空間音響残響時間

概要

空間音響解析は、音響に関する空間または部屋の影響を決定する目的で行います。残響時間測定は、音響強度の減衰を解析して室内音響を記述するために使用する技法です。このチュートリアルでは、残響時間を得るために必要な測定と解析について詳述します。

内容

残響音 

音圧波は通常、音源から全方向へ放射されます。以下の図では、これらの波が進む可能性がある経路のいくつかが示されています。音波は表面で反射し、その結果として得られる波は音響エネルギーが小さくなります。このエネルギー損失は、音波が反射する表面の材質組成によるものです。音波のエネルギーの一部は材質に吸収され、一部は材質内に伝達されますが、残りのエネルギーは反射して音源がある空間に戻ります。音波がさまざまな表面から反射するため、空間内の音圧が減衰されます。空間の音質において、音圧の減衰は非常に重要な要因となることがあります。部屋の用途が演説や音声コミュニケーションの場合、演説や音声を聞き取りやすくするためには、音圧の素早い減衰が必要となります。この図にあるように、プールのような空間で演説している人の声が聞き取りにくいことは容易に想像できるでしょう。



ここで、コンサートが行われる大きなホールの場合を考えてみましょう。このような空間では、音圧の素早い減衰は理想的ではなく、減衰が遅い方がより良いとされます。減衰が遅いと、音楽を引き立たせる非常に豊かな音が生じます。この場合、聴衆が集中する直接音とともに、心地よく聞こえる音が残ります。残響の存在は、ホール全体を埋め尽くすような非常にダイナミックなパフォーマンスを行う能力を演奏者に与え、聴衆に対してドラマチックな体験を作り出す力となります。



残響時間

空間内の残響音が減衰する時間は、空間の用途に応じて補正する必要があります。この時間を計測するための基準は、残響時間と呼ばれます。残響時間は、空間内の音圧が60デシベル、すなわち元のエネルギーレベルの100万分の1まで減衰するのにかかる時間として定義され、その近似値は式*T=0.049V/Aで求められます。ここで、Tは秒単位で表される残響時間です。これをわかりやすい例で説明すると、残響時間は教室では約0.6秒、コンサートホールでは1.5~2秒ぐらいとなります。Vは立方フィート単位で表される空間の容積、Aは平方フィートで表される等価吸音面積です。この式からわかるように、吸音の全くない部屋ではTは無限大になりますが、実際は、すべての表面で多少の音響エネルギーを吸収するので、有限の残響時間が発生します。以下の図に、時間t0で発生したインパルスの音圧減衰の測定値を示します。この外乱が60 dB減衰するのに要した時間Tがこの空間の残響時間となります。



等価面積

各面が異なる材質でできており音響エネルギーの吸音性が面ごとに異なる、以下の図のような立方体があるとします。無限反射はすべての音波を反射する表面として定義され、無限吸音はすべての音が吸収される表面として定義します。たとえば、この立方体の内部に音源を置くと、音圧が逃げられるように切った隙間の部分は無限吸音の性質を示します。この立方体の等価吸音面積は、有限量の吸音性を持つ材質でできている面積に置き換えられる無限吸音の面積と考えられます。この立方体の各面の等価吸音はA=Saで表されます。ここで、aは材質の吸音係数、Sは材質の面積(平方フィート単位)です。一般的な吸音係数は次のセクションに一覧表があります。この立方体の全等価吸音は、この空間のすべての面の等価吸音を加算することで得られます。立方体のすべての面の等価吸音を加算すると、上述の立方体の面積は2平方フィートの面積の隙間に相当することがわかります。



1平方フィートの無限吸音は吸音単位として定義されます。したがって、上述の立方体には2単位の吸音があります。


一般係数

以下の表に、いくつかの一般的な建材の吸音係数の値を示します(建材は上から順に大理石、アスファルトのタイル、フェルト地の厚手のカーペット、2x4 16"バルサ材に釘付けされた1/2"乾式壁、厚板ガラス)。これらの値の範囲は0~1です。表面が完全な反射器の場合、係数は0になります。大理石は非常に良い反射器の例であり、吸音係数が0に非常に近いことがわかります。発泡断熱材などの音響エネルギーを完全に吸収する材料では、吸音係数が1に近くなります。空間で使用される材料の多様性を考慮すると、吸音係数の違いを考えることができます。たとえば、主にコンクリートの壁で囲まれたプールの環境雑音と、内側が乾式壁とカーペットで覆われた事務所スペースまたは図書室のような環境雑音の違いを考えてみましょう。この場合に留意したいのは、これらの係数の値は各環境が影響を受ける音源の周波数に依存するということです。たとえば、同じ材質であっても、人間の話し声のような比較的低い周波数に対して、高周波数の音では音響エネルギーの吸収量が異なる場合があります。



