NI LabVIEW​と​RF​モジュール​の​活用​で、​マルチ​ユーザ​MIMO​の​実証​実験​システム​を​構築

村田 英一​氏, 京都​大学 大学院​情報​学​研究​科 通信​情報​システム​専攻 准​教授

"マルチ​ユーザ​MIMO​の​システム​構築​において​は、​サイズ、​価格​に​加​え、​柔軟性​の​面​で、​NI​製品​以外​の​選択肢​は​存在​しま​せん​で​した。" ​

- 村田 英一​氏, 京都​大学 大学院​情報​学​研究​科 通信​情報​システム​専攻 准​教授

課題:

総務​省​の​戦略​的​情報​通信​研究​開発​推進​制度​(SCOPE)​へ​申請​した​スケジュール​を​達成​する​ため​に、​マルチ​ユーザ​MIMO​の​高度​な​システム​を​短期間​で​構築​する​必要​が​ある。​その​システム​は、​屋外​実験​で​使用​できるだけ​の​可​搬​性​を​備え、​低​コスト​に​実現​できる​もの​でなければ​なら​ない。​さらには、​ハードウェア​開発​の​高度​な​スキル​を​持​た​ない​学生​でも​作業​が​進​め​られる​開発​手法​を​選択​する​必要​が​ある。

ソリューション:

端末​に​は USRP​を​使用​し、​基地​局​に​は​NI​の​RF​モジュール​を​搭載​した​PXI​シャー​シ​を​採用​した​こと​で、​小型​かつ​低​コスト​の​システム​を​構築​する​こと​が​でき​た。​また、​LabVIEW​による​ソフトウェア​開発​を​システム​構築​の​主たる​作業​と​した​こと​で、​高度​な​開発​スキル​を​持​た​ない​学生​でも、​短期間​で​開発​を​完了​させる​こと​が​でき​た。

【背景】


​現在、​次世代​の​通信​技術​の​本命​として、​マルチ​ユーザ​MIMO(以下、​MU-​MIMO)​が​注目​を​集め​て​いる。​これ​は、​基地​局​と​端末​を​1​対​多​の​関係​で​使用​する​こと​で、​周波数​の​利用​効率​を​高め​よう​という​もの​で​ある​(図​1)。​この​方法​では、​基地​局​側​の​負担​は​大​きく​なる​ものの、​端末​側​の​負担​を​軽減​する​こと​が​できる​(従来​方式​における​端末​と​同等​レベル​の​負担​に​抑える​こと​が​できる)。​そのため、​MU-​MIMO​には大きな期待が寄せられ、​数多く​の​研究​が​進​め​ら​れ​て​いる。​その​基礎​理論​や​実用​時に​生じる​課題​を​解決​する​ため​の​各種​理論​は、​すでに​確立​さ​れ​た​と​言える​レベル​に​ある。

 

 

しかし、​それ​を​現実​世界​の​もの​として​MU-​MIMO​の​システム​を​具現​化​する​うえ​では​課題​も​ある。​まず、​MU-​MIMO​の​おける​基地​局​は、​複数​の​端末​を​相手​にし​な​け​れ​ば​なら​ない。​そのため、​伝搬​路​の​変動​に​応​じ​て​最適​化​さ​れ​た​信号​を​送り出す​プ​リ​コーディング​について​は、​従来​より​も​高​精度​な​もの​で​ある​必要​が​ある。​特に​重要​に​なる​の​は、​各​端末​に対する​同期​を​実現​する​こと​だ。​すなわち、​周波数​と​タイミング​の​両面​で​より​高度​な​制御​を​実現​し、​より​正確​な​同期​を​実現​しな​け​れ​ば​なら​ない。​しかも、​簡素​な​端末​から、​ミリ​秒​(ms)​単位​で​素​早く​フィードバック​を​送り​返し​て​もらう​必要​が​ある。​さらに、​フィードバック​を​受け​取​っ​た​基地​局​は、​高速​に​処理​を​行い、​伝搬​路​が​変化​する​前​に、​端末​に対して​信号​を​正確​に​送り​出​さ​な​け​れ​ば​なら​ない。

 

2009​年​の​時点​では、​MU-​MIMO​の理論を屋外伝送実験によって実証した例は存在しなかった。​そこで、​5 GHz​帯​で​動作​する​実機​システム​を​構築​し、​屋外​で​無線​端末​を​用​い​て​実証​実験​を​行う​ことに​した。​この​実証​実験​の​プロジェクト​は、​総務​省​の​平成​22​年度 戦略​的​情報​通信​研究​開発​推進​制度​(SCOPE)​の​採択​を​受け​て、​2010​年​に​スタート​した。​プロジェクト​の​完了​は、​2012​年度内​の​予定​で​ある。

 

【課題】

MU-​MIMO​の​実証​実験​プロジェクト​では、​大まか​に​言う​と、​以下​の​よう​な​事柄​を​実施​する​予定​で​あっ​た。

● 2×2​の​MU-​MIMO​の​システム​構築/​特性​評価
​● 4×4​の​MU-​MIMO​の​システム​構築/​特性​評価
​● 2×2​の​MU-​MIMO​同士​の​干渉​制御​に関する​研究

