岩石​破壊​実験​における​微小​破壊​(AE)​の​連続​集録​システム

立命​館​大学 理​工学​研究​科 博士​前期​課程​1​年, 吉光 奈奈氏

"PXI Express​モジュール​と​RAID​を​組み合わせ​て​利用​する​こと​により、​高​分解能​(14​ビット)、​高​サンプリング​レート​(80 MS/​秒)​を​維持​した​まま​1.5​時間​程度​の​連続​集録​が​初めて​実施​でき​た。"

- 立命​館​大学 理​工学​研究​科 博士​前期​課程​1​年, 吉光 奈奈氏

課題:

岩石​実験​で​の​高​分解能、​広帯域​AE​波形​の​連続​集録、​及び​並行​した​透過​弾性​波​の​集録​が​強​く​求め​ら​れ​てい​た。

ソリューション:

PXI Express​モジュール​と​RAID​を​組み合わせ​て​利用​する​こと​により、​高​分解能​(14​ビット)、​高​サンプリング​レート​(80 MS/​秒)​を​維持​した​まま​1.5​時間​程度​の​連続​集録​が​初めて​実施​でき​た。​さらに、​トリガ​集録​の​波形​も​並行​集録​し​(図​3c)、​制御​系​と​PXI​の​間​で​時刻​の​同期​を​取​っ​た​こと​により、​従来​通り​の​解析​も​行う​こと​が​でき、​解析​が​し​やすい​データ​を​得​た​と同時に、​正確な時刻情報を得ることができるようになった。

背景

地震​と​は​地殻​内部​で​発生​する​岩盤​の​破壊​現象​で​あり、​一般に​は​震源​が​深い​ため、​破壊​過程​の​直接​観察​は​困難​で​ある。​そこで、​自然​地震​の​模擬​実験​として​実験​室​で​岩石​試料​に​載荷​を​行い、​破壊​に​至る​岩石​の​挙動​が​観察​さ​れ​て​きた。​岩石​試料​が​破壊​する​際、​破壊​面​周辺​では​AE(Acoustic Emission)​と​呼ばれる​微小​破壊​を​伴​って​微小​亀裂​が​生成​さ​れる。​自然​地震​と​AE​に​は​様々​な​類似​した​特徴​が​知​ら​れ​て​おり、 AE​を​調べる​こと​で​自然​地震​に関する​新た​な​知見​を​得る​こと​が​できる。

 

自然​地震​では、​10​年​ほど​前​から​地震​の​高​感度​連続​観測​と​広帯域​観測​が​始​まっ​た。​連続​観測​により​集録​漏れ​が​なく​な​っ​た​ため、​従来の観測ではトリガがかからなかったようなゆっくりと地震波を放出する地震などが発見され、​現在​大いに​注目​さ​れ​て​いる。​また、​弾性波を地盤に対して常時送信できるシステムが開発され、​連続​観測​記録​で​その​波形​を​解析​する​こと​で、​地下​の​岩盤​の​様子​を​モニタリング​する​試み​が​進​め​ら​れ​て​いる。​一方、​岩石​実験​では、​これまで​は​主に​狭​帯域​の​共振​型​圧​電​センサー​を​用​い​た​トリガ​方式​による​データ​集録​が​行​われ​て​きた。​そのため、​ごく​一部​の​AE​の限られた周波数帯における波形しか見ることができず、​AE​が​一体​どの​よう​な​破壊​で​ある​の​か、​また​どう​い​っ​た​バリエーション​が​ある​の​か​は​まだ​よく​わか​って​い​ない。

 

AE​と​試料​を​透過​させる​弾性​波​の​時間​変化​を通じて、​発生​過程、​活動​度、​発生した亀裂のサイズなどが明らかにできれば、​どの​よう​な​環境​で​亀裂​が​生成・​成長​し​て​最終​的​な​破壊​に​至る​か​という​過程​の​理解​に​つながる​重要​な​知見​となり、​自然​地震​の​理解​も​深まる。​そこで、​岩石​実験​で​の​高​分解能、​広帯域​AE​波形​の​連続​集録、​及び​並行​した​透過​弾性​波​の​集録​が​強​く​求め​ら​れ​て​いる。​この​うち、​広帯域​の​観測​は​すでに​実現​さ​れつ​つ​ある。