用途

会議室について考えてみましょう。この部屋では音声が非常に聞き取りにくいという問題があり、解決策を講じる必要があるという状況です。この部屋は主に乾式壁で作られており、床にカーペットが敷いてあります。残響時間と吸音の計算式、それに吸音係数の詳細な表を使用すれば、この空間の残響時間を推定できます。しかし、残響時間のさらに正確な基準値を得るには、この空間で実際に測定を行う必要があります。


残響テスト

この場合、デジタルトリガで火花を発生する高電圧電極を使用したインパルステストを行うため、LabVIEW Sound and Vibration ToolkitPXI音響/振動モジュールを選択しました。他に、発砲する、風船を破裂させる、また単に大きな音で手をたたくという方法で音を出すことでもテストを行えます。音源は、通常スピーカーが置かれる部屋の前方に配置しました。空間のさまざまな場所にマイクロホンを設置して、音源から受信したトリガにより発生する外乱の応答を集録しました。その後、信号はPXI音響/振動モジュールでデジタル化され、PCに送信されて処理されます。ここで、音圧が60 dB減衰する時間を計算できます。インパルステストを行うと、空間の品質に関するさまざまな情報を得られます。この場合、空間の残響時間を測定するためのデータを使用しましたが、インパルステストでは補正を行うべき反射の有無の問題を特定することもできます。



データ処理

データ収集後、音圧が元のインパルスから60 dB減衰した地点を決めます。PXI音響/振動モジュール からデジタル化されたデータを取得するには、「DAQmx読み取り」関数を使用しました。このデータを集録後、「SVL Scale Voltage to EU」関数を使用して電圧をパスカル (Pa) にスケールし、ネイティブのLabVIEW関数と「SVT Leq Sound Level」VIを使用して音圧レベルが60 dB減衰するのに要した時間を測定しました。



設計補正

テストでインパルス法を使用した結果、この会議室には約1.15秒の残響時間があることがわかりました。予測したとおり、この残響時間はこの部屋の用途にしては長すぎます。そこで、現状よりはるかに心地よい残響時間を持つ空間を設計してみましょう。残響時間T = 0.049V/Aの一般式を使用すると、部屋の体積は3600​立方​フィートで、等価吸音面積は153​平方​フィート​であることがわかります。約0.6秒のより望ましい残響時間に到達するには、部屋の等価吸音を約294単位に増やす必要があります。



設計に関する注意事項

部屋によっては、空間の奥まで音が届くように天井での反射を利用しているため、通常、吸音材を取り付ける場所として天井を考慮することは避けます。しかし、この会議室の例では、聞き手は音源を明確に聞くために直接音に依存し、天井での反射は必要ありません。また、会議室のテーブルも部屋の中にいる聞き手に対して音を反射する表面の役割を果たすことにも注意します。そのため、壁が乱雑にならないように吸音材を天井に取り付けることにしました。吸音面積を増加させるためには、既存の乾式壁よりも吸音係数が大きい材質を選ぶ必要があります。そこで、一般的な建材で、1000 Hzで0.68という吸音係数を持つ天井タイルなどを選択しました。残響応答が悪い部屋の残響を補正するのに考慮すべき他の要因としては、以下の図に示すように、吸音材の配置、吸音材の選択、空間内にある物体の反射、希望の音響強度、平行な壁の存在などがあります。



検証まとめ

穴があいた籐繊維を300平方フィート取り付けて、理論上の等価吸音面積を345平方フィートとしました。この数値は、先に計算された294という目標値を超えているので、話し声​は​聞​き​取り​やすい​はず​です。空間を補正して残響時間を短くしたので、再度測定する必要があります。穴のあいた厚み1インチの籐繊維300平方フィートを金属枠に入れて取り付けたところ、残響時間Tがちょうど0.61秒となりました。この残響時間はこの部屋の用途に対して理想的です。しかし、音響設計は科学的に完全に解決できるものではないことに注意してください。吸音材を計算上よりも多量に取り付けたため、残響時間がより短いと予測しました。注意すべき他の要因としては、ぶら下がり天井を取り付けたことで部屋の形状も変えたため、同じインパルスでもその応答状態に影響するということです。



残響時間とは、空間内の音圧が60 dB、すなわち元のエネルギーの100万分の1に減衰するのに必要な時間を指します。必要な残響応答を持つ空間の予測または設計を支援するためには吸音係数を使用します。残響時間は、空間内のさまざまな場所でインパルスに対する応答のデータを集録して測定します。NIのハードウェアやソフトウェアを使用すると、残響時間テストの測定が簡単に行えるようになります。PXI音響/振動モジュールなどのツールを使用して空間のインパルス応答を集録でき、またLabVIEWやSound and Vibration Toolkitを使用して残響時間をソフトウェアで計算できます。