 

それ​にあたって​は、​以下に挙げる事柄が課題となった。

(1)​短期​開発​の​実現
​この​実証​実験​プロジェクト​では、​SCOPE​で定められた​3​年​以内​に、​システム​の​構築​から​実験、​研究、​報告​まで​の​すべて​の​作業​を​終​え、​すべて​の​結果​を​得る​必要​が​あっ​た。

 

(2)​小型​システム​の​実現
​この​プロジェクト​では、​屋外​で​の​実験​を​行う。​そのため、​端末​側​は​もちろん、​基地​局​側​について​も​ある程度​の​可​搬​性​が​要求​さ​れる。

 

(3)​コスト​の​抑制
​4×4​の​MIMO​を​例​に​とる​と、​基地​局​側​では​送信​用​装置​を​4​台、​受信​用​装置​を​4​台​使用​しな​け​れ​ば​なら​ない。​仮に、​端末​側​に​も​同様​の​手法​を​用​い​た​と​すると、​同じく​送信​用​装置​が​4​台、​受信​用​装置​が​4​台​必要​に​なる。​つまり、​計​16​台​もの​装置​が​必要​に​なる。​それぞれに​一般​的​な​計測​用​装置​(1​台数​百万​円)​を​使用​した​の​では、​コスト​が​膨大​な​もの​と​な​って​しまう。

 

(4)​開発​手法​に関する​制限
​プロジェクト​において、​実際​に​作業​を​行う​の​は​学生​で​ある。​そのため、​スキル​の​面​で、​FPGA​や​DSP​など、​ハードウェア開発のプロフェッショナルでなければ手に負えないようなものでは対応できず、​より​簡素​な​作業​で​開発​が​進​め​られる​よう​にし​な​け​れ​ば​なら​ない。

 

【ソリューション】

上述​した​課題​を​解決​する​ため​に、​NI​の​製品​を​採用​し​て​システム​の​構築​を​行う​ことに​した。​まず、​端末​として​は​「USRP(Universal Software Radio Peripheral)」​を​使用​する​ことに​した。​そして、​2×2 MIMO​の​基地​局​は、​図​2​に​示す​構成​で​実現​した​中心​に​ある​の​は​NI​の​PXI​シャー​シ​で、​これ​に​市販​の​アンプ​モジュール​など​を​外​付け​し​て​使用​した。​PXI​シャー​シ​に​は、​信号​発生​器​(SG)​と​信号​アナ​ラ​イザ​(SA)​の​両​RF​モジュール​を​2​チャンネル​ずつ​と、​FPGA​ボード、​組込み​PC​が​搭載​さ​れ​て​いる。​2​つ​の​SG​は​送信​用​装置、​2​つ​の​SA​は​受信​用​装置​として​機能​する。​同期​の​実現​方法​として​は、​PXI​シャー​シ​と​USRP​の​双方​に​GPS​レシーバ​を​接続​し、​GPS​から​の​1 PPS(Pulse Per Second)​の​パルス​を​使​って​絶対​タイミング​で​同期​を​とる​という​手法​を​用​い​た。​また、​10 MHz​の​基準​信号​も​GPS​レシーバ​から​供給​する。​FPGA​ボード​は、​GPS​レシーバ​から​の​パルス​を​受け取り、​送受信​の​タイミング​を​制御​する​(トリガ​信号​の​生成)​役割​を​担う。​そして、​送受信​の​ベース​バンド​信号​処理​や​制御​処理​は、​組​込​PC​上の​ソフトウェア​によって​行う。​それらの​ソフトウェア​は、​グラフィカル​システム​開発​プラットフォーム​で​ある​「NI LabVIEW」​を​使用​し​て​開発​する。​写真​1、​写真​2​に​示す​よう​に、​端末、​基地​局​ともに、​可​搬​性​を​備え​た​コンパクト​な​形状​に​抑える​こと​が​でき​て​いる。​また、​他社​の​計測​用​装置​を​使用​する​場合​に​比べ​て、​コスト​を​低​く​抑える​こと​が​でき​た。

 

この​よう​な​構成​により、​まずは​2011​年度​中​に、​2×2​の​MIMO​システム​の​動作​と​特性​を​確認​した。​続​い​て​2012​年度​初頭​に​は、​4×4​の​MIMO​システム​の​動作​と​特性​を​確認​した。​基地​局​側​の​開発​を​主に​担当​した​の​は​1​人​の​学生​で​あり、​勉強​から​始めて、​約​1​年​で​4×4​の​MIMO​システム​の​構築​に​まで​たどり着く​こと​が​でき​た。

 

