油圧​サーボ​型​疲労​試験​機​における​低​サイクル​疲労​試験​用​制御​システム

太田 信, 東京​工業​大学 大学院​理​工学​研究​科 機械​物理​工学​専攻

"LabVIEW​に​初めて​触れ​て​から​約​5​ヶ月、​そのうち​プログラム​自体​の​作成​期間​について​は​約​3​ヶ月​という​短い​期間​で​システム​を​作る​こと​が​でき​ま​した。" ​

- 太田 信, 東京​工業​大学 大学院​理​工学​研究​科 機械​物理​工学​専攻

課題:

・​試験​機​の​アナログ​制御​系​を​ストローク​制御​と​した​上​で、​ひ​ずみ​制御​の​疲労​試験​を​行う​ため​の​制御​プログラム​を​作成​する。 ・​予​ひ​ずみ​を​与える​ため、​疲労​試験​を​一時​的​に​停止​し、​ひ​ずみ​範囲​を​設定​し​直​した​後に​試験​を​再開​できる​よう​に​する。 ・​ひ​ずみ​が​一方向​に​累積​し​てい​く​ラチェット​疲労​試験​を​行える​よう​に​する。 ・​試験​機​が​暴走​しない​よう、​プログラム​により​安全​性​を​確保​する。 ​

ソリューション:

LabVIEW​と​マルチ​ファンクション​DAQ​デバイス​を​使用​し​て、​アナログ​制御​系​が​ストローク​制御​と​荷重​制御​しか​ない​疲労​試験​機​で、​ひ​ずみ​制御​の​疲労​試験​を​行う​こと​が​可能​に​なり​ま​した。 ​

◆​背景

 日本​は​地震​大国​で​あり、​多く​の​震災​により​甚大​な​被害​が​発生​し​て​いる。​特に​機械・​構造​物​の​耐震​性​は​極めて​関心​の​高い​問題​で​ある。​地震​荷重​によって​塑性​ひ​ずみ​を​伴う​よう​な​大きな​荷重​を​受け​た​部材​について​は、​明らか​な​変形​や​ひび割れ​が​検出​さ​れ​なか​っ​た​場合​に​その​継続​使用​の​可否​を​判断​する​必要​が​あり、​そのため​に​も​低​サイクル​疲労​特性​に関する​知見​拡充​が​急務​と​な​って​いる。​ここ​で​低​サイクル​疲労​と​は、​104​回​の​オーダ​以下​の​繰返し​数​で​破壊​する​疲労​現象​の​こと​で​あり、​部材​が​降伏​点​を​超える​応力​や​ひ​ずみ​を​繰返し​て​受ける​場合​に、​この​低​サイクル​疲労​が​問題​に​なる。

 本​研究​では​原子力​発電​所​の​配管​材​として​用​い​ら​れ​て​いる​オー​ステ​ナイト​系​ステンレス​鋼​と​炭素​鋼​を​対象​と​する​が、​原子力​発電​所​における​低​サイクル​疲労​と​は​主に​起動・​停止​時に​生じる​熱​応力​による​もの​で​ある。​塑性​ひ​ずみ​が​生​じ​た​部材​の​その後​の​運転​における​疲労​寿命​を​把握​する​こと​は、​構造​物​の​健全性​を​確保​する​上​で​重要​で​ある。​そこで、​鋼材​に​地震​荷重​を​模擬​した​予​ひ​ずみ​を​与​え​た​上​で​低​サイクル​疲労​試験​を​実施​する​ため、 油圧サーボ型疲労試験機用の制御システムの開発を行った。

 

◆​課題

 ひ​ずみ​範囲​一定​の​条件​で​の​疲労​寿命​を​調べる​ため、​疲労​試験​は​ひ​ずみ​制御​により​行う​が、​本​研究​で​用いる​疲労​試験​機​の​アナログ​制御​系​に​は​ストローク​制御​と​荷重​制御​しか​ない​ため、​プログラム​上​で​ひ​ずみ​制御​に​する​必要​が​ある。

