊維​強化​プラスチック​を​はじめ​と​する​複合​材料​に​発生​する​損傷​を​検出​する​ため​の​非破壊​検査​法​について​研究​を​行​って​いる。​ガラス​繊維​強化​プラスチック​(Glass Fiber Reinforced Plastic、​GFRP)​は​プラスチック​が​ガラス​繊維​によって​強化​さ​れ​た​材料​で​あり、​軽量​かつ​高強度、​耐食性に優れ、​安価​で​ある​こと​から、​風力​発電​ブレード​の​構造​材料​に​適用​さ​れ​て​いる。​風力​発電​の​中でも、​風​況​が​よく、​土地​の​制約​が​無​く、​騒音​や​景観​の​問題​を​軽減​できる​洋上​風力​発電​の​導入​普及​が​進​んで​いる。​しかし、​洋上​で​の​アクセス​の​悪さ​から、​直接​ブレード​の​保守​点検​を​行う​こと​は​困難​で​ある​ため、​ブレード​に​取り付け​た​センサ​により​常時​監視​を​行う​こと​が​求め​られる。​GFRP​の​内部​に​発生​した​損傷​を​検出​可能​な​従来​の​センサ​に​は​高価​な​もの​が​多く、​これ​を​多数​配置​し​て​モニタリング​を​行う​に​は​莫大​な​コスト​が​かかる。​本​研究​では、​GFRP に​発生​した​内部​損傷​を​検出​可能​で​かつ​安価​な​センサ​の​開発​を​行​って​おり、​これまで​GFRP の​健​全部​と​損傷​部​の​間​の​誘電​率​の​差異​を​検出​する​こと​で​損傷​位置​を​特定​する​誘電​率​センサ​を​考案​し​て​いる。​そこで、​LabVIEW​と​PXI 製品​を​用​い​て、​開発​した​センサ​の​テスト​を​行う​とともに、​測定​データ​から​健​全部​と​損傷​部​を​判別​する​アルゴリズム​を​組み込み、​センサ​による​損傷​モニタリング​の​実現​可能性​を​検証​した。


​ソリューション​開発
​[1]​開発​した​誘電​率​センサ​の​テスト

図​1​に、​開発​した​誘電​率​センサ​が​GFRP​内部​損傷​を​検出​可能​で​ある​か​を​テスト​する​ため​の​システム​を​示す。​NI PXI-5421(100 MS/​s、​16​ビット​任意​波形​発生​器)​により、​センサ​を​駆動​させる​ため​の​MHz オーダー​の​交流​電圧​を​センサ​に​印加​する。​センサ​の​出力​電圧​は​NI PXI-5122(100MS/​s、​14​ビット​オシロスコープ/​デジタイザ)​により​測定​し、​この​出力​電圧​は​検査​対象​の​GFRP​の​誘電​率​変化​によって​変化​する。​センサ​の​出力​電圧​は​10 V​駆動​時に​数​mV​~​数​十​mV​と​小さい​ため、​NF​製​HSA4101​高速​バイポーラ​電源​により​増幅​し​て​いる。​また、​出力​電圧​に​含​ま​れる​ノイズ​を​除去​する​ため、​LabVIEW​上​で​ロック​イン​アンプ​を​構築​した。​図​2​は内部損傷の入った​GFRP​上​で​センサ​を​スキャン​した​実験​結果​で​ある。​図​2​より、​3​つ​の​内部​損傷​の​位置​で​測定​した​出力​電圧​が​局所​的​に​増大​し​て​おり、​開発​した​センサ​の​有効​性​が​確認​でき​た​こと​が​わかる。​図​2​より、​出力​電圧​の​変化​は​損傷​部​で​わずか​0.3~0.6%​程度​と​極めて​小さい。​そのため、​本​テスト​では​高​分解能​の​波形​発生​器​と​デジタイザ​が​必要​で​ある​が、​NI PXI-5421​と​NI PXI-5122​を​用いる​こと​で​その​要件​を​満たす​こと​が​でき​た。​さらに、​ロック​イン​アンプ​の​構築​に​は​波形​発生​器​と​デジタイザ​を​同期​させる​こと​が​必要​と​なる​が、​LabVIEW​により​容易​に​両者​を​統一​的​に​同期​する​こと​が​できる​ため、​短時間で構築可能かつ安定なシステムとなった。

 

 

 