完成​した​システム​の​機能​は、​すべて​想定​し​てい​た​とおり​に​動作​し​て​いる。​また、​処理​速度​という​観点​から​は、​予想​以上​の​高速​性​を​実現​でき​て​いる。​2×2​の​MIMO​では、​フィードバック​は​数​ms​で​実現​でき​て​おり、​PXI​シャー​シ​で​の​処理/​信号​送信​も​数​ms​で​完了​し​て​いる。​4×4​の​MIMO​でも、​処理​時間​の​増分​は​1 ms​ほど​に​抑え​ら​れ​て​いる。

 

短期間​で​高度​な​システム​を​実現​でき​た​理由​として​は、​まず​システム​の​基本​構成​を​非常​に​短時間​で​立ち​上げ​ら​れ​た​こと​が​挙​げ​られる。​基地​局​側​は、​NI​の​RF​モジュール​を​主​な​構成​要素​と​する​わけ​だが、​SG/​SA​は​いずれ​も​汎用​の​計測​用​装置​だ。​MU-​MIMO​に​取り組む​前​に、​まずは​USRP​を​相手​と​する​単純​な​送受信​の​系​を​立ち​上げ​た​の​だが、​その​作業​の​実体​は、​通信​システム​の​構築​という​より​も、​計測​器​を​用​い​た​単純​な​信号​計測​だ​という​こと​が​できる。​そのため、​特に​問題​が​生じる​理由​も​ないし、​実際、​無駄な時間がかかることもなかった。

 

MU-​MIMO​システム​の​構築​作業​は、​そのように​し​て​立ち​上げ​た​単純​な​送受信​の​系​に、​制御処理や信号処理を少しずつ付加していくというアプローチで行った。​それらの​処理​は​すべて​ソフトウェア​で​実現​し​て​おり、​LabVIEW​による​GUI(グラフィカル​ユーザ​インタフェース)​ベース​の​作業​で​開発​する​こと​が​でき​た。​言い換えれば、​高度​な​ハードウェア​開発​スキル​や​ソフトウェア​の​コーディング​スキル​は​必要​ない。​また、​基本​的​な​MIMO​送受信​を​実現​する​ため​の​サンプル​プログラム​が​用意​さ​れ​てい​た​ため、​その​部分​でも​大幅​に​工数​を​削減​する​こと​が​でき​た。​この​ため、​開発​作業​を​担当​した​学生​は、​本当に​注力​すべ​き​部分​だけ​に​集中​する​こと​が​でき​た。​加​えて、​LabVIEW​を​採用​した​こと​で、​システム​の​GUI​の​構築​と、​信号​の​可視​化​を​容易​に​実現​でき​た​こと​も、​開発​時間​の​短縮​に​寄与​し​て​いる。​LabVIEW​では、​表示​用​の​GUI​コンポーネント​を​数多く​用意​し​て​おり、​システム​の​動作​中​に、​ほぼ​リアルタイム​に​任意​の​個所​の​波形​を​表示​する​こと​が​可能​で​ある。​そのため、​デバッグ​作業​など​を​迅速​に​進める​こと​が​でき​た。​さらに、​他社​の​計測​装置​と​比べ​て、​PC​と​の​連携​が​容易​で​ある​という、​高い​優位​性​が​ある​NI​の​RF​モジュール​製品​を​採用​した​こと​により、​受信​波​の​データ​を​そのまま​PC​に​取り込み、​リアルタイム​で​処理​する​こと​が​でき​た。​このように、​NI​の​ハードウェア​製品​と​LabVIEW​を​採用​した​こと​で、​煩雑​な​作業​が​激減​した。

 

【今後​の​展開】

今後、​実証​実験​プロジェクト​の​活動​として​は、​2×2​の​MIMO​を​2​系統​稼働​さ​せ​て​干渉​制御​の​研究​を​進める。​加​えて、​周波数​と​タイミング​を​推定​し​て​補正​を​かける​仕組み​を​導入​する​こと​で、​GPS​を​使​わ​ず​に​同期​を​実現​できる​よう​に​する​予定​で​ある。​さらには、​伝搬​路​の​変化​を​予測​する​技術​の​導入​に​も​取り組む。​これら​は​すべて​ソフトウェア​処理​で​行う​予定​で​あり、​そのため​の​アルゴリズム​を​開発​中​だ。

 

また、​より​実用​レベル​に​近い​もの​を​目指す​うえ​では、​システム​の​応答​速度​を​高める​こと​も​重要​な​課題​と​なる。​これ​について​は、​ミリ​秒​を​切る​レベル​を​実現​し、​伝搬​路​が​変化​する​前​に​確実​に​送信​を​行える​よう​した​いと​考え​て​いる。​そのため​に​は、​FPGA​を​活用​し​てい​きた​い。​つまり、​現在​組込み​PC​で​行​って​いる​処理​を​FPGA​ボード​に​移管​する​こと​で、​高速​化​を​図る​方針​だ。

 

著者​情報:

村田 英一氏
​京都​大学 大学院​情報​学​研究​科 通信​情報​システム​専攻 准​教授

図​2. ​基地​局​の​基本​構成
図​1. ​MU-​MIMO​の​概念​図
写真​1. ​端末​装置​の​外観
写真​2. ​基地​局​装置​の​外観