 地震​荷重​を​模擬​した​予​ひ​ずみ​について​は、​静的​な​予​ひ​ずみ​や​ひ​ずみ​範囲​が​一定​の​繰り返し​予​ひ​ずみ​を​与える​場合、​基本​的​に​通常​の​ひ​ずみ​範囲​一定​の​低​サイクル​疲労​試験​を​行う​ため​の​プログラム​と​同じ​で​問題​ない。​つまり、​まず​予​ひ​ずみ​として​大きな​ひ​ずみ​範囲​で​疲労​試験​を​行い、​目標​の​回数​が​終了​したら​疲労​試験​を​一旦​停止​し、​その後​ひ​ずみ​範囲​を​小​さく​し​て​疲労​試験​を​再開​す​れ​ば​よい。​しかし、​過去​地震​によって​破損​した​配管​において、​要素​試験​等​により​一方向​に​ひ​ずみ​が​累積​し​てい​く​ラチェット​疲労​が​確認​さ​れ​た​例​が​ある​こと​から、​予​ひ​ずみ​として​この​よう​な​ラチェット​疲労​も​行える​よう​に​する​必要​が​ある。

 また​本​研究​では、​圧縮​時​の​座​屈​防止​を​勘案​し​て​試験​片​形状​は​砂時計​型​と​な​って​おり、​そのため​ひ​ずみ​の​測定​に​は​クリップ​ゲージ​を​用​い​て​最​小径​変位​を​測定​し、​弾性​域​を​無視​した​体積​一定​の​仮定​に​基​づ​い​て、​その​変位​から​軸​方向​の​真​ひ​ずみ​を​算出​し​て​いる。​試験​機​は​クリップ​ゲージ​により​測定​した​試験​片​最​小径​の​値​によって​制御​する​ので、​万が一​クリップ​ゲージ​が​外れ​たり​大​きく​ずれ​たり​した​場合​に​は、​試験​機​が​暴走​し​て​しまう​可能性​が​ある。​そこで​プログラム​により​安全​性​を​確保​する​必要​も​ある​と​考え​られる。

 以上​の​こと​から​本​システム​における​課題​を​まとめる​と​以下​の​よう​に​なる。

・​試験​機​の​アナログ​制御​系​を​ストローク​制御​と​した​上​で、​ひ​ずみ​制御​の​疲労​試験​を​行う​ため​の​制御​プログラム​を​作成​する。

・​予​ひ​ずみ​を​与える​ため、​疲労​試験​を​一時​的​に​停止​し、​ひ​ずみ​範囲​を​設定​し​直​した​後に​試験​を​再開​できる​よう​に​する。

・​ひ​ずみ​が​一方向​に​累積​し​てい​く​ラチェット​疲労​試験​を​行える​よう​に​する。

・​試験​機​が​暴走​しない​よう、​プログラム​により​安全​性​を​確保​する。

 

◆​ソリューション

  • システム​構成

 実験​装置​の​外観​を​図​1​に、​また​システム​の​構成​を​図​2​に​示す。​プログラム​の​作成​に​は​LabVIEW8。​2​を​用​い​た。​制御​信号​の​入出力​に​は​マルチ​ファンクション​DAQ​デバイス​PXI-6070E​を​使用​し、​I/​O​コネ​クタ・​ブロック​TBX-68​を​介​し​て​試験​機​側​と​接続​し​て​いる。

 制御​信号​について​は、​クリップ​ゲージ​で​測定​した​試験​片​最​小径​を​取り込み、​LabVIEW​で​作成​した​プログラム​上​で​最​小径​変位​から​ひ​ずみ​の​値​を​算出​する。​また、​その​値​と​ひ​ずみ​の​目標​値​から​PID​制御​を​行い、​出力​値​を​試験​機​の​ストローク​の​制御​値​として​試験​機​に​出力​する。​なお、​ひ​ずみ​の​目標​値​は​ひ​ずみ​速度​一定​の​完全​両​振り​三角波​と​し、​ひ​ずみ​範囲​を​De​と​した​とき、​ひ​ずみ​が​De/​2​に​達する​まで​目標​値​を​増加​さ​せ​続​け、​De/​2​に​達​すると​今度​は-​De/​2​に​達する​まで​減少​さ​せ​続​け-​De/​2 に​達​すると​再度​増加​する​よう​に​した。​その​上​で、​目標​値​が​上限​に​達​した​時に​下限​の​値​を、​下限​に​達​した​時に​上限​の​値​を​平均​ひ​ずみ​増加​率​分​増加​させる​こと​で、​強制​的​に​一方向​累積​ひ​ずみ​を​付与​し、​ラチェット​疲労​について​も​行える​よう​にし​て​いる。​この​時​の​ラチェット​疲労​における​目標​値​の​模式​図​を​図​3​に​示す。

 また、​オー​ステ​ナイト​系​ステンレス​鋼​は​延性​材料​で​ある​ため、​目標​値​へ​の​追従​性​が​あまり​よく​ない。​上記​の​よう​な​目標​値​設定​では、​弾性​域​において​最​小径​が​あまり​変化​しない​ため​偏差​が​大​きく​なり、​塑性​域​に​なる​と​急激​に​変化​する​ため、​オーバー​シュート​し​て​しまう​可能性​が​大​きく、​正しく​疲労​試験​を​行う​こと​が​でき​ない​と​考え​られる。​そこで、​ひ​ずみ​が​上限​または​下限​に​到達​し​て​いる​間​のみ​逆向​き​に​大きな​目標​値​を​入れる​こと​で​一時​的​に​わざと​偏差​を​大​きく​し、​上限​または​下限​に​達​した​瞬間​に​逆向​き​に​動く​よう​にし​て​オーバー​シュート​しない​よう​に​する​制御​も​行​って​いる。

 疲労​試験​の​一時​的​な​停止​について​は、​PID​制御​によって​得​られる​制御​量​を​0​にし​て​出力​値​が​変化​しない​よう​する​こと​で、​その​状態​の​まま​試験​を​停止​できる​よう​に​した。​また、​安全​性​を​確保​する​ため​に、​測定​さ​れる​荷重、​ストローク、​試験​片​最​小径​変位​量​について、​設定​値​を​超​え​たら​試験​を​強制​的​に​止める​よう​に​した。​それぞれ​について​上限・​下限​を​設定​する​こと​で、​六重​の​安全​策​と​な​って​いる。

 作成​した​プログラム​の​フロント​パネル​を​図​4​に​示す。​プログラム​上​で​ひ​ずみ​速度、​ひ​ずみ​範囲​(ひ​ずみ​速度​一定​の​ため、​周波数​は​この​2​つ​の​値​により​決定​さ​れる)、​平均​ひ​ずみ​増加​率​(通常​の​疲労​試験​は​この​値​を​0​に​設定​す​れ​ば​よい)​を​調整​する​こと​により、​条件​を​変​えて​疲労​試験​を​行う​こと​が​可能​で​ある。

 

  • 結果

 LabVIEW​という​直観​的​で​理解​し​やすい​グラフィカル​言語​により​プログラム​を​作成​する​こと​で、​LabVIEW​に​初めて​触れ​て​から​約​5​ヶ月、​そのうち​プログラム​自体​の​作成​期間​について​は​約​3​ヶ月​という​短い​期間​で​システム​を​作る​こと​が​でき、​アナログ​制御​系​が​ストローク​制御​と​荷重​制御​しか​ない​疲労​試験​機​で​あっ​て​も、​ひずみ制御の疲労試験を行うことが可能になった。

 また​目標​値​へ​の​追従​性​が​よく​ない​オー​ステ​ナイト​系​ステンレス​鋼​の​よう​な​延性​材料​で​あっ​て​も、​想定​した​通り、​上限​または​下限​に​達​した​瞬間​に​逆向​き​に​動く​よう​に​する​こと​で、​オーバー​シュート​を​せ​ず​に​目標​の​ひ​ずみ​範囲​で​疲労​試験​を​行う​こと​が​でき​た。

 さらに、​目標​値​を​上限​または​下限​に​達する​まで​それぞれ​一定​速度​で​増加、​減少​させる​システム​に​する​こと​で、​容易​に​ラチェット​疲労​を​実現​する​こと​が​でき​た。​同時に​この​システム​によって、​ひ​ずみ​速度、​ひ​ずみ​範囲、​平均ひずみ増加率を変えることで様々な条件での低サイクル疲労試験が実施可能となった。

 

・​図表類

 

 

 

図​1  ​ ​実験​装置​の​外観 ​
図​2  ​ ​システム​の​構成 ​
図​3  ​ ​ラチェット​疲労​における​目標​値​の​模式​図 ​
図​4  ​ ​プログラム​の​フロント​パネル ​