 

課題

AE​は​高周波​の​イベント​で​あり、​その​卓越​周波数​は​数​kHz​~​数​MHz​程度​で​ある。​したがって、​その​波形​を​解析​する​ため​に​は​14​ビット​以上、​数​十​MS/​秒​の​計測​が​求め​られる。​これまで​の​集録​装置​では、​高サンプリング速度の連続集録を行おうとするとデータのサンプリング速度に書き込み速度が追いつかず、​ある​時間​で​バッファ​が​あふれ​て​集録​が​ストップ​し​て​しまう​という​問題​が​あっ​た。​そのため、​実験​中​を​通​した​高速、​高分解能の連続集録はまったく行われていなかった。​この​よう​な​高速、​高​分解能​の​連続​集録​を​行う​ため​に、​データ​の​サンプリング、​書き込み​を​高速​で​長時間​連続​し​て​行う​システム​が​必要​と​さ​れ​てい​た。

 

また、​透過​波​の​送信​パルス​で​トリガ​集録​さ​れ​た​データ​を​用いる​と​試料​を​透過​した​弾性​波​を​扱う​一般​的​な​解析​が​スムーズ​に​行える​こと​から、​連続​集録​に​並行​し​て​従来​通り​の​トリガ​集録​が​行​われる​こと​が​望ましい。

 

さらに、​試料​の​変形​の​様子​を​併せて​検討​する​ため​に、​試験​機​を​制御​する​PC​で​記録​さ​れ​た​載荷、​変形​データ​の​集録​時刻​と、​波形​情報​の​集録​時刻​の​同期​が​必要​で​あっ​た。​したがって、​要求​さ​れる​仕様​は​以下​の​3​つ​で​ある。

  • 分解能​14​ビット​以上、​数​十​MS/​秒​の​連続​集録
  • 連続​集録​と​並行​した​トリガ​集録
  •  試験​機​の​制御​系​PC​と​の​時刻​同期

 

ソリューション

【システム​構成】

本​システム​の​ハードウェア​構成​を​図​1​に​示す。​実験​は、​円筒​形​の​岩石​試料​に​自然​地震​が​起こる​深​さ​で​の​圧力​と​同​程度​の​圧力​を​かけ​た​状態​を​保​ち​ながら、​試料​を​円筒​軸​方向​に​圧縮​し、​試料​を​破壊​させる​こと​によって​行​われる​(図​2)。​実験​中、​試料​内​で​発生​する​AE​と、​試料上部の発振子から送られる弾性波は試料下部の受振子で受信され、​その​信号​は​連続​集録​用​と​トリガ​集録​用​に​分配​さ​れ​て​記録​さ​れる。

 

システム​の​基礎​として​シャー​シ​に​は​NI PXIe-1062Q、​コントローラ​に​は​NI PXIe-8130​を​用​い​た。

 

まず、​連続​波形​集録​の​ため​に​高速​デジタイザ​NI PXIe-5122​を​選択​し、​データ​記録​に​は​NI 8262​と​HDD-8263(1 TB)​の​組み合わせ​による​RAID​システム​を​利用​した。​これ​により、​データ書き込み速度が大幅に改善され、​1​成分​14​ビット​(記録​上​は​16​ビット)​20 MS/​秒​以下​で​あれ​ば、​FIFO​を​利用​した​TDMS​形式​による​ストリーミング​集録​により、​バッファ・​オーバーフローを引き起こさずに書き込み可能となった。

 

しかし、​この​サンプリング​速度​は​公称​の​5​分​の​1​で​あり、​2​成分​以上​で​の​集録​を​行う​場合、​10 MS/​秒​を​下回​って​しまう​ため、​課題​が​まだ​十分​に​は​解決​さ​れ​ない。​そこでより高速度での書き込みが必要となった。​今回​の​ケース​では、​書き込み​速度​が​飛躍​的​に​向上​した​ため​に、​本来​書き込み​を​高速​に​行う​ため​に​用​い​ら​れ​て​いる​バッファリング​が、​むしろボトルネックとなっていたことがわかった。