[2]​多​チャンネル​モニタリング​と​統計​的​無​学習​診断​システム​の​構築

次に、​実際​の​風力​発電​ブレード​の​損傷​モニタリング​へ​の​適用​の​ため、​開発​した​センサ​を​複数​並​べた​アレイ​状​センサ​によって​GFRP 構造​の​広範囲​を​モニタリング​する​システム​を​構築​した。​図​3​に​センサアレイ​による​モニタリング​システム​を​構築​した​もの​を​示す。​複数​の​誘電​率​センサ​を​GFRP​上​に​配置​する。​NI PXI-5421 により​センサアレイ​を​駆動​させる​ため​の​交流​電圧​を​センサアレイ​に​印加​する。​これらの​センサ​の​出力​電圧​は​Pico Technology 社​製​Picoscope4424 USB​オシロスコープ​(80 MS/​s、​12​ビット)​により​測定​した。​Picoscope4424​は​LabVIEW​により​制御​可能​な​オシロスコープ​で​あり、​駆動​を​行う​NI PXI-5421​とともに​統一​的​に​プログラム​を​行う​こと​が​可能​で​ある。​この​ため、​後述​の​統計​的​無​学習​診断​システム​を​LabVIEW​によりプログラムすれば、​駆動、​測定、​測定​データ​の​診断​が​統合​さ​れ​た​簡便​かつ​低​コスト​な​システム​が​構築​可能​で​ある。​図​4​に​統計​的​無​学習​診断​の​フロント​パネル​を​示す。​今回​用​い​て​いる​診断​手法​は​SI-​F​法​(System Identification-​F method)​と​呼ばれる​手法​で​ある。​これ​は、​健全​状態​における​各​センサ​の​出力​電圧​の​関係​を​記憶​し​て​おき、​損傷​が​発生​した​時に​その​出力​電圧​の​関係​が​健全​状態​と​異なる​こと​を​統計​的​に​検出​する​手法​で​ある。​本​手法​では​検定​統計​量​F​という​パラメータ​を​測定​データ​から​算出​し、​これ​を​も​と​に​健全​状態​か​損傷​状態​か​を​判定​する。​LabVIEW​では​検定​統計​量​F​を​求める​ため​の​逆​行列​計算、​ベータ​関数​の​演算、​ヒストグラム​を​それぞれ​一つ​の​アイコ​ン​を​配線​する​だけ​で​行える​ため、​短期間​で​SI-​F​法​の​導入​を​実現​できる。​また、​図​4​の​フロント​パネル​中​の​グラフ​に​示す​よう​に、​複雑​な​計算​過程​を​経​て​計算​さ​れ​た​検定​統計​量​F​の​確率​密度​分布​を​容易​に​可視​化​できる​こと​によって​計算​結果​の​妥当​性​を​直感​的​に​理解​する​こと​が​可能​と​なる。​図​4​は​4 つ​の​センサ​を​有する​センサアレイ​によって​モニタリング​を​行​っ​た​場合​の​診断​の​一例​で​ある​が、​センサ​A、​B、​C、​D​の​うち、​B の​位置​に​損傷​が​発生​し​て​いる​こと​を​判断​し​て​おり、​これ​を LED 表示​により​視覚​的​に​認識​し​や​すく​な​って​いる。

 

 

 

NI 製品​の​導入​効果

開発​した​センサ​の​テスト​では、​NI PXI-5421​と​NI PXI-5122​は​ともに​高い​分解能​を​有​し​て​おり、​かつ​それら​を​同期​する​ロック​イン​アンプ​を​LabVIEW​により​容易​に​構築​可能​で​ある​こと​から、​本​研究​では​高​精度​な​測定​システム​を​2​か​月​という​短期間​で​構築​する​こと​が​でき​た。​測定​システム​を​短期間​で​構築​でき​た​こと​で、​センサ​の​寸法​や​試験​条件​の​決定​など​の​試行錯誤​や、​誘電​率​測定​の​物理​学的​な​側面​を​深​く​理解​する​の​に​多く​の​時間​を​割く​こと​が​でき​た。​また、​LabVIEW により​制御​可能​な​PicoscopeUSB​オシロスコープ​を​用​い​た​多​チャンネル​アレイ​セン​サ​システム​は、​極めて​低​コスト​で​実現​する​こと​が​でき​た。​MHz オーダー​の​信号​を​測定​可能​な​市販​の​多​チャンネル​オシロスコープ​は​それ​単体​のみ​でも​200~300​万​円​程度​と​高​コスト​で​ある​が、​今回​構築​した​システム​は、​駆動​部、​測定​部、​診断​部​すべて​を​合わせ​て​も​150​万​円​以下​で​あり、​総​コスト​を​大​きく​削減​する​こと​が​でき​た。​統計​的​無​学習​診断​システム​の​構築​では、​LabVIEW の​豊富​な​VI により​逆​行列​計算、​特殊​関数​の​使用、​確率​分布​解析​など​を​効率​的​に​行う​こと​が​でき、​わずか​2 週間​で​診断​システム​の​構築​を​完了​する​こと​が​でき​た。​さらに、​センサ​駆動、​データ​測定、​統計​的​診断​は​すべて​LabVIEW 上​で​行う​こと​が​できる​ため、​それら​を​統合​する​こと​で​視覚​的​に​理解​し​や​すく、​かつ​効率​的​に​システム​の​開発​を​行う​こと​が​でき​た。

 

まとめ

LabVIEW​と​NI​ハードウェア​を​用いる​こと​によって、​低​コスト​かつ​高​精度​な​GFRP​の​誘電​率​測定​システム​を​構築​する​こと​が​でき、​損傷​の​発生​による​微小​な​信号​変化​を​検出​する​非破壊​検査​技術​の​開発​を​実現​でき​た。​また、​システム​構築​に​かかる​時間​を​削減​でき​た​こと​で、​新​技術​の​物理​的​背景​を​追求​する​の​に​多く​の​時間​を​割く​こと​が​でき、​理論​的​背景​を​詳細​に​明らか​に​した​上​で​開発​した​センサ​の​有効​性​を​実証​する​こと​が​でき​た。

 

著者​情報:

水上 孝一氏
​東京​工業​大学​大学院 機械​物理​工学​専攻

図​1. ​ ​開発​した​センサ​の​有効​性​検証​実験​で​構築​した​システム ​
図​2. ​ ​センサ​の​有効​性​検証​実験​の​結果 ​
図​3. ​ ​誘電​率​センサアレイ​による​損傷​モニタリング​システム ​
図​4. ​ ​統計​的​無​学習​診断​の​フロント​パネル ​