 

そこで、​集録​システム​の​制御​ソフトウェア​を​LabVIEW 8.6​に​バージョンアップ​し​て​FIFO​を​利用​した​まま​ファイル​形式​を​通常​の​バイナリ​形式​に​変更​する​こと​で、​バッファ​を​用​い​ず​に​データ​を​ファイル​に​書き込む​という​新​機能​を​用​い​た。​これ​により​バッファ​が​溜まる​の​を​待​た​ず​に​書き込む​よう​に​な​っ​た​ため、​データ転送がよりスムーズになった。​この​工夫​によって、​1​成分​なら​最大​80 MS/​秒、​4​成分​なら​20 MS/​秒​(共に​160 MB/​秒)​の​長時間​連続​データ​集録​が​実現​でき、​1​つ​目​の​課題​を​クリア​した​(図​3)。

 

次に、​NI PXI-5122​を​用​い​て、​トリガ​集録​も​同時に​行える​よう​に​設計​した。​外​付け​の​USB HDD​を​用​い​て​連続​集録​システム​と​競合​しない​よう​にし、​並行​集録​を​実施​した。​ここ​では​FIFO​を​利用​した​TDMS​形式​による​ストリーミング​集録​を​行う​こと​により、​1/40​秒​毎​に​ト​f​リガ​を​かけ、​14​ビット、​80 MS/​秒​で​0.2​ミリ​秒間​の​データ​を​記録​できる​よう​に​なり、​2​つ目の課題も解決された​(図​3c)。

 

最後​に、​試験​機​を​制御​する​PC​に​記録​さ​れる​載荷、​変形​の​データ​と、​2​つ​の​PXI​モジュール​NI PXIe-5122(連続​集録)、​NI PXI-5122(トリガ​集録)​による​集録​データ​の​3​つの時刻を同期させた。

 

NI USB-6009​でパルスを発生させ、​これ​を​もう​一つ​の​NI PXI-5122​で​受ける​こと​で​データ​集録​開始​の​ソフトウェア・​リファレンス・​トリガ​と​した。​また、​この​パルス​を​試験​機​制御​PC​に​も​送​って​載荷​や​変形​に関する​データ​を​同時に​記録​する​こと​で、​集録データと同期させ、​3​つ目の課題も解決された​(図​3a、​b)。

 

【結果】

これまで​岩石​破壊​実験​における​AE​の​高​分解能、​高​サンプリング​速度​の​連続​集録​は、​データ​の​書き込み​時​の​バッファ・​オーバーフローのため実現できていなかった。

 

これ​に対して、​本​システム​では​PXI Express​モジュール​と​RAID​を​組み合わせ​て​利用​する​こと​により、​高​分解能​(14​ビット)、​高​サンプリング​レート​(80 MS/​秒)​を​維持​した​まま​1.5​時間​程度​の​連続​集録​が​初めて​実施​でき​た。​集録​さ​れ​た​波形​の​例​は​図​3d​に​示​さ​れ​て​いる。​さらに、​トリガ​集録​の​波形​も​並行​集録​し​(図​3c)、​制御​系​と​PXI​の​間​で​時刻​の​同期​を​取​っ​た​こと​により、​従来​通り​の​解析​も​行う​こと​が​でき、​解析​が​し​やすい​データ​を​得​た​と同時に、​正確な時刻情報を得ることができるようになった。

 

今後、​HDD 8264​など​の​より​高速​大​容量​の​RAID​システム​の​導入​により、​より​長時間​の​高速、​高​分解能​連続​データ​集録​が​期待​できる。

 

著者​情報:

立命​館​大学 理​工学​研究​科 博士​前期​課程​1年
​吉光 奈奈氏

図​1. ​ ​ハードウェア​構成​図 ​
図​2. ​ システム​の​外観 - (a)​試験​機​の​全体、​(b)​試験​機​の​載荷​部​を​拡大​した​もの、​(c)​データ​集録​に​使​っ​た​ハードウェア ​
図​3. ​ ​システム​制御​ソフトウェア